孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

監視社会  中国だけではない顔認証技術の実用化 日本のJR東日本の事例

2021-09-23 23:05:42 | 監視社会
(シンガポールのホームチーム科学技術庁による商業地区や住宅地を巡回するパトロールロボットの実証実験(2021年8月6日撮影)【9月7日 AFP】

【パトロールロボットやドローンによる監視、顔認証チェックも】
短いトピックス記事みたいなものですが、妙に印象に残ったのが下記のシンガポールに関する話題。

*****規則を守ってるかな? ロボット巡回中 シンガポール****
シンガポールのホームチーム科学技術庁は、商業地区や住宅地を巡回するパトロールロボットの実証実験を実施している。
 
期間は3週間。6日には、市中を巡回し、公の場での喫煙や5制限を超えた人数による集まりなど社会的に不適切な行動をとらないよう呼び掛ける姿が見られた。 【9月7日 AFP】
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パトロールロボットは別にシンガポールだけのものでもありませんが、規則がうるさい管理社会シンガポールのイメージと重なって印象が強まったのでしょう。

愛嬌のあるロボットではなく監視ドローンが街を飛び交うとなると、気味悪いものがあります。

実際、コロナ対策で外出・集会が制限されていた頃の中国ではドローンが監視に飛んで、何人かの集まりを発見すると「自宅に戻りなさい」と警告するようなことも昨年段階で行われています。また、マスクをはずと「マスクを着けなさい」という警告も。

そうしたドローン監視は中国だけでなくスペインなど“西側諸国”でも行われていました。

こうしたロボットやドローンにAIが利用され、顔認証技術で人々をチェックするというのも、技術的にはすでに可能でしょう。実際そういう技術がすでに稼働しているのかどうかは知りませんが、そうなると・・・・監視社会の息苦しさを感じてしまいます。

【中国 2億台の監視カメラで24時間監視 犯罪捜査で威力発揮】
もちろん、顔認証技術は犯罪捜査などでは絶大な威力を発揮します。
この手の話になると、やはり中国です。

****中国警察「4年間で1万人の逮捕に貢献」の顔認証システム。政府支援で大躍進****
友だちの結婚式で撮った集合写真をFacebookにアップロードしようとして驚いたことはないだろうか。Facebook上で友だちになっている人(のうち顔写真がプロフィールやタイムラインで公開されている人)が自動認識され、投稿へのタグ付けをうながされる。現在の画像認識技術をもってすれば、このくらいのことは何でもない。(中略)

中国の銀行400行に顔認証システムを提供
だが、顔認証分野では世界最先端を突っ走る中国では、こんなことで驚いていたら身が持たないかもしれない。香港メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストは3月28日、こんな衝撃的なタイトルの記事を掲載した。

「中国警察当局による1万人の犯罪者逮捕に貢献した、政府支援のAIユニコーン」

このユニコーン(非上場ながら企業価値が10億ドル=約1110億円を超えるベンチャー)は、中国南部・広州市に本拠を置き、人工知能(AI)を使った顔認証技術の開発を進めるクラウドウォーク・テクノロジー(以下、クラウドウォーク)を指す。

同社の顔認証技術は、中国31行政区(自治区・直轄市含む)のうち29の警察で使われ、1日あたり約10億人分の顔をデータベースと突き合わせ、過去4年間で1万人を検挙するのに貢献してきたという。

とりわけ大口の顧客は銀行で、中国4大銀行と呼ばれる中国銀行と中国農業銀行、中国建設銀行、中国工商銀行を含む400行のATMの顔認証システムとして採用されている。1日あたりの取引(に伴う顔認識)量は2億1600万件にものぼる。

また、同社は広州市から約3億ドルの補助金を受け取るなど(2017年実績)、行政との結びつきも深く、中国国家発展改革委員会の進める高精度顔認証プロジェクトでは、政府推奨企業にも名を連ねている。(後略)【2019年4月2日 川村 力氏 BUSINESS INSIDER】
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****中国の監視網、数秒で20億人識別 プライバシー侵害か****
中国の街頭や公共施設などには、あらゆる場所に監視カメラが設置されており、その多くが人工知能(AI)を搭載した顔認証システムと連動しているとされる。逃亡犯の逮捕や犯罪抑止に効果を上げる一方、プライバシーの侵害を指摘する声もある。

中国当局、ウイグル巡り監視リスト 日本人895人記載
上海市当局がネット上で管理していたとみられる、日本人も含む大量の個人情報データについて、専門家はデータから入手できる顔写真と監視カメラを利用すれば、対象者を常に監視できると指摘する。
 
中国メディアによると、2018年に中国各地で開かれた「香港四天王」と呼ばれた人気歌手、張学友(ジャッキー・チュン)さんによる全国ツアーの各地の会場で、様々な事件で指名手配されるなどして当局が行方を追っていた容疑者たちが次々と拘束された。会場内に設置された監視カメラで映し出された容疑者の顔と、警察が持つ顔写真データをAIが照合して見つけ出したもので、全国で計約60人が拘束された。

BBC記者、わずか7分後に「拘束」
「張さんの大ファンでコンサートをどうしても見たかった。大きな会場内で、まさか見つかるとは思わなかった」。経済事件で指名手配中に、江西省南昌の約6万人の会場で拘束された容疑者の男は、調べに対してそう供述したという。
 
こうした監視網は「天網(悪事を逃さないよう天が張り巡らせた網)」と呼ばれる。数秒間で20億人を識別して、対象となる人物を特定できるとされるシステムだ。英調査会社「コンパリテック」は、中国内には約2億台の監視カメラがあると推計。中国全土の公共施設をほぼカバーしているという。
 
英BBCの記者が17年、中国南部・貴州省貴陽市の警察当局の協力を得て、「天網」システムの実験をした。自身の顔写真を提供してシステムに登録。「指名手配犯」として警察署から逃亡を図ったものの、わずか7分後に「拘束」された。
 
このシステムによって検挙率は上がったものの、プライバシーの侵害も問題になっている。中国各地の警察当局は、信号無視などの交通違反をした人の顔写真や氏名、身分証番号を街頭テレビで映し出している。
 
また、当局が警戒する少数民族や人権活動家らの監視強化にもつながっている。人権活動に取り組む中国人弁護士は「かつてのような当局による尾行はなくなったが、『天網』によって24時間、居場所を把握されるようになり、活動が難しくなっている」と語る。【6月9日 朝日】
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【中国でも、無秩序な利用には批判・制約も】
ただ、「何もしていないなら、恐れる必要なない」ということで、こういう「監視」に対する抵抗がほとんどないように思われる中国でも、無秩序な利用には批判・制約もあるようです。

****急速に広がる顔認証技術に市民が不満 中国・最高裁が使用制限****
中国では生活のあらゆる場面で個人の識別に顔認証技術が導入されている。プライバシーの侵害や犯罪に悪用される不安から批判が高まり、最高人民法院(最高裁)は7月下旬、商業目的の顔認証技術の使用を制限する見解を示した。
 
スマートフォンのロック解除、飲食店での注文や支払い、勤務先への入居、ショッピングモールの買い物、銀行、空港、ホテル、さらには帰宅時のマンションの入り口…。中国の市民は朝から晩まで、1日に何度も顔認証を求められるのが当たり前となった。

中国の警察は犯罪抑止や指名手配容疑者の追跡のため街角に防犯カメラ設置を進めており、中国メディアも「社会の安定に貢献」と肯定していたが、最近は風向きが変わってきた。

顔認証で撮影された顔写真が裏ルートで流通し、本人の銀行口座などが特定されたり、本人になりすました犯罪が行われていたりする懸念が広がっている。裏ルートでは、数千枚の顔写真がわずか2元(約34円)で売買されているという。

企業が勝手に客の顔認証情報を収集する動きも目立っている。「世界消費者権利デー」の3月15日に合わせて著名企業の不正を告発する中国国営テレビの番組「315晩会」は、ドイツのBMWや米国のユニットバスメーカーのコーラー(Kohler)、イタリアのアパレル大手マックスマーラ(Max Mara)などが中国の店舗で顔認証カメラを設置し、同意を得ずに来店者情報を保存していたと報道した。
 
顔認証をめぐっては2019年、浙江理工大学法学部の郭兵副教授が、浙江省杭州市にある杭州野生動物世界を提訴した。

年間パスポートを購入した後、本人確認の方法を顔認証システムに一方的に変更され、「顧客の同意なしに生体情報の収集を強制するのは消費者権益保護法違反」と主張した。「顔認証を巡る中国初の裁判」と注目され、杭州中級人民法院は今年4月、一方的な変更は契約上のルール違反と判断を下した。
 
清華大学法学部の労東燕教授は昨年3月、自分が住む集合住宅の各入り口に顔認証出入管理システムが設置されるとの通知を見て、不動産管理会社と住民委員会に「同意なく個人の生体情報を収集することは法律に違反する」と抗議。顔認証システムは無期延期となった。
 
こうした問題を受け、最高人民法院は7月28日、人工知能(AI)で個人の顔を識別する顔認証技術の使用に関する規定を公表。

ホテルや商店、駅などでの顔認証技術の使用は違法とし、アプリなどで使用する場合は消費者の同意を得るよう求めた。「同意しなければサービスを提供しない」という規定も違法とし、マンションの出入りに顔認証を使う場合は同意しない人のために代替手段の提供を義務付けた。

顔認証装置は数万円で購入でき、個人が私的な目的のため顔情報を収集できることも可能だ。急速に広がる顔認証システムに、一定の歯止めがかけられた形だ。【8月24日 東方新報】
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上記記事タイトルは“急速に広がる顔認証技術に市民が不満 ”とありますが、紹介されている事例はいずれも法学部教授の訴え。一般市民の理解とはやや異なるかも。

【日本でも JR東日本「社会的合意・議論なし」に刑務所からの出所者、仮出所者の顔認証監視】
こうした話は、海の向こうの中国などでの話かと思っていましたが、日本でも。

****「硫酸男」スピード逮捕のウラで…実はJRが「顔認証カメラ」を導入していた****
「駅名は明かせませんが、約110の駅のコンコースなどに設置したおよそ5800台の監視カメラの一部に、顔認証機能を搭載しました。マスクをつけていても、不審者の顔を判別できる能力があります」(JR東日本広報) 

JR東日本が、ひっそりと「顔認証監視カメラ」を導入したことをご存じだろうか。駅利用者の顔と、登録されている犯罪容疑者や不審者の顔をリアルタイムで照合し、検知しているというのだ。  

五輪開幕に合わせて、7月から導入していた。顔データの出元や最終的な情報提供先は「答えられない」と言うものの、警察とみて間違いない。  

先月24日夜、東京・港区で男性に硫酸をかけた男は、JR品川駅から新幹線に乗って逃走した。男は28日にスピード逮捕されたが、この捜査にも顔認証監視カメラが活用されたとみられる。  

捜査に役立つなら、問題ないと思うかもしれない。しかし、顔の画像を無差別に収集されるのはあまり気持ちのいい話ではない。

ITジャーナリストの三上洋氏が言う。  
気がかりなのは『誰がどんな基準で顔リストを作っているのか』『集めたデータが何日間保存されるのか』が不明な点です。  

欧米では一部の国や州で同様の監視カメラの規制が始まっています。一方、日本ではまだ規制が一切なく、データの利用状況を監視する第三者機関もない。悪用されても気づけないのです」  

さらに心配なのは、情報漏洩のリスクだ。映像のデータはJR東日本が委託する警備会社が管理・チェックするという。  

「考えたくないことですが、もし委託先の会社に悪意ある人や外国人スタッフがいて、そこから情報が漏れた場合、責任をとれるのでしょうか」(前出・三上氏) 

顔認証監視カメラは、あくまでも五輪・パラリンピック期間中の警戒用というが、今後、警察がこの技術を放っておくとは思えない。日本も中国なみの監視国家になってゆくのか。  【『週刊現代』2021年9月11・18日号より 週刊現代(講談社)】
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駅構内には、「顔認証機能」が付いた防犯カメラが作動していることを伝えるステッカーが掲示されてはいるようです。

このJR東日本の顔認証システムは、刑務所からの出所者、仮出所者の一部を駅構内で検知する仕組みも含まれていましたが、21日、JR東日本は「社会的なコンセンサスがまだ得られていない」として取りやめたとのこと。

****「駅で出所者を顔認識」中止 JR東、導入に「社会的合意なし」****

(駅構内で、「顔認証機能」が付いた防犯カメラが作動していることを伝えるステッカー=JR東日本提供)

主要駅の安全対策としてJR東日本が7月から、顔認識技術を用いて刑務所からの出所者、仮出所者の一部を駅構内で検知する仕組みを導入していたことがわかった。

JR東の施設などで重大事件を起こした人を想定。国の個人情報保護委員会と相談して判断したとしていたが、同社は21日、「社会的なコンセンサスがまだ得られていない」として取りやめた。
 
同社によると、検知対象として、指名手配中の容疑者や駅で不審な行動をとった人に加え、乗客らが狙われたテロ事件などで服役した出所者や仮出所者を想定していた。痴漢や窃盗などは対象外という。
 
容疑者として逮捕された時点で報道された顔写真などをデータベースに登録。出所後、駅構内に設置した顔認識機能がある防犯カメラに映ると自動的に検知する仕組みで、駅の警備員らが声をかけ、必要に応じて手荷物を調べるケースを想定していた。
 
同社は、事件の被害者らに出所や仮出所を知らせる「被害者等通知制度」に基づき、被害者の立場で出所者情報の提供を受ける立場だという。

主要110駅や変電所などに、ネットワーク化されたカメラ8350台を設置し、東京五輪・パラリンピックへ向けた安全対策として7月6日に運用開始を公表したが、出所者情報を取り扱うかどうかなど具体的な運用方針は明らかにしていなかった。
 
JR東が一部出所者らを顔認識の検知対象にしていたことについては、読売新聞が21日に報道した。JR東は9月時点で出所者、仮出所者の登録がないとした上で「新聞報道や外部からの意見を踏まえていったん軌道修正し、当面はやらない」と説明した。指名手配者や不審者を対象とした運用は継続するという。

JR東海は「東海道新幹線などすべての駅で、顔認識機能がある防犯カメラは導入していない」とした。JR西も「具体的な検討はしていない」と説明。国の「情報通信研究機構」(東京)が過去に大阪駅の駅ビルで通行人の顔を撮影する実証実験を検討したが「プライバシー権の侵害」などと反発があったという。
また、JR九州も駅での顔認識カメラの設置はなく、「現時点で予定もない」としている。

 ■防犯目的、個人情報の扱いは
顔認識機能があるカメラで駅利用者らを撮影し、出所者を検知する仕組みに法的な問題はないのか。
 
まず、通勤客ら駅利用者の顔の特徴などの顔認識データを撮影・検知することについて、個人情報保護委員会は「本人同意は不要」と判断している。顔認識データは、本人の同意なしの取得を禁じている「要配慮個人情報」にはあたらないとの理由からだ。
 
利用目的の通知または公表は義務づけられている。同委は今月に更新したガイドラインに関する「Q&A」の中で、顔認識データを利用する際は、カメラの設置場所などにデータの利用目的や問い合わせ先の明示が必要との見解を示した。同委はこの点についても、JR東日本は7月時点で駅などで通知をしているとみて問題ないとの立場だ。
 
また、個人情報保護法では、服役していたという情報は「要配慮個人情報」にあたり、取得には本人同意が必要だが、法令に基づく場合や人の生命、身体、財産の保護のために必要な場合は同意なしに取得できるという例外規定がある。同委は被害者等通知制度に基づいてJR東が提供を受ける今回のケースはこの例外にあたる、とみる。
 
同委事務局の佐脇紀代志審議官は「個人情報保護法は保護と利用のバランスを図っており、今回の防犯という目的に限った利用であればバランスを欠くケースではない」と取材に話した。
 
欧米では近年、顔認識データの取得を禁じる動きが出ている。欧州連合(EU)が4月に発表した人工知能(AI)をめぐる規則案では、警察などによる顔認識データの取得を禁じている。米国では顔認識データの取得を禁止した州や市がある。

 ■ある程度やむなし、ルール決めて
公共施設の防犯カメラに詳しい藤井雄作・群馬大教授(安全工学)の話 
対象者の変装や整形も考慮すると、検知精度がどれくらいかにもよるが、逮捕状などが出ている指名手配の場合は問題ない。顔認識での検知は、セキュリティー上必要だ。
 
出所者や仮出所者については、刑期を終えて社会に出た人のプライバシーの問題を含めて、社会的なルールをしっかりと決める必要がある。
 
ただ、こうした顔認識での検知は、安全確保の観点からもある程度はやむを得ないのではないか。

 ■データ、緊急性高い事例のみに
個人情報の問題に詳しい宮下紘・中央大教授(憲法学)の話 
顔認識データは最も厳格に保護するべき生体情報の一つであり、人工知能(AI)など機械による判断で個人が不利益を被る事態は避けるべきだ。欧米では取得そのものを禁じる動きが増えており、JR東日本による駅利用者の顔認識データの取得は欧米の流れと逆行している。
 
服役した人の顔の情報を民間企業のJR東日本が登録し使うことも許されるべきではない。不審な行動をとった人のデータを登録する基準も示されておらず登録内容のチェックもできない。データの取得や使用は防犯目的であっても緊急性の高い事例に限定されるべきだ。【9月22日 朝日】
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いろいろ見解はあるにせよ、社会的合意はもちろん、議論もなしにこういう技術が普及するというのはやはり問題でしょう。


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