(航空自衛隊入間基地を出発するC2輸送機=2021年8月23日、埼玉県狭山市【8月25日 朝日】)
【私たちは生き延びるために戦っている。どうか脱出する方法を見つけてほしい。】
米軍がアフガニスタン撤退を終えて、とりあえず国外退避活動も終了しましたが、脱出できなかった者(外国軍への協力者など)の「身の危険」を訴える悲痛な叫びは多々報じられていますが、そのなかで最新のものをひとつだけ。
****「脱出できなければ死ぬ」 アフガンに残された男性の命がけの訴え****
武装勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンに、イギリスへの渡航許可を得ていたにもかかわらずカブール空港での混乱で退避便に間に合わなかったアフガン人が取り残されている。ある男性は、手遅れになる前に助けてほしいと、英政府に懇願している。
タリバンの復権を受け、欧米諸国は自国民やアフガン人協力者の退避を急いだ。8月31日の外国部隊の駐留期限を前に、イギリスは同28日に退避支援作戦を終了したが、避難対象となっている多くの人がアフガン国内に取り残された。
あるアフガン人男性は、BBCに自らの体験を語ってくれた。男性の安全を守るため、記事では身元を伏せてある。
私は今まさに地獄の中にいる。
この2週間、私は家族と一緒に安全な場所を求め、住む場所を15回も変えている。こうしている間もタリバンは私を探している。
最近はドアをノックする音が聞こえると、ある考えが真っ先に頭をよぎる。「タリバンが来たかもしれない、私や家族を探し出したのかもしれない」と、心臓が止まる思いだ。
こんな状況に置かれているのは私だけではない。政府やメディア、NGO団体、人権団体で働いていた何百人もの人が、次は自分の番かもしれないと、それぞれ別の場所に身を潜めている。
タリバンはこうした人たちを拘束し、殺害しようとしている。私もそのうちの1人だ。
私たちの状況は最悪だ。イギリスへの渡航許可を得ていた私は、カブール空港へ向かった。しかし、どのゲートにも4000〜5000人ほどが大挙していて空港内へ入れず、その場に36時間近くとどまった。
私はブルカをかぶり、11カ所の検問所を通過したが、結局タリバンは私たちを通してはくれなかった。
その日そこでは、15〜16家族が同じく立ち往生していた。イギリスのパスポートを持っている人もいた。彼らもまた、家を転々としながら出国する方法を探っている。
自爆攻撃があったあの夜、私は空港の近くにいた。爆発が起きたアビー・ゲートの近くに。私の幼い子供たちはすごく怖がっていた。今でも夜寝ている時にパニックになることがある。
今の私にどんな選択肢があるのか分からない。多くの国境が閉鎖されているので。私はメールで助けを求めようとしている。どうすれば自分の家族を安全な場所に連れていけるのか。その方法を見つけ出そうとしている。
英政府は退避させるという約束を守り、自分たちの国のために働いていた人を優先する必要がある。みんなイギリスのために犠牲を払ってきた。どうか脱出する方法を見つけてほしい。
数日内に脱出できなければ、自分は死んでしまうかもしれない。そう思うとぞっとする。私は自分の命よりも家族のことが心配だ。私の幼い子供たちはこの世の中のことを何も知らない。
なぜ子供たちが、私の罪の罰を受けなければならないのか。タリバンは私の仕事を罪とみなしている。私たちにはあまり時間が残っていない。せいぜい3〜4日が限界だろう。
英政府にこのメッセージを伝えたい。
「私たちは生き延びるために戦っている。助かるかどうかは、数時間あるいは数日間ではなく、あと数秒にかかっている」と。
英外務・英連邦・開発省の報道官はBBCに対し、イギリスが8月15日以降、「この種の退避作戦としては史上最大規模の作戦によって」、英国民やアフガン人スタッフ、危険にさらされている人など1万5000人以上をアフガン国外に退避させたと説明した。
「英国民と渡航許可のあるアフガン人を国外退避させるという我々の義務を果たすべく、今後も全力を尽くす」と、同報道官は付け加えた。
ドミニク・ラーブ英外相は8月29日、主要7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)加盟国のほか、トルコやカタールとバーチャルで会談。渡航許可のあるアフガン難民が安全に避難できるルートを確保するため、協力を促した。また、「過去20年間の前進」と「人権」を守る必要性を強調した。【9月1日 BBC】
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日本関係者についても“「置き去りにしないで」悲痛な叫び 自衛隊機で退避予定が中止に”【8月30日 FNNプライムオンライン】など。
【菅首相「最大の目標というのは、邦人を保護することでありました。そういう意味では良かった」】
こうした状況でアメリカ・バイデン大統領は今回の撤退を「素晴らしい成功」だったと、胸を張っています。
****バイデン大統領 アフガン撤退「素晴らしい成功」 現地には“未救出”100人超****
アメリカのバイデン大統領は、日本時間1日午前4時半ごろ、アフガニスタンからのアメリカ軍の完全撤退について演説し、「素晴らしい成功だった」と強調した。
アメリカ・バイデン大統領「アメリカしか達成しえなかっただろう作戦は、勇敢な行動力によって素晴らしい成功を収めた」
バイデン大統領は、「12万人以上のアメリカ人や協力者を救い出した」と述べ、「アメリカ史上最大規模の救出作戦に成功した」と強調した。
また、「撤退は、これ以上秩序立った方法で行うことはできなかった」として、「最善の判断だった」と述べた。
現地に取り残されている100人以上のアメリカ人については、「今後、外交努力による解決を目指す」と述べている。
一方、アメリカメディアは、「バイデン大統領が、混乱や多くの犠牲者が出たことに対する謝罪の言葉は一言もなかった」と批判している。【9月1日 FNNプライムオンライン】
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アフガニスタンからの退避を望むアメリカ民間人は「200人以下、おそらく100人近く」でしょうが、残された現地協力者は桁違い(一桁ではなく二桁)に多いことでしょう。それらの者を今後どうするのか?
もちろん、バイデン大統領も忸怩たる思いはあるのでしょうが、“政治化”“大統領”としては、批判を振り切るために胸を張って強弁するしかない・・・ということなのでしょうが・・・。
“米メディアによると、現地に残された政府機関やメディアのアフガン人協力者、アフガンの人権活動家らは数万人とみられている。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は30日の論説記事で、「バイデン政権の戦略的、戦術的なミス」に起因する「道義的な災害」だと厳しく批判した。”【9月1日 毎日】
現地スタッフの救出が全くできなかった日本では菅首相が・・・
****自衛隊のアフガン退避で菅首相 日本人1人の出国を評価****
自衛隊機によるアフガニスタンからの退避任務でおよそ500人の対象者のうち、出国できたのは日本人1人だったことについて、菅総理は邦人保護を成功させたとして評価する考えを示しました。
菅首相 「最大の目標というのは、邦人を保護することでありました。そういう意味では良かったというふうに思ってます」
政府はきのう、アフガニスタンからの自衛隊による退避任務について、アメリカ軍の撤収により空港の安全確保が困難となることなどから終了し、撤収することを決めました。これまでに日本人1人を含む15人を隣国に出国させましたが、菅総理は退避任務の最大の目標は邦人保護にあり、出国希望の日本人を全員退避させられたとして、任務を評価しました。
菅首相 「最大の目標というのは、邦人を保護することでありました。そういう意味では良かったというふうに思ってます」
政府はきのう、アフガニスタンからの自衛隊による退避任務について、アメリカ軍の撤収により空港の安全確保が困難となることなどから終了し、撤収することを決めました。これまでに日本人1人を含む15人を隣国に出国させましたが、菅総理は退避任務の最大の目標は邦人保護にあり、出国希望の日本人を全員退避させられたとして、任務を評価しました。
一方で、退避対象のおよそ500人の日本大使館やJICAの現地スタッフ、およびその家族は全員が残されたままとなっています。
退避計画を進める過程で、対象者リストがイスラム主義組織タリバンに提出されたことも明らかになっており、政府には今後、現地スタッフらを守りながら、早期の出国を目指してタリバンや関係国と交渉を続けるという大きな課題が残りました。【9月1日 TBS NEWS】
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【対象者リストがタリバンに】
救出できなかっただけでなく、“対象者リストがイスラム主義組織タリバンに提出された”ことで、タリバン側に対象者を把握された状況にあります。
予想をはるかに超えたハイスピードの首都陥落、期限を切られた撤退作業、自爆テロ・・・大混乱のなかで、多くの重要情報も適切に廃棄されることなく現地に残されたことが懸念されますが、その中で協力者リストに関するアメリカの反応が下記。
****米軍協力者の「生体情報」を手にするタリバン――懸念されるアフガン撤退に伴う情報保全****
米軍やNATO加盟国らの連合軍のアフガニスタン撤退に際し、各国政府の懸念事項の一つが、いかにタリバンから機密情報を守るかだ。機密情報がタリバンの手に渡れば、今後の対テロ作戦のみならず、協力者の人命も脅かされる。
しかし、既に一部の個人情報や米軍の生体認証機器をタリバンが入手してしまっている。(中略)
そんな矢先に飛び込んできたのが、米ポリティコ誌による8月26日の驚愕のスクープだ。
カブールにいる米国政府関係者が、カブール空港に入ろうとしている米国市民、グリーンカード保持者やアフガン人協力者の名前のリストをタリバンに渡していたという。
待避を迅速に進めるための措置だったとされるが、アフガン人協力者に危険が及ぶとして、議員や軍関係者が怒りを露わにしている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アフガン人の通訳たちの米ビザ取得が間に合わないまま、カブールが陥落。タリバンが米軍協力者をしらみつぶしに探し回り始めたため、ビザ申請書類を焼却処分するよう通訳に伝えた米軍関係者もいる。
元海兵隊員ピ―ター・ジェームズ・キエナンは、寝食を共にし、命を救ってくれた通訳の米国ビザ取得を、6年前から手伝ってきた。通訳が米国政府に協力していた事実を証明すべく、書類を苦労して集めてもらっていたにもかかわらず、このような依頼をする事態となり、断腸の思いだっただろう。(後略)【9月1日 Foresight】
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日本関係の現地スタッフも同様の立場に置かれています。
アメリカと日本ではタリバン側の対応が異なる、日本はそんなに敵視されていない・・・と楽観するのではなく、今後、関係者の生命保全について日本政府はタリバンに強く申し入れて行く必要があります。
たとえタリバン側が要求にまともに反応しないにしても、とにかく「関係者に危害を加えると面倒なことになる」と思わせるぐらいに。
タリバンも国外資金を凍結され、国際機関からの支援もストップした状況で、今後の国家運営に関して国際的な承認を切実に必要としていますので、そこらを絡めて強くタリバンに要求することが望まれます。
【「失敗」をめぐる議論】
いずれにしても、菅首相が何と取り繕うと、今回オペレーションは大失敗です。
もちろん、テロ発生のタイミングなど不運な面は多々ありましたが、結果としては「大失敗」です。
****アフガン撤収完了 無残な終幕は米の汚点だ 日本政府は協力者救出を急げ****
バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍の撤収完了を発表した。2001年の米中枢同時テロを機に始まり、「米国史上最長の戦争」と呼ばれた米軍のアフガン駐留が終わった。
莫大(ばくだい)な費用を投じて、若い兵士の犠牲を強いる作戦を永遠に続けるわけにはいかない。だが、性急な撤収は、過激武装勢力の自爆テロを許し、米兵らに多数の犠牲を出した。無残な終幕は、米国の威信を損なった。
最大の失態は、米国や同盟国の国民、アフガン人の協力者の安全な国外退避が米軍の撤収完了に間に合わなかったことだ。
タリバン「退避」履行を
米軍が8月末を期限に撤収を始めると、イスラム原理主義勢力タリバンが大攻勢をかけ、アフガン政府はあっけなく倒れた。見通しを誤ったバイデン政権は、撤収期限を延長し、米軍に人々の安全を守りきらせるべきだった。米野党共和党が、アフガン撤収は失敗だと批判したのは当然だ。
国連安全保障理事会は、希望者の安全退避をタリバンに求める決議を採択した。日米欧などの共同声明は、タリバンが出国を保証したと明らかにした。
タリバンはこの約束を守らねばならない。それができないなら今後、多くの国が話し合いの相手とみなさないと覚悟すべきだ。(中略)
それ自体は、日本の国益とも合致する。日本は、バイデン政権のアフガン撤収の決断を重く受け止め、米国との対中連携を一層進めるべきだ。
米国のアフガン撤収に伴う混乱は、日本の危機対処能力の欠如を露呈させた。自衛隊機派遣による退避作戦の失敗である。政府は猛省し、問題点を洗い出して改めなくてはならない。
首都カブールがタリバンに制圧された8月15日前後から各国の軍用機による退避作戦が実施された。米国が10万人以上、英国が1万5千人以上、ドイツが約5千人、韓国が390人を救い出した。自衛隊機で出国したのは、日本人1人と米国から依頼されたアフガン人14人の計15人だった。
日本は日本人数人や日本大使館勤務などのアフガン人とその家族の約500人の国外退避を目指した。だが、自衛隊による警護もなく、自爆テロの発生もあって空港にたどり着けなかった。
米軍の完全撤収で国際空港への離着陸は当面困難だ。政府は隣国パキスタンで待機する自衛隊の撤収を決めた。
外務省は失態猛省せよ
それでも、取り残された約500人を見捨ててはいけない。人道と日本の信義が問われている。タリバンの要請でトルコが国際空港を管理する話が進んでいる。政府は自衛隊機や民間機による退避を追求してもらいたい。
政府の一連の対応には多くの疑問符がつく。外務省の失態は本当に情けない。カブール制圧時に日本の岡田隆大使は現地に不在だった。残る日本人大使館員は同17日、英軍機で国外へ脱出した。アフガン人職員らを伴わずに、である。数人でも大使館員を現地に残さなかったことが、退避作戦に響かなかったわけがない。
政府の自衛隊機派遣決定の遅れは致命的だった。邦人輸送の自衛隊派遣は自衛隊法上、外相が依頼する。派遣の正式決定はカブール陥落から8日もたっていた。
8月上旬から政府は民間機による退避の準備を進めていたというが、並行して自衛隊機派遣も準備し、現地情勢の急転で直ちに切り替えるべきだった。情勢分析も甘かったのではないか。
国家安全保障局(NSS)、外務・防衛両省はもとより、菅義偉首相や加藤勝信官房長官、茂木敏充外相、岸信夫防衛相、与党幹部はいったい何をしていたのか。コロナ対応と政局だけしていればいいわけではない。【9月1日 産経】
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自身の地位と政局の今後で頭が一杯の菅首相に何を言っても無駄でしょうが、現地協力者の命がかかっています。
それは日本という国家の「信義」が問われる問題です。
日本の「失敗」が、協力者の救出に「成功」した韓国から「カブールの恥辱」と揶揄されていることは周知のところですが、タイミングの運・不運はあったせよ、結果としては揶揄されても致し方ない面も。
“明暗分かれた日韓のアフガン退避作戦 なぜ”【8月29日 日テレNEWS24】
“韓国、アフガン390人退避成功の“奇跡”…日本との明暗分けた「水面下での動き」と「初動の差」”【8月30日 文春オンライン】
【日本の信義が問われる今後の交渉】
加藤官房長官は1日午前の会見で、アフガニスタンへ派遣した自衛隊機が撤収した後も、現地に残っている少数の邦人や現地採用職員の安全確保や必要な出国支援に向けた努力は続けていくと述べています。当然です。
沈む船に乗客を残して船長以下のスタッフがいち早く逃げてしまったような「失態」の外務省ですが、今後のタリバンとの交渉はドーハの臨時事務所で行うことに。
****アフガニスタンの日本大使館 臨時事務所をドーハに移転 外務省****
外務省は、アフガニスタン情勢の急速な悪化を受けて、首都カブールに置いていた大使館を一時閉鎖し、トルコのイスタンブールに臨時事務所を設けて業務を行っていましたが、1日、カタールの首都ドーハに臨時事務所を移転しました。
外務省の吉田外務報道官は、記者会見で「カタールには日本人などの退避のオペレーションで大変お世話になり、日本とは極めて良好な関係を維持している。加えて、ドーハにはタリバンの政治事務所もあり、そうしたことを総合的に勘案した」と述べました。
アフガニスタンにおける大使館機能をめぐっては、アメリカも現地の大使館を一時的に閉鎖し、ドーハに拠点を移したことを明らかにしています。【9月1日 NHK】
アフガニスタンにおける大使館機能をめぐっては、アメリカも現地の大使館を一時的に閉鎖し、ドーハに拠点を移したことを明らかにしています。【9月1日 NHK】
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自衛隊を使う今回のような活動について、憲法との関連についての議論も。
“アフガン退避支援の自衛隊撤収 邦人保護に憲法の壁”【8月31日 産経】
“混沌きわめるアフガニスタン、日本の退避行動はなぜ遅れたか…今後の対応の方策を探る”【9月1日 BSフジLIVE プライムニュース】
ただ、こうした流れへの警戒感も
“アフガン避難作戦に失敗したのは平和憲法のせい?奇妙な日本の論理=韓国報道”【8月29日 WOW! Korea】
関係者を多数残した形での撤退終了はドイツでも政治問題となっています。
“アフガン情勢判断ミスで、メルケル政権が窮地に”【9月1日 Foresight】