孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  17日から下院選挙 「国民に支持されている」という政権の正当性を演出するための儀式?

2021-09-04 22:33:48 | ロシア
(モスクワで8月14日、下院選での反与党投票を呼びかるプラカードを掲げて警察に連行される男性=AP【9月4日 朝日】)

【かつてないほど自由が失われ、政権の正当性を演出するための儀式と化したロシアの選挙】
ロシアでは今月17日から19日に下院選挙が行われます。

前回2016年は、選挙前に選挙制度を改正し、比例代表制から小選挙区比例代表並立制に変更。これにより与党「統一ロシア」小選挙区で圧勝し、前々回選挙とほぼ同じ得票率にもかかわらずより多くの議席を占有することができました。

その後、与党「統一ロシア」の支持率は低迷しており、下記記事のように、議会の過半数を死守することは確実なものの、比例区での不振による議席減を予想する向きもあります。

****議席の減少が見込まれる与党・統一ロシア ****
9月17日から19日まで、ロシアで総選挙が行われる。下院(国家院)の定数は450議席、小選挙 区比例代表制度で議員が選出される。

最大の注目点は、前回2016年の総選挙で343議席(定数の 76%)を獲得したプーチン大統領が率いる与党・統一ロシアが、議席をどの程度守ることが出来るかにある。

前回2016年の総選挙で、統一ロシアが獲得した得票率は54.2%と前々回(2011年)とほぼ同じ であった。しかしながら小選挙区225区のうち203の選挙区で勝利したため、比例区で得た140議 席と合わせて統一ロシアは343議席を獲得し、前々回(238議席)から議席を大幅に積み増すこと ができたという経緯がある。

その後、統一ロシアの支持率はプーチン大統領に対する有権者の不信感から低下し、世論調査 機関である FOM(世論基金)が8月8日に公表した世論調査によれば、最新の支持率は29%と低 迷している。

とはいえ第二位のロシア共産党の支持率も11%に過ぎず、統一ロシアを脅 かすまでには至っていない。 

今回の総選挙でも統一ロシアは、小選挙区では支持者が多い地方を中心に相応の議席を獲得す ると予想される。一方、比例区では支持率の低下を反映して厳しい結果を余儀なくされるだろう。 

議会の過半数を死守することは確実とみられるが、統一ロシアは議席の減少をどれだけ食い止め ることができるだろうか。【8月20日 三菱UFJリサーチ&コンサルティング】
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まあ、現地情報を有している機関の予測ですから、そうなのかもしれませんが、プーチン大統領は下院選に向けて反政府候補の排除、野党に対する弾圧、有権者支持層への資金バラマキなどなりふり構わぬ対策を講じており、本当に与党の議席が減るのか疑問も感じます。

もはや選挙は「民意の反映」ではなく、「国民に支持されている」という政権の正当性を演出する、大半の国民にとって無意味な儀式と化してしまった感もあります。

*****プーチン政権批判派の弾圧、加速 ロシア下院選、17~19日****
任期満了に伴うロシア下院選(定数450)が17~19日、行われる。プーチン政権は2024年の大統領選をにらんで反政権派を締め付けており、かつてないほど選挙の自由が失われている。
実質21年の長期支配でライバルを排除してきた政権が、なぜ弾圧を加速させているのか。
 
先月17日午後10時過ぎ、モスクワにある会社経営者(50)の男性の自宅で玄関のブザーが鳴り響いた。
男性は不在で、妻は既に寝ていたが、ブザーは鳴りやまない。ドアを開けると、警察官2人がたずねた。「夫はナワリヌイの支持者か?」

驚いた妻は男性に電話。「何も話すことはない」と男性の言葉を伝えると、警察官は「また来る」と言って去ったという。

アレクセイ・ナワリヌイ氏は政権批判の急先鋒(きゅうせんぽう)。2月に詐欺の罪で収監され、同氏が率いる「反汚職基金」など3団体も6月、違法な「過激派組織」に指定され、解散や活動停止に追い込まれた。

人権団体OVDインフォによると、今春、ナワリヌイ氏の関連団体のサイトから十数万人もの支持者のメールアドレスが漏出。選挙の1カ月前から被害者宅への警察官の戸別訪問が1千件以上確認されたという。(中略)

メディアでも4月以降、ネットテレビ「ドーシチ」など6社が「外国エージェント」に指定され、外国の資金援助を受けているとして活動を制限された。ロシアでは「外国の手先」と受け止められる言葉だ。

以前は「ボイス・オブ・アメリカ」など外国の政府・機関が関わるメディアが主な対象だったが、今年から国内の独立系メディアも標的になった。国営メディアが政権のプロパガンダを流す中、政権批判を続けてきたが、企業が一斉に広告を引き揚げており存続の危機に直面している。

 ■無所属での立候補、163人認めず
9月の下院選は、36年までのプーチン大統領の続投を可能にした昨年の憲法改正後、最初の国政選挙。与党「統一ロシア」の圧勝は政権の最優先課題だ。

プーチン氏は00年の就任後、ソ連崩壊後の混乱からの脱却を期待した国民の高い支持を受けた。しかし、野党への締め付けも強め、リベラル系政党は07年以降、下院の議席を得られていない。現在は74%を占める統一ロシアのほかは「体制内野党」の3党だけだ。

それでも下院選を前に独立系候補は軒並み排除された。ロシアメディアによると、無所属で立候補を表明した174人のうち中央選管が出馬を認めたのはわずか11人だった。

「体制内野党」の共産党で比例名簿3位だったパーベル・グルジニン氏も未申告の保有株があるなどとして立候補を却下された。同党は政権への不満を吸収する一方、主な政策は政権に同調し、実質的に体制を支えてきた。最近、支持率が伸びていることが警戒されたとみられている。

一方、結果の見えている選挙に関心は高まらず、世論調査で投票に「必ず行く」と答えた人は約50%にとどまる。経済学者のウラジスラフ・イノゼムツォフ氏は先月19日、「投票することは、政権の正当化に手を貸すだけだ」と、国民にボイコットを呼びかけた。

 ■「体制維持、国民が支持」演出狙う
与党の勝利が間違いないのに政権が弾圧を強める背景には、次の大統領選をまたいで平穏に体制を継続する狙いがあるとみられる。

プーチン氏の支持率は60%台を維持するが、政権の長期化や汚職の蔓延(まんえん)、実質賃金の低下などへの国民の不満から、統一ロシアは先月、26%台まで下がった。

プーチン氏は24年の大統領選への態度を明言しておらず、立候補の可能性は低くない一方、後継者を指名して「院政」を敷く可能性も指摘されている。ただ、どちらも治安機関出身者らが支配する「プーチン体制」維持が大前提。

体制が揺らげば欧米の介入を招き、「アラブの春」のような政変につながるとの懸念もある。体制内の動揺を防ぐには、議会で一強を維持し、「国民に支持されている」という政権の正当性を演出する必要がある。

モスクワのシンクタンク「政治情報センター」のアレクセイ・ムヒン所長は「『移行期』の議会は、政権のシステムの一部でなければならない」という。

体制の維持は、国民の高い支持を背景に、ソ連崩壊で失墜したロシアの威信回復に注力してきたプーチン氏の外交にも影響する。

ウクライナのクリミア半島を一方的に併合。シリア紛争に軍事介入してアサド政権を支え、アフガニスタンで実権を握ったイスラム主義勢力タリバンとも関係を築いてきた。欧米との対立を深める一方、存在感は着実に増しており、「強いロシア」を維持するためにも、強固な国内基盤が不可欠になる。【9月4日 朝日】
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“欧米との対立を深める一方、存在感は着実に増しており”・・・とは言っても、強権支配の色を濃くしたロシアは、「プーチンによるプーチンのための強権支配国家」に堕ちつつあり、もはや世界をリードする立場にありません。

****ロシア下院選の後に来るもの 遠のく大国、強まる閉塞感****
ロシアで9月17~19日、下院選が実施される。1強体制を築いたとはいえ、プーチン大統領にとって議会は自らの権威付けや次の大統領選をにらみ重要だ。

一方、大半の国民にとって選挙は無意味な儀式と化してしまった。

「新議会にこれらを支持するようお願いする」「経験豊かな人々により立法活動が継続される必要がある。もちろん若い世代の登場も重要だ」――。8月24日、プーチン氏は与党「統一ロシア」の党大会で演説し、選挙後に優先する政策を示した。その姿はすでに勝利が決まっているかのように余裕に満ちていた。

与党の支持率は低迷している。8月の世論調査では27%にすぎない。2位の共産党(16%)を上回っているが、不本意な数字だろう。なのにこの自信はどこから来るのか。

前回2016年の下院選で、比例代表制から小選挙区と比例代表で半数ずつを選ぶ方式となった。この結果、小選挙区は与党の強みを生かし大勝し、全体では450議席のうち343議席を得た。

今回も抜かりはない。毒殺されかかったことで世界的に注目を集めた反体制派指導者ナワリヌイ氏は収監されたまま。6月には同氏の支援団体を新法で過激派組織と認定し、選挙活動をできなくした。

ロシアでの公正な選挙を目指す団体「ゴーラス(声)」によると、下院選に出馬できなくなった人は約900万人と有資格者の8%に及ぶ。さらに政権側が選挙を有利にするため、16年の下院選以降、選挙関連法が少なくとも19回改正されたという。

野党陣営が仕掛けたネットを利用した戦術も使えなくなる見通しだ。これは、有力な野党候補の出馬が認められないなか、残る野党候補のなかから資質や能力に関係なく1人を選び、投票を呼びかけるというもの。与党候補を落選させることだけが目的で、事前に当局に邪魔されないよう投票日直前に一斉にメールで有権者に知らせる手法だ。

19年のモスクワ市議会選では統一ロシアの議席を3分の1近く減らすなど奏功したが、政権側は今年6月、サイトの閉鎖を要請した。

一方、新たに投票権を得るのが、親ロシア派が支配するウクライナ東部のロシア系住民だ。プーチン政権は19年から彼らにパスポートを支給し「ロシア化」を進めているが、今回投票を認めるという。ロシア内務省によると、その数は52万人強に達する。

「現代ロシアで最も自由がない選挙」。ゴーラスがこう指摘するほどの徹底ぶりだ。プーチン氏は20年に憲法を改正。24年の大統領選に出馬し、最長36年まで君臨する道を開いた。再び憲法を改正する状況が来るかもしれない。それに必要な議席は最低でも確保し、できれば現状から上乗せする腹づもりだ。

選挙後は権威主義的傾向が強まることが予想される。今回、党の顔とされる比例区のトップにショイグ国防相、ラブロフ外相らが起用された。前者は国民の信頼が厚い軍で確固たる地位を築き、後者は西側への強硬発言で国民の人気が高い。前回選挙で比例区トップだった学者肌のメドベージェフ前大統領から代わり党のムードも変化しそうだ。

それは新たな与党候補の顔ぶれにも表れている。18年に米国で未登録で工作活動していたとして有罪となった女性、強硬発言で有名な評論家、ウクライナ東部の分離主義者の元指導者……。プーチン体制の申し子らが加わった。

一方で、国民に選挙への熱気や期待感はない。既存の野党は「体制内野党」で、政権と真っ向対立することはない。ライバルなき選挙は、ソ連時代に共産党候補しか事実上、立候補できなかった最高会議の投票のようなものだ。

その最高会議は党の決定を追認するだけの存在だった。いまの議会もプーチン体制を支えるためにあるといっても過言ではない。選挙後さらにお飾り感が増すのは確実だ。

ソ連時代、大半の最高権力者は死ぬまでその座にとどまった。プーチン氏も踏襲するのか。先祖返りしているロシアだが、同氏の思惑とは裏腹にもはや大国の面影はない。かつてと似ているのは国内を覆う停滞感と閉塞感だ。【8月31日 日経】
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【選挙監視団体の活動制限、支持層への資金バラマキも】
プーチン政権の総選挙勝利に向けた取り組みには下記のようなものも。

****ロシア、選挙監視団体スパイ認定 下院選前に活動制限の狙い****
ロシア法務省は18日、独立系の選挙監視団体ゴロスを「外国の代理人として活動する非登録組織」リストに掲載したと発表した。ロシアで「外国の代理人」はソ連時代からスパイ組織に使われてきた呼称。
 
9月中旬の下院選を前に、過去の選挙でプーチン政権与党「統一ロシア」側の不正を暴露して市民の抗議デモを招いたゴロスに信用をおとしめるレッテルを貼り、活動を制限する狙いがあるとみられる。
 
インタファクス通信などによると、アルメニア人から資金提供を受けていることが認定理由とされた。ゴロスの共同代表は18日「有権者の権利擁護のため活動を続ける」と表明した。【8月19日 共同】
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不正が露見しないように・・・ということでしょうか。
支持層にはバラマキで懐柔。

****ロシア、物価対策で軍職員と年金受給者に一時金支給へ=大統領****
ロシアのプーチン大統領は、今年のインフレ率が予想を上回っている状況への対策として、政府が年金受給者と軍職員に一時金を支給すると表明した。ロシア通信(RIA)が報じた。

11月の議会選に向け、食品価格上昇は大統領府(クレムリン)にとってデリケートな問題となっている。

RIAによると、大統領は与党・統一ロシア指導部に対し、インフレ率は予想の4%を上回る6.5%に達しており、対応するには現状の賃上げ計画では不十分と指摘。「当然、一部の集団の所得を拡大する必要がある」と述べた。

具体的には、軍職員には1万500ルーブル(202ドル)、年金受給者には1万ルーブル支払われるという。【8月23日 ロイター】
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【収監中のナワリヌイ氏】
反政府抗議行動を組織し、プーチン大統領の存在を脅かしかけた野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は依然獄中にあります。

****ロシア当局、収監中のナワリヌイ氏をデモ呼びかけで訴追…刑期延ばす狙いか****
ロシア連邦捜査委員会は11日、刑務所に収監している反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が、「国民の人格や権利を侵害する団体」を創設し、今年1月に反政権デモを呼びかけたとして、刑事訴追したと発表した。有罪の場合、最高刑は禁錮3年で、ナワリヌイ氏の刑期を延ばす意図があるとみられる。
 
連邦捜査委は、ナワリヌイ氏が2011年にプーチン政権の不正を追及するため創設した「反汚職基金」を問題視した。裁判所は今年6月、この団体を「過激派組織」に認定し、国内での全活動を禁止した。
 
ナワリヌイ氏は今年2月、過去の詐欺事件を巡る執行猶予が取り消され、2年6月の禁錮刑に服している。連邦捜査委は、反汚職基金などに寄せられた寄付金をナワリヌイ氏が私的流用した容疑についても捜査に着手している。【8月12日 読売】
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****まるで中国の強制労働収容所 ナワリヌイ氏、初の獄中インタビュー****
(中略)ナワリヌイ氏は、首都モスクワから東に約100キロ離れたポクロフの収容所に収監されている。
 
25日付の米紙ニューヨーク・タイムズに掲載されたインタビューの中で、ナワリヌイ氏は旧ソ連の収容所「グラグ」での強制労働の時代は終わり、代わりに洗脳とプロパガンダによる「心理的暴力」が行われていると語った。
 
(中略)「中国の強制労働収容所のようなものを想像する必要がある。皆が一列になって行進し、至る所に監視カメラがある、常時管理されており、密告の文化がある」と語った。

受刑者は監視下で国家のプロパガンダを何時間も見せられ、何かを読んだり書いたりすることは許されず、眠ると起こされるという。
 
ナワリヌイ氏はプーチン政権の将来について、楽観的な見方を示し、いつかは終わると主張した。「遅かれ早かれ、この過ちは正され、ロシアは民主的で欧州的な発展の道を歩みだす。国民が望んでいるというだけのことだ」
 
一方、欧米諸国によるロシア制裁については、権力者ではなく庶民にダメージを与えるものだと再度批判した。
また、他の受刑者らから暴行を受けたことはなく、一緒に食事を作るのは「楽しい」とさえ語った。 【8月26日 AFP】
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【これで与党勝利なら、それはロシア民主主義が終焉した証】
一方、ロシアでは新型コロナで月に5万人以上が死亡する状況となっています。

****ロシア、7月の新型ウイルス死者5万人超か 政府発表の2倍以上****
ロシア連邦統計局は27日、同国の7月の新型コロナウイルスの死者数は5万421人だったと発表した。これは政府発表の2倍以上に当たる。
 
政府の発表では先月の新型ウイルスの死者数は2万3349人とされており、統計局の発表は被害の状況がずっと深刻であることを示している。
 
政府統計は、検視後に新型ウイルスが死因だと確認された死者のみを対象としている。一方で統計局は、より広い定義で死者数を公表している。同局によると、ロシアではこれまでに35万人以上が新型ウイルスが原因で死亡。政府は、これよりずっと少ない18万41人だとしている。
 
ロシア当局はこれまで、感染拡大の影響を軽視していると非難されてきた。当局は新型コロナウイルスワクチンに懐疑的な人への対応に苦慮しており、民間の調査によると国民の大半が接種の予定はないと答えている。 【8月28日 AFP】
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こうした状況でも、与党が勝利する、あるいは大きく議席を減らすことはなかった・・・ということであれば、それは国民から支持されたのではなく、ロシアにおける民主主義が死につつあるからに他ならないからでしょう。
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