(ドゥテルテ大統領とサラ・ダバオ市長の父娘 コンビで正副大統領に?【8月30日 現代ビジネス】)
【ドゥテルテ大統領は副大統領に出馬 大統領最有力と見られる長女サラ氏は?】
フィリピンでは来年5月に行われる大統領選挙に向けて、立候補の具体的な話が出始めています。
先鞭をつけたのはドゥテルテ大統領。
連続の大統領立候補は再選禁止の憲法規定によってできませんが、副大統領として立候補するという「奇策」に。
****ドゥテルテ氏、副大統領候補に=来年の比大統領選―権力維持の奇策、違憲の恐れ****
フィリピンのドゥテルテ大統領(76)は、来年5月の大統領選に副大統領候補として出馬することを決めた。与党PDPラバンが24日、明らかにした。自身の権力維持を図るための奇策だが「憲法に反する恐れがある」と懸念も出ている。
ドゥテルテ氏は2016年6月に就任した。フィリピン憲法は、大統領職を1期6年までと規定している。大統領を務めた者が副大統領候補として出馬した例はない。
ただ、7月に行われた世論調査で、ドゥテルテ氏は副大統領候補の中でトップとなる18%の支持を得ていた。【8月24日 時事】
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フィリピンでは、大統領と副大統領は別個に投票されますので、大統領とは敵対する陣営から副大統領が選出されるということがよくあります。
ただ、もし大統領に万一のことがあった場合、前大統領だった副大統領が引き継ぐことが1期に限定している憲法に照らして認められるのでしょうか?
更にドゥテルテ大統領の場合、単に自身が副大統領に立候補するというだけでなく、大統領には長女のサラ氏をたてるのでは・・・という憶測が以前からあり、もしそうなると親子で正副大統領ということにもなります。
****比ドゥテルテ氏腹心、大統領候補を辞退 長女が出馬との見方も****
フィリピンのドゥテルテ大統領の腹心であるボン・ゴー上院議員が2022年の大統領選に出馬しない意向を表明した。これにより、ドゥテルテ氏の娘であるサラ氏の立候補に道が開かれるとの見方もある。
ゴー氏は、与党・PDPラバンへの書簡で、新型コロナウイルス感染対応に注力したいとの考えを伝え、ドゥテルテ氏の政策を受け継ぐ候補を支援するよう要請した。
この日公表された書簡でゴー氏は、「党の仲間からの要望に応えたいが、候補擁立の支援申し出を謹んで辞退する」と述べた。
同氏は、ドゥテルテ氏が副大統領として出馬するなら大統領候補になることにやぶさかでないと発言していた。
ドゥテルテ氏は再選を禁止する憲法により再出馬できないが、反対勢力は任期満了後も影響力を保持したいとみている。
一方、ドゥテルテ氏は、娘のサラ氏が大統領候補に出馬しなければ副大統領候補としての出馬を模索すると宣言している。父娘ともに最近の世論調査では支持率がトップとなっている。
政治アナリスト、ビクトル・マニト氏は、「ドゥテルテ親子が、来年の大統領選で単一候補擁立の戦略で和解した可能性がある」と分析した。
サラ氏は大統領選出馬もあり得ると発言したとメディアが報じているが、政治戦略で父と和解したかに関するコメントを控えた。
候補の正式な届け出は10月に始まる。【8月31日 ロイター】
ゴー氏は、与党・PDPラバンへの書簡で、新型コロナウイルス感染対応に注力したいとの考えを伝え、ドゥテルテ氏の政策を受け継ぐ候補を支援するよう要請した。
この日公表された書簡でゴー氏は、「党の仲間からの要望に応えたいが、候補擁立の支援申し出を謹んで辞退する」と述べた。
同氏は、ドゥテルテ氏が副大統領として出馬するなら大統領候補になることにやぶさかでないと発言していた。
ドゥテルテ氏は再選を禁止する憲法により再出馬できないが、反対勢力は任期満了後も影響力を保持したいとみている。
一方、ドゥテルテ氏は、娘のサラ氏が大統領候補に出馬しなければ副大統領候補としての出馬を模索すると宣言している。父娘ともに最近の世論調査では支持率がトップとなっている。
政治アナリスト、ビクトル・マニト氏は、「ドゥテルテ親子が、来年の大統領選で単一候補擁立の戦略で和解した可能性がある」と分析した。
サラ氏は大統領選出馬もあり得ると発言したとメディアが報じているが、政治戦略で父と和解したかに関するコメントを控えた。
候補の正式な届け出は10月に始まる。【8月31日 ロイター】
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“政治戦略で父と和解したか”とありますが、父娘の間で何らかの意見の相違があるのかどうかは知りません。
サラ氏は父ドゥテルテ氏とは別の地域政党に所属しており、“ロイターに対して大統領の仕事には興味がないと語った数カ月後、大統領選への出馬に前向きな姿勢を示した。”【9月9日 ロイター】とのことで、出馬するのか、その場合、副大統領に立候補する父親とはどいう関係になるのか・・・さだかではありません。
父親の跡を継いでダバオ市長を務めるサラ氏は、“こわもて”の父親以上に強気の性格で政治家向きとも言われ、ドゥテルテ大統領が思いどおりにできない唯一の人物とも。
“7月発表の世論調査では(サラ氏は)大統領候補としてトップの28%の支持を得ており、14%のモレノ氏、8%のパッキャオ氏を大きく引き離した”【9月22日 朝日】と、もしサラ氏が出れば、一番大統領に近い位置につけています。
“これまで出馬の意思を示さなかったサラ氏が10月の立候補締め切り間際に出馬を表明するとの観測が根強い”【同上】とも。
【国民的英雄パッキャオ上院議員、マニラ市長のモレノ氏も名乗り】
一方、反ドゥテルテの立場からの有力候補者の立候補も明らかになっています。
まずは国民的英雄でもあるプロボクシング世界6階級の元王者のパッキャオ上院議員。
8月21日、約2年1カ月ぶりとなった試合をラスベガスでWBA世界ウェルター級スーパー王者ヨルデニス・ウガスと対戦し、判定負けで王座獲得に失敗、大統領戦立候補表明と同日に公開された動画で「現役引退」を表明しています。
****パッキャオ氏出馬へ、「反ドゥテルテ」宣言 来年5月に比大統領選****
来年5月のフィリピン大統領選に向けて各陣営の駆け引きが激しくなっている。
ドゥテルテ大統領(76)の長女の出馬が取りざたされる中、与党内ではプロボクシング世界6階級の元王者のパッキャオ上院議員(42)が19日に出馬を表明。野党側は「反ドゥテルテ」勢力の結集を目指す。
「国のお金を盗み続けている政府の関係者は刑務所に入ることになる」。パッキャオ氏は19日、与党PDPラバンの派閥の会合で大統領選への立候補を表明しドゥテルテ政権との対決を宣言した。
パッキャオ氏は今年7月まで同党の党首を務め、ドゥテルテ氏の後継候補の一人と目されてきた。しかし6月ごろから政権の汚職や不正を繰り返し批判。その後、パッキャオ氏を追放する動きが出ていた。
一方、ドゥテルテ氏は9月8日に開かれた同党主流派の派閥会合で、副大統領選への出馬を表明。ペアを組む大統領候補には側近のボン・ゴー上院議員が選ばれ、与党の分裂が決定的になっている。
これを受けて自由党所属のロブレド副大統領は6日、パッキャオ氏との協力を検討する考えを示した。21日夜にはモレノ・マニラ市長の大統領選出馬情報が流れたが、野党側が「反ドゥテルテ」で候補者一本化を図る可能性もある。(後略)【9月22日 朝日】
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上記記事にもあるモレノ・マニラ市長も立候補を表明しています。
****マニラ市長、22年のフィリピン大統領選出馬を表明****
フィリピンの首都マニラのフランシスコ・ドマゴソ市長は22日、2022年に実施される大統領選に出馬すると表明した。
ドマゴソ氏(47)は芸能界で活躍していた頃の芸名、イスコ・モレノとして知られる。大統領選に出馬表明した3人目の候補者で、世論調査では有力候補の一人。
マニラの貧困地域で行われた会見でドマゴソ氏は「フィリピンの大統領選立候補を受け入れてほしい」と述べ、「完璧な政府を与えられないかもしれないが共に良くしていこう」と述べた。
貧民街で生まれ育ち、幼少期は空き瓶などを集めてリサイクル業者に売り、家計を支えた。ある葬式で芸能関係者にスカウトされ、芸能界入りした。
2019年に元大統領のエストラダ前市長を破って市長に初当選。マニラ市長としてきれいな街づくり運動を展開し、かつて露天商がひしめき合っていた繁華街を一掃した。
大統領選には、元警察長官のパンフィロ・ラクソン氏と国民的人気を誇るプロボクサー、マニー・パッキャオ上院議員も出馬を表明している。【9月22日 ロイター】
ドマゴソ氏(47)は芸能界で活躍していた頃の芸名、イスコ・モレノとして知られる。大統領選に出馬表明した3人目の候補者で、世論調査では有力候補の一人。
マニラの貧困地域で行われた会見でドマゴソ氏は「フィリピンの大統領選立候補を受け入れてほしい」と述べ、「完璧な政府を与えられないかもしれないが共に良くしていこう」と述べた。
貧民街で生まれ育ち、幼少期は空き瓶などを集めてリサイクル業者に売り、家計を支えた。ある葬式で芸能関係者にスカウトされ、芸能界入りした。
2019年に元大統領のエストラダ前市長を破って市長に初当選。マニラ市長としてきれいな街づくり運動を展開し、かつて露天商がひしめき合っていた繁華街を一掃した。
大統領選には、元警察長官のパンフィロ・ラクソン氏と国民的人気を誇るプロボクサー、マニー・パッキャオ上院議員も出馬を表明している。【9月22日 ロイター】
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南部ミンダナオ島を地盤とするドゥテルテ・サラ氏に対し、北部ルソン島で支持が強いマルコス一族の後継者、元大統領の長男ボンボン・マルコス氏もいますが、最近はあまり名前を聞かないようにも。
前回選挙で副大統領候補として立候補した際には、母親イルメダ夫人が「どうして大統領に出ない」と落胆したとか。
【ドゥテルテ大統領が権力に執着する事情 ICCは超法規的殺人を捜査開始】
ドゥテルテ大統領が副大統領候補として出馬するというように、権力に執着するのは、大統領職を離れた後の自身の保身のため・・・とも言われています。
ドゥテルテ大統領は周知のように「麻薬戦争」での数千人にも及ぶ大量の「超法規的殺人」を主導したとして、「国際刑事裁判所(ICC)」による捜査が始まっています。
****フィリピンの苛烈な麻薬戦争、ドゥテルテ大統領は罪に問われるか****
2022年5月に次期大統領選挙を迎えるフィリピンでは、副大統領に立候補するドゥテルテ大統領も含め、正副大統領の出馬への動きが10月1日の立候補届け出を控えて本格化している。
こうした中、オランダ・ハーグにある「国際刑事裁判所(ICC)」が、ドゥテルテ政権で進められた麻薬関連犯罪の捜査手法が「人道に反する罪」の可能性があるとして、このほど本格的な捜査着手を決めた。
人権団体などからの報告に基づき麻薬犯罪の捜査現場で警察官らが司法手続きによらずに容疑者を射殺するなどのいわゆる「超法規的殺人」の違法性にICCは早くから注目し、予備的調査に着手したものの、ドゥテルテ大統領はこれを不満とし、フィリピンはICCを脱退している。
しかしICCでは「フィリピンが加盟国であった時期の犯罪容疑には捜査権がある」と主張して今回本格的な調査に乗り出すことを決めたのだった。
ドゥテルテ大統領側は「捜査協力拒否」を強く打ち出しているが、次期大統領選とも関係して、今後ICC側との捜査を巡る駆け引きが複雑化しそうな気配だ。
現職大統領が、是が非でも副大統領候補の指名を受けたかった事情
(中略)ドゥテルテ大統領が副大統領候補を受けた理由の一つとして「政権の中枢に残ることで次期政権への影響力を残し、在任中の諸問題への批判、司法の訴追を回避する狙いがあるのではないか」と言われている。
無実の市民の巻き添えや誤認殺害も
批判・訴追されかねない最大の問題と目されているのが麻薬犯罪の取り締まり現場における「超法規的殺人」だ。ドゥテルテ大統領としては大統領退任後にICCや国内でその責任を問われたり、司法の訴追を受けたりすることだけはなんとしても避けたいところだろう。
麻薬対策は、2016年の大統領就任以降、ドゥテルテ大統領が最も力を注いだ政策の一つだ。ただ取り締まり強化のためとはいえ、警察官による捜査現場での「超法規的殺人」をドゥテルテ大統領は黙認してきた、あるいは積極的に支持した、との批判がキリスト教組織や人権団体、欧米を中心とする国際社会から噴出していた。
フィリピンの警察によれば、これまでに約20万件の麻薬関連捜査で「超法規的殺人」で殺害された民間人は約6000人としているが、人権団体などでは実数は正確には不明ながらも警察発表の数倍には上っていると推計されている。
実際、麻薬事件とは無関係の人間が殺害されたケースも数多く報告されている。ギャング組織の抗争や私怨に基づく殺人や、人違いや現場での巻き添えで無抵抗・非武装の若年者や少年を殺害してしまったケースなどだ。
こうした「異常な状況」がICCを動かし、予備調査に乗り出す事態となった。
国際刑事裁判所を脱退して抵抗
ところが前述のように、ICCのこうした動きを受けてドゥテルテ大統領は2019年にICCを脱退(正確にはICC設立条約であるローマ規定からの脱退)してしまった。
これによりフィリピン政府はもはやICCの管轄権、捜査権は及ばないとの態度をとり続け予備捜査への協力を一切拒否してきた経緯がある。
ICCの検察局は、フィリピンの弁護士から告発を受け予備調査を進めてきた。今年6月に検察局が提出した資料を調査してきたICCの予審裁判部は、9月15日、フィリピンの「超法規的殺人」について「司法に基づかない民間人の不当殺害の疑いがあり、人道に反する罪、そして殺人罪があったと判断する十分で合理的な根拠がある」として、ドゥテルテ政権による「麻薬戦争」に対する本格的な捜査開始実施を正式に認めたのだった。
これにより今後ICC関係者による各種調査、捜査がこれから本格化し、ICCメンバーによるフィリピン訪問、実地での聞き取りや調査も予定されるという新たな事態を迎えることになったのだ。
国際刑事裁判所の捜査官に対し入国拒否も
こうしたICCの動きを受けてドゥテルテ大統領の首席法律顧問であるサルバドール・パネロ氏は9月16日、地元ラジオ局に対して「ICCには一切協力しない」と拒否する姿勢を改めて明らかにした。
その理由としてフィリピンがもはやICCを脱退しており、その管轄権も捜査権もないことを指摘して、今後ICC関係者がフィリピンを情報収集や証拠集めのために訪問することがあっても「一切の活動を許さないし、そもそもフィリピンへは入国させない」と態度を硬化させて、全面拒否を貫く方針を内外に表明したのだった。
これに対しICC側も一切妥協しない姿勢を改めて強調している。「フィリピンが脱退する前の犯罪容疑には依然としてICCの管轄権があり、捜査は法的に可能」との立場を示し、フィリピンがICCを脱退した2019年までを調査対象とするとしているのだ。
麻薬対策も含め、ドゥテルテ大統領の強い指導力に対する国民の支持は相変わらず高い水準を保っているのも事実だが、来年5月の正副大統領選に向けて、ドゥテルテ大統領の麻薬捜査に異を唱えてきた野党側の候補者は改めて「超法規的殺人」などへの批判を強めることが予想される。
政治的不確定要素が増す中で、「副大統領として政権に残り訴追を避ける」というドゥテルテ大統領の戦略にも黄信号がともり始めている。【9月20日 大塚 智彦氏 JBpress】
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“ギャング組織の抗争や私怨に基づく殺人や、人違いや現場での巻き添えで無抵抗・非武装の若年者や少年を殺害”だけでなく、汚職に関与する現職警官が「口封じ」のために都合の悪い人物を殺害するケーズも多々あるようにも言われています。
こうした「麻薬戦争」を一貫して主導してきたのがドゥテルテ大統領です。
この「麻薬戦争」超法規的殺人以外でも、パッキャオ上院議員が追求する現政権の汚職・不正の問題もあります。
こうした追求をかわすため、父娘で権力を固めれば・・・というところでしょうか。