孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「共同富裕」段階への社会移行を主導する習近平主席の強烈な自負心

2021-09-24 22:17:39 | 中国
(2021年8月29日、世界各地の高級ブランド店が集まる北京中心部のビルの前で休憩する配達員(左手前)。都市部では富裕層が増える一方、低賃金の労働者との格差が広がっている=北京市朝陽区、林望撮影【8月30日 朝日】
習近平主席が目指す「共同富裕」社会は新たな社会主義ステージか? 毛沢東的な混乱・共同貧困への逆行か?)

【習近平主席が目指す今後の中国社会の方向性を占う「恒大集団」救済問題】
33兆円もの巨額負債を抱えた中国・不動産業界の大手企業「恒大集団」の経営危機に伴う混乱・不安は未だ続いています。

****警察が排除も…恒大集団への抗議活動続く****
およそ33兆円もの負債を抱え、経営不安に陥っている中国の不動産大手「恒大集団」の債権者らが北京で抗議活動を行い、警察に排除されました。

北京にある恒大集団の関連施設には、1億円以上を投資した人など債権者およそ20人が集まり、抗議活動を行いました。警察は一部の債権者について、強制排除に乗り出しました。

女性「私何もしていないわよ!」 警察「いま俺たちを侮辱しただろ」

恒大集団は23日、社債の一部の利払い期限を迎えましたが、最終的に支払われたかどうか、会社側は公式な発表を行っていません。

恒大集団は投資家向けに相談窓口を設置していますが、24日訪れると稼働していませんでした。

約1000万円投資した女性「長年少しずつ貯金してきたお金を投資したんです」

許家印前会長は22日、「投資家への支払いを断固として実行する」と表明しましたが、対応は追いついていないとみられます。債務不履行への不安は依然、続いています。【9月24日 日テレEWS24】
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万一、「恒大集団」が債務不履行に陥った場合、中国経済への影響だけでなく、中国経済の混乱の世界経済への波及も懸念されるところで、日本や欧米株式市場もその動向を見ながら上下しています。

しかし、私個人の関心は9月17日ブログ“中国 不動産大手「恒大」の経営難を習近平政権は救済するのか? 「文革」の“生贄”とするのか?”でも取り上げたように、鄧小平以来の改革開放路線による中国経済成長の申し子とも言えるこの巨大企業を習近平政権が救済するのか? 救済するならどういう形で? ということにあります。

その気になれば、従来の同様事例のように救済はできるのでしょうが、おりしも習近平政権は「文化大革命」とも評されるようなIT産業・不動産産業・エンターテイメント・芸能界・教育産業・市民生活におよぶ広範な分野で国家・党の統制・管理を強める動きを見せており、経済成長に伴う格差・歪を是正する「共同富裕」社会の建設をめざして、社会主義の原点、毛沢東的世界への回帰を目指す色合いを強めています。


社会主義の精神に沿わない、資本主義的金儲けに走る巨大企業、そこに群がる投資家を、そうした「変革」を社会に明確に示すための「生贄」として見殺しにする可能性もあるように思えます。

【「破私立公」「共同富裕」という社会主義社会の原点の実現を目指す習近平版「文化大革命」】
****習近平「第二文革」序曲:改革開放の「勝ち組」バッシングが止まらない****
強権化一途の習近平政権が「第二文革」を目指しているとの観測が強まる一方だ。京劇の改革、若手タレントやIT企業への締め付け、そして突如打ち出した共同富裕論――。そこからは新しい「破私立公」の姿が見えてくる。

「魂の革命」と讃えられた文革
毛沢東が発動した文化大革命(1966〜76年)は、後に「大後退の10年」と批判され、毛沢東が失った最高権力の座を奪還するための権力闘争絵巻と冷めた目で捉えられがちだ。だが、1966年の発動当初は人類空前の「魂の革命」と大いに讃えられていた。

「魂の革命」とは過去に見られた社会革命でも政治革命でも、ましてや中国古来の易姓革命でもない。誰もが「偉大なる領袖」に忠誠を誓い、毛沢東が掲げる「為人民服務」を活学活用し、「私」を捨て「公」に尽くすための絶え間なき自己改造である。

「破私立公(私ヲ破リ公ヲ立テル)」を実践することによって中国が邪悪な資本主義へ転落することを阻止し、毛沢東式社会主義ユートピアへの道を邁進することができると強く喧伝されたものだ。(中略)

想起すべき文革前夜の2つの動き
文革が発動される数年前から、中国では政治とは直接的な関係が認められそうにない領域で、2つの動きがあった。
 
1つが伝統京劇の全面否定と京劇の現代化だ。旧来の京劇を悪しき封建社会の残滓と捉え、新しい時代は「革命現代京劇」と呼ばれる新しい京劇によって表現されるべきだ、という考えに基づいて推進された京劇革命という試みである。(中略)

残る1つが模範的人物学習運動である。毛沢東思想を体現し、「公」のために自らを捧げた若き解放軍兵士や農村基層幹部を称えるキャンペーンが全国規模で、華々しく展開された。(中略)

京劇を革命する一方、全国民に雷鋒、王杰、焦裕禄――「破私立公」の理想的人間像を示す。後から考えれば、それが文革への序曲だった。そして革命現代京劇の主人公と雷鋒、王杰、焦裕禄らによって「魂の革命」は可視化され、彼らを手本に全国民が自らを改造する。

こうして毛沢東による文化大革命が本格始動したわけだ。

習近平政権が求める“理想的な中国人像”
それを習近平政権にあてはめてみると、『中國京劇』(中華人民共和国文化和旅游部主管/全国中文核心期刊)は2018年2月号で《陳廷敬》を特集して以来、《手鏡》、《貞観盛事》、《大舜》などの新編歴史劇を「習近平総書記が行った一連の重要な精神講話」をアピールする演目として推奨してきた。ここ2、3年の間に創作された新編歴史劇からは、あたかも毛沢東による文革発動前夜の雰囲気が感じられる。(中略)

そして、このような「破私立公」を讃える動きと呼応するかのよう、習近平政権は若手タレントを批判の俎上に載せている。中略) 

「劣跡芸人」の「劣跡」ぶりを暴露・糾弾することで、豊かさに狎れてしまった社会に警告を与える。いわば「劣跡芸人」を反面教師に仕立てることで、新しい時代の「破私立公」の姿を指し示そうしているようにも思える。

共同富裕を「前人未踏の全面的改革」と絶賛する極左作家
さらに、これとあわせて習近平政権が打ち出しているのが「共同富裕」である。
 
昨年10月下旬、阿里巴巴(アリババ)集団創業者の馬雲(ジャック・マー)の失踪騒ぎが起こり、今年1月20日にはIT長者たちの集まりである泰山会が解散を表明。その後、習近平政権は阿里巴巴集団をはじめとする巨大IT企業集団に対し、独禁法をテコにした露骨とも思える締め付けを始めた。

8月17日に開催された中央財経委員会で、「共同富裕は社会主義の本質的要求」であると説くと、ネットビジネス長者たちが貧困対策・格差解消のために巨額資金の提供を申し出た。
 
すると8月27日、「誰もが感ずることが出来る。まさに深刻な変革が進行中!」と題する論文が発表され、人民網、新華網、中華軍網に加え『光明日報』などの官製メデイアに転載され全国に拡散した。筆者は「極左作家」とされる李光満だ。(中略)

はたして鄧小平以来の「先富論」が生み出してしまった極端な格差社会を「破私立公」によって根本的に改め、「瑞々しく、健康で、明るく、力強く、強靱で人民を基盤とする文化」が招き寄せる「共同富裕」を目指そうとでもいうのか。(中略)

後に四人組の1人に収まった姚文元が1965年11月に『文匯報』紙上に発表した「新編歴史劇《海瑞罷官》を評す」が文革の口火を切ったことを思い起こすなら、李光満が「第二の姚文元」の役回りを演じていると見立てられないこともないだろう。

中国現代社会が「破私立公」へと転換するのか
このように昨秋からの一連の動きを振り返ってみると、3期目必至とされる習近平政権が「共同富裕」を打ち出した次のような狙いが思い浮かんでくる。
 
長期政権の正統性の根拠に「社会主義の本質的要求」の実現を置き、「共同富裕」によって国論を統一し、ジョー・バイデン米政権を軸に展開される中国包囲網という“逆風”に立ち向かう。そのための大前提として、新しい時代の「破私立公」を国民に求める――。(後略)【9月15日 新潮社Foresight】
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【新たな社会主義社会への移行を実現できるのは自分しかいないという強烈な自負心】
鄧小平の改革開放路線による経済発展が作りだした中国の現実が、鄧小平理論では収まりきれなくなり、新しい理念ないし理論を必要としていおり、その問題への回答が習近平の掲げる「中国の夢」であり、「共同富裕」と考えられます。

****中国で進められる「習近平思想」の確立と普及****
8月28日付の英Economistが、最近中国で多く作られている習近平の考え方を学ぶ研究センターについて、その影響などについて分析している。多くの研究者が動員され、習近平の地位の強化に利用されている。次の党大会での習近平の留任のためかもしれない。
 
習近平と、そのインナーサークルが、新時代のマルクス主義、マルクス主義の中国化と称して、正に「習近平思想」を作り上げようとしていることは間違いない。理由は多々あり、長期政権を目指すためだけではない。

まず、中国社会の現実が、新たな理念を必要していることは間違いない。鄧小平の解決すべき課題は、地に落ちた共産党の威信と国民の信頼を取り戻すために、いかにして経済を発展させるかにあった。

しかし、その経済発展が作りだした中国の現実が、鄧小平理論では収まりきれなくなり、新しい理念ないし理論を必要としている。鄧小平が超大国になってから何をすべきか語ったことはない。「中国の夢」は、それへの回答でもある。
 
次に、その社会を統治する共産党の現実が、新たな理念ないし理論を必要としている。そこで巨大化した組織を再構成する必要があり、その根幹に「規律」と「法治」を据えた。さらに、党内に多くの敵を作り、アメよりもムチを多用する習近平にとり、最後の支えは国民の支持となる。
 
先祖返りのように「人民第一」を強調しているのは、社会の不安定化を避けると共に、国民の多数を味方につけ、党内を牛耳る算段でもある。先進大企業たたきや経済分野への積極的介入も国民対策だ。

しかし、如何にして発展の原動力である民間企業のやる気を持続させるかという難問に逢着する。【9月16日 WEDGE】
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鄧小平的な改革開放のもとでの資本主義と社会主義を合わせたハイブリッドモデル、国家資本主主義は過渡期的段階であり、やがては“まっとうな”社会主義、毛沢東が思い描いた世界へと移行するというのは、社会主義理論からすればオーソドックスな発想でしょう。

その「変革」を主導するのが自分であるというのが習近平主席の強烈な自負です。彼が異例の長期政権・権力に拘るのも、その「変革」を成し遂げられるのは自分をおいて他にはいないという自負からのことでしょう。

****習氏の資本主義締め付け、毛沢東思想への回帰****
共産党が資金の流れをかじ取りし、金もうけの手綱引き締めを目指す

中国の習近平国家主席の民間企業に対する締め付けは、見た目よりもはるかに野心的な取り組みであることが、一段と明らかになりつつある。
 
習氏は、IT(情報技術)企業など大手数社を抑圧し、誰が中国のボスであるかを示そうとしているだけではない。
中国が数十年かけて進めてきた西洋式資本主義への進化を巻き戻し、同国に全く別の道を歩ませようとしている。習氏の著作や中国共産党幹部との議論内容を詳しく調べ、政策決定に携わる複数の人物に取材した結果、明らかになった。
 
鄧小平が中国で初めて経済改革に踏み切ってから40年、共産党の指導者たちは概して、市場原理が繁栄する余地を広げてきた。それは何億人もの人々を貧困から脱却させ、何兆ドルもの富を生み出すことになった一方で、腐敗のまん延を招き、共産党の支配を継続させてきたイデオロギー的な基盤が損なわれることにもなった。
 
習氏の優先事項に詳しい複数の関係者によると、同氏は今や民間資本が自制を失い、党の正統性を脅かしていると考えている。毛沢東は資本主義を社会主義に向かう途上の過渡的段階と見なしていたが、習氏は中国をそうしたビジョンに強制的に回帰させようとしていることが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の調査で明らかになった。
 
WSJの調査によると、習氏は市場原理を根絶やしにするつもりはない。しかし、党が資金の流れをもっとかじ取りし、起業家や投資家、彼らの金もうけに対する条件を厳格化し、経済を今以上に統制する国家を望んでいるようだ。つまり、いつか世界最大になる可能性を秘めた経済のビジネスルールを書き換えようとしているということだ。
 
習氏は1月の演説で「中国は新たな発展段階に入った」と宣言。その目標は「現代の社会主義国」を築くことだと述べた。
 
WSJの集計によると、習氏の方針見直しによって昨年終盤以降に発動された規制措置や政府指令、政策変更は100件以上に上る。これには、電子商取引(EC)の巨人アリババグループやコングロマリット(複合企業)のテンセントホールディングス、配車アプリ大手の滴滴(ディディ)グローバルなどの企業による市場支配を阻止する措置も含まれる。
 
政府が最近講じた住宅価格抑制策は、多額の負債を抱えた不動産開発大手、中国恒大集団の資金繰りを悪化させ、世界の市場を冷え込ませている。中国政府が、多くの国有企業を救済してきたように同社を救済する可能性は低いとアナリストはみており、他の民間開発業者に対する規制をさらに強化する可能性もある。
 
習氏は、さらに踏み込んだ措置を取ることを示唆している。同氏は8月に開かれた指導部の会合で、富のより公平な分配を求める「共同富裕」という目標を強調した。その達成に向け、政府による経済へのさらなる介入策や富裕層に成功の果実を分配させる一段の措置が取られる可能性がある。

国営メディアが8月29日にネットで配信した論評では、これを国にとっての「抜本的な革命」と呼んでいた。
 
米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国経済専門家、バリー・ノートン氏は「習自身は、世界のどこにも存在しない新しい種類のシステムに移行していると考えている」と指摘。「私からすれば、それは『政府主導型経済』だ」と述べた。
 
多くの国が産業や労働、市場を綿密に規制し、金融政策を策定し、景気浮揚のために補助金を支給している。だが習氏は、政府が経済や産業を好きな方向に導き、民間資源を国力の強化に振り向けられるレベルの統制力を持つようにしたいと考えている。
 
中国と習氏にとっての大きなリスクは、そうした強引さが、中国の好景気と長年にわたるイノベーション(技術革新)をけん引してきた起業家精神の多くを抑圧する結果になることだ。(中略)
 
習氏は自らのビジョンと西欧式資本主義との違いについて、中国では「資本は人民に奉仕するもの」であることだと内部の会議で述べている。
 
同氏が資本主義的精神に惑わされていると見なした産業はITだけではない。塾やデジタルゲーム、エンターテインメントなどの産業も、即座にその影響を受けた。

一方、習氏の統治下で既に力を増大させていた国有企業は、デジタルデータの管理など、民間企業が開拓したものの国家安全保障にとって重要と見なされつつある分野に進出している。
 
国有企業を監督する国務院国有資産監督管理委員会(国資委)の活動に詳しい複数の関係者によると、国資委はデータ保存に向け、政府が管理するクラウドサービス会社をさらに設立することを計画している。そうしたサービスはこれまで、アリババやテンセントなどの民間企業が独占していた。(中略)

習氏の行動の背景には、毛沢東の開発理論に根ざしたイデオロギー的な嗜好(しこう)がある。国家資本主義は、中国経済が欧米に追いつく手助けをする一時的な段階にすぎず、いずれ社会主義に取って代わられる、というのがその理論だ。
 
毛沢東の熱烈な信奉者である習氏は、資本主義と社会主義を合わせたハイブリッドモデルの消費期限が切れたと党員に説いている。
 
党の主要な理論誌「求是」に掲載された2018年の記事は、習氏の信念をあらわにしていた。「中国の実践によれば、社会主義改造が完了すれば、公有制を主体とした基本的な社会主義体制が確立され(中略)過渡的な経済形態としての国家資本主義は、その歴史的使命を終え、歴史の舞台から撤退する」

他の場面では、習氏はもっと単刀直入だ。「中国的な特色を持つ社会主義が社会主義であり、他の『主義』ではない」と同氏は2013年1月に党指導部に語った。関係者によると、習氏は以降、党員にたびたびそう警告している。
 
資本を厳しく取り締まる中、汚職や貧困対策のおかげで、党の本来の基盤である労働者階級や農村部の貧困層の間では、習氏の人気が高まっているようだ。
 
岩場が多く大規模農業が難しい南部の江西省興国では、一部住民の居間の壁には習氏の肖像画が飾られている。かつては毛沢東の写真が飾られていた。
 
現地の住民は、貧困世帯に現地当局者をあてがうなど、習氏の的を絞った対策を評価している。

Zhongという名字の住民は2020年春に現地を訪れたWSJの記者に対し、「これまでの指導者たちも、貧しい人たちの支援を口にしていた」とした上で、次のように続けた。「でも、彼は私たちのことを本当に気にかけてくれている」【9月24日 WSJ】
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党の本来の基盤である労働者階級や農村部の貧困層を味方につけて、資本主義的価値観に堕した反革命分子を追い落とす・・・・というのが習近平版「文化大革命」でしょう。

問題は、そういう「共同富裕」世界で、これまで中国の好景気と長年にわたるイノベーション(技術革新)をけん引してきた起業家精神をどうやって維持するのか・・・というこにあるというのは、大方が指摘するところです。
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