(ナイジェリアの最大都市・ラゴスの市場の様子【9月8日 GLOBE+】)
【話題にもならない国の悲惨な暴力】
サハラ砂漠南縁部のサヘル地域、ナイジェリア、ニジェール、マリなどの西アフリカにおいてイスラム武装勢力による暴力が蔓延していることは、これまでもしばしば取り上げてきました。
そうした西アフリカ諸国の一つがブルキナファソ。
*****イスラム過激派攻撃で市民480人犠牲に 5〜8月で ブルキナファソ****
ノルウェー難民評議会は13日、西アフリカのブルキナファソでイスラム過激派の攻撃により、5月〜8月に一般市民少なくとも480人が殺害されたと発表した。
4月以降27万5000人以上が新たな攻撃により避難を余儀なくされており、NRCはここ数か月の避難民増加に警鐘を鳴らしている。
4月以降の避難民数は月平均5万5000人で、2020年10月〜21年3月の月平均の約3倍となった。合計で140万人以上が攻撃により避難している。
NRCは一部の家族が「葉っぱしか食べるものがないほど食糧不足が深刻化している包囲された地域にとどまるか、食べ物を求めて数日間歩き回り攻撃される危険にさらされるか」という「不可能に近い選択」を迫られていると指摘する。
NRCはブルキナファソ政府に対し、最も深刻な被害を受けている地域での支援活動を認めるよう訴えた。 【9月14日 AFP】
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遠いアフリカのあまり名の知られていない国、私を含めて日本でも、そして国際的にもほとんど関心を持たれていない国ですから、数か月で“市民480人犠牲”でも、この程度の記事で終わってしまいます。
これが身近な国、地政学的に関心が持たれる国であれば、大問題となるところですが・・・
今年6月には、子ども約20人を含む住民少なくとも160人が死亡する襲撃事件が起きています。
****ブルキナファソで2015年以降最悪の襲撃事件、住民160人死亡****
西アフリカ・ブルキナファソ当局は6日、同国北部の村でイスラム過激派によるとみられる襲撃があり、子ども約20人を含む住民少なくとも160人が死亡したと発表した。同国でイスラム過激派による襲撃が始まった2015年以降の襲撃事件としては最多の死者数となった。
襲撃があったのは、ヤガ(Yagha)県の主要都市セバ(Sebba)から約15キロ離れたソルハン(Solhan)村。治安当局者によると、4日夜から5日にかけて、武装集団が侵入してきたという。ソルハンは近年、何度も襲撃を受けていた。
現地当局者は5日夜、「負傷し、その傷がもとで死亡した人が複数おり、新たな遺体も見つかっている。現時点での暫定的な死者数は138人だ」と述べていた。現地情報筋によるとその後、ソルハン村の3か所で遺体の数が数えられ、その合計は160体に上った。
ブルキナファソは2015年以降、イスラム過激派組織「イスラムとイスラム教徒の支援グループ(GSIM)」や「大サハラのイスラム国(ISGS)」などによる襲撃が激化している。
これらの襲撃は、北部のマリ国境付近で始まったが、東部などにも拡大した。これまでに約1400人が死亡し、100万人以上が自宅を離れて避難している。【6月7日 AFP】
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【ナイジェリアのふたつの側面 イスラム武装勢力の跋扈と起業相次ぐラゴス】
そんな関心が薄い西アフリカにあって、比較的報道が見られるのが地域大国ナイジェリア。
ただし、そうした報道の大部分はイスラム武装勢力「ボコ・ハラム」などによる大量拉致事件、武装集団の襲撃、最近では「誘拐ビジネス」的な拉致事件ですが・・・
“武装集団が学校襲撃、140人以上拉致か 一部は救出 ナイジェリア北部”【7月6日 CNN】
“ナイジェリア北西部でまた襲撃 35人死亡”【7月11日 AFP】
“拉致された女性や子ども約100人救出 ナイジェリア 身代金目的の誘拐頻発”【7月22日 CNN】
そうしたなか、武装勢力の中心的存在でもある「ボコ・ハラム」に関して、今後に希望が持てるニュースも。
****ボコ・ハラム戦闘員ら6千人が投降 最高指導者が死亡し弱体化か****
ナイジェリア軍は2日、同国のイスラム過激派「ボコ・ハラム」の指揮官や戦闘員、その家族ら約6千人が過去数週間の間に投降したと発表した。AP通信などが伝えた。最高指導者アブバカル・シェカウ容疑者が5月に死亡したことを受け、組織の弱体化が進んでいるとみられる。
同通信によると、ボコ・ハラムの活動が活発な北東部ボルノ州の知事は、過去の襲撃によって家族を失った遺族や同僚を失った軍人が多数いることから、投降した戦闘員らの受け入れについて、「とても難しい状況」と話しているという。
シェカウ容疑者は今年5月中旬、ボコ・ハラムから分派した過激派「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」との戦闘の末、自爆したとされている。
ボコ・ハラムは2014年、ボルノ州の中等学校を襲撃した。女子生徒276人を連れ去り、戦闘員との結婚やイスラム教への改宗を強制したことなどで国内外から強い非難を浴びてきた。【9月4日 朝日】
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これに先立って、“8月上旬、ナイジェリアのボルノ州でボコ・ハラムのメンバー1000人余りが、2014年に同国北東部の都市チボクで拉致した少女2人と共にナイジェリア政府に投降した。ナイジェリアのライ・ムハンマド情報文化大臣(当時)は戦争捕虜として扱い、投降したボコ・ハラムの兵士を起訴しない方針を明らかにした。”【ウィキペディア】とのこと。
両方合計すると7000人ほどが投降したことになります。
ボコ・ハラムのメンバーは7000人~10000人(ウィキペディア)とも言われていますので、数字上は組織の大部分が投降したことにもなります。
もちろん、数字はよくわかりませんし、分派組織「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」などもありますので、ナイジェリアの武装勢力が壊滅した訳ではありませんが、大きな前進ではあるでしょう。
こうした話題を扱っていると、ナイジェリアや西アフリカの国々は、“内戦や暴力がはびこる未開の地”といった旧態依然のアフリカのイメージがつきまといますが、アフリカは一方で経済成長著しい地域でもあり、ナイジェリアはそのアフリカにあって最大の経済大国です。
下記は、“西アフリカ・ナイジェリアの最大都市ラゴスで働く20代の日本人がいます。前橋市出身の青木文さん(28)。3年前にスーツケース一つで空港に降り立ち、一から日本企業の現地拠点を立ち上げ、いまは転職した先のスタートアップで営業チームを率いています。”【9月8日 GLOBE+】という20代日本人女性・青木さんの奮戦記からの抜粋です。
****いまナイジェリアは起業ブーム そのど真ん中で働く私、支えはクッキー売りの原体験****
(中略)
起業が相次ぐラゴスで戦う
ラゴスではいま、起業が相次いでいます。英語が公用語ですから、欧米の大学などで学んだ若い起業家がたくさんいるんです。いま働いているところもそうです。投資家も入ってきて、スタートアップかいわいでは一旗揚げようっていう雰囲気があるんです。
いまは営業統括として、ナイジェリア人やアメリカ人らからなるチームを率いています。現地の通貨でも国外の企業との間でスムーズに決済できるサービスを欧米やドバイの企業向けに販売しています。
クレジットカードが普及しておらず、外貨の流通量に限りのある国の経済活動の基礎を支える仕事です。コロナ禍で移動に制約がありますが、外国の企業とはむしろオンラインならビジネスがしやすくなりました。そういった変化をポジティブに捉えています。
自分たちの事業を大きくすれば雇用が生まれ、成長のサイクルを回せます。決済サービスも同じで、普及すれば今よりももっと取引や買い物がしやすくなります。事業を大きくすればするほど経済を回す助けになります。(中略)
趣味は画廊巡り
仕事を離れると、ラゴスに20〜30軒ある画廊巡りに最近はまっています。アフリカのアート界には、すばらしい人や作品が多いんですよ。良いものを見つけるとうれしくなります。気に入った絵画があると買って、自宅に飾っています。同じアーティストでも欧州で買うと高いんです。
週末には、アフリカ特有の音楽に合わせて踊るアフロビーツを知り合いの弁護士から習っています。お札を数えるような振り付けがあったり、すごい速さで腰を振ったり。太鼓のリズムに体を任せて、楽しんでいます。
食べ物は基本的にはどれもおいしいですよ。だしを取る文化があるので、ザリガニとかでだしを取っているんです。ただ、どの料理もめちゃくちゃ辛い。ナイジェリアの人は辛いもの好きみたいですね。最近は外食産業も発展して、おしゃれなカフェやレストランもできてきています。
(ラゴスの海岸付近にあるレストラン)
日本人同士のつながりや、アジア人のコミュニティーもあって、コロナ禍の前は頻繁に会ったりしていました。私が初めて来たときは珍しかった20代の日本人女性も少しずつ増えてきていて、変化を感じています。【9月8日 GLOBE+】
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武装勢力による大量拉致事件、襲撃などから想起するイメージとは別世界の、成長著しいナイジェリアが存在するようです。
【ラゴス 海面上昇で水没の危機 ユニーク・斬新な取り組みも】
イスラム武装勢力の脅威だけでなく、ナイジェリアの中心都市ラゴスは海面上昇によって広いエリアが水没する危機にもさらされています。
****ナイジェリアの大都市ラゴス、水没の危機に 洪水と海面上昇で****
アフリカで最も人口が多いナイジェリアの住民は、毎年3月から11月に沿岸部の都市で発生する洪水には慣れっこだ。だが7月中旬、ここ数年で最悪の水準の洪水がラゴス島の主要な商業地区を襲った。
「洪水で道路は大渋滞だった。先へ進めば進むほど水位が上がってきて、しまいには車内にも水が入ってきた」と語るのは、ラゴス本土でメディア会社を経営するエセレボール・オセルオナメンさん。
SNS(交流サイト)に投稿された写真や動画には、集中豪雨後に浸水した何十台もの車がうつっていた。洪水により経済活動はまひし、その被害額は年間約40億ドル(約4400億円)に上るという。
ラゴスはナイジェリアの大西洋沿岸部の低地にある都市で2400万人以上が暮らしているが、科学的な予測によれば、気候変動による海面上昇に伴い、今世紀末には人が住めなくなる可能性があることが示唆されている。
英開発学研究所(IDS)を中心に行われた調査によると、この問題は「排水システムの整備が不十分なことや無秩序に都市が発達したこと」などにより悪化しているという。ナイジェリア水文サービス庁(NIHSA)は、雨季のピークとなる9月にはさらに壊滅的な洪水が発生すると予測している。
ラゴスは本土と島で構成されており、海岸線の侵食による洪水の被害を受けやすい。ナイジェリアの環境学者セイフンミ・アデボーテ氏は、浸食は地球温暖化に加え、砂の採掘といった長期にわたる人間の行動が主な原因であると指摘している。(後略)【8月10日 CNN】
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“水没するスラム街”も“旧態依然のアフリカ”のイメージですが、そうしたイメージを覆すような取り組みも行われているようです。
****海面上昇と向き合う街づくり―ナイジェリア発・木造フローティングハウス「マココ」の挑戦****
(中略)
ナイジェリア沖の巨大堤防「ラゴスの長城」
(中略)ラゴス沖の海面上昇は、国にとって喫緊の課題である。政府はベイエリアに立つ住宅地を守るため、10万個のコンクリートブロックを積み上げた巨大な防波堤、「ラゴスの長城」を建設。今も建設中で、完成すると全長8.4kmにもなるという。
しかしラゴスの長城にはコスト面・環境面からの批判も多い。コストが膨大にかかるほか、コンクリート用の砂を近海の底から掘り起こしているため、海底にはクレーターのような巨大な穴がボコボコとあけられているという。町を守るための堤防が、逆に悪影響を及ぼしているという皮肉な現象を起こしている。
ラゴスのスラム地区「マココ」の水上学校建設
一方で、海面上昇問題をポジティブに捉えようという、挑戦的な民間プロジェクトも存在する。それが、世界的な建築会社「NLÉ」による、水上コミュニティプロジェクト「マココ・フローティング・システム」である。
マココ・フローティング・システム(Makoko Floating System、以下MFS)は2011年、ラゴスのマココ地区から始まった。
マココ地区はナイジェリア最大の貧困地区で、ラグーンに面していることから水害は深刻、雨季には町中がひどい洪水に見舞われる。住民は高い竹馬に乗ったりカヌーを漕いだりして移動することから、「アフリカのベニス」とも呼ばれている。(中略)
NLÉはオランダに拠点を置く建築会社で、世界中の都市開発やコミュニティデザインに携わっている。(中略)
マココ・フローティング・スクール
2012年、同社はマココ沿岸に、スラムの子どもたちのための水上学校「マココ・フローティング・スクール」を建造した。木造ピラミッド型のデザインで、上部にはソーラーパネルを備えている。
学校はピラミッド型の木造3階構造で、2〜3階部分が教室、1階は植木が配されたプレイグラウンドエリアである。屋根にはソーラーパネルが設置され、太陽光発電が可能。土台部分には貯水タンクがあり、屋根から流れ落ちる雨水を貯めることもできる。教室には自然の風が入り、木造のため熱もこもりにくい。子どもたちは、衛生的で快適な環境で勉強をすることができる。
MFSのプロトタイプとなったこの学校は、2013年にイタリア・ベニスで開催された国際建築展ヴェネチア・ビエンナーレで銀獅子賞を受賞した。
残念ながら、マココ・フローティング・スクールは2016年に暴風雨で破壊され
てしまったが、MFSはこの後、世界で展開されていくこととなる。(中略)
てしまったが、MFSはこの後、世界で展開されていくこととなる。(中略)
暴風雨により破壊されてしまったマココ・フローティング・スクールだが、復活の計画があるという。以前のバージョンを改造し、アップグレードしたモデルで再建設するかもしれないとのこと。他国での経験を生かし、“MFS生誕の地“マココで、再び勇姿を披露する日も近いかもしれない。【2月14日 矢羽野晶子氏 AMP】
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ユニーク・斬新な取り組みも行われている・・・これもアフリカ・ナイジェリアの一面です。