孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  一連の規制強化は「革命発動」か「単なる是正」か 虐待された父を追う毛沢東チルドレン・習近平

2021-09-09 23:12:33 | 中国
(「大躍進政策」の大失敗で実権を失った毛沢東が実権を回復するために発動した文化大革命においては、紅衛兵という若者らによってそ政治家・インテリ・教師などが「反革命分子」「走資派」「修正主義」として公衆の面前でつるし上げられ、自己批判を強要され、大勢が亡くなりました。)

【進行する習近平版「文化大革命」 「あるべき姿」は国家・党が決めるという発想】
9月3日ブログ“中国 習近平版「文化大革命」が進むなか、大連「日本街」営業停止 微妙な対日感情”でも取り上げたように、中国・習近平政権は市民生活・文化・経済・教育に至る幅広い分野で、かつての「文化大革命」を想起させるような、国家・党による統制・管理・指導を強化しています。

若者らの生活に直結するところでは、オンラインゲームに対する規制が強化されています。

すでにオンラインゲームに関しては、「精神的アヘン」であるとして、18歳未満のユーザーには、金・土・日と祝日の午後8時から午後9時の1時間しかサービスを提供してはならないという時間制限が設けられていました。

更に、ゲーム内容についても「女々しい」ものは認めないとのこと。

****中国、ゲーム会社に「女々しい」コンテンツの削除を命令****
中国当局は、ゲーム大手の騰訊控股(テンセント)や網易(ネットイース)などに対し、利益重視の姿勢をやめ、「女々しさ」を助長しているとみなされるコンテンツを削除するよう命じた。中国政府は、若者文化やジェンダーの理想、IT大手の影響力に対する指導を強めている。
 
中国当局は8日、巨額の利益を生むゲーム市場をけん引するテンセントやネットイースをはじめとするゲーム会社を呼び出し、今後の業界に対する規制強化について伝えた。すでに当局は、未成年のゲームのプレー時間を週3時間までに制限するよう命じている。
 
苦境に立たされているゲーム業界への新たな規制の動きを受け、9日のゲーム関連株は急落した。
 
国営新華社通信は8日夜、ゲーム業界に対する最新の規制について、「わいせつで暴力的なコンテンツ、拝金主義や女々しさなどの不健全な傾向を助長するコンテンツは、削除しなければならない」と報じた。規制に従わない企業は罰せられると当局は警告している。
 
こうした規制対象について、香港大学の宋耕准教授は、中国の政治階級には派閥を超えて「女々しい男性は肉体的に軟弱で、感情的にもろい」という認識があり、「女性的な」男性には国家を守ることができないとの推論に基づいていると指摘。

政治エリート層においては異性愛が唯一のジェンダー規範だとみなされていることが、性的指向やアイデンティティーをめぐる曖昧な表現に対する「不安」につながっていると付け加えた。 【9月9日 AFP】
************************

また、通報窓口を設けて大規模な検査を行い、対応の甘い会社は厳しく罰するとのこと。

****中国ゲーム規制、党や政府が運営会社に厳命 通報窓口を設置、厳罰も****
中国共産党中央宣伝部や政府の国家新聞出版署などは8日、テンセントや網易など国内のオンラインゲームを運営するIT大手側に、未成年がゲーム中毒になることを防ぐ措置を講じるよう厳命した。通報窓口を設けて大規模な検査を行い、対応の甘い会社は厳しく罰するという。
 
国営新華社通信が伝えた。党や政府は先月、オンラインゲームが未成年の心身の健康に深刻な影響を与えているとして、運営会社側にサービスの制限を求める通達を出した。関係部門が会社側と面会して直接伝えることで、指示を徹底させる強い姿勢を示した形だ。(後略)【9月9日 朝日】
**************************

加えて、“中国当局は、若者のゲーム依存に歯止めをかけるため、新たなオンラインゲームの承認を一時停止した”【9月9日 ロイター】

芸能界・エンタテイメント業界の粛清も進んでいます。
“スキャンダル多発の中国芸能界、「資格証」導入へ? ネットユーザーの反応は…”【9月9日 レコードチャイナ】

市民のファン行動についても規制が。
“BTSファンアカウント21件、中国で「分別ない応援」と停止に…芸能界締め付けの一環か”【9月7日 読売】

****ゲームもセレブ崇拝も規制、中国が望む若者像は****
「男らしい」少年や健全な若者の育成を目指す共産党

中国共産党は習近平国家主席の下、国内最大級の民間企業を締め付けるなど、経済統制を強める積極的な動きを見せている。前の時代には行き過ぎだったと考える資本主義化を巻き戻す狙いがある。
 
今年結党100周年の節目を迎えた同党は、ここ数十年見られなかったほど国民の私生活に踏み込む意図を鮮明にしている。
 
党当局者は今週、中国の若者がオンラインゲームで遊ぶ時間を厳しく制限する新たな規則を発表した。今回制限を課したのは、ポップカルチャー(大衆文化)のアイドルを締め付けているさなかであり、学習塾などを大幅に制限する動きに続くものだ。
 
こうした動きを総合すると、習氏の直前2人の前任者の下で存在した社会契約――共産党の政治独占を黙認するのと引き換えに個人の自由を拡大してきた――に変化が生じたことを表している。
 
共産党によると、次世代の中国国民をより積極的に形作ることが目的だとしている。(後略)【9月2日 WSJ】
*****************

出生率改善のかせとなっている教育負担を軽減する取り組みも。
“中国、オンラインなどでの家庭教師を禁止”【9月8日 ロイター】

海外ブランド品に対する「嘘だらけ、間違いだらけだ」との批判も
“中国国営メディアや共産党、海外ブランドの批判展開”【9月9日 ロイター】

少し変わったところでは、地方政府の行き過ぎた行為も「公費の無駄遣い」とやり玉にあがっています。
“三国志の英雄・関羽の巨大像、観光名所なのに「公費の無駄遣い」と断罪され解体”【9月7日 読売】

それぞれの規制・指導は、それなりの背景・理由があってのものではありますが、共通するのは、市民・経済業界等の自由な活動の結果「行き過ぎ」が目立つ、そのため国家・社会にとって有益なもの・有害なものの線引きを国家・党が厳しくおこなって「あるべき姿」を明確にする・・・という姿勢です。

その発想は、革命・社会主義の理念に沿っていないとみなされたもの・人物を厳しく排除し、中国社会に大きな傷跡を残した、毛沢東が実権回復のための権力闘争として発動し、江青ら「四人組」が主導した「文化大革命」(推定死者は数十万人とも、あるいは2000万人とも)の考え方です。

政治的にみると、市民・経済業界等の自由な活動の結果の「行き過ぎ」は鄧小平による改革開放路線の弊害であり、習近平を「核心」とする現体制は、この弊害を是正して格差のない「共同富裕」の社会を目指す・・・という革命の「原点回帰」路線であり、習近平政権の(鄧小平を超えて、毛沢東と並ぶ)絶対化・長期化を推し進めるものでもあります。

ついでに言えば、こういう国家・党が市民生活の「あるべき姿」を明確にするという発想は、アフガニスタン・タリバンの勧善懲悪省という一種の宗教警察によって市民生活を厳しく取り締まる発想と根っこは同じです。革命・社会主義が中心に置かれるか、イスラム主義なのかの違いだけです。

【一連の規制・指導監督強化は「革命」なのか、「市場のルール化・是正」なのか】
この習近平版「文化大革命」をめぐって、中国官製メディアにおいても、まさに「革命」を発動すべきと檄を飛ばす立場と、「そういう類のものではない」とする立場が並存する、異例の状況ともなっています。

****習近平の「毛沢東回帰」変革をめぐってネット上で奇妙な攻防****
先日、習近平政権のエンタメ芸能界規制に対する認識をめぐってネット上の2つの論評が話題となった。
 
1つが極左ブロガー、李光満の論評で、もう1つが「環球時報」主筆の愛国・愛党言論人である胡錫進による李光満論評への反駁論評だ。(中略)

李光満は、昨年(2020年)のフィンテック企業アントグループの上場停止事件からエンタメ芸能界規制強化に至るまでの一連の政策は「まさに革命、社会主義の本質への回帰」だと論評。この文章が、人民日報、新華社、環球時報を含む中国主要紙の電子版に一斉に転載された。
 
その数日後、胡錫進は「李光満の論評は誤読で誤誘導だ」という短い原稿を自分の微博アカウントで投稿した。
この一連の出来事はきわめて奇妙な印象をチャイナウォッチャーたちに与えた。

「革命」という言葉を使って檄を飛ばす
習近平が掲げている共同富裕政策と、目下急速に進められている大手民営企業に対する規制強化、芸能・エンタメ界、ゲーム業界への規制強化、課外学習・オンライン学習産業を丸ごと潰すような教育改革・・・。こうした動きをひっくるめて習近平が目指しているのは改革開放からの逆走路線であり、毛沢東回帰、社会主義の初心への回帰であり、「富裕層を打倒せよ」という階級闘争への誘導であり、一種の革命、文化大革命2.0ではないか、という論はチャイナウォッチャーの間ではよく指摘され、私もそういう見方に沿って今の中国で起きている現象を分析してきた。
 
習近平は、鄧小平システムと呼ばれる共産党の10年ごとの権力禅譲システムを破壊して、毛沢東のような長期独裁体制を築こうしているように見える。だが習近平政権下の中国経済は明らかに失速し、いくつかの政策(香港政策、台湾政策や一帯一路政策)は失敗ではなかったかという批判が水面下である。

そこで自らの権力延長を正当化するために必要なのが、失策の責任を転嫁する相手、つまり「階級の敵」探しであり、その階級の敵というのが、たとえばアリババの創業者の馬雲(ジャック・マー)のような民営大企業家や、スーパーセレブ大女優の趙薇なのであろう、と見られている。
 
だが、こうした現象を、これは「まるで文革」と言ってしまえば、おそらく多くの中国の官僚、政治家は否定したがるだろう。多くの中国人にとって文革とは「共産党の歴史上の深刻な過ち」であり、繰り返してはならない黒歴史である。だから、今の政策を文革的だと認めては、過ちの繰り返しをやっていることになる・・・と、少なくとも私は思っていた。

ところが、李光満が自分のSNS微信アカウント「李光満冰点時評」に8月27日に投稿した論評で、「中国はまさに重大な変化の中にあり、経済領域、金融領域、文化領域から政治領域に足るまで深い変革が起きている、あるいは深い革命が起きていると言えるだろう」と「革命」という言葉を使って檄を飛ばす過激な主張を行い、それを官製メディアが一斉転載したことには、ちょっとびっくりした。(中略)
 
ほとんどの中国主要メディアが一斉にサイトに転載するなど、これは上層部の指示、中央宣伝部の指示があったとしか思えない。なので、習近平自身が確信的に文革発動を呼び掛けようとしているのか、とチャイナウォッチャーたちはざわめいた。
 
だがその後、国際的にも有名な中国の愛国・愛党的言論人で、環球時報(人民日報傘下のタブロイド紙)主筆の胡錫進が、李光満のコラムの主張を徹底否定する投稿を個人の微博アカウントで発表した。
 
これも驚きだった。環球時報が転載したコラムを、主筆自らが否定し論破する論評を発表したわけだ。そして、なぜか胡錫進の微博アカウントは一時的に、李光満の論評が転載できないような制限を微博側から受けた。その制限はすぐに解除されたが、その後、なぜか微信上ではその、原文が検索できなくなっていた。
 
一体これはどういうことなのか、というのが、チャイナウォッチャーたちの間で謎となっている。

「革命ではない」と李光満の論評を否定
李光満(中略)が書いた論評「誰もが感じることのできる、まさに進行中の深い変革」は、中国エンタメ芸能界は腐りきっていると、猛烈な批判から展開する。

アントグループの上場停止事件から、アリババや滴滴など大民営インターネットプラットフォーム企業に対する罰金、そしてエンタメ芸能界の乱れを粛正する一連の措置について、深い変革、革命がまさに進行中といい、「これは資本集団から人民群衆への回帰であり、資本中心から人民中心への変革だ。これにより、これは政治変革であり、人民が再び新たにこの変革の主体となって、人民中心の変革を阻害するすべてが放棄されるということだ」「この本質的な変革は1つの回帰であり、中国が共産党の初心への回帰することであり、人民中心に回帰することであり、社会主義の本質に回帰することである」と主張している。(中略)
 
だが、このコラムが発表された3日後の9月2日、胡錫進が、(李光満の論評は)誤読であり誤誘導だ、とする論評を投稿した。

「(李光満の論評は)最近の国家が打ち出した一連の市場監督管理措置についての誤読であり曲解である。こうした監督管理の目的は市場のルール化であり、是正であり、資本の野蛮な成長とそれによる各種副作用の予防のためである。経済社会の発展を加速して共同富裕を推進し、公平正義の建設を強化し、社会統治をさらに一歩、上の段階に押し上げてより完成に近づけるためであって、革命などというものではない」
「この種のセンセーショナルな全面的宣言は、中国の実際の政策から深刻に離脱し、少数派の妄想に属するものである」「こうした発言は、人々にある種の歴史的記憶(文革)を惹起させ、思想的混乱とパニックを引き起こすのではないかと懸念を抱かせる」
 
胡錫進はこのように主張し、みんな信じてはだめだ、と訴えた。(後略)【9月9日 福島 香織氏 JBpress】
********************

この両論が並存する状況は、党内の2つの派閥の対立を反映しているものなのか、“李光満の文章による影響力が予期した以上に大きかったので、監督管理当局がその内容をより穏当なものにバランスを取るよう指示した。”といったものなのか、李光満の今回の論評は「世論に対する観測気球」なのか・・・そこらはよくわからないようです。

福島氏は最後に、以下のようにも。

****薄れている文革の罪悪感****
体制内の対立する意見を反映したものなのか、観測気球なのか。あるいは、もっと深淵なメッセージが込められているのか。いろいろ想像力は働くのだが、一つ言えることは、文化大革命の歴史に対する共産党の罪悪感が、習近平政権になってから、かくも薄れているということだ。
 
ずっと言論空間の辺境に追いやられていた文革を肯定的にとらえる極左言論人がたとえオンライン上のみであっても、中国のメーンストリームメディアで取り上げるられることなど、胡錦涛政権時代ならありえただろうか?
 
歴史の過ちを過ちと認識できなくなったとき、過ちは繰り返されるかもしれない。今の苛烈な規制強化や産業全体におよぶ粛正が、今は改革開放路線上の単なる是正や、市場のルール化のつもりであっても、来年には「深い革命」になっている可能性は十分にあるのだ。【同上】
*******************

【「文革」被害者である習近平が毛沢東との一体化を目指す「心理」】
ただ、習近平自身が毛沢東政治・文化大革命の「被害者」であるにもかかわらず、毛沢東に回帰し、新たな文革を発動しようとしているとも見られているところが、奇妙というか、心理学・精神分析の対象ともなりうるところです。

****父は16年間の投獄、姉は餓死…文化大革命で苦痛を味わった“習近平”がそれでも“毛沢東”の背中を追う異常な理由****
(中略)中国建国後、習仲勲は国務院副総理(副首相)などの要職に就いた。彼ら中央指導者は多忙を極めていたため、子弟のために全寮制の幼稚園や小学校をつくった。1953年生まれの習近平も姉や弟とともに、そうした全寮制の学校で育てられたのである。いわば彼らは「党の子どもたち」だった。
 
ところが1962年、父・習仲勲は反党的な小説の出版に関わったという嫌疑をかけられ、全ての要職を奪われてしまう。それから習仲勲は1978年まで16年間も投獄や拘束といった迫害を受け続けたのである。母親の斉心も革命運動に参加、八路軍でも兵士として戦ったが、文化大革命では公の場で批判を浴びせられ、暴力もふるわれた。
 
文革の嵐は、当時、中学生だった習近平をも襲った。紅衛兵によって生家を破壊され、十数回も批判闘争大会に引き出されて、あげくに反動学生として4回も投獄されてしまったのだ。そのため、中学から先は正式な教育を受けられなかった(のちに推薦制度により、清華大学に無試験で入学)。

さらには陝西省の寒村に下放(青少年を地方に送り出し、労働を体験させること)され、黄土を掘りぬいた洞窟に寝泊まりさせられるなどの苦難を味わっている。
 
姉は文革中に餓死したと伝えられるが、妹も下放され、素手でレンガをつくる作業を強制され、食うや食わずの生活を経験している。
 
重要なのは、これらはすべて、「毛沢東の党」によって行われてきたということだ。そもそも文化大革命自体、毛沢東が他の共産党のリーダーたちを潰すために行ったのであり、実際に中国共産党は「毛沢東の党」となった。それが中国全体にとって巨大な災厄をもたらしたことは言うまでもない。

「毛沢東チルドレン」として
ところが、習近平は、その毛沢東を、「偉大なリーダー」として国民に尊敬するよう求めているのだ。(中略)習近平が目指しているのは毛沢東との一体化であり、ある意味では実際の毛沢東以上に、より完璧な毛沢東になろうとしているのである。
 
毛沢東は習近平の家族に過酷な運命を強いた人物であり、習近平自身も非情な扱いをされている。それなのに、なぜ毛沢東との一体化を目指すのだろうか。
 
多くの幼児虐待の専門家が認めていることだが、外部の人間が、子どもが虐待を受けていることに気づいても、その子ども本人が虐待をしている親の元に留まりたいと思うケースは少なくない。
 
そうした子どもたちは、自分が間違っているから親に�られているのだ、と考え、今よりももっといい子になろう、親の言うことに従い、「正しい行い」をすることで許しを得よう、と考えてしまうのである。

虐待された父を追う毛沢東チルドレン
(中略)習近平も薄熙来も「父なる毛沢東=共産党」に許され、幹部への道を進んだ。虐待された父から、お前の態度は正しいと認められたのである。それが彼ら“毛沢東チルドレン”の「毛沢東が行っていた以上に、毛沢東的な政治を目指そう」という行動となってあらわれているのだ。(後略)【9月9日 文春オンライン エドワード・ルトワック著「ラストエンペラー習近平 」(文春新書)より】
*************************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする