(フィリピンの首都マニラで、給水車と消防車による給水の順番を待つ市民ら(2019年3月15日撮影)【3月17日 AFP】)
【アメリカは中国からフィリピンを防衛とは言うものの、ドゥテルテ大統領の心中は・・・】
下記の記事を目にして、ちょっと奇異な感じもうけました。
****南シナ海でフィリピンに攻撃あれば米が防衛、ポンペオ氏 中国けん制****
マイク・ポンペオ米国務長官は1日、南シナ海の大半の領有権を主張する中国を念頭に、同海域でフィリピンに対する武力攻撃が行われた場合には相互防衛条約に基づいて同国を防衛すると明言した。
ポンペオ氏はフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領との会談後、記者会見を行い、その中でフィリピンなどが領有権を主張する南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)で中国が推し進めている人工島建設について、米比両国にとっての潜在的脅威だとの認識を示した。
ポンペオ氏は「南シナ海における中国の人工島建設や軍事活動はフィリピンのみならず、米国の主権や安全保障、ひいては経済活動をも脅かしている」「南シナ海は太平洋の一部であり、フィリピン軍や航空機、公船に対する武力攻撃が行われた場合には米比相互防衛条約の第4条に基づき、相互防衛義務を発動する」と明言した。
米政府高官が南シナ海における同盟国防衛について公式に発言したのは今回が初めて。 【3月1日 AFP】****************
アメリカが南シナ海で中国と覇権を争っているのは今更の話ですし、そのアメリカとフィリピンが同盟関係にあるのも事実ですから、本来は“奇異”でもない、当たり前の話のはずです。
にもかかわらず奇異な感じがぬぐえないのは、ドゥテルテ大統領は就任以来の反米的発言を繰り返し、中国と領有権を争う南シナ海問題について、2016年7月、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が中国主張を退ける判決を出したにもかかわらず、この自国有利の判決を棚上げするかのように中国との“蜜月”を進めているからです。
ドゥテルテ政権の「中国寄り姿勢」を示すものとしては、最近では以下のようなものも。
****米国務長官「ファーウェイは脅威」、比国防相「心配する理由ない」****
2019年3月2日、観察者網は、米国のポンペオ国務長官が訪問先のフィリピンで、ファーウェイの脅威について伝えたところ、同国のロレンザーナ国防相から否定されたと伝えた。
記事は、比メディアの報道を引用。「1日にポンペオ国務長官は、ファーウェイが透明性に欠けており、フィリピンに対してリスクとなるため、ファーウェイと合意や契約をしないよう勧め、米国企業こそ最良のパートナーだと語った」と伝えた。
これに対し、ロレンザーナ国防相は、ファーウェイを心配する理由はないとの見方を示し、「(何の問題も)見当たらない。われわれはとてもオープンであり、彼ら(ファーウェイ)はフィリピン全土に行くことができるのではないだろうか」と答えたという。
ロレンザーナ国防相は、「私たちには何の秘密もない。米国人に対してであっても、私たちに何か隠せるものなどあるだろうか」とも述べ、「情報と通信技術部の役人は、その職責を全うしている。彼らは私に、きちんと審査をしており、私たちの安全が損害を受けることはないと保証した」とも語った。【3月4日 レコードチャイナ】
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****フィリピンは中国への借金に溺れている?比財務相「なぜ日本のことは言わない?」****
2019年3月10日、中国メディアの観察者網は、フィリピンのカルロス・ドミンゲス財務相がこのほど、同国が中国への借金に溺れているとする主張に反論したと報じた。
記事は、フィリピン華字紙・世界日報が7日、「ドミンゲス財務相は、フィリピンが中国への借金に溺れているとする可能性を却下した」と報じたことを紹介した。
それによると、ドミンゲス財務相は「ドゥテルテ大統領の任期が終わる頃には、フィリピンは依然として中国以外の国々に多くの債務を負っているだろう」と指摘した。
その上で、ドミンゲス財務相は「22年末までに、中国から資金提供されたすべてのプロジェクトにおける債務額が、国の債務総額に占める割合は4.5%になるとみられる。一方、日本への借金が債務総額に占める割合は9.5%になるとみられるが、私はなぜ人々が『フィリピンが日本への借金に溺れている』とは言わないのか分からない」と述べたという。【3月10日 レコードチャイナ】
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日本からの借金ならよくて、どうして中国からの借金は問題視されるのか?・・・との主張です。
中国からの借金については、「債務のわな」云々の議論はありますが、今回はその点はパスします。
こうした政権の中国寄り姿勢はドゥテルテ大統領の意向を反映したものでしょう。
さすがにドゥテルテ大統領も最近では露骨な反米発言は耳にしなくなりました。(ウマが合うトランプ大統領登場のせいでしょうか)
ただ、就任以来の言動を考えると、オバマ前大統領当時の人権問題批判もあるでしょうが、要するに“アメリカが嫌い”ということなのでしょう。そこには、植民地支配していたアメリカとフィリピンの歴史問題もあるでしょう。
冒頭のポンペオ米国務長官のフィリピン防衛義務発言にしても、フィリピンにとって中国・アメリカの間でバランスをとるというのは、極めて重要な安全保障戦略ですからドゥテルテ大統領も何も言いませんが、おそらくドゥテルテ大統領は心中“誰がアメリカに防衛を頼むか!いつまでも主人面するんじゃねえよ!”といったところではないでしょうか。もちろん私の勝手な妄想です。
【フィリピン世論はアメリカに高い信頼】
ドゥテルテ大統領の“アメリカ嫌い”“中国寄り”にもかかわらず、フィリピン世論はアメリカへの信頼が高いようです。
****フィリピン世論 中国に警戒感****
(中略)
フィリピンのドゥテルテ政権が進める「米国離れ中国寄り政策」にも関わらず、フィリピン人が最も信用し頼りにしている国は米国で、中国に対しては「過度の信用は禁物」と警戒感を抱いていることが世論調査の結果から浮き彫りとなった。
世論調査は、フィリピンの民間調査会社「パルス・アジア」が2018年12月14日から21日にかけてフィリピンで1800人の成人を対象に実施したもので、1月15日のフィリピン紙「フィリピン・スター」などが伝えた。
その結果によると、フィリピンが今後さらに関係を強化するべき信頼する国として84%の人が米国を挙げた。これは2017年3月の同様の調査での回答79%を上回るもので、フィリピン人の米国への信頼度がさらに高まっていることを反映している。
米国に次いで信頼する国として日本が75%、オーストラリアが72%と続いており、日本に対するフィリピン国民の信頼度も高いことを示している。
一方、南シナ海でフィリピンと領有権争いをしている当事者でもある中国については信頼できるとしたのは60%で前回の63%より微減している。そして40%が「中国を過度に信用すべきではない」と回答し、警戒感を抱いていることも分かった。【1月19日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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****中国人留学生による「豆腐花ぶっかけ事件」、フィリピンに反中感情か****
2019/02/15 15:10
2019年2月14日、米華字メディア・多維新聞によると、フィリピンに留学中の中国人の女が起こした「豆腐花ぶっかけ事件」が現地の反中感情に火をつけたもようだ。
この事件は、液体の持ち込みが禁止されている地下鉄に女が豆乳デザートの「豆腐花(豆花)」を持って乗ろうとしたことが発端となった。女は「食べ終わってから乗るように」という警備員の指示を拒否し、通報を受けて現場に来た警察官に豆腐花を浴びせかけ、逮捕された。
記事が英BBCの報道を引用し伝えたところによると、同国のロブレド副大統領は「全てのフィリピン人を侮辱した」と女を非難。ある大学教授は「フィリピンの人々の強烈な反応は多くのフィリピン人の中国に対する態度を明確に示している」と話し、「近年、大勢の中国人がフィリピンに流れ込み、オンラインカジノの仕事に関わっている。多くの中国人旅行者がフィリピンを訪れていることもフィリピン人にネガティブな対中感情を持たせている」と指摘したという。
ドゥテルテ大統領はこれまでのところ、事件についてコメントしていないが、大統領報道官は「個別的な事件であり、あおり立てるべきではない」と強調している。【2月15日 レコードチャイナ】
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【強硬な麻薬問題対策への批判は受け入れず】
一方、超法規的殺人を含む麻薬対策はおおむね国内的には好評なようで、大統領支持率も高いレベルを維持しています。
*****ドゥテルテ大統領はフィリピンの救世主である****
(中略)
先日、ビサヤ諸島出身でバルセロナに叔母のいる、スペインの血筋を引く女性と食事をする機会があった。彼女はこういった。
「少し前にもマカティのナイトクラブが閉鎖されたわ。薄暗くてそこでドラッグが売買されていたの。ドラックにかかわるお店が閉められるのはいいことよ。大統領、もちろんドゥテルテがいいわ。(中略)」
ドゥテルテが3期25年も知事として君臨したダバオはまれにあるイスラム過激派のテロを除けば、東京と同じほど治安のいい街である。(中略)
「心配なのは、もし大統領がドゥテルテから他の人に変わったら、元のフィリピンに戻ってしまうんじゃないかってことね」 彼女はやや不安気にいった。
数々の暴言があっても、ドゥテルテ大統領の支持率は76%である(2019年1月14日付け 日刊まにら新聞)。(後略)【2月9日 WEDGE】
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ドゥテルテ大統領は、麻薬問題での国際的人権批判に歩み寄る姿勢は全くないようです。
****フィリピン、国際刑事裁判所から正式脱退 麻薬戦争めぐる予備調査に反発****
フィリピンは17日、国際刑事裁判所から正式に脱退した。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の推進する麻薬撲滅戦争をめぐってICCが予備調査を開始したことを受けての対応だ。ただ、ICCは違法な殺人が横行している疑惑の調査を続行する方針を示している。
フィリピンのICC脱退は、ICCの設立条約「ローマ規程」に基づき、昨年3月にドゥテルテ大統領が国連に脱退を通告してからちょうど1年後の17日に発効した。(中略)
戦争犯罪を裁く世界唯一の常設裁判所であるICCは、ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争で多数の死者が出ており、国際的な批判が高まったことを受け、昨年2月に予備調査を開始。フィリピン政府はこれに反発し、脱退を表明していた。
ただし、ICCは麻薬撲滅戦争において「人道に対する罪」があったかどうかをめぐるファトゥ・ベンスダICC主任検察官の予備調査は続行されると表明している。ローマ規程では、締約国の脱退発効前にICCで審議されていた問題は全て、脱退後もICCが司法権を有する。
一方、フィリピン大統領府のサルバドール・パネロ報道官は17日、「フィリピンがローマ規程の締約国だったことはない」と述べ、批准過程を完了していなかったとの立場を強調。ICCは「実在しない法廷であり、その行動は無益だ」と主張した。ドゥテルテ大統領はすでに、ICCの調査には一切協力しない姿勢を明らかにしている。
ICCをめぐっては近年、脱退の動きが広がっているほか、予想外の無罪評決・判決が下されるなど、逆風が吹いている。
2017年にアフリカ中部ブルンジが世界で初めてICCから脱退した後、ザンビアや南アフリカ、ケニア、ガンビアなどアフリカ諸国が、アフリカ人への偏見があるとして脱退の意向を表明している。 【3月18日 AFP】
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ドゥテルテ大統領の看板政策である麻薬取り締まりを巡り、すでに数千人(5000人とも)の容疑者が警察や謎の組織によって殺害されています。その中には根拠のないもの、警察不正の口封じも含まれています。
この強硬姿勢によって治安が回復したのは事実でしょうが、だからといって、超法規的に“社会に害をなす者”を殺していいということにはなりません。
その暴力は、麻薬犯罪者だけに向けられる保証もありません。いつの日か“政府にたてつく者”に向けられることも。
****政権批判のメディア経営者逮捕、中傷容疑で フィリピン****
フィリピン国家捜査局は13日、ネットメディア「ラップラー」の最高経営責任者マリア・レッサ氏を、インターネットを使った中傷の容疑で逮捕した。ラップラーはドゥテルテ政権批判を恐れない姿勢で知られ、政権によるメディアへの圧力を懸念する声が上がっている。
問題とされたのは2012年5月の記事。麻薬密輸などへの関わりがあると指摘された男性が「悪意をもって私をおとしめようとしている」として、17年になって被害を申し立て、フィリピン法務省が「サイバー犯罪法」に違反するとしてレッサ氏を告発していた。
ラップラーは、ドゥテルテ大統領支持のネット世論が偽アカウントから拡散していることや、政府による麻薬犯罪取り締まりで、犯罪に関わったとされる市民が殺されていることなどを批判してきた。
これに対し、ドゥテルテ氏は「フェイク(偽)ニュースの媒体」とラップラーを批判している。昨年1月には、ラップラーが米国の投資家に預託証券を発行して資金調達したことが、外資によるメディア経営を禁じる憲法に違反するとみなされ、フィリピンの証券取引委員会から企業認可取り消しを命じられた。同2月からは同社記者の大統領府取材が禁じられている。
ラップラーは13日、「我々はジャーナリストとしての仕事を続け、私たちが見聞きした真実を報じ続ける。脅しには屈しない」との声明を出した。【2月13日 朝日】
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以下の体罰に対する考えも、麻薬問題への実力行使路線に沿うものでしょう。
****子どもへの体罰禁止法案、ドゥテルテ大統領が署名を拒否 フィリピン****
フィリピン上下院が可決した子どもへの体罰を禁止する法案について、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が拒否権を発動したことが分かった。フィリピン大統領府が2月28日、明らかにした。
法案は、親や教師が仕置きやしつけ目的で子どもに体罰、精神的な暴力、人格をおとしめる行為を加えることを禁ずる内容。常習者に対しては、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」のカウンセリング受診を義務付けている。
だがドゥテルテ氏は2月28日に出した声明の中で、「欧米諸国で、子どもに対するあらゆる種類の体罰を時代遅れなしつけとみなす傾向が高まっていることは認識している」とした上で、「わが国はこうした流れにあらがうべきだと、私は固く信じている」と法案に署名しない理由を説明。親は子に体罰を与えても構わないとの見解を示した。
ドゥテルテ氏は、現在は15歳となっている刑事責任年齢についても引き下げを主張している。自身が進める「麻薬撲滅戦争」へのてこ入れが狙いとみられるが、これまでに密売容疑者とされた5000人以上が殺害されている。 【3月3日 AFP】
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下記の記事などは、ドゥテルテ大統領の歴史認識にかかわるものでしょう。
****フィリピン国名、マハルリカに? 大統領、植民地由来に嫌悪****
フィリピンの国名が「マハルリカ」になるかも―。ドゥテルテ大統領が演説で植民地由来の国名を変更する考えに言及し、国内で論議を呼んでいる。
「マルコスは正しかった。彼は『マハルリカ共和国』に変えたかったのだ」。ドゥテルテ氏は2月11日の演説で、長期独裁政権を敷いた故マルコス元大統領を持ち出し、改名に前向きな意向を明らかにした。
フィリピンという国名は、16世紀に宗主国だったスペインのフェリペ皇太子(後の国王フェリペ2世)にちなんでいる。
マハルリカの意味は、マレー語の「自由」の派生語やサンスクリット語の「気高く誕生した」など、複数の説がある。【3月9日 共同】
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ドゥテルテ大統領の独自路線は当分続きそうです。
【対応が遅れる首都マニラの水不足】
なお、フィリピンには麻薬以外にも緊急を要する問題もあるようです。
*****フィリピン首都で「最悪」の水不足、輪番断水で給水車には長蛇の列*****
フィリピンの首都マニラが、ここ数年来で最悪の水不足に見舞われている。給水車の前にはバケツを手にした市民が一家総出で数時間待ちの大行列をつくっているほか、複数の病院が重篤患者以外の受け入れを取りやめた。
マニラでは少雨に加え、水道インフラの不備により水不足が発生。人口約1300万のうち、およそ半分の世帯が1日4時間から20時間におよぶ輪番断水の対象となり、10日ほど前から市民生活への影響が表れ始めた。(中略)
マニラでは、1985年から人口が倍増し大都市となった首都の成長速度に追い付かないまま、水道水供給網やダムの老朽化が進んでいる。政府も、水需要の急増による問題はかなり前から存在すると認識してきた。
だが、水道水供給能力の拡大プロジェクトは遅滞しており、こうした問題に対応できていない。 【3月17日 AFP】
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