孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  「自由の国」での衛生パス反対騒動 ウィズ・コロナの日々における「最適解」は?

2021-09-13 23:15:12 | 欧州情勢
(フランスで9週連続で行われた衛生パス提示義務化に反対するデモ【9月13日 ロイター】
見たところ、マスク着用者はほぼゼロ フランスでは9月12日も7679人の新規感染者が出ていますが、その状況での危機意識の欠如には理解しがたいものもあります。)

【「自由の国」フランスでの衛生パスによるワクチン強制に激しい抗議】
アメリカ・バイデン政権が新型コロナ感染再拡大のなかで、ワクチン接種義務化の方針に舵を切っていること、それに対し、野党共和党などから激しい反対論が出ていることは、一昨日の11日ブログ“アメリカ  感染再拡大で「分断」の最前線となる学校マスク着用、ワクチン接種義務化”でも取り上げました。

****米、企業もワクチン接種義務化=連邦職員は全員対象に****
バイデン米大統領は9日、国民向けに演説を行い、100人超の従業員を抱える企業に対し、従業員に新型コロナウイルスのワクチン接種か、毎週の感染検査を受けさせることを義務化する方針を明らかにした。また、すべての連邦職員にワクチン接種を義務付ける。感染力の強いデルタ株の流行で新規感染者が再び増加する中、未接種者への働き掛けを強化する狙いがある。
 
バイデン氏は演説で「(ワクチン接種は)自由や個人の選択の問題ではなく、自分や周りの人々を守ることだ」と強調。ワクチンに否定的な市民らに接種を呼び掛けた。米国の労働者の3分の2に当たる1億人が今回の措置の対象になるという。
 
米政府高官によると、企業が従わなかった場合、最高1万4000ドル(約150万円)の制裁金が科される。ロイター通信によると、航空機などでのマスク着用義務違反に対する制裁金も最高3000ドル(約33万円)に引き上げる。【9月10日 時事】
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フランスでは、8月9日から飲食店入店や長距離交通機関乗車に際し、ワクチン接種を証明する「衛生パス」の提示が義務化(ワクチンを接種していない場合は、コロナ検査での陰性結果を示す必要)される形で、事実上のワクチン接種強制が行われています。
違反した人には約1万7500円の罰金が科されるほか、店側も業務停止命令や懲役刑などの対象となります。

8月16日には、ショッピングモールの入店にも拡大されています。

衛生パス法案は7月25日に国会で賛成156、反対60という投票結果で採択されましたが、憲法によって保障されている権利と自由に違反している、という意見が「不服従のフランス」(左派政党)、社会党、共産党など野党議員74名から提出され、8月5日に憲法評議会にかけられることになりました。なお、マリーヌ・ル・ペン氏率いる右派政党の「国民連合」も反対しています。

その結果、一部を除き合憲と判断され、8月9日から実施されています。

名にし負う「自由の国」フランス。
イスラム教ムハンマドを扱った風刺に関しては、イスラム教国からの激しい反発に「冒涜の自由」を主張するマクロン大統領ですが、新型コロナに関しては“他人への思いやり”“責任を伴う自由”を主張しています。

****“不自由の国”フランスに!? 「ワクチン強制法」で分断されるパリジャンたち****
(中略)
マクロン大統領は、国民からワクチン接種を受けないという「選択の自由を剥奪していないか」と問われ、インスタグラムでこのように回答した。

「私たちは社会生活において、ともに協力し、頼りながら生活しています。自由というのは、一人だけのものではなく、みんなが持っているものです。他人を思いやり、他人の自由も尊重した上で、個人の自由が成り立ちます。ワクチン接種や検査を受けること。それが、責任を伴う自由であり、国民としての自由であるのです」

「自由の国・フランス」の国民に突きつけられた、ワクチン接種をめぐる“自由”の選択。日本でも今後、問われることになりそうだ。【8月16日 FNNプライムオンライン】
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当然ながら「自由」を旨とする国民からは激しい反発も起きています。

****ワクチン接種証明書の是非で分断進むフランス****
フランス各地で7月から、新型コロナウイルスのワクチン接種を推進するマクロン政権に対し、一部の国民が反対デモを行っている。同月31日には、国内全体で約20万人が参加し、パリでは、国家憲兵隊と衝突した男性2人が逮捕された。
 
同国政府は7月12日、ワクチン接種証明書(健康パス)を持たない国民に対し、飲食店や大規模商業施設、病院や公共交通機関の利用などを禁ずる措置を発表。後に、憲法会議が合憲と判断し、8月9日から実施されている。
 
この動きに反発する一部の国民が毎週末、各地でデモ活動を繰り広げている。「健康パスは地獄への第一歩」、「二流市民にはなりたくない」、「選択の自由を」などと書いたプラカードを掲げ、マクロン政権を非難し続けている。
 
フランス保健総局は8月2日、国民の63.6%(約4290万人)が1回目、53%(約3570万人)が2回目のワクチン接種を終えたと発表した。
 
マクロン大統領は現状、抗議活動を行う国民の声に耳を傾けていない。8月2日、インスタグラムに投稿した自撮り動画で「ワクチン接種は、家族や友人への感染リスクを減らす」と断言。「他人のためにも接種を」と促した。
 
フランス南西部ペルピニャンで飲食店を経営する40代の女性は、「マクロンのやり方に疑問がある」と前置きし、「ワクチンを打たない客が来なくなることを考えると、売り上げにも影響が出てくる」と不機嫌そうに語った。
 
ワクチン接種は、家族や友人の間でも複雑な問題に発展していることが、大手調査会社「イプソス」が行った7月下旬の調査で明らかになった。調査対象となった1061人のうち、41%が健康パスの話題になると「緊迫状態や深刻な言い争いになる」と回答。また、公共交通機関を利用する際、健康パスを持たない友人がいる場合、73%が利用を諦めるとも答えていた。
 
医療従事者に対しては、9月15日までのワクチン接種を義務化し、接種を終えていなければ、無給にする方針。12〜17歳の学生については、クラス内に濃厚接触者が出た場合、接種を終えた学生だけが登校を続けることが可能になる。
 
健康パス導入の動きは、すでにイタリア、ドイツ、ポルトガルなどにも広がっている。ワクチン接種の徹底は、公共の利益のためなのか、あるいは個人の選択の自由を奪うのか。社会の分断が始まっている。【8月24日 WEDGE】
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抗議行動は全土に広がっています。

****「衛生パス」に抗議 仏全土でデモ222件 16万人参加****
フランス各地で28日、新型コロナウイルス対策で導入されている「衛生パス」に抗議するデモが行われた。衛生パスについて参加者らは、ワクチン未接種者に対し不当な制限を課すものと批判した。仏内務省は、この日のデモ参加者について約16万人と発表している。
 
各地当局の報告によると、同日夕方までに確認された抗議デモは222件に上り、パリでは約1万4500人が参加した。16人の身柄が拘束され、警察官3人が軽傷を負った。週末のデモは、7週連続での開催となった。
 
新学期を数日後に控えるなか、ボルドーでは、子どもへのワクチン接種を拒否するとの声が複数の参加者から上がった。
 
父親と一緒にデモに参加していた11歳の少年は「僕たちは実験用ラットではない」と述べた。少年の父親は「われわれは自由の国に住んでいる。大規模なワクチン接種を正当化できるようなデータはない」と主張し、ワクチンの接種を迫る圧力をレイプに例えた。
 
衛生パスは7月中旬に導入され、その後適用範囲が拡大された。レストラン、劇場、映画館、長距離列車、大型ショッピングセンターなどを利用する際には、ワクチンの接種完了、もしくは検査による陰性の証明が義務付けられている。
 
仏政府は、ワクチン接種を促し、4度目のロックダウン(都市封鎖)を回避するためには、衛生パスが必要であると主張。また、入院患者の大半がワクチン接種を完了していないとした。 【8月29日 AFP】
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こうした抗議は今も続いています。

****仏ワクチン証明書義務化に12万人が抗議、南部では乱闘騒ぎも****
新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する「衛生パス」の提示を義務化したフランスで、これに反対する週末のデモが9週連続で起きた。一方仏南部のトゥールーズでデモが行われた際、正体不明のグループにデモ参加者が襲撃され、激しい衝突になった。【9月13日 ロイター】
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【ワクチン接種そのものに反対するものではない・・・と言いつつも、それがもたらす結果をどう考えているのか?】
ワクチン接種そのものに反対というのではなく、接種を強制されることに反対・・・ということです。
ワクチンの信憑性に疑問を持っていたとしても、衛生パスがないと何もできないからと仕方なくワクチンを打つといった状況に反対ということです。

****フランスで吹き荒れる抗議デモ、背景にある反ワクチン以外の理由****
(中略)
間違えてはならないのは、このデモがコロナワクチン反対をうたったものではないということ。中にはコロナワクチン反対派もいるが、デモの趣旨はあくまで「衛生パス導入の反対」を政府に訴えることである。
 
フランスの市民は分かっているのだ。三度も続いたロックダウンを再び繰り返すわけにはいかない。人とふれあい、街で空の下で生きる日常を取り戻さなくてはならない。経済をこれ以上停滞させて家賃の払えない人や食べられない人を増やしてはならない。レストランやカフェやホテルや映画館や劇場などの閉鎖をこれ以上続けて愛する街をゴーストタウンにしてはならない。鬱の人々をこれ以上生み出し続けてはならない。子供たちをこれ以上家に閉じ込めさせておくわけにはいかない──と。
 
第4波と、それに伴うロックダウンはどうしても避けなくてはならない。今ある唯一の救いの手が、もしかしたらワクチンなのかもしれない。誰とも会えず孤独に長い月日を過ごしていたお年寄りが、ワクチンにより外に出られるようになり、孫と再会して抱きあえたと喜ぶ姿に、誰が文句を言えよう。

「コロナワクチン接種反対デモ」だったらこれだけの人は集まらないだろう。(後略)【9月11日 永末 アコ氏 JBpress】
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しかし、個人的には上記のような強制反対論は理解できません。

“フランスの市民は分かっているのだ。三度も続いたロックダウンを再び繰り返すわけにはいかない”ということであれば、様々な理由でワクチンを接種しない者が数割存在することが再びロックダウンを必要にすることになる危険性をどのように評価しているのかでしょうか?
そのことで生じるであろう犠牲者増加をどう考えているのでしょうか?

感染再拡大を防ぐ上で、ワクチン接種を広げる事以上に有効な手段が現在存在しているのでしょうか?
ワクチンに関する疑問・不明点から生じるリスクと、感染拡大のリスクをどのように比較評価しているのでしょうか?

もし“再びロックダウンになってもかまわない。感染再拡大で多くの者が死ぬのもやむを得ない。それでも「自由」の方が大事だ”というのであれば、賛成はしませんがひとつの見識でしょう。

しかし、”ロックダウンは嫌だ。死者が出るのも困る。でも接種しない自由は守りたい”というのであれば、「何を言っているのかな?」と理解できません。一種の都合のいい「ウソ」です。

【ウイルスに怯え、お上に従順すぎる日本も異様】
先のパラリンピック閉会式で、次期開催地のパリから中継があり、マスクを着けず大勢が集まり次期開催を祝賀する様子に、日本の視聴者は「まるで別世界を見ているようだ」と驚いたようです。

でも、それは別世界でも何でもなく、単に感染症に対する認識が低いということに過ぎないでしょう。

ただ私は、日本の安心・安全に凝り固まった風潮にも違和感があり、日本社会に対しては「ウィズ・コロナ」でもっと大胆に行動していいのではないかと思っています。

フランスのようにマスクを着けずに大勢集まって騒ぐのも理解できませんが、日本のように(何に怯えているのか?ウイルスか?人目か?)人混みでもないのにマスクを外そうとしないのも理解できません。悲観的な情報で不安を煽るだけの“専門家”やメディアのあり様にも反対です。

日本を大きく上回る犠牲者を出しながら、厳しいロックダウンを経験しながら、なおかつ、フランスでこのようにマスク着用やワクチン接種への抵抗が強いということは、個人の生活の在り様に国からあれこれ指図されることがたまらなく嫌いなのでしょう。

そのあたりは、お上(おかみ)の方針に従順な日本人と異なる意識です。
何も、日本人のようにお上に従順に従うことがいいとも思いませんので、反対の声をあげること自体は結構なことです。ただ、前述のようにその考えには賛成できませんが。

****橋下徹さん、フランスの“ワクチンパス”デモに理解「ある意味、健全」「日本は、お上から言われたらなんとなく従ってた」****
橋下徹元大阪府知事が13日、フジテレビ系「めざまし8」にスタジオ出演。ワクチン接種歴か陰性証明書が日常生活で必要になり、デモが生じたフランスの動きに理解を示し、日本の風潮に一石を投じた。  

(中略)橋下さんは、「暴力で抗議するのは反対ですけど、こういう状況が本来、自由をきちっと国民が考える国」として政治に国民が参加する健全な姿だとして好意的な見解を示し、「日本はこれまで、お上から言われたらなんとなく従ってた。みんな不明不満はあるんだけども」と分析した。  

個人の自由を守ることに重きを置きすぎると、飲食店など一部の立場が犠牲になり、国としては個人の自由を少し制限する必要がある…と政治を統括する側の観点から方針の意図を解説。その結果、国民感情との衝突が生じるが「成熟した民主国家であれば、最後は選挙で決着すべき問題」と持論を述べた。  

さらに「ある意味、健全だと思いますよ、こういう動きになるのは。僕は日本のほうが不健全だと思う。みんなが言うことなんとなく聞いて」とデモが生じたフランスの動きに理解を示した。【9月13日 中日スポーツ】
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【ワクチンパスポートを断念したイギリス】
イギリス・ジョンソン政権が、高い水準の感染が続く中で、ワクチン接種による死者の減少などを理由に大胆な規制緩和に踏み出したのも、個人生活に対する国家規制は最小限であるべきだ、あとは個人の責任で対応すべき、その結果、ある程度の死者が出るのも悲しいことではあるがやむを得ない・・・という発想です。

そのイギリスでもワクチンパスポート導入が計画されていましたが、フランス・マクロン政権とは異なり、イギリス政府は強い反対論を受けて断念したようです。

****英、ワクチンパスポート提示義務化を断念 イングランドで****
英国のサジド・ジャビド保健相は12日、イングランドを対象に、ナイトクラブなど大勢の人が集まるイベントで新型コロナウイルスワクチンの接種証明「ワクチンパスポート」の提示を義務付ける計画を断念したと発表した。

9月末から導入予定だったが、イベント業者や保守党の一部議員が反発していた。
ジャビド氏は計画を断念したことについて、ワクチン接種率が高いことに言及し、現状では必要性がないと判断したと説明した。
 
同氏はBBCに対し、「適切に検討した結果だが、今後も選択肢の一つとして残る」と述べた。
 
英国では16歳以上の8割超が2回目のワクチン接種を終えている。政府は近く、12〜15歳への接種拡大の適否を判断するとみられている。
 
ジャビド氏は、娯楽の場でのワクチンパスポートの提示義務化という考えに違和感を覚えるとし、「日常の行動に際して書類か何かの提示を求めるという考えをいいと思ったことはない」と語った。
 
ワクチンパスポートの提示義務をめぐっては、反対派から市民の自由権を侵害する可能性があるとの批判が出ていた。 【9月13日 AFP】
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ワクチンパスポート断念は市民の自由権尊重という点では首尾一貫した対応でしょう。
ただ私は、「最適解」はそういう原則論と現実的要請の中間にあると思っていますが。
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