孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民・難民  米テキサス州のハイチ移民「投げ縄」 エーゲ海のアフガン難民「プッシュバック」

2021-09-21 22:20:59 | 難民・移民
(米国と国境を接するメキシコのシウダードアクニャで、食料などを確保するためにリオグランデ川を渡る移民ら(2021年9月18日撮影)【9月19日 AFP】)

【度重なる災害、政治混乱、コロナ禍・・・破綻国家状態のハイチ】
カリブ海の島国ハイチでは2010年1月にM7.0の大地震が起き、31万人超が死亡するという20世紀以降では世界で最も多い犠牲者を出し、国の経済、市民生活も壊滅的な打撃を受けました。

その大地震から立ち直れないまま、2016年10月には、過去10年で最大規模の大型ハリケーン「マシュー」がハイチを直撃し、一部報道では800人を超す死者が出たとされており(ロイター 842人)、市民生活は更に困窮。

更に、今年8月、追い打ちをかけるように再び地震が。死者数は2200人超。

****ハイチ地震で負のスパイラル 支援依存でさらに弱体化する****
<コロナ、ギャング抗争、大統領暗殺──疲弊するハイチ貧困層を直撃した大地震の非情>
マグニチュード7.2の大地震が8月14日に発生したハイチで、被災者のいら立ちが頂点に達している。

救援活動が遅れ、不満を募らせた民衆は建物の倒壊現場に集まって仮設シェルター建設用の防水シートを要求。被災地は大地震の翌々日に暴風雨に見舞われたため、防水シートは以前に増して必需品だ。

大地震の死者数は18日時点で約2200人。負傷者は1万2000人を超え、多くは猛暑の中、屋外で治療を待っている。当局によると、倒壊家屋は5万2000戸以上で、約8万世帯が自宅を失った。

多くの貧困層は大地震で、頼みの綱の食料源や収入源を奪われた。新型コロナウイルスやギャングの暴力、7月の大統領暗殺事件と困難続きのハイチに追い打ちをかける。

大地震の結果、外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化するだろうと、経済学者エツァー・エミルは語る。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」【8月23日 Newsweek】
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"“外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化する。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」”というのは一面の真実であり、どういう支援のあり方がいいのかという議論は必要でしょうが、差し当たりの人道支援は絶対に必要です。

度重なる自然災害に加え、上記記事にもあるように、新型コロナやギャングの暴力、更に7月には大統領が暗殺される、しかも犯行に首相が関与か・・・ということで、政治的にも崩壊状態です。

****ハイチ大統領暗殺、首相が関与か 検察が捜査要請****
カリブ海の島国ハイチで7月、ジョブネル・モイーズ大統領が暗殺された事件で、同国の検察当局は14日、アリエル・アンリ首相に対する捜査を判事に要請していることを明らかにした。

同国の検察幹部は、事件の捜査を担当する判事に宛てた書簡で、アンリ氏が事件発生直後に主犯格とみられる容疑者の一人と電話で話していたことから、同氏の事件への関与についての捜査を要請。移民管理局長に宛てた別の書簡では、アンリ氏の出国を禁じるよう求めた。

7月6日夜から7日未明にかけ起きた事件では、政界や国民から批判を浴びていたモイーズ大統領が、首都ポルトープランスにある私邸に押し入った武装集団により暗殺された。

アンリ氏はその数時間後、事件に関連して指名手配されている元政府高官と電話で話していたとされ、事情聴取のための出頭をすでに求められていた。

事件ではこれまでにコロンビア人18人、ハイチ系米国人2人を含む44人が逮捕されている。襲撃により大統領警護隊にけが人は出なかった。

アンリ氏は事件の数日前にモイーズ氏から首相に指名され、7月20日に就任。国内で悪化している治安を改善し、長らく延期されていた選挙を実施すると約束していた。 【9月15日 AFP】AFPBB News
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こうした状況では災害の復旧・救済にも手が回りません。
“「病院に何もない。水も食料もない」 ハイチ地震、被災地は”【8月24日 朝日】
“レイプの恐怖と隣り合わせ…地震で家失い避難所生活の女性 ハイチ”【9月1日 AFP】

【ハイチからの移民が押し寄せる米テキサス州 米当局は国外退去便を増加 国境警備隊は「投げ縄」】
破綻国家ハイチと海を隔てるのが世界でも最も豊かな国アメリカ。
国家もまともに機能していない状況で、アメリカへ人々が押し寄せるのは、生きていくうえでの現実選択肢として必然的な帰結でしょう。

****橋の下に不法移民1万人超すし詰め、米テキサス州****
米テキサス州で、カリブ海の島国ハイチ出身者を中心とした不法移民1万人以上が橋の下に集められている。米当局が17日、明らかにした。

メキシコとの国境に位置するデルリオのブルーノ・ロサノ市長によると、デルリオ国際橋の下の、税関・国境警備局が管理する地域に不法移民が押し込められている。

不法移民の多くは、大地震が発生し政治的混乱が続くハイチ出身者で、米国に留まることを希望しているとロサノ氏は述べた。

同氏によると、デルリオ国際橋の下に集められた不法移民の数は、16日のうちに約8000人から1万503人に増えた。同地域では橋の下以外でも、2000〜3000人がCBPに拘束されている。

CBPは橋の下について、日陰になっていて熱中症などを防ぐことができ、拘束を待つ間の一時的な待機場所として機能していると説明した。

CBPによると、単身の移民の「大部分」と家族連れの多くは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けた政府の移民抑制政策「タイトル42」に基づいて国外に退去させられる。

「タイトル42に基づき退去させられず、滞在する法的根拠を持たない人に対しては、速やかに退去手続きに入る」とCBPは説明した。

民主・共和両党はジョー・バイデン政権に迅速な対応を求めている。一方、ホワイトハウスは本件についてコメントしていない。

バイデン氏は17日朝、「市民の日」に合わせて演説し、「移民はさまざまな状況から米国にやってくるが、どの世代も米国を強くしてきた」と述べた。

米国では、7月と8月に過去10年以上で最多となる20万人以上の不法移民が流入したが、そのほとんどを国外退去させた。 【9月18日 AFP】
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アメリカはこれまでホンジュラスやエルサルバドル、グアテマラなど中米からの移民圧力にさらされてきましたが、ここにきてハイチからも・・・

アメリカは航空便の数を増やして国外退去を加速させる方針です。

****橋の下の不法移民、米当局が国外退去便の増加で対応へ****
米当局は18日、メキシコとの国境に位置するテキサス州デルリオに押し寄せている1万人を超える不法移民を国外退去させるため、航空便の数を増やしていくと発表した。
 
不法移民らはカリブ海の島国ハイチの出身者が中心で、リオグランデ川の上に架かるデルリオ国際橋の下の、税関・国境警備局が管理する区域に押し込められている。
 
デルリオのブルーノ・ロサノ市長は記者団に対し、1万4000人を超える不法移民らが「拘束されるのを待っている状態」だと説明。地元当局と連邦当局が退去に向けて人員やバス、航空機を派遣していると述べた。
 
米国土安全保障省は、72時間以内に「退去のペースを加速させるために追加の移動手段を確保し、ハイチ行きなどの国外退去便を増やす」と発表。

また、ジョー・バイデン政権が「混雑を緩和し、米本土にいる移民の状況を改善するため」に行動しており、「出身国や通過する周辺各国」と協力していると説明した。
 
テキサス州の共和党議員からは、バイデン大統領に対する批判が上がっている。テッド・クルーズ上院議員はツイッターへの投稿で、「実際に起こっていることを見れば、バイデン政権の非人道的な政策が理にかなっていないことが分かる」と批判した。
 
米政府は7月と8月に国境で過去10年で最多となる20万人以上の不法移民の対応に当たっており、その多くを国外退去させている。 【9月19日 AFP】
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テッド・クルーズ上院議員の言う“バイデン政権の非人道的な政策”云々は、どうしろという話なのか、よくわかりません。

一方、国境警備隊員の“非人道的対応”も問題になっています。

****米大統領報道官、テキサス国境警備隊の「投げ縄」移民威嚇を批判****
米国とメキシコの国境を流れるリオグランデ川の川辺で米入国を求めるハイチ移民らが大量に野宿している問題で、国境警備隊員が馬用の縄を振り回して追い立てる映像が拡散し、サキ米大統領報道官は20日、「不適切で容認できない」と批判した。

川を渡ってテキサス州側にたどり着いた移民たちは、食料や水を買い求めるためメキシコ側にいったん引き返してはまた戻ることを強いられている。

ロイターの目撃情報では、この際に馬にまたがったカウボーイハットの隊員らが移民の行く手を遮り、1人は投げ縄に似た太いひもを移民の顔近くまで振り回していた。明らかに縄で移民を脅している隊員の動画も出回っている。

サキ氏は「自分はいきさつの全容がよく分かっていないが、どんないきさつならこんなことが適切になるのか想像できない」と語った。

ソーシャルメディアの幾つかのコメントは、馬上の白人隊員が逃げ惑う黒人男性を追い掛ける映像が、米国で黒人が歴史的に受けてきた不正義を呼び起こすと指摘している。

国境警備隊の責任者、ラウル・オルティス氏は、そうした行為が警備隊のやむにやまれぬ行動だったことを確かめるため調査していると述べた。隊員たちは困難な環境で職務に当たっており、移民たちの安全を確保しようとしながら人身売買業者の捜索にも当たっているとも表明した。

米国土安全保障省のマヨルカス長官はデルリオでの記者会見で、馬に乗った隊員らが「馬を制御するために」長い縄を使っていることは認める一方、「われわれは事実関係を調査する」と強調した。

リオグランデ川では橋の下に最近、母国でのギャングの暴力や極度の貧困や災害などから逃れようとしてたどり着いた移民たちが大勢野宿している。

しかし、このうち何百人ものハイチ人が、米当局によって航空機でハイチに強制送還されることを恐れてメキシコ側に戻った。

入国希望者があふれたため、米当局は既に17日に国境を封鎖。航空情報サイトのフライトアウェアによると、実際に19日には最初の送還便がハイチに到着し、20日にはさらに3便が到着予定。マヨルカス氏は1日当たり1−3便のペースになると述べた。

ハイチから数カ月かけてたどり着いた人々からは、7月の大統領暗殺で治安がさらに悪化したことに加え、8月に大地震で壊滅的な被害に見舞われたことで出国を決めたとの声が聞かれた。【9月21日 ロイター】
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【アフガン難民増加にギリシャは「プッシュバック(押し返し)」】
移民・難民を追い返そうとするのはアメリカに限った話でもなく、どこの国も似たり寄ったりです。

欧州では、従来からのアフリカ・中東からの難民に加え、アフガニスタンからも。
しかし、どこからの移民・難民であれ、「来てほしくない」ということは変わりません。

ただ、あまり露骨な方法をとると何かと問題にもなる・・・・ということでしょうか、難民船を領海外に押し出す「プッシュバック」という方策が取られているとか。

****漆黒のエーゲ海、漂う命 ギリシャ沿岸、押し返される難民****
漆黒の海に、ボートが姿を現した。エンジンはなく、波間を漂うだけ。救命胴衣すら着けない幼い子どもがいる。どこから来たのか。私の問いかけに、年配の女性が訴えた。「アフガニスタン」
 
ギリシャとトルコを隔てるエーゲ海で、欧州を目指す難民や移民の上陸を阻む「プッシュバック(押し返し)」と呼ばれる行為が相次いでいる。7月初旬、沖合での取材で目撃したのは、昼夜を問わず海のど真ん中に置き去りにされた、アフガニスタンやアフリカの人たちの姿だった。
 
「30~40人を乗せた密航船が漂流しているとの情報がある」。7月1日朝、トルコ沿岸警備隊の巡視艇で司令官が険しい表情を見せた。トルコ西部クシャダス沖は、欧州への玄関口であるギリシャの島々に渡る密航ルートになっている。出港から40分後、船が速度を落とした。
 
「あそこだ」。乗組員の言葉に望遠レンズを向けた。ギリシャの沿岸警備艇とみられる2隻が白波を立てている。かすかに見えるゴムボートは2隻がそばを通るたびに大きく揺れた。
 
「ああやって波を作り、船をギリシャ領海からトルコ領海に追いやる。これが『プッシュバック』だ」
 
発見から5時間後、ボートがトルコ領海に入ったのを確認した。約40人がすし詰めになっている。アフリカのソマリアやトーゴなどから来たという。
 
救助された人たちの話では、前夜にトルコの海岸を離れ、早朝に20キロほど離れたギリシャ・サモス島近くまでたどり着いた。そこでギリシャ当局に見つかり、ボートのエンジンなどを取り上げられたという。救助されるまでの約12時間、漂流した。
 
エーゲ海北部を管轄するトルコ沿岸警備隊の責任者によると、ギリシャ側のプッシュバックが頻発したのは昨年2月ごろから。ギリシャの船は波を立てたり、ロープで牽引(けんいん)したりして密航者たちのボートをトルコ側に押しやるのだという。「これは現実に起きていることだ。映画のワンシーンではない」
     ◇
欧州を目指し、エーゲ海を渡ろうとする難民や移民が絶えない。イスラム主義勢力タリバンが実権を握ったアフガニスタンからは、徒歩で国境を越えながら、イランなどを経由してトルコに入り、ギリシャを目指す人々も多い。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2018年ごろには内戦の続くシリア出身者よりも多くのアフガニスタン人たちが、ギリシャに着くようになった。

UNHCRは、年末までに最大約50万人がアフガニスタンから難民となる可能性があると指摘。欧州では100万人以上が押し寄せた15年の「難民危機」の再来かと、危機感が高まる。【9月21日 朝日】
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ギリシャに渡る手前のトルコでは、イランからアフガニスタン難民流入阻止のため「壁」を建設しています。

****兵士大量動員で国境警戒 アフガン難民阻止へ壁建設―トルコ****
スラム主義組織タリバンが政権を奪取したアフガニスタンからイラン経由で多数の難民が流入する事態を防ぐため、トルコ軍が大量の兵士を動員し、国境付近に配置するなど警戒を強めている。

トルコは欧州を目指す難民らの主な通過ルート。経路上の関係各国はアフガン情勢をめぐる人道状況への配慮もしつつ、難しい対応を迫られることになる。

 ◇国境500キロに壁
トルコでは現在、アフガン難民約30万人が暮らしている。現地報道によると、アフガン情勢の流動化が進んだ7月以降、対イラン国境付近に兵士ら約2万人が展開して難民の違法越境を取り締まり、イラン側に追い返す措置を本格化させた。国境沿いのワン県に設置された検問所では23日、アフガン人とみられる男性らが尋問を受ける姿が見られた。
 
トルコ政府はこれに加え、全長500キロ超にわたる国境線に沿って、有刺鉄線の付いた高さ3メートルのコンクリート壁を建設する作業も加速させる。

エルドアン大統領は18日、「イランと国境を接するすべての地域に壁を造る。157キロは完成した」と述べ、2016年に始まった作業の完了を急ぐ考えを示した。
 
ただ、一連の対策の有効性を疑問視する向きもある。ワン・ユズンジュユル大学の難民専門家オルハン・デニズ教授は、タリバンのアフガン制圧に伴う難民の移動が本格化するのはこれからだと指摘。「大量の兵士をいつまで国境付近に維持できるのか。壁についても抜け道があり、トルコへの流入を防ぐのは困難だ」と語った。

 ◇さや当て始まる
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフガンに隣接するイランにはアフガン人300万人以上が暮らしている。核問題をめぐる米国などの経済制裁が続く中、イランが新たな難民を引き取る余裕はないとみられ、トルコへの越境を試みる人が増えるのは不可避の情勢だ。
 
トルコとその先に位置する欧州各国の間ではさや当てが始まっている。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は、難民の扱いではトルコが「極めて重要な役割」を果たすと強調。ギリシャのミタラキス移民相は「アフガン市民にとってはトルコが安全だ」と主張し、トルコにとどまるべきだという認識を示した。
 
これに対しエルドアン氏は、トルコが「欧州の難民置き場」になるつもりはないと訴え、人道的見地から責任を果たすよう欧州側に要求。20日以降、EUのミシェル大統領や欧州各国首脳と相次いで会談し、既にシリア難民約400万人を抱えるトルコに「これ以上受け入れる余力はない」という立場を伝えた。【8月25日 時事】
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イラン、トルコ、ギリシャなどの間での難民の押し付け合い・・・民主主義や人権を語る一方での「現実」です。

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