(アフガンで連日女性の権利訴えるデモ、タリバン催涙ガス使用か【9月6日 TBS】)
【自爆部隊と暗殺者たちのパレード】
アフガニスタン情勢に関するニュースは山ほどありますが、一番印象的だったのは「殉教志願者」たちのパレードに関するもの。
****自爆部隊と暗殺者たちのパレード タリバン、国民に向けテレビ放映****
アフガニスタンの政権を崩壊させたイスラム主義勢力タリバンが、自爆攻撃や暗殺を訓練する「殉教志願者」たちのパレードの様子とされる映像を、傘下の国営テレビを通じて放映した。国内でくすぶる反タリバンの抵抗運動を牽制(けんせい)し、力を誇示する狙いとみられる。
映像は9月初めにテレビやSNSで公開された。撮影地は不明。
ナレーション付きの約38分間の映像の中で、タリバンは20年にわたる自爆攻撃などの「奮闘」が実を結び、駐留米軍を撤退に追い込んだと主張した。武装した100人以上の戦闘員が隊列を組み、タリバンの白い旗がはためく砂地の広場で行進。自爆装置や車爆弾も披露された。
タリバン軍事部門トップのヤクブ幹部の声明も読み上げられた。「殉教部隊の犠牲に感謝する。全ての国民は殉教のための訓練を受けなければならない」
タリバンはアフガニスタンや隣国パキスタンに軍事キャンプを持ち、宗教学校(マドラサ)の神学生を自爆犯として育ててきたとされる。タリバンはこれまでも、その訓練の様子とされる画像をネットで公開してきた。今後、思想を強く反映した国営テレビの放送が増えそうだ。【9月6日 朝日】
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暗殺者はともかく(通常の軍事活動も暗殺も目的とするところは同じですから)、自爆攻撃志願者というのは・・・。
ただ、これも戦前日本の特攻を考えると、さほど驚くべきものではないのかも。
【女性の抗議 大学女子教育に関する新規則】
もうひとつ印象的だったのは、女性によるタリバンに対する抗議行動。
****女性の抗議集団がタリバンと衝突、流血も アフガン首都****
アフガニスタンの首都カブールで4日、男女平等や政治参加を求める女性たちの集団が抗議デモを展開し、同国の実権を握ったイスラム主義勢力タリバンの部隊と衝突した。
アフガンではこの1週間で、女性活動家らによる小規模な抗議デモが少なくとも3回実施されている。
現地メディアのトロ・ニュースは4日、タリバン部隊と一部の女性参加者が衝突する場面の映像を伝えた。1人の男性がメガホンを通し、少人数のグループに「皆さんのメッセージを長老に伝える」と冷静な声で呼び掛ける一方で、映像の終盤には女性の叫び声や、「なぜ私たちを殴るのか」と抵抗する声が入っている。
トロ・ニュースは、大統領府へ向かっていた女性たちをタリバン部隊が阻止し、催涙ガスを使用したと伝えた。
現場にいた元政府職員はロイター通信に、タリバン部隊が女性たちに対してスタンガンの一種「テーザー銃」や催涙ガスを使ったと話した。銃の弾倉で頭部を殴られ、血を流す女性たちもいたという。
女性活動家の1人が頭から血を流しながら、デモでタリバンの戦闘員に殴られたと訴える映像もSNS上で拡散した。
これに対してタリバンの幹部は、デモを「故意に問題を起こそうとした」行動だと非難している。
タリバン指導者らは女性の社会進出や教育を認めると表明しているが、旧政権下の権利抑圧が復活するとの懸念も強まっている。【9月5日 CNN】
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同様のデモはカブールで3日にあったほか、2日に西部ヘラートでも起きています。
“タリバン幹部は英BBC放送のインタビューで、新政府の省庁で女性職員が元の職場に戻ることを希望すると述べる一方で「高い地位につくことはないだろう」と要職への女性登用を否定した。最終調整が続くタリバン政権の組閣でも、女性は起用されない見通し。”【9月5日 毎日】
崩壊したアフガニスタン政権が間違ったのは、軍隊を戦う意思のない男性で構成したこと。女性を兵士にしていたら、戦わずしてタリバンから逃げるようなことはなかったでしょう。
女性に関して、職業と並んで注目されていた教育について、少し具体的な方針が出されています。
****教育の新規則を発表、国内便の運航が再開 アフガン****
イスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタンで5日、タリバンが運営する高等教育省は教育に関する新規則を発表した。タリバンが支配の基盤を固めるなか、市民の生活には変化が起きそうだ。アフガンでは同日、国内便の運航も再開した。
高等教育省は、6日から始まる新学期から男性と女性の大学生を区分けする提案を承認した。
アフガン国内の131の大学や総合大学を代表する大学連合が提出した提案を承認した。
今回の提案によれば、すべての女子学生と女性の講師、職員はシャリア(イスラム法)に従い、イスラム教徒の女性が頭を覆うスカーフ「ヒジャブ」を身につけなければならない。
女子学生と男子学生が大学に入る入り口も別々にしなければならない。男女混合の授業は女生徒が15人未満の場合に限り許されるが、教室はカーテンで仕切る必要がある。私立大で新たに作られる教室は男女別々にしなければならない。
教室への入室時も男女一緒に入らないようにする。女子生徒が祈りをささげるエリアを別に設ける必要もある。
大学は将来的には女子学生のために女性の教授を雇用しようとしなければならないが、移行期間は、女子生徒の指導において信頼できることで知られている高齢の教授を指名しなければならないとしている。
政治学を学ぶ21歳の女子学生はCNNの取材に対し、タリバンが女性の高等教育への参加を禁止しなくてうれしいと述べたが、新規則は厳しすぎるとも言い添えた。(後略)【9月6日 CNN】
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“一応”(いろんな条件付きながらも)女性の大学での教育を認めるとのことのようですが・・・。実際の運用をみてみないと評価できないところも。
なお、上記記事では「ヒジャブ」(頭を覆うスカーフ)を着けねばならないとされていますが、【AFP】では「ニカブ」とされています。
“タリバン、女子学生に顔覆う「ニカブ」の着用命令”【9月6日 AFP】
私の理解ではヒジャブとニカブは全く異なります。
ニカブは目だけを出して、目以外の顔は覆うもの。旧タリバン政権時代に女性に強要されていたブルカ(顔全体を多い、目の部分は網目になったもの)よりはましですが、顔の大部分は隠れてしまいます。
【パンジシール州での抵抗制圧? パキスタン軍介入?】
長引いているパンジシール州での故マスード司令官の息子であるマスード氏率いる抵抗勢力との戦闘に関しては、タリバン側は勝利したとしていますが、抵抗勢力側は否定しています。
****タリバン、パンジシール州での勝利を宣言 抵抗勢力は否定****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンは、パンジシール州での勝利を宣言し、完全に制圧したと述べた。パンジシール州では2週間にわたって、抵抗勢力とタリバンとの間で戦闘が続いていた。
パンジシール州はアフガン全34州のうち最後までタリバンの支配に抵抗しており、今回の勝利宣言が事実なら、タリバンがアフガン全34州を実効支配したことになる。
しかし、パンジシール渓谷で戦っていた武装勢力「国家抵抗戦線(NRF)」の報道官はCNNに対し、渓谷全体で抵抗が続いていると述べた。
SNSに出回っている画像や動画には、パンジシール州の中心部とされる場所で建物にタリバンの旗が掲げられている様子がとらえられている。CNNは独自にこの画像の信ぴょう性を確認できていない。
タリバンの報道官はパンジシール州を完全に制圧したと述べた。
NRF側はパンジシール州中心部がタリバンの手に渡ったことについて否定はしなかったものの、パンジシール州は依然としてNRFの支配下にあると述べた。州都のあるバザラックの大部分や渓谷周辺はNRFの支配下にあるとしている。
NRFの指導者アフマド・マスード氏は5日、フェイスブックへの投稿で、戦闘の終了を呼び掛ける宗教指導者に支持を表明し、タリバンの武装勢力がパンジシール州や隣接するアンダラブ地区から撤退すれば対話の用意があると述べていた。
マスード氏の提案に対するタリバン側の公式な反応はない。
提案の発表後、NRFは報道官と幹部が死亡したことを明らかにした。【9月6日 CNN】
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状況ははっきりしませんが、軍事的にマスード氏らが孤立無援状態で抵抗を続けるのは難しいでしょう。
気になるのは、この戦闘でパキスタン軍の介入(空軍力でタリバンを支援)があったとの報道があることです。
****アフガニスタンめぐり“新映像” パキスタン軍介入か****
アフガニスタン全土をタリバンが制圧か。
周辺国の関与も指摘されている。
この映像は、タリバンが唯一支配していなかった反タリバン勢力の拠点で、5日に撮影されたとされるもので、上空に航空機のような影が見えたあと、攻撃される様子がとらえられている。
映像の提供者は、FNNに対し、「タリバンとの関係を強める隣国パキスタン軍による空爆」と説明。
イラン外務省も、「パキスタンの介入について調査中」としていて、周辺国による利害の対立が表面化している。
タリバンは日本時間の6日午後、全土の制圧を宣言したが、今のところ、反タリバン勢力側は認めていない。【9月6日 FNNプライムオンライン】
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タリバンの成立にパキスタンの軍情報機関ISIが関わり、長年タリバンを支援してきたことは周知のところですが、長引くパンジシール州の戦闘に、ISIはタリバン側と調整・仲裁を行っていました。
****反タリバン勢力との和平促す=アフガンでの対立拡大懸念―パキスタン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンに影響力を持つ隣国パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官は4、5両日、アフガンの首都カブールでタリバン幹部と会談した。軍当局筋によれば、ハミード氏はタリバンと反対勢力の武力衝突拡大に伴うアフガンの不安定化に懸念を表明し、和平締結を促した。
タリバンが唯一制圧できていない北東部パンジシール州では、崩壊した民主政権で第1副大統領だったサレー氏や、旧タリバン政権との戦闘で名をはせた故マスード司令官の息子アフマド氏らが武装闘争を続けている。8月下旬にいったん停戦が成立したが、その後もタリバンの攻撃はやんでいない。
パキスタン軍当局筋は、時事通信の取材に対し「タリバンが(反対勢力の意向をくんだ)包括的政府を早急に樹立しない限り、抵抗はアフガンの他地域に拡大する可能性があるとの情報を得ている」と明かした。実際に東部クナール州などで武装蜂起の動きが見られるという。これに対し、タリバン内部では、停戦を訴える派閥と戦闘継続を主張する派閥の対立があるとされる。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は4日、米FOXテレビのインタビューで、アフガン情勢について「内戦に発展しそうな状況にある」との見解を示した。各地で戦闘が生じる事態になった場合、混乱に乗じて過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力がテロを起こす恐れが強まる。パキスタンにとっても、対アフガン国境地帯での治安悪化は大きな懸念材料だ。【9月5日 時事】
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これ以上長引いて、抵抗が各地に広がることのないように、タリバン政権を支援するパキスタン軍が空軍力で介入した・・・ということでしょうか? 状況はよくわかりません。
【新政権人事の発表遅れる 穏健派と強硬派対立も】
上記パキスタンISI長官は、パンジシール州の戦闘だけでなく、発表が遅れている新政権人事についても調整を行っているようです。
新政権人事に関しては、穏健派と強硬派対立も報じられています。
****タリバン新政権発表に遅れ 穏健派と強硬派対立も****
国内統一を主張したイスラム原理主義勢力タリバンは新政権樹立に向けた準備を進めているが、人事をめぐる詰めの作業に時間がかかっている。内部に主導権争いがあるとの情報もあり、調整が難航すれば、8月15日の首都カブール制圧で生まれた「権力の空白」は継続する可能性がある。
地元メディアなどによると、閣僚は3日に発表される予定だったが延期されている。タリバンのムジャヒド報道官は6日の記者会見で新政権について、内部対立を否定しつつ、「いくつかの技術的な事柄が残っている」と述べた。発表時期は明言しなかった。
新体制の概要は明確になっていないが、穏健派の副指導者、バラダル師が指導的役割を果たす見通しだ。だが、この方針に対して組織内の強硬派が反発しているもようだ。また、米国や国連の制裁対象になっている人物を枢要なポストに据えるかについても議論が続いているという。
内部ではひとまず暫定政権を樹立して権力の空白を解消し、時間を置いて正式な政権を立ち上げる案も検討されている。
4、5日にはタリバンに影響力を持つとされるパキスタン軍情報機関「統合情報部」(ISI)トップがカブール入りし、タリバン側と協議を行った。人事について何らかの調整を行ったもようだ。
ただ、先進7カ国(G7)などが求める諸勢力代表や女性が参加する「包括的政府」の実現は見通せない状況だ。
アフガン国家予算の大半は国際支援で賄われていたが、欧米を中心にタリバン新政権の動向を見極めるまで支援を停止する動きが広がっている。新タリバン政権がイスラム原理主義色の強い顔ぶれとなれば、支援の再開は遠のく可能性が高い。【9月6日 産経】
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【タリバンと欧米 現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で綱引き】
タリバンにとって問題は、上記記事にもあるように、海外資産・国際支援が凍結されており、国内統治に必要な資金が確保出来ていないことです。
****タリバン、国際資金枯渇の危機:米ドルで三重苦 アフガニスタンの財源は?****
<破綻も時間の問題か>
アフガニスタンの首都カブール陥落前夜の8月14日。
住民たちは資産を引き出すために銀行やATMに殺到した。銀行の前には、すべてのお金を引き出そうと延々と長い行列ができた。
しかし、お金をおろすことはできなかった。銀行は閉鎖されてしまい、今も閉鎖されている。そして絶望した人たちは、国外に亡命しようとしている。
また、外国に住んでいる家族や事業仲間からの送金に頼っている人にとって、重要な送金事業者であるWestern Unionも機能していない。
アフガニスタンの経済は、全体から見れば主に現金払いで成り立っているので(現物支給もある)、人々の日常生活に今のところは大きな支障は出ていない。
しかし、国の運営資金は別である。アフガニスタンでは、国際的な資金が次々と枯渇している。
米国当局はドル送金を停止、国際通貨基金(IMF)は支払いを凍結し、国内総生産(GDP)の42%を占める国際援助はほぼ停止している。フランスの『ル・モンド』紙が伝えた。
いわば三重苦に陥っていると言える。ほぼ完全に外貨が凍結された状態で、この国はどれだけ持ちこたえることができるだろうか。(後略)【8月30日 Newsweek】
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タリバンの(表面的な)融和路線は、こうした財政事情を背景に、どうしても国際的承認を得たい思惑があってのことですが、欧米側もアフガニスタン国内に残る自国民・現地協力者の国外退避や新政権の今後の統治方針に関してタリバン側の配慮を求めており、現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で、タリバンと欧米の駆け引き・綱引きが行われていると推測されます。
****タリバンが人道支援「保証」…空港では米国人ら千人足止め、政府承認までの「人質」か****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの政治部門トップ、アブドル・ガニ・バラダル師は5日、国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)と首都カブールで会談し、国際社会からの人道支援が国民に行き渡るよう、国連などと協力する考えを明らかにした。
同国では4日から国内旅客便の運航が再開しており、タリバンは国内交通網を復旧させ、支援の受け入れに向けた準備を急いでいる。
国連によると、5日の会談でグリフィス氏は、食糧難など人道状況が悪化する同国への支援継続を表明し、人道支援で女性が果たす役割の重要性などを訴えた。これに対し、タリバン側は人道支援に関わる人々の安全や移動の自由が「保証される」と明言した。
一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、アフガン北部マザリシャリフの空港で、米国人やアフガン人協力者ら約1000人が5日間にわたって足止めされていると報じた。国外に退避するためのチャーター便の離陸をタリバンが許可しないためだという。
バイデン政権は米軍撤収後も米国人らの退避を支援する方針だが、タリバンが出国を認めない限り実現は難しい。米下院外交委員会のマイケル・マコール議員(共和)は5日のFOXニュースで、「タリバンは米国から(政府としての)承認を得るまで米国人の出国を認めないだろう」と述べ、米国人らが「人質」になっているとの見方を示した。【9月6日 読売】
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