孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  不動産大手「恒大」の経営難を習近平政権は救済するのか? 「文革」の“生贄”とするのか?

2021-09-17 22:08:28 | 中国
(中国恒大グループ本社(左)と中国恒大グループ本社前で座り込む女性(右)(GETTY IMAGES)【9月17日 HUFFPOST】)

【放漫経営が招いた不動産大手「中国恒大グループ」の苦境】
中国不動産市場の「バブル」状態の危うさはかねてより指摘されていた問題ですが、中国広東省深セン市にある不動産大手「中国恒大グループ」の経営が行き詰っていることで、いよいよバブルがはじけるのでは・・・とも言われています。

「中国恒大グループ」は中国の不動産バブルに乗り、積極的な投資攻勢で成長。海外の有力選手も所属したプロサッカーチーム「広州恒大」など手広く事業を拡大しましたが、日本円にして9兆円を超える有利子負債を抱え、経営難にあえでいます。【9月17日 HUFFPOSTより】

下記は、恒大の破綻は野放図な事業拡大によるもので、不動産市場への影響は限定的であり、“バブル崩壊”云々の問題ではないとする考えです。

従って、政府の救済策も“モラルハザード”を考えると、安易には実施されないだろうとも。

****「中国恒大」問題とは?9兆円超す有利子負債を抱える巨大企業、破綻したらどうなる【一から解説】****
(中略)
■投資攻勢で成長
恒大グループは1996年に中国・広州市で創業した不動産開発大手だ。

中国では日本と違い、土地はすべて国が所有することになっている。国は地方政府を通じて恒大のような開発業者などに土地の「使用権」を販売し、業者がマンションなどを建設。土地の使用権と建物の所有権をセットにして個人や企業へ売るのが一般的な流れだ。

地方政府にとってみれば、この使用権を売り払った収入が貴重な財源になっている。

恒大はいわゆる不動産バブルに乗り、銀行などから融資を受けて積極的な投資を続け、2020年には中国物件販売面積で第2位となった。

金の元手は銀行からの借り入れだけではない。資産運用商品である「理財商品」も販売した。「理財」とは中国語で資産運用を指し、中国恒大に金を貸す代わりに得た債権を金融商品化したものだ。

一般的には短期間で償還され利回りも高いものが多い(つまり、上手くいけば短期間で割りの良い儲けを得られる)とされるが、元本が保証されないものもある(大和証券)。

恒大は投資の対象を不動産事業以外にも広げる。電気自動車やヘルスケア、それに映画制作や日本のサッカーファンにも耳馴染みのある「広州恒大」などだ。創業者の許家印(きょ・かいん)氏はアメリカの経済誌Forbes(中国語版)の長者番付で中国トップに輝いたこともあった。

■銀行は不良債権抱えるが...
その恒大は今、負債に苦しんでいる。発表によれば、有利子負債(利子をつけて返すべき負債)は約5718億元(9.7兆円/21年6月末時点)まで膨らんでいる。

その理由はなぜか。過熱した不動産バブルが弾け価格が暴落したのかといえば、そうではない。
中国の不動産市場は活況だった。新型コロナ対策の一環として、政府が金融緩和(市場に出回る金を増やす効果がある)をすると、投資マネーが不動産市場に流れ込み、コロナ禍にあえぐ中国経済全体の成長を支えた。

一方で中国政府は「住宅は住むものであり、投機の対象ではない」というスローガンを掲げている。元は習近平国家主席の言葉だ。

そこで、不動産投資を抑制する政策を相次いで打ち出しているのだが、依然としてバブルは崩壊していない。政府が15日に公表した統計によると、今年1月から8月までに不動産投資に流れた金は、前の年と比べて10.9%増加。住宅価格自体も、伸び率こそ鈍化しているが上昇しているのだ。

「住宅はよく売れている状況です。政府の価格抑制策が悪い方向に影響したとか、バブル崩壊といった構図ではありません」中国経済に詳しい大和総研の齋藤尚登・主席研究員はそう指摘する。2015年12月から、中国の住宅価格の平均値は一度も下落していないという(70都市/対前年同月比)。

では、苦境の原因はどこにあるのか。
「恒大は電気自動車など幅広い事業に手を出しましたが、膨大な初期投資が必要でした。その資金を銀行やノンバンク、海外で社債を発行することで得たのですが、その後始末に困っているのが現状です。“野放図に事業を拡大させた巨大民営企業がデフォルトを起こしそう” それ以上でも以下でもないと思います」

デフォルトとは債務不履行のこと。利息をつけて返すべき金が払えなくなったり、遅れたりすることで、齋藤さんは「そうなる可能性は高い」と分析している。

今回の問題で注目されているのは、中国政府の対応だ。国内屈指の不動産大手が経営破綻などに追い込まれた場合、国内経済全体への影響が危惧される。政府として救済措置を取るかどうかは焦点の一つだ。

「安易には救わないと考えます。元はと言えば放漫経営が招いたものですし、経営方針の誤りからデフォルトが起きるということ自体はどこにでもあります。その度に政府が助け舟を出せばモラルハザード(危機意識が薄れること)になります。デフォルトをしたら投資家が責任を被るのは当然で、(政府に)損失補填を求めるのはおかしい。ハイリスク・ハイリターンなものに投資するということは、そういうことです」

しかし、仮に経営破綻などに至った場合、その影響は中国経済全体に広がることはないのだろうか。例えば恒大に金を貸し付けている銀行が多くの不良債権(約束通りの金が支払われず、価値が低下した債権)を抱え、影響が波及することはないのか。

「例えば銀行を見れば、2020年の中国銀行全体の純利益は1.9兆元です。対して恒大の有利子負債は5700億元で、この中には(銀行が貸主ではない)社債なども含まれます。銀行からすれば、純利益の数割かは吐き出すものの消化可能な数字です。金融システムに異常が出る(金融危機などに陥ること)とは思えません。銀行のウエイトが大きい上海総合株価指数の動きを見ても、マーケットは恐ろしい事態の予兆だとは捉えていません」

しかしその一方で、恒大1社だけの問題とも言えなさそうだ。例えば、不動産価格は下落リスクに晒される。また、負債率の高い他の不動産開発業者も資金調達がより難しくなる可能性もあるという。

「恒大は不動産を値下げして“投げ売り”していると聞きます。それが価格全体に波及することはあり得ます。しかし、大幅な下落が数年続く事態は避けるべきですが、中国では収入の増加よりも早いペースで住宅ローンの負担が上昇していますから、下がること自体は悪いとは言い切れません」

さらに海外の投資家らが保有する米ドル建ての債権についても「デフォルトリスクは高い一方で、過大に受け取る必要はありません。リーマン・ショックのような時代を変えてしまうようなイメージは全くありません」と指摘した。

恒大は13日の声明で破産や再編を「全くのデマ」と否定した一方で、「未曾有の危機にある」と認めた。今後は、負債を減らすために資産の売却などが加速する見込みだ。 【9月17日 HUFFPOST】
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“米国のヘッジファンドが恒大の債務を買い入れ、その他のポジションを手放す可能性があり、そうなればドミノ効果を生むことになるとしたほか、恒大の危機により外国人投資家の中国市場に対する興味が薄くなる可能性もある”【9月17日 レコードチャイナ】と、“ドミノ効果”を懸念する声もありますが、“経済的”な観点からが、その影響を限定的に見る向きが多いようにも思われます。

****中国・不動産大手危機、識者は 「中国経済の成長鈍化も」「日本企業への影響注視」****
(中略)国内大手証券の中国担当者によると、現時点では恒大集団1社の資金流動性の問題にとどまっているとみられている。会社側には売却できる資産もあるとされ、「直ちに経営が行き詰まるとは考えにくい」との見方がある。
 
「リーマン・ショック」のような世界的な経済危機につながることも市場では不安視されているが、この担当者は「過度に警戒する必要はない」と話す。中国政府が事態収拾のため、会社側と投資家との仲介をしようとしているという。(後略)【9月16日 朝日】
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【「脱虚向実」を重視する習近平政権が“荒治療”でのぞむ不安も】
個人的に関心が持たれるのは、“経済的影響”や“不動産バブルの行方”よりは、習近平版“文化大革命”とも取れるような国家・党による経済・文化・個人生活への統制・管理が強化される流れにあって、中国政府がこの急成長してきた巨大民間企業の苦境にどのように対応するのか? という点です。

下記は、かつての「大躍進政策」を彷彿とさせる習近平政権の無謀な「脱虚向実」路線からすれば、不動産産業は“最も望ましくない産業”であり、恒大の苦境に対しても、救済よりむしろ“荒治療”でのぞむ不安も・・・との懸念です。

****デフォルト危機の恒大集団、中国政府の対応に注目すべき理由****
中国の習近平指導部はこのところインターネット企業や営利目的の教育産業、不動産市場など広範な分野で締め付けを強めている。(中略)中国政府はなぜ経済の締め付けを強化しているのだろうか。

製造業が苦境で「脱虚向実」を再開
中国ウォッチャーの間では、中国政府が2017年に打ち出したスローガンに注目が集まっている。そのスローガンとは「脱虚向実」のことだ。「政策を通じて実体の伴わない業界を排除する」という意味である。

2017年当時の標的は不動産業界だった。中国政府は、資金が実物投資に回らずリスクの高い金融資産投資に投じられることを「脱実向虚(実体経済から脱し、非実体経済へと向かう)」と非難し、不動産バブルを抑制するための金融市場への規制強化を開始した。
 
(中略)実体経済の弱体化による産業の空洞化が失業問題の悪化と所得格差の拡大の元凶となる、との認識からだ。
 
その後、新型コロナウイルスのパンデミックで「脱虚向実」が唱えられることが少なくなったが、中国政府が「脱虚向実」を再開したのは製造業の苦境が念頭にある。
 
(中略)中国政府が製造業の今後に不安を抱いており、今回の「脱虚向実」は製造業の人件費を引き下げるために、重要ではないと判断する分野の労働力を製造業にシフトさせることが主な狙いだというわけだ。強権的な手法を用いて経営難に陥らせ、従業員を解雇せざるを得ない状況に追い込むという、いかにも中国共産党的な荒っぽいやり方だ。

望ましくない産業の労働力を製造業へ
1人当たりのGDPが上昇している中国ではサービス業が雇用の受け皿となっている。しかし政府のサービス業に対する姿勢は厳しい。
 
受験競争の激化で急成長した学習塾業界では1000万人もの人たちが働いていたが、中国政府の弾圧とも言える政策で壊滅的な打撃を被った。(中略)
 
コロナ禍の影響で急拡大したフードデリバリー業界も中国政府にとって疎ましい存在だ。政府が締め付けを強める最大手の美団が抱える出前スタッフの数は1000万人を上回るという。(中略)
 
中国政府が不退転の決意で「脱虚向実」を進めているようだが、3K仕事に就かなくなった現在の中国の若者たちに製造業の仕事を無理強いさせてもうまくいかないだろう。

恒大集団の危機、政府は荒療治に踏み切るのか
中国政府のこのような無謀な取り組みは、かつての「大躍進政策」を彷彿とさせる。
 
大躍進政策とは、中国の建国の父である毛沢東の指導の下、1958年から1961年にかけて実施された農業と工業の大増産政策のことだ。現実を無視した強権的な手法を用いたことが社会の大混乱を巻き起こし、中国国内で1500万人以上の餓死者が出るという悲劇の結末となった。

「脱虚向実」がもたらす悪影響でまず頭に浮かぶのは、長年懸念されてきた中国の不動産バブルがついに崩壊してしまうことだ。
 
中国政府の締め付けにより、不動産企業は1日当たり1社のペースで倒産している。不動産業界全体が苦境となりつつある中、中国第2位の巨大不動産企業である恒大集団への中国政府の対応に世界の注目が集まっている。

(中略)「最後の段階では中国政府は救済する」との見方があるが、「脱虚向実」の発想からすれば、不動産業界は最も望ましくないセクターだ。「製造業に余剰人員を提供するために荒療治に踏み切るのではないか」との不安が頭をよぎる。
 
恒大集団の債務危機は社会不安に発展する兆しを見せている。同社が手がけた住宅購入者や従業員などが同社に対する抗議デモが起きており、中国政府は監視の目を光らせている(9月13日付ブルームバーグ)。
 
恒大集団のデフォルトを契機に中国の不動産市場全体が壊滅状態になれば、中国共産党による統治の正統性が大きく揺らぐことになることは間違いない。不測の事態も起きてしまうのではないだろうか。【9月17日 藤 和彦氏 JBpress】
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【多少の混乱覚悟で「共同富裕」社会を目指す「文化大革命」のための生贄とする可能性も】
また、革命の原点に回帰し、社会主義的「共同富裕」を目指す習近平版「文化大革命」にあって、恒大集団創業者の“許家印は「三角帽」を被せられ市中を引きずり回され、群衆の怒りの矢面に立たされる役割を担わされるのではないか”との指摘も。

****習近平には好都合?破綻危機「恒大集団」を見殺しか****
改革開放と決別し、「共同富裕」社会を実現する「革命」の序章に

(中略)
政府は救済しない?
恒大集団のデフォルト危機に最終的にどう決着をくのかは、いくつかのシナリオが巷で流れている。
 
当初は、やはり最終的には国家が救済してデフォルトを回避する可能性を予測する声もあった。(中略)

「改革開放」と決別か
だがそういったこと(ドミノ倒産や深刻な失業問題や経済停滞現象)も含めて、習近平政権の期待するところなのかもしれない。
 
不動産バブル退治の荒療治は、習近平が掲げる社会主義初心への回帰、社会主義的「共同富裕」の理想という目標に通じる経済構造改革の一環であり、学習産業規制、芸能・エンタメ産業粛清などを含む昨今のあらゆる規制強化、指導強化、寡占禁止と連動した動きと考えていいだろう。

この動きを左派ブロガーの李光満は「変革」「革命」と呼んだ。革命ならば流血も混乱も犠牲も当然伴うだろう。
 
仮に恒大が破綻したとすれば、資産を失う投資家や富裕層は、その革命成就のために必要な犠牲、ということになる。

しかも、阿鼻叫喚の取り付け騒ぎで悲鳴を上げる人々の混乱は、月給1000元レベルの6億人に上る共産党の基層階級(労働者、農民)からすれば無関係、むしろ仇富心(金持ちを妬み恨む気持ち)が刺激され、「ざまあみろ」と溜飲を下げるかもしれない。習近平にすれば、中国経済の減速や、規制強化による息苦しさの不満の矛先を自分に向かわせないために、ちょうどよい「混乱」になるというわけだ。

こういう状況の中で、私は、許家印は「三角帽」を被せられ市中を引きずり回され、群衆の怒りの矢面に立たされる役割を担わされるのではないか、とみている。
 
恒大集団創業者の許家印は(中略)2017年、フーゲワーフ長者番付1位になり、総資産2900億元の中国一の大富豪になった。アリババ創業者・馬雲と並んで貧困から身を起こした成功者の象徴であり、まさに中国の改革開放の申し子なのだ。
 
しかも父親が抗日戦争に参加した英雄であり、本人も忠実な党員であり、2018年に全国政治協商委員にとなって政治にも参加。「恒大のすべてを党にささげる、国家にささげる、社会にささげる」と公言していた。
 
だが、だからこそ、習近平は許家印をターゲットにしたのだろう。貧農の出身とはいえ立身出世を遂げ、エルメスのベルトを締めて政治協商会議に出席する資本家の共産党員は、習近平の掲げる社会主義の初心の姿ではないのだ。

むしろ、習近平の政敵、江沢民の「3つの代表」論(共産党が先進的生産力、先進的な文化、最も広範な人民の利益を代表するという理論)を反映したものである。実際、許家印は習近平の天敵ともいわれる太子党の重鎮、曽慶紅ファミリーと親交が深い。

とすれば、恒大集団が破綻したとして、それは、単に中国バブル崩壊の序章にとどまらない。ポジティブな意味の不動産産業構造改革という話でもなかろう。

鄧小平以降の改革開放時代に区切りをつける象徴的な事象であり、改革開放時代を通じて資本家クラブに変貌していた共産党を、再び農民と労働者の党に戻し、富裕層からの富を奪い基層に分け与える社会主義的「共同富裕」社会を実現しよう、という「革命」の始まりと言えるかもしれない。
 
だが、それはすなわち、貧しく暴力的な階級闘争が吹き荒れた過去の混乱した時代、みなが等しく貧しい時代に中国が後退するということにはならないだろうか。【9月16日 福島 香織氏 JBpress】
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習近平政権がドミノ倒産や深刻な失業問題や経済停滞現象を敢えて覚悟してでも、「大躍進政策」を彷彿とさせる脱虚向実」、社会主義的「共同富裕」社会を目指す「文化大革命」を目指すのか、あるいは、恒大救済策で穏健なソフトランディングを目指すのか・・・習近平「中国」の今後を占う出来事になるかも。

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