孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  民主派反政府勢力にもワクチン支援で二股かける中国

2021-09-25 23:18:44 | ミャンマー
(ミャンマーの中国との国境の町ムセ(2020年5月12日撮影)【9月25日 AFP】 ミャンマーと国境を接する中国は、国境地帯の経済活動、少数民族との関係などで、「中国は国軍を支援」というほど単純ではないようです)

【「内戦」の状況 反政府勢力にとっては倫理的・軍事的問題も】
ミャンマーでは、軍政に対抗するためにクーデター後に民主化勢力が組織した「国家統一政府(NUG)」が9月7日、国民に向けて一斉蜂起を呼びかけ、軍に対して実質的な「宣戦布告」を行いました。

その後の状況に関する報道はあまり多くありませんが、「宣戦布告」当時の状況については、この地域に詳しい大塚智彦氏が下記のように報じています。「ヤンゴンの朝は爆弾で明ける」というのは、印象的なフレーズです。

****ミャンマー「内戦」激化…市民の死者1000人超、ついに統一政府が「蜂起」呼びかけ*****
国家統一政府が「宣戦布告」
2月1日に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政権を武力で打倒したクーデターから7ヵ月目に入るが、この間、軍の強権的弾圧の犠牲となった市民はすでに1000人を超えている。 

一方、国境付近における少数民族武装勢力との衝突や市民の武装組織による爆弾攻撃、待ち伏せ攻撃などによる軍や警察、軍政支持者側の死者数も増加の一途を辿っている。  

軍政側が正確な数字を発表していなので具体的なデータはないものの、その数は9月までに相当数に上っているのは間違いないとの見方が有力だ。  

当初の思惑通りに市民の支持が得られないことに焦燥感を募らせているとも言われる軍政は、依然として反軍政のデモや集会、「不服従運動(CDM)」参加者などへの強権的な弾圧を続けており、各地で頻発する武装市民の抵抗に手を焼いている。  こ

うした中、軍政に対抗するためにクーデター後に民主化勢力が組織した「国家統一政府(NUG)」は9月7日、国民に向けて一斉蜂起を呼びかけ、軍に対して実質的な「宣戦布告」を行った。  

軍や警察は、中心都市ヤンゴンをはじめ各都市部で武装市民による爆弾や地雷、ロケットランチャーなどを駆使した攻撃にさらされ、また国境地帯では武装市民と連携した少数民族武装勢力との本格的な戦闘に直面しており、もはやミャンマーは実質的な「内戦」状態にあるといえる。

当局のスパイ170人が死亡か
ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」は、治安当局の実弾発砲を伴う弾圧で8月末までに犠牲となった市民は1001人に達したとして、すでに1000人を超えたことを明らかにした。  

これに対し軍政は6月15日に首都ネピドーで軍政の情報相幹部が会見の中で軍政支持政党である「連邦団結発展党(USDP)」関係者とその支持者170人が殺害されたことを明らかにしたのが、唯一の公式数字となっている。  

もっともこの170人は軍によって地区の管理者に任命され、住民の動向などを報告する当局のスパイ「ダラン(密告者)」であることを理由に殺されたケースであるとしている。このため軍兵士や警察官などの死者数に関しては正確なデータがない状況となっている。(中略)

各地で続く治安当局への武装抵抗
地元の反軍政メディア「イラワディ」や「ミッジマ」「キッティッ・メディア」などがインターネット上で伝えている個別の事案を追いかけてみることで軍や警察側の死傷者の実態の一部が浮かび上がってくる。  

大きな注目を集めたのが8月14日にヤンゴンの鉄道車内で警察官4人が射殺された事件だ。  同日午後5時過ぎ、ヤンゴン市街地のアロン郡区にあるホーンストリート駅付近を走る列車内で乗り合わせていた警察官6人が銃撃されうち4人がその場で射殺される事件が起きた。(中略)

8月23日、北西部サガイン地方のガングーからカレイに向かっていた軍の車列、トラック8台が地元PDFの待ち伏せ攻撃を受けて、兵士30人が死亡、15人が負傷した。(中略)

また8月25日午前11時ごろには中西部チン州ティータイン郡区にあるミャンマー経済銀行の支店がバイクで乗り付けた正体不明の男性らに襲撃され、銀行の警備員3人が射殺された。(中略)

9月3日午後11時45分ごろヤンゴン東部県北ダゴン・モーチット郡区の警察署に何者かによって爆弾が投げ込まれ、警察官1人が死亡したほか、翌4日午後1時ごろにはヤンゴン北部県インセイン郡区で約100戸の民家を管理する地区責任者が頭部などに4発の銃弾を受けて死亡した。この責任者は住民から「ダラン(密告者)」とみられていたという。

少数民族武装勢力との連携も増加
(中略)各都市部でのPDFによる武装抵抗と並行して国境周辺地帯では少数民族武装組織による、あるいは少数民族武装勢力とPDFの共同作戦による治安当局への攻撃も激化している。  

6月28日サガイン地方カタ郡区で軍の部隊と地元カチンPDFが交戦となり、兵士30人が死亡したという。その前の24日にも同地区で交戦があり、この時は兵士5人が死亡し19人を拘束したという。  

メディアによるとこの交戦には地元カチンPDFのメンバーに加えて少数民族武装勢力である「カチン独立軍(KIA)」も協力して攻撃に加わっており、共同作戦が展開されたという。  

8月15日午前7時15分ごろ、中東部シャン州ナムサンで軍部隊と少数民族武装勢力「南シャン州革命軍」が衝突し、兵士10人が死亡したと地元メディアが報じた。  

最近の事例としては8月28日シャン州モンコ地方で地元の少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」の山間部山頂付近にある拠点を軍が麓から攻撃しようとしたところ、激しい戦闘に発展し、兵士15人が死亡した。(中略)

このようにミャンマーの国境周辺では各少数民族武装勢力、あるいは武装市民組織の共同作戦で軍への攻勢を強めており、これまでに相当数の兵士が戦闘で死亡していることが見て取れる。その数は市民の側の犠牲者約1000人には及ばないものの、数百人規模上っているのは間違いものとみられている。  

このように兵士や警察官の死者が増えていることも軍政が詳細なデータを公表することを控えている一因とみられている。一部報道では軍や警察の中にも現在のような人権を無視した強権的弾圧方法に疑問を抱く者が出てきており、戦線離脱や職務放棄の事例も報告されているという。  

しかし士気や団結力の低下という悪影響を危惧する軍政によって、そうした実態は全く明らかにされていない。

ヤンゴンの朝は爆弾で明ける
ヤンゴンなどの都市部では爆弾の爆発事件が頻発している。8月30日にはヤンゴン市内8ヵ所で爆弾が爆発した。前日の29日は中部の都市マンダレーの4ヵ所で爆弾事件も起きている。いずれも人的被害などの詳細は明らかになっていないが、爆弾事件には武装市民組織であるPDFが関係した事案と同時に軍政側の組織による「やらせ」も含まれているという。  

30日のヤンゴン市内8ヵ所の爆発は、(中略)軍政を支援する市民組織「ピュー・ソー・ティー」による犯行との見方を地元メディアなどは伝えている。  

この「ピュー・ソー・ティー」は民間人の服装をした退役軍人や「ダラン(密告者)」、軍政支持の「USDP党」関係者などから成る武装組織で、2021年の5月頃から暗躍しているといわれている。  

ヤンゴンではこうした反軍政のPDF、軍政支持の「ピュー・ソー・ティー」双方による爆弾事案が増えていることから、最近では「ヤンゴンの朝は爆弾で明ける」とさえいわれているという。  

(中略)ヤンゴン市内では日中は経済活動や飲食店の営業も始まっているとはいえ、それはあくまで「嵐の前の静けさ」に過ぎず、街中にはあちこちに「ダラン(密告者)」や治安当局者の警戒監視の目が張り巡らされており、警戒を緩めることはできないという。  

一般市民が何気なくSNS上にアップした写真を情報源にして治安当局がPDFメンバーの拠点を特定して踏み込み、一斉摘発を行ったともいわれており、市民生活は表向きとは大いに異なり、緊張と警戒の中で過ごすことを強いられているのが実状だという。【9月9日 大塚 智彦氏(PanAsiaNews記者) 現代ビジネス】
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こうした民主化勢力の武闘方針に対し、倫理的な問題及び軍事的な実効性の面における現実的な問題の指摘もあります。

****ミャンマーに迫る内戦危機、民主派の武装蜂起は「墓穴を掘る」結果になる可能性*****
<国民統一政府が宣言した「自衛の戦争」は、国軍の圧倒的な反撃と国土の荒廃を招く>

(中略)武装蜂起の呼び掛けは、ソーシャルメディアでは熱狂的に支持されたが、国際機関や外国政府は狼狽している。元国連調査団員らが組織するミャンマー特別諮問評議会(SAC-M)は8日、「7カ月にわたる軍事政権の暴力と国際社会の無策に、NUGと人民がいら立ちを募らせている」ことに理解を示しつつ、事態のエスカレートは「残念だ」と声明を出した。

「暴力はミャンマーの人々の苦しみの原因であって、解決策ではない」と、SAC-Mのクリストファー・シドッティは述べている。「NUGの気持ちは分かるが、その決断が引き起こす事態を、われわれは憂慮している」

米国務省のネッド・プライス報道官やイギリスのピート・ボウルズ駐ミャンマー大使、インドネシア外務省のテウク・ファイザシャー報道官らも、民主派の「自衛のための戦争」に理解を示しつつ、円滑な人道援助のために双方に平和を呼び掛けた。(中略)

だが、民主派が武力闘争を正式な戦略として打ち出したことは、倫理的な問題や現実的な問題を生じさせている。
NUGは5月に国民防衛隊を設置したとき、「市民を脅し、標的にし、攻撃してはならない」し、市民がいる場所を標的にしてはならないという行動規範を示した。

これは、無差別的な残虐行為を繰り返す国軍とは違うことを明確にするとともに、こうした非道の責任が問われることがなかったミャンマーの文化を正そうという意思の表れだ。

だが、戦闘が激化すれば、正義と不正義を分ける線は曖昧になりかねない。NUGの宣戦布告は、軍当局者や、民間人を含む軍事政権協力者の殺害を暗に奨励していると受け止められても無理はない。(中略)

ただし武力闘争を実践しようとする民主派は少数派で、大多数は大規模なストなど非暴力的な抵抗運動を展開しているという見方もある。

武力衝突のエスカレートは、NUGの政治的選択肢を狭めることにもなる。NUGはミャンマー政府として国際的な承認を得たいと考えているが、今回の宣戦布告で、その実現性は著しく小さくなった。

それに、いかに大義があっても、その戦いが成功する保証はない。にわかづくりの国民防衛隊はもとより、少数民族の武装組織はそれぞれ目標や利害が異なり、国軍に対して足並みのそろった戦いを展開できるかは分からない。

国軍がNUGの宣戦布告にひるむとも思えない。むしろ圧倒的な武力で反撃してくる可能性が高い。そうなれば、「もっと激しく長期的な内戦となり、大虐殺によって相手を消耗させる戦い方がまかり通るようになるだろう」と、長年ミャンマーの人権問題に取り組んできたデービッド・スコット・マティソンは語る。
その消耗戦によって残るのは、荒廃だけだ。【9月15日 Newsweek】
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【国際社会にクーデターの正当性を求める国軍 うまくいかない経済運営 残虐行為も】
国軍側は各国の外交官を招いた説明会を開催するなどして、国際社会の「クーデターの正当性」への理解を求めています。そこには、思惑どおりに進んでいない現実への国軍側の“焦り”も

****「クーデターは正当」の主張続けるミャンマー国軍…国際社会復帰に“焦り”*****
(中略)クーデターによる混乱に加えて新型コロナウイルスの感染拡大により、ミャンマー経済は壊滅的な打撃を受けている。世界銀行は2021年度のミャンマーの経済成長率がマイナス18%になる見通しだと発表した。

ラスト・フロンティアと呼ばれ、日本企業を含め多くの海外企業が進出していたミャンマーだが、クーデター後の事業継続は依然不透明な情勢だ。国際社会やミャンマー市民の反発を受けて、国軍関連企業との取引を停止する外国企業も増えている。国軍側はこうした動きを何とか食い止めようと必死なのだ。(中略)

各国に求める「正当性」
国軍が各国に改めて理解を求めたのは、「クーデターの正当性」だ。
まず、アウン・サン・スー・チー氏率いる与党・国民民主連盟(NLD)が圧勝した2020年11月の選挙について、中間調査の結果を発表した。国軍側はクーデター以前から選挙に不正があったと主張し、選挙の無効を訴えてきた。

説明会でもこの主張を繰り返した形だ。会場の入り口にも与党側の不正の証拠とされる写真が大量に張り出されていた。

国軍による市民への弾圧でこれまでに1000人以上が殺害され、逮捕者は8000人を超える。国際社会は弾圧を止めるよう求めているが、国軍側が弾圧を止める動きはない。逆に「抵抗する市民側が起こした事件とその被害」について説明し、治安維持の必要性を強調した。

クーデターを起こしたことや、その後の国家運営など国際社会に何とか自らの主張を認めさせようと躍起となっているのが伺える。(後略)【9月14日 FNNプライムオンライン】
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ただ、内戦は別にしても、国軍による統治はあまりうまくいっていません。
“ミャンマー国軍、為替相場の管理策を撤回 二重相場で混乱、通貨急落”【9月17日 朝日】

国軍による民間人殺害も。
“ミャンマー軍事政権、反政府勢力捜索を理由に各地で民間人虐殺”【9月25日 大塚 智彦氏 JBpress】

【反政府勢力に“二股”かける中国】
国軍に対し制裁を課す欧米とは一線を画している中国・ロシアですが、中国も国軍支援が目立ち、反政府勢力の標的にされるのは避けたいところ。

一定に反政府勢力側の少数民族勢力も支援して“二股”かけているようです。

****中国、政権・反政府勢力双方にワクチン支援 ミャンマー****
中国は、ミャンマー軍事政権に新型コロナウイルスワクチンを提供する一方、政権と敵対する反政府武装勢力にもワクチンを支援している。双方に協力の手を差し伸べることで、混迷を深めるミャンマーでの影響力を拡大する狙いがある。
 
(中略)中国政府はこれまでに、軍事政権に約1300万回分のワクチンを提供した。

軍事政権は感染拡大に歯止めをかけられずにいる。新型ウイルスを完全に封じ込める「ゼロコロナ」を目指す中国としては、2000キロにわたり国境を接するミャンマーからの新型ウイルス流入を警戒している。
 
反政府勢力メンバーがAFPに語ったところによれば、中国政府はワクチンや医療要員、隔離施設用の資材を目立たないように提供している。
 
ヒスイの産地として知られるミャンマー北部を支配する少数民族武装勢力「カチン独立軍」の報道担当者は、中国赤十字の職員が新型ウイルスの感染拡大抑制を支援するため時々やって来ると話した。(中略)

KIAの報道担当者によると、ミャンマーが感染の第3波に見舞われた7月、KIAは拠点とするカチン州ライザで1万人に中国製ワクチンを接種した。中国から医療要員が派遣され、マスクや手指消毒薬も配布されたという。
 
他の少数民族武装勢力「シャン州進歩党」や「タアン民族解放軍」も中国から支援を受けたとAFPに語った。
 
一方、国境の町ムセでは、中国との取引再開を目指す貿易関係者向けに1000床の隔離施設の建設が進められている。現場で働いているのはミャンマー人だが、建設資材は全て中国雲南省当局が提供していることが、AFPの取材で分かった。

■大々的に宣伝されない支援
中国によるこうした支援は、アジア、アフリカ向け支援のように大々的に宣伝されていない。(中略)

ミャンマーを拠点としていた専門家デービット・マシソン氏は、同国の国境地帯に暮らす中国系住民は中国のSIMカードや通貨を使っており、一帯は実質的に中国の一部のようになっていると話した。
 
ミャンマーで武力勢力と国軍の大規模な衝突が起き、2017年のように大勢のミャンマー人が中国に逃げ込んでくる事態になることが中国政府にとっての「最悪のシナリオ」だと、マシソン氏は指摘した。(中略)

香港大学の韓恩澤准教授は、軍事政権は中国による少数民族武力勢力への支援を決して快く思っていないが、他に選択肢はないと指摘した。 【9月25日 AFP】
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少数民族の中には「カチン独立軍」のほか、中国と関係が深いワ州連合軍(UWSA)や中国系少数民族もいます。
そうした勢力との関係を維持することは、中国にとって、国境地帯の中国向けガスパイプライン等の権益保護にもなりますし、万一、国軍側が敗退した場合の「保険」にもなります。

反政府勢力をめぐる水面下の中ロの動きとしては、国連を舞台にしたアメリカとの駆け引きもあるようです。

****国連総会、ミャンマーの演説が見送りに 米国が中ロと水面下で合意か****
米ニューヨークの国連本部で開催中の国連総会一般討論演説で、今年はミャンマーの代表が発言しないことが決定的となった。国連のハク副報道官が24日夜、「現時点でミャンマーが話す予定はない」と取材に答えた。
 
一般討論演説は、国連に加盟する193カ国の首脳らが自国の政策などを内外に向けてアピールする場で、演説見送りは異例だ。今年は22日に始まり、ミャンマーは最終日の27日、チョーモートゥン国連大使が演説するはずだった。(中略)
 
チョーモートゥン氏は、国軍がクーデターを起こす前の昨年10月に就任。クーデター後は、国軍を公然と非難してきた。それに対し、国軍は「解任」や「訴追」を言い渡し、自らに近いアウントゥレイン氏を新たな国連大使として任命した。
 
複数の米メディアによると、国軍と一定の関係を保つ中国やロシアが、チョーモートゥン氏が演説を見送れば、当面は国連大使の座に異議を唱えないと、米国と水面下で合意したという。(後略)【9月25日 朝日】
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“(反国軍の)チョーモートゥン氏が演説を見送れば、当面は国連大使の座に異議を唱えない”というのは国軍としても不服でしょうが、“他に選択肢はない”力関係の現実でしょう。

あと興味深いところでは“ミャンマー民主派弾圧を支える、ウクライナの武器輸出──人権団体報告書”【9月14日 JBpress】といった記事も。
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