孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  「優等生」国の感染爆発 食料買い出し禁止のロックダウンに兵士投入 「工場隔離」は限界

2021-09-05 22:50:11 | 東南アジア
(ホーチミン市 兵士が市民に食料品を配布する様子【8月30日 「ぽすてぃーど」 こうした方法で900万人をカバーできるのでしょうか?】)

【デルタ株で状況一変 感染爆発、日に日に悪化 ワクチン遅れが足かせ】
ベトナムでは今年4月頃まで新型コロナ感染を最小限に封じ込め、台湾と並んで対策の「優等生」とも称されていましたが、5月、6月に入ると1日の感染者が200~300人に増え、7月になると一気に感染爆発状態に、8月には連日1万人を超えるような状況となっています。(9月2日は13192人)

背景には感染力の強いデルタ株拡大がありますが、これまでうまくいっていただけにワクチン接種も進んでおらず、事態を悪化させている面もあるようです。

****優等生ベトナム、デルタ型につまずき 感染者連日1万人****
新型コロナウイルス対策の「優等生」だったベトナムが一転、苦境に陥っている。南部の最大都市、ホーチミン市を中心に連日1万人強の新規感染者がでており、死者も1日当たり300人台で高止まりする。

感染力の強いインド型(デルタ型)の猛威によって、今春まで機能していた厳格な防疫対策に誤算が生じ、ワクチンの調達も遅れが目立っている。

「封じ込めに失敗すると、人々の生活がさらに困難になってしまう」。ファム・ミン・チン首相は11日に開かれた政府の定例会議で、コロナが収束するメドが立たない現状に危機感をあらわにした。

「どんな犠牲を払ってでも封じ込めなければならない」とも強調し、一時的な経済悪化はやむを得ないとの認識も示した。国営メディアでたびたび報じられる首相の表情は厳しさを増し、日に日に悪化する状況が浮き彫りになっている。

ベトナムは周辺国と比べて、早い段階からコロナの封じ込めに動いた。共産党の一党支配体制を生かし、公安を動員した感染者や濃厚接触者の徹底的な追跡や厳格な隔離によって、感染者を大幅に抑えてきた。

2020年は経済にもプラスに働き、同年の国内総生産(GDP)成長率は前年比2.91%のプラス成長を維持している。20年の名目GDPはシンガポール、マレーシアを上回り、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国の4位に躍進した。

4月末の時点では累積の感染者は3千人に満たなかったが、後に明らかになるデルタ型のウイルスが状況を一変させた。感染拡大の発端は海外から入国した外国人の隔離ホテルとみられている。感染者はすぐに全土に広がった。

濃厚接触者も例外なく隔離施設に強制収容する得意の防疫策をすぐに実施したが、デルタの猛威の前に歯が立たず思うように機能しなかった。

ホーチミン市では8月23日から食料品を購入するための外出も禁止され、監視を強めるため軍隊が動員された。政府はワクチンに頼らずともコロナを封じ込めた過信から「結果として情勢を見誤った」(外交筋)とみられている。

同国の人口は1億人弱。ASEANでインドネシア、フィリピンに次いで人口が多い。人口が多い国での頼みの綱は相対的に入手がしやすい中国製ワクチンだが、ベトナムは南シナ海の領有権問題を抱えており、中国製への依存は国民の反発が強い。

一方で欧米製のワクチンの大量調達には時間がかかっており、ワクチンの接種完了率はASEAN最低水準の2%程度にとどまっている。

政府は現在、感染拡大が続くホーチミン市を中心とした南部に優先的にワクチンを配分している。経済の中心である同市の復興を急ぎつつ、21年4月までに国民の7割にワクチンを接種したい考えだ。

企業自らワクチンを確保することも奨励しているが、世界的なワクチン不足が続いており、調達は全般的に後ろ倒しになっている。目標の達成には高いハードルがある。

ベトナムは1月に5年に1度の共産党大会で党や政府幹部の刷新を決め、新内閣が正式に発足する4月まで政治的な空白が生じた。そのため、海外企業とのワクチン交渉が進まなかったと指摘する声もある。

政府は21年に6.5%の経済成長を掲げているが、ワクチン接種の遅れで外出禁止などの厳しい防疫を当面は継続せざるを得ない状況だ。高成長維持の足かせになるだけでなく、国民の不満もじわじわ高まっている。共産党や政府は難しいかじ取りを迫られている。【8月30日 日経】
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【ホーチミン市 食料買い出しも禁止 兵士がコメ、肉、魚、野菜を届ける】
感染拡大の震源地となっている南部の最大都市ホーチミン市(旧サイゴン)では、8月23日からはそれまで以上の厳格なロックダウンが実施されています。

それまで例外として認めていた生活必需品を購入するための外出も原則禁止となりました。このため、政府は市内に軍兵士を投入し、市民の食料品調達を請け負い、配達しています。

でも、ホーチミン市の人口は約900万人・・・すべての市民の食料品調達を兵士が行うなんてことが本当にできるのでしょうか・・・。

****ベトナム厳格な都市封鎖、ホーチミンに軍派遣 食料買い出し禁止****
ベトナム政府は23日、新型コロナウイルス流行の震源地となっている最大都市ホーチミン市で厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施するため、軍隊を派遣した。

同国の累計の感染者は34万8000人、死者は少なくとも8277人。昨年の大半の期間は、感染が抑制されていたが、感染者は足元で過去最多を記録。感染者・死者の大半を占めるホーチミン市とその周辺の工業地帯では、4月下旬以降、デルタ株の流行で感染が急増している。

ベトナム政府は7月初旬にホーチミンに移動制限を導入したが、感染拡大に歯止めがかからず、制限措置の施行が不十分との見解を示していた。

政府は20日、今月23日からロックダウンを厳格化すると発表し、食料の購入も含めて外出を禁止、軍が市民を支援すると説明していた。

その後、計画は修正され、一部の地域では食料の買い出しが認められたが、その後一転して全面禁止となり、週末はパニックに陥った顧客でスーパーマーケットが混乱した。

目撃者によると、23日には兵士が市民に食料を届けており、国営メディアは、武装した兵士が検問所で書類をチェックする映像を流している。

保健省によると、ホーチミンの累計感染者は17万6000人、死者は6670人で、感染者は国内全体の50%、死者は80%を占めている。

政府は、医療体制の逼迫を緩和するため、ここ数週間で医師・看護師1万4600人をホーチミンと近隣の州に追加派遣。軽度か無症状の患者は自宅隔離を求められている。

ホーチミン市内の住民がロイターに明らかにしたところによると、兵士からはコメ、肉、魚、野菜が届けられた。
政府は20日、国家備蓄から13万トンのコメを放出し、ホーチミンなどに届ける方針を示した。

同国でワクチン接種を完了した人は、人口の1.8%にとどまっている。【8月23日 ロイター】
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首都ハノイでもロックダウンが続いており、感染が確認された地区は路地も封鎖されています。

****身近な物で即席バリケード 都市封鎖のベトナム首都ハノイ***
ベトナムの首都ハノイでは、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、竹ざおやビールの空き箱、はしご、壊れた椅子といった身近な物で即席のバリケードが作られている。
 
ハノイではロックダウン(都市封鎖)が1か月以上続いているが、1日当たりの新規感染者数には変化が見られない。移動制限は強化され、細かく分けられた区域間の往来は非常に難しくなっている。

「刑務所に住んでいるみたいだ」と、ホー・ティ・アンさんは話す。
アンさんの住む区域で感染が確認されて以来、自宅に続く路地がすべて封鎖され、誰も出入りができなくなった。家族が3日に一度、食料を持ってきて、周辺を取り囲む鉄製バリケードの下に置いて行ってくれる。
 
ハノイの1日の感染者数は50〜100人と比較的落ち着いている。だが、経済の中心地、南部のホーチミンの1日の新規感染者数は数千人、死者は数百人と深刻化しており、ハノイでも感染が拡大するのではないかとの不安が広がっている
 
ベトナム全体ではこれまで、1万1000人以上が死亡している。 【9月3日 AFP】
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【無理がある「工場隔離」 世界のサプライチェーンにも影響】
こうした厳しい状況のもとでも何とか生産活動を維持するため、従業員が工場に寝泊まりしながら働く「工場隔離」が行われています。

しかし、やや無理があるとも思われるそうした対策は限界に達しており、「脱中国」の受け皿となってきたベトナムの生産活動の停止は世界経済にも影響を与え始めています。

****「工場隔離」限界、ベトナム暗転****
「脱中国」を志向する製造業の受け皿になってきたベトナムが、感染力の強い新型コロナウイルスのデルタ株の広がりで、世界的な部品供給網のリスクになり始めた。背景には、ワクチン接種の遅れから、感染封じ込めの切り札として導入された「工場隔離」がある。
 
「ほかにも私たちみたいな会社はありますか? 『工場隔離』の追加手当は1日2万ドン(100円)」
ハノイ郊外の工業団地にある日系電子部品メーカーの工場で働くヒウさん(34)は8月9日、フェイスブックでこう問いかけた。

3日後、工場のコロナ対策として、従業員が寝泊まりしながら働く工場隔離が始まることになっていた。いつ家に帰れるかは分からない。迷った末の行動だった。
 
「手当が安すぎる。他の仕事を探した方がいい」「会社も今は厳しい。働けるだけマシ」。多くのベトナム人から賛成や反対の意見が相次いだ。
 
しかし、実はヒウさんに選択肢はなかった。タクシー運転手の夫はコロナによるロックダウン(都市封鎖)で失業中。小学生の息子が2人おり、収入がなければ暮らせない。「家族から離れて働くなんて誰もやりたくない。でも今はやらざるを得ない。子どもに会えないのがとにかく寂しい」。隔離を始めて数日後、そう打ち明けた。
 
世界で新型コロナの感染が拡大した昨年、ベトナムは感染者数を抑えて、世界保健機関(WHO)からコロナ対策の「優等生」と称賛された。

しかし、今年4月末からデルタ株の蔓延(まんえん)で感染が急拡大。7月に入って最大都市ホーチミンがある南部で連日、数千人規模の感染者が報告されるようになった。そこで政府が導入を決めたのが工場隔離だ。感染地域の工場は、従業員が敷地内などの特定の宿舎に寝泊まりして働くことが操業の条件となった。

 ■足りぬ寝具や食料、ワクチンも進まず
ところが数百人分の宿泊場所や寝具、食料を確保できず、操業停止に追い込まれる工場が相次いだ。操業できても、従業員を通常の半分以下に減らして稼働率が大幅に下がった工場は少なくない。

スマホアプリのTikTokでは、工場内に敷いた段ボールやテントで眠る様子を撮影し、「家に帰りたい」「コロナが怖い」と訴える動画が拡散している。企業からも「従業員はもう限界だ」との声が出ている。
 
一方、感染者ゼロを前提としたベトナムの工場隔離政策が、世界的なサプライチェーン(部品供給網)を寸断するリスクを顕在化させ始めた。
 
ベトナム保健省によると、韓国のサムスン電子は7月中旬、ホーチミンにある16工場のうち3工場で感染者が確認され、操業停止を余儀なくされた。ナイキやアディダスのスポーツシューズを製造し、5万人以上を雇用する台湾の宝成工業は工場隔離に対応できず、1カ月以上操業できていない。
 
ベトナム繊維協会によると、衣料品工場の3割が操業を停止した。大半は中小企業で、宿泊施設や食料の資金を確保できない。仕事を失った労働者が都市部から故郷に帰る動きも目立つ。
 
政府のやり方に対する異論も産業界などから出ている。地元メディアによると、食品業界の関係者が視察に訪れた政権幹部に対し、「工場隔離は機能しない」と訴えたという。社会主義体制のベトナムでは異例のことだ。
 
ベトナムで新型コロナの感染が下火にならない理由の一つに、ワクチン接種の遅れがある。WHOなどが主導する国際的な調達の枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」を中心にワクチンを確保する戦略だったが機能せず、2回の接種を完了した人は人口の約3%にとどまる。

日本や欧米、中国から提供を受け、南部の住民を優先して接種を急いでいるが、欧州の外交関係者は「当初、感染封じ込めがうまくいき、ワクチン確保の優先順位が下がった面もある」と指摘する。
 
昨年は新型コロナの感染拡大が中国から始まったことで、過度な中国依存への警戒感が強まった。米中貿易摩擦への懸念もあって生産を移す動きも目立ち、ベトナムは「脱中国」の受け皿として世界のサプライチェーンの中で存在感を高めていた。
 
それだけに生産の停滞をめぐる危機感は強く、有名ブランドなど1千社でつくる米国アパレル・フットウェア協会は7月下旬、バイデン大統領にベトナムへのワクチン支援を求める手紙を送った。ベトナムは衣料品輸入の2割を占めており、「米国のアパレル産業の成功がかかっている」と訴えた。
 
今回の混乱を受け、すでにアップルやグーグルがベトナムで計画していた新製品の製造を中国に戻したという報道も出ている。ベトナムは製造業を中心に外国からの投資を呼び込むことで急速に発展し、2019年までの5年間は国内総生産(GDP)の成長率が平均6・7%を超える。だが、世界銀行は8月下旬、21年の成長率の予想を6・8%から4・8%に引き下げた。
 
ホーチミン食品協会のリ・キム・チ会長は「このままでは受注や投資の機会を失う。政府は現実を受け入れて柔軟に対応するべきだ」と主張する。

 ■日本企業は大打撃、生産国移す動きも
ここ数年、ベトナムに生産拠点を集めてきた日本企業も大きな打撃を受けている。トヨタ自動車は8月19日、感染拡大によりベトナムなどで部品の生産が滞った影響で、9月の世界生産を約36万台減産すると発表した。
 
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本のワイヤハーネス(組み電線)の輸入先はベトナムがトップで4割を占める。他にもモーターや自動車シートなど様々な日系メーカーの工場が全国にあり、トヨタ以外の自動車メーカーにも波及する可能性がある。
 
日系企業の中には、ベトナムより感染対策の規制が厳しくないタイや中国に生産の一部を移す動きも出ている。
 
ホーチミン日本商工会議所の水嶋恒三会頭は「工場隔離を続けたままでは経済が立ちゆかなくなる。対応を誤れば、築き上げた生産拠点としての魅力が失われ、長期的には『ベトナム離れ』を招きかねない」と危惧する。

 ■(point of view 記者から)まず守るべきは、現場の人
「コロナ禍で生活費を稼ぐためには仕方ない」。工場隔離について最初はそう思っていた。しかし、取材を通じて考えが変わった。家族に会えずに働くベトナム人が支えているのは、大量の生産と消費で成り立つ先進国の経済であり、その恩恵を受ける私たちだ。
 
状況を改善するにはワクチン接種を進めるしかない。しかし、ベトナムはワクチンの確保に苦労しており、接種を完了した人は人口の3%にとどまる。一方で、先進国では、世界保健機関(WHO)の反対にもかかわらず、3回目接種の実施や準備が進む。
 
日系企業では管理職の日本人も工場内にとどまっている。「現場で働き続けている人たちは精神的にも肉体的にも限界だ」というホーチミン日本商工会議所の水嶋恒三会頭の言葉が重く感じられる。
 
サプライチェーンを守るということは、現場で働く人たちを守ることだとあらためて実感した。【9月5日 朝日】
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ひとつだけ付け加えておくと、ベトナムを観光旅行しても社会主義国のイメージが全くありませんが、政府批判は許されない国です。新型コロナ対策でも同様でしょう。

****ベトナム、反政府ブロガーに長期禁固刑*****
「ベトナム共産党」による1党独裁政治が続く東南アジアのベトナムは、体制維持のために報道統制を強め、事実上の報道管制体制を敷いており、政府寄りの報道機関以外は公式には存在を許されていない。

そんな中でも当局の警戒監視、身柄拘束などの危険を覚悟でベトナム共産党の問題点を告発する報道関係者や個人での情報発信者がインターネット上のSNSなどを通じて懸命にベトナム政府の人権問題や政治犯問題、国内経済問題、土地収用問題、環境破壊問題などに言及して、国際社会を含めた内外に実態を伝える努力をしようとしている。

そんな中、7月19日と20日にSNSで情報発信を続けていたブロガー2人が裁判所から禁固9年と同5年の実刑判決を受けたことが明らかになった。

フランス・パリに本拠を置く国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」が毎年公表している「報道の自由度」の2021年の結果でベトナムは180カ国中、175位と低く評価されている状況が続いている。東南アジアショック連合(ASEAN)加盟10カ国でもベトナムの評価は最低となっている。(後略)【7月30日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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