孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  ガソリンスタンドに長蛇の列 トラック運転手不足から物流がトラブル

2021-09-29 20:31:27 | 欧州情勢
(英首都ロンドン近郊の高速道路脇にあるガソリンスタンドで、給油のため長蛇の列をつくる車(2021年9月26日撮影)【9月28日 AFP】)

【原因はトラック運転手不足 ブレグジット・コロナ禍が影響】
日本でも、かつてのオイルショック時のトイレットペーパー騒動、最近でもコロナ禍のマスク騒動など、商店の棚から品物が消えるという現象はたびたび経験していますが、イギリスからは連日ガソリン不足でガソリンスタンドに車の長蛇の列ができているという現象が報じられています。

救急車や病院、ケア施設関連の車両もガソリンが確保しにくくなり、健康や人命にも関わるおそれまで発生しているとのこと。

政府や石油会社よれば、直接の原因は消費者の「パニック買い」であり、正常に行動しさえすれば供給は不足していないという説明ですが、その背後には、モノはあっても、それをスタンドに配送するトラック運転手が10万人以上不足しているという実態、そのことにはブレグジットやコロナ禍が影響しているということもあるようです。

****なぜガソリンスタンドで長蛇の列、イギリスで連日****
イギリス各地のガソリンスタンドでこのところ連日、ガソリンがなくなると慌てて給油しようとする人たちで、長蛇の列ができている。政府や石油会社は、ガソリンは不足していないと強調しているのだが。いったい何が起きているのか、なぜ起きているのか、見てみる。

ガソリンスタンドでは何が
現場の様子はまるで「死屍累々(ししるいるい)」の惨状だと話すガソリンスタンドのオーナーもいる。
場所によってはガソリンスタンドまで、何キロも車の行列が続いている。給油の順番を待つドライバーたちは、車内で仮眠したり、人によってはガソリンスタンドの給油場に入っていくタンクローリーの後ろにぴったりつけて、列に割り込もうとしたりしている。

一気にはね上がった需要に対応できず、一時休業に追い込まれたガソリンスタンドもある。(中略)

場所によっては醜い騒ぎも起きている。
インペリアル・コレッジ・ロンドンのダニー・オルトマン教授は、ガソリンの在庫がなくなってしまった店先で殴り合いが起きたとツイートした。

「午前中いっぱい行列したが、先頭近くまでくると、もうないと言われた。後ろにいた男性は激怒して、警備員を殴り始めた。そこから8〜10人の殴り合いに発展して、みんな地面で殴ったり蹴ったりしていた」という。

イギリスはガソリン不足なのか?
シェル、エクソンモービル、グリーナジーといった石油各社は、ガソリンは不足していないと強調している。供給が圧迫されているのは、「消費者需要が一時的に急騰したことが原因で、全国的な燃料不足が原因ではない」という。
複数の閣僚も相次ぎ、テレビやラジオでこのことを強調している。

「不足はしていません」と、ジョージ・ユースティス環境相は27日に述べた。「何より大事なのは、誰もがただガソリンを普段通りに買うことです」。
「ガソリンが足りないというマスコミ報道が相次ぎ、それに世間が反応した。それさえなければ、十分対応できる事態だった」と、環境相は話した。

ただし現時点では、小売り段階でガソリンが不足しているのは明らかだ。
英石油小売協会(PRA)は27日、加盟する店舗5500軒のうち3分の2ですでにガソリン在庫が底をついており、残る店舗も「ほぼ枯渇して、まもなくなくなる」と明らかにした。(中略)

PRAのブライアン・マダーソン会長は、これは「純粋かつ単純に、パニック買いのせいだ」と述べた。

なぜ大勢が慌ててガソリンを買っているのか
実を言えば、イギリスが現在見舞われている、輸送トラックの運転手不足が一番の原因だ。

現在イギリスでは推定10万人以上、トラック運転手が足りないとされており、これがここ数カ月、スーパーマーケットからファストフード・チェーンに至るまで様々な業界を悩ませている。

ガソリン・パニックのきっかけとなったのは、石油大手BPの発表だった。同社は23日、トラック運転手が不足しているため、イギリス国内の一部のガソリンスタンドを「一時的に」閉鎖せざるを得ないと発表した。この時点まで、同じような問題に見舞われる石油会社はそれほど多くなかった。

では、どうしてイギリスでトラック運転手が不足しているのか。
重量物運搬車(HGV)の運転手不足は欧州全体で起きているという実態があるものの、イギリスは特に打撃を受けている。

ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を受けて、欧州連合(EU)圏出身の運転手の多くが母国に戻ったり、通関手続きが増えて収入に影響するため別の国で働くことにしたりと、イギリスを離れた。

それに加えて新型コロナウイルスのパンデミックが起き、さらに多くの運転手が母国に帰り、ほとんどがイギリスに戻らなかった。

この間、年長の運転手は引退し、世代交代は進んでいない。パンデミックのせいで、HGV運転免許の試験がなかなか実施されず、免許をとれない人の数がとてつもなく膨れ上がっているからだ。

イギリス政府の危機対応は
英政府は27日、ガソリンスタンドの逼迫(ひっぱく)対応支援のため、陸軍を待機させたと発表した。
陸軍の戦車操縦者を訓練し、必要な場合は、ガソリン需要が特に深刻な地域へガソリンを輸送するために動員する方針。

関係閣僚はさらに、HGV運転免許の有効期間を延長し、石油会社間の競争法を一時的に停止する方針を示している。
これによって石油各社は燃料供給量の情報を共有しやすくなるほか、国内のどこが最も供給を必要としているのか優先順位が明確になると、クワシ・クワルテング・ビジネス相は述べた。

トラック運転手不足の対策として、政府はさらに外国のタンクローリー運転手や食糧運搬トラックの運転手、計5000人に短期ビザを提供する方針を示した。クリスマスへ向けて、鶏肉加工作業員5000人に対して、同様に短期ビザを発行するとしている。

政府はさらに、HGV免許を持つ運転手に職場復帰を促す手紙約100万通を発送したほか、4000人にHGV免許取得の訓練を提供する方針。【9月28日 BBC】
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今朝の現地TVでは、各工程に必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給することで在庫を徹底的に減らして生産活動を行う「ジャストインタイム」の生産様式の問題を取り上げていました。

極力在庫を減らすことで通常の経済活動は効率化しますが、ひとたび異常な事態となるとすぐに在庫不足状態に陥る・・・とのこと。

また、トラック運転手不足による物流が滞る問題は、今回のガソリンだけでなく、以前からイギリスでは見られていた現象のようです。

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大型トラックの運転手が足りないというのは以前から言われていたことで、物流の混乱も始まっていた。特に今年に入ってからはスーパーの棚ががらがらになった、牛乳の配達が遅れてマクドナルドでミルクシェイクが作れない、という報道があり、問題は少しずつ暮らしに迫っていた。そこに、このガソリン騒動が起きた。【9月28日 ラッシャー貴子氏 Newsweek】
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長距離のトラック運転手という仕事が非常にハードな仕事であることは言うまでもありません。

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先週、テレビで紹介されていた長距離ドライバーの生活を見たけれど、確かに厳しそうな仕事だった。シフトで働くことが多いので生活は不規則、日によっては午前2時に出勤なんていう日もある。

移動が長距離になるほど家を空ける日が増えて、もちろん家族と過ごす時間は減ってしまう。一度出かけると家に1か月帰れないこともある。

運転中は一人きりで話し相手もいないし、食事も偏りがち。定期的な休憩が法律で決められているとはいえ、車内で寝泊まりすることも多い。収入も厳しい労働条件に見合わない。

だから英国人はあまりなりたがらず、特に若者には人気がないそうだ。【同上】
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このあたりは日本でも同じで、日本でもトラック運転手が不足しているという問題があります。
そのことを扱ったTV番組を観たことがありますが、運送荷物の積み込み・積み下ろしも自分でやる必要があるようで大変です。

おそらく事情はEU諸国でも同じでしょう。ということは、急にイギリスへトラック運転手を呼び戻そうとしてもなかなか・・・ということにもなります。

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大型トラックの運転手不足はEU内でも前々から深刻な問題だったそうで、EUでは最近、労働条件や環境、賃金も改善している。

そうなると一時的にビザを発給しても、前と変わらない待遇で英国に戻ってくるドライバーがいるのかどうか。

この問題にはきっとブレグジット後の対応と合わせた根本的な対策が必要で、本当の解決にはかなり時間がかかるのだろう。【同上】
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よくわからないのは、そんなに大変な仕事で希望者が少ないということであれば、賃金などの待遇が改善・上昇して、結果希望者が増加する・・・というのが、一般的な市場メカニズムですが、どうしてそのメカニズムが機能せず、厳しい待遇が続いているのか?

イギリスの場合は、その運転手不足を低賃金でも働く外国人労働者に頼って糊塗していたのが、ブレグジットとコロナ禍で露呈してしまったということのようにも見えます。

【政府はクリスマスに向けて正常化を目指す】
政府は状況改善の兆しが出ているとして、クリスマスまでには何とか事態を正常化させたいとしています。

****英首相、燃料問題でクリスマスに向け供給網整備強調****
英国の主要都市に燃料のパニック買いが広がって品不足が発生している問題で、ジョンソン首相は28日、クリスマスに向けて政府が供給網を確立する取り組みを続けていると強調した。

多くの地域ではなお、数百カ所もの給油所が閉まったまま。ドライバーは営業しているスタンドを見つけるのに何時間もかかったり、消費者が灯油を買うために長蛇の列ができていたりしている。

ただジョンソン氏は「状況改善が見え始めている。われわれは業界から、給油所に普段通りの供給が戻りつつあると聞かされており、私は関係者全員に正常な形でビジネス活動をするよう促していく」と語った。

燃料の品薄は、トラック運転手不足により製油所からスタンドまでの輸送が滞ったことが発端。病院や社会福祉などの活動を止めないように、医師や看護師、その他社会インフラ維持のために働いている人々の車に優先的にガソリンを供給するべきだとの声も高まっている。

これについてジョンソン氏は、全体の状況が落ち着いて正常になれば、そうした人々の環境も良くなるとだけ述べた。

また同氏は、スタンドだけでなく供給網の全ての部分に製品を行き渡らせるという意味で、クリスマスまでとその後を乗り切るために必要なあらゆる備えを確保していきたいとの考えを示した。【9月29日 ロイター】
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“クリスマスに向けて”というのは、クリスマスまでに何とかしないと国民の不満が爆発しかねないということでもあります。

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このままではガソリンの配送だけでなく、クリスマスの準備への支障も予想されるという。英国のクリスマスといえば日本でいうお正月のようなビッグイベントだ。

大きな心の拠りどころにして秋から計画を立てる人も多いし、家族で食べる七面鳥や交換するプレゼントなど経済効果も大きい。

去年はコロナの影響で同居の家族しか集まれない寂しいクリスマスだったので、今年も順調に行かないとなれば、すでに溜まっている不満が爆発するかもしれないし、経済回復にとっても都合が悪いだろう。【9月28日 ラッシャー貴子氏 Newsweek】
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大きく俯瞰すれば、今回の問題はブレグジットに伴う経済構造の調整過程のひとつであり、イギリスはは今後、このような問題に多く直面することになるのではないでしょうか。

予定では、イギリスのガソリン不足に併せて、欧州の天然ガス価格の上昇、中国の電力不足など、エネルギー関連の話題を取り上げる予定でしたが、とてもそのスペース余裕はなさそうなので、それらはまた別機会に。

コメント
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