孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベラルーシ  移民を制裁報復で利用するルカシェンコ大統領 ロシアにとっては「厄介な盟友」

2021-09-12 23:05:24 | 欧州情勢
(9日、今年5回目の首脳会談を終え共同会見に臨むロシアのプーチン大統領㊨とベラルーシのルカシェンコ大統領=ロイター【9月10日 日経】)

【弾圧を続けるルカシェンコ大統領】
昨年8月の大統領選挙における不正疑惑に対する国民の激しい抗議が拡大したベラルーシでは、「欧州最後の独裁者」とも称されるルカシェンコ大統領のなりふり構わぬ力による封じ込めによって、表面的な抗議行動は鎮静化してはいますが、国民の不満は解消されないまま鬱積している状況でもあります。

また、欧米から批判にさらされる国際状況も変わっていません。

****ベラルーシ抗議運動の中心人物に禁錮11年判決 欧米からは非難の声****
ベラルーシの首都ミンスクの裁判所は6日、昨年8月の大統領選の不正疑惑に対する抗議をめぐって権力強奪の試みなどに問われた音楽家マリヤ・コレスニコワ被告(39)に対し、禁錮11年の判決を言い渡した。

コレスニコワ被告は選挙後全国に広がったルカシェンコ大統領に対する退陣要求運動の中心的存在。欧米各国は政権が今も続ける反政権派弾圧の象徴として一斉に判決を批判した。
 
大統領選でルカシェンコに対する最有力の対立候補と目されながら立候補を阻まれ、7月に資金洗浄などの罪で最高裁で禁錮14年を言い渡された元銀行頭取ビクトル・ババリコ受刑者(57)に続く厳しい判決となった。コレスニコワ被告と同じ法廷でババリコ受刑者の陣営弁護士(40)にも禁錮10年が言い渡された。
 
判決後、欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は声明でコレスニコワ氏を「ベラルーシの民主化運動のシンボルのひとり」とし、ルカシェンコ政権に対し「650人を超える政治犯の即時釈放」を要求。

米国のブリンケン国務長官も判決を「政権が人権、基本的自由を完全に無視している新たな証拠だ」と批判する声明を出した。
 
コレスニコワ氏もババリコ陣営の元幹部。選挙戦では反政権派の統一候補となった主婦のスベトラーナ・チハノフスカヤ氏(38)を支えた。

選挙後、対話による政権交代を目指す調整委員会を立ちあげたが、広がるデモに危機感を強めた当局は関係者を次々拘束。コレスニコワ氏は昨年9月ミンスク市内で拉致され、出国を強要されたが、国境で自分のパスポートを破って抵抗。自ら拘束・訴追される道を選んだとされる。
 
法廷でも選挙戦や抗議デモの当時と同様に両手でハートマークを型取り、抵抗の意志を示し続けた。(中略)

国外で反政権活動を続けるチハノフスカヤ氏は同日、ツイッターに「我々はベラルーシのすべての人が自由になるまで(活動を)やめない」と書き込んだ。【9月7日 朝日】
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国民の不満も相変わらずですが、ルカシェンコ大統領の強気姿勢も相変わらず。

****ベラルーシのルカシェンコ大統領、持論展開8時間 選挙の正当性主張****
ベラルーシのルカシェンコ大統領は9日、2020年の大統領選から1年となったことを受け、首都ミンスクで記者会見を開いた。自身の6選について「選挙に不正があった」と訴える市民の大規模デモが選挙後に拡大したが、ルカシェンコ氏は「完全に透明で民主的だった」と選挙の正当性を強調。抗議活動参加者への弾圧も「ない」と主張するなど、8時間以上にわたって持論を展開した。
 
東京オリンピックにベラルーシ代表として出場後、ポーランドに亡命した女子陸上選手に関しては「操られていなければ、彼女は自分で(亡命を)できなかっただろう」と述べ、ポーランドが扇動したとの見方を示した。

ベラルーシの反体制派活動家がウクライナで遺体で見つかった事件についても、「我々を非難するなら事実を示せ」と関与を否定した。
 
ルカシェンコ氏は次回の大統領選に出馬しない考えを示してきたが、この日の会見で自身の退任については「すぐに」と述べるだけで、具体的な時期は明言しなかった。(後略)【8月10日 毎日】
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今更ルカシェンコ大統領が何を言おうがほとんど関心もありませんが、“8時間以上にわたって”という部分に驚きました。途中、トイレに言ったり、休憩したりもするのでしょうか?

一般に、「独裁者」というのは演説が好きで、しかもいくらでも長時間話し続ける者が多いようなきがします。
ヒトラーしかり、キューバのカストロ、ベネズエラのチャベスしかり。カストロも党大会で10時間超の政治報告を行ったことがあるとも。

おそらく、このタイプの政治家は「自分の世界」に没頭して周囲が見えなくなるので、その「自分の世界」から湧き上がる思い・考えをいくらでも話し続けることになるのでしょう。

また、何をしゃべったにしても、多少不正確でも、独裁的権力者ですから周囲から批判されることもありません。その点、間違いが許されず、結果、原稿棒読みとなる某国・某首相とは環境も異なります。

それにしても、付き合わされる記者は大変。なにせ相手は独裁的権力者ですから、会見を中座したら後でどういうお叱りがあるやもしれませんし・・・。

【制裁への報復として移民を利用】
閑話休題。
今、ベラルーシが近隣国と揉めているのは、ルカシェンコ大統領が制裁への報復として、意図的に移民を近隣国に送り込んでいる・・・ということ。

****ベラルーシ国境、緊迫 リトアニア、越境阻止 移民・難民急増****
反政権派弾圧が続くベラルーシを経由し、欧州連合(EU)加盟国の隣国リトアニアに向かう中東、アジアからの移民・難民が止まらない。ベラルーシが欧米による制裁への報復で国境を越えさせていると批判するリトアニアは人々を押し返す強硬策に転じ、両国の対立は激化する一方だ。人道問題も絡み、EUは難しい対応を迫られている。

「法的に可能なすべての手段で国境を守る」
リトアニアのビロタイテ内相は2日、前日だけでベラルーシからの越境者が294人に達したことを受けて、強硬手段も辞さずに人々の越境を阻むことを表明した。
 
ベラルーシからリトアニアへの移民・難民が急増し始めたのは6月末。1日100人を超える日が続き、1月からの総数は8月に入って4100人を超えた。昨年1年間で国境審査を受けずリトアニア領に入った越境者はわずか81人だ。
 
ベラルーシによる民間航空機の強制着陸事件を受け、EUが経済制裁を発動したのが6月24日。同国のルカシェンコ大統領はその直後に、ベラルーシ側からの不法越境の取り締まりを拒否すると宣言した。

越境者の約半数はベラルーシへの直行便があるイラクの出身者で、リトアニアは「ベラルーシが空路で到着した人々を入国させ、リトアニアへの越境を促している」と訴える。上空から撮影した、ベラルーシの国境警備隊のものとされる車が国境に向かう人々に同行する映像も公開した。
 
3日以降、越境者は1日数人にまで激減。しかし今度はベラルーシが「リトアニアの国境警備隊が暴力で人々を押し返している」と反発。

ルカシェンコ氏は治安機関幹部を集め、「国境を1メートル単位で封鎖せよ」とげきを飛ばした。両国の国境警備隊間で不測の衝突を恐れる声もある。
 
事態は周辺に飛び火する気配だ。ロイター通信によると、ポーランドには4、5日の両日で昨年1年を超える133人がベラルーシ側から越境。リトアニア入りを阻まれた人々が同じEU加盟国のポーランド国境へ転じた可能性がある。

 ■EU、人道問題絡み難題
EUは当初からベラルーシに対し「移民問題の政治利用は許されない」と強く警告してきた。中東、アフリカ、アジアからEUを目指す移民・難民の多くがたどる地中海経由でギリシャ、イタリアを目指すルートは2015年の難民危機以降警備が強化されたが、今後の展開次第で新たな越境ルートが開きかねない。
 
ただ移民・難民問題には常に人道的側面が絡む。リトアニアはベラルーシとの国境680キロにわたる壁の建設を進める方針だが、難民危機でハンガリーが国境に壁を建設した際は、EUは「越境を試みる人たちをさらに危険な道に追いやる」として強く反対した。
 
強権体制下のベラルーシは移民・難民にとって安全な国と言い難く、同国へ人々を押し戻すリトアニアの方針にも人権団体から批判の声がある。
 
ロシアのタス通信によると、EUから強い要請を受けたイラク政府は7日、ベラルーシへの直行便の運航を見あわせる考えを表明した。ただ中東方面からベラルーシへの直行便はほかにもあり、問題解決につながるかは結局、ベラルーシの対応次第との見方が強い。【8月10日 朝日】
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戦術的に言えば、「移民」という欧州側が対処に苦慮する手段をルカシェンコ大統領は持ち出したようにも。

****ポーランドがベラルーシ国境に非常事態宣言、不法移民増加受け****
ポーランドは2日、ベラルーシから大量の不法移民が送り込まれているとして、国境の2地区に非常事態を宣言した。

同国と欧州連合(EU)は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が制裁に圧力をかけるため数百人単位の移民をポーランドに送り込んでいると非難している。

共産主義時代以来となる今回の非常事態宣言では、30日にわたって多人数による集会が禁止され、国境から3キロまでの地域で移動が制限される。

移民支援団体は、ここ数日で既に該当地域でポーランド警察や装甲車が増えているとし、非常事態宣言により支援活動が制限され移民が打撃を受けるのではないかと懸念を表明している。

ポーランド大統領報道官は、国境の情勢は「困難かつ危険だ。ポーランドは、国家とEUの安全保障を確保するための措置を講じなければならない」と述べた。【9月3日 ロイター】
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ポーランドは民主主義に対する価値観の違いから独仏とは溝があり、EU離脱の話さえあるぐらい。

****ポーランド離脱の恐れも=与党の強硬路線に懸念―EU前大統領****
ポーランドの野党「市民プラットフォーム」党首代行を務めるトゥスク前欧州連合(EU)大統領は10日、右派与党「法と正義」のEUとの対立路線がこれ以上続けば、ポーランドのEU離脱という不測の事態に至る可能性も排除できないと危機感を表明した。地元テレビに出演して語った。
 
ポーランド政府は、EU離脱を否定している。しかしトゥスク氏は、英国のEU離脱のような事態は「計画して起こすのではなく、賢明な代替案を用意できずに起きてしまうものだ」と指摘した。
 
ポーランドは司法やメディアの独立性を損なう立法を推し進め、EUと対立。EU欧州委員会は7日、裁判官の懲戒制度をめぐり、ポーランドに制裁金を科すことをEU司法裁判所に請求すると発表した。【9月10日 時事】 
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ただ、上記のようにベラルーシ、その背後にいるロシアとの対立の最前線にある国でもありますので、EUにしても、ポーランドにしても、そう簡単に縁切りとはいかない状況にもあります。

【ロシアにとってベラルーシ・ルカシェンコ大統領は「厄介な盟友」】
ルカシェンコ大統領が強気姿勢を貫けるのもロシアが後ろ盾についているからですが、そのロシアと大規模軍事演習で欧米を牽制していると報じられています。

****露とベラルーシが大規模演習開始 結束誇示し欧米牽制****
ロシアと隣国ベラルーシは10日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドに隣接するベラルーシ西部国境などで大規模な合同軍事演習を開始した。

9日にはロシアのプーチン大統領と、ベラルーシのルカシェンコ大統領がモスクワで会談。強権統治を敷く両政権は結束を確認し、人権侵害問題などで両国に制裁を科す欧米側を牽制(けんせい)する思惑だ。

合同軍事演習「ザーパド(西部)2021」は16日までの予定で両国の演習場で行われ、約20万の将兵や80機以上の航空機、約760の地上兵器が参加。

両国は「特定の国を想定しておらず、防衛的性格の演習だ」と説明するが、ルカシェンコ氏は「NATOはベラルーシ国境付近で軍備を増強している」と主張しており、欧米側を念頭に置いた演習であるのは明白だ。(中略)

一方、9日のプーチン氏とルカシェンコ氏の首脳会談では、両国が将来的な創設で合意している「連合国家」の実現に向け、金融やエネルギー分野で統合を加速させることを確認。2022年末までにロシアはベラルーシに6億ドル(約650億円)超の融資を行う準備があることも発表された。

ルカシェンコ政権は昨年8月の大統領選をめぐる抗議デモの弾圧や、旅客機を強制着陸させて反体制派記者を拘束した問題、東京五輪での女性選手への強制帰国命令問題などで欧米との関係が極度に悪化し、ロシアに接近。ベラルーシへの影響力を拡大したいロシアも同政権を支援している。【9月10日 産経】
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合同演習に先立ち、ルカシェンコ大統領はロシアと共同して西側と戦う用意があるとの主張も。

****ロシア・ベラルーシ合同軍が西側と戦う?****
ベラルーシ軍とロシア軍は、「実質的に一つ」である──旧ソ連ベラルーシのルカシェンコ大統領は9月1日、こう発言し、仮に西側との戦争が勃発すれば「ベラルーシ軍がまず先頭に立って戦い、すぐにロシア西部軍が加わり共同で防衛する」と表明した。同国には間もなくロシアから戦闘機やミサイル防空システムなどが供与されるという。

これらの発言は、両国が9月半ばに予定している20万人規模の合同軍事演習に先立つもの。ルカシェンコは、昨年8月に6期目を目指す大統領選で不正を行ったとして国内と西側諸国から猛反発を受けてきた。

国内反対派を弾圧し、アメリカとEUから制裁を科されても、ロシアはルカシェンコを忠実に擁護している。

ルカシェンコは今回の合同軍事演習は西側からの圧力に対する両国共同の努力の一環だと主張。
かつてはロシアがベラルーシの属国化を狙っていると批判していたが、最近はプーチン露大統領の後ろ盾に頼りきりのようだ。【9月6日 Newsweek】
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ただ、いつも言うように、ルカシェンコ大統領とロシア・プーチン大統領との関係は、そう“蜜月”というものではなく、ロシア・プーチン大統領にすれば、ロシアの意向に従わない“厄介”な存在でもあります。ロシアと欧米の対立という構図上、ルカシェンコ大統領を支えてはいますが・・・

先の大統領選挙でも、ルカシェンコ大統領を見限って、首のすげかえを・・・という話もありましたが、それを見越したようにルカシェンコ大統領はロシアに近い有力候補ババリコ氏を投獄してしてしまいました。

ルカシェンコ大統領にしても、“喰われてしまいわないように”気をつけながら、どうやって利用できるか・・・といったところでしょう。

****ロシアとベラルーシ、政治・軍事協力を加速****
(中略)
「厄介な盟友」
今回の首脳会談で浮き彫りになりそうなのは、ルカシェンコ氏が政権維持を担保するためにロシアへの依存度の高める一方、ロシア側も同氏の強権的統治を支援しながら同氏を「厄介な盟友」とみていることだ。

ベラルーシにはルカシェンコ氏が調達の意向を示した軍装備品の購入資金がないため、ロシア側は大幅な値引きに応じるか、政治的譲歩を求めることになりそうだ。

ロシアのシンクタンク戦略技術分析センターのルスラン・プーコフ代表は「ルカシェンコ氏はロシアから大量に兵器を買うと約束したが、実は両国の軍部をさらに一体化しようというロシアの要求から逃れる方策にすぎない。ロシアからの借金でほとんどを賄おうとしているのも、同氏がそう考えてる証拠だ」と指摘する。

「20年の抗議デモの後、ルカシェンコ氏はロシアとの統合を強化するよう迫られたのは間違いないが、そんな中でも彼は臨機応変かつ巧妙に過度のロシア依存を避け続けてきた」

連合国家創設へ28項目合意
(中略)米シンクタンク海軍分析センター(CNA)のマイケル・コフマン上級調査員によると、今回の合同軍事演習について西側諸国は前回17年ほどの脅威を感じていないという。前回はロシアが臨時軍事演習を口実にクリミアに侵攻後、3年しかたっていなかったからだ。

「双方ともに相手を恐れていた。我々はロシアの意図を全く理解できなかった」とコフマン氏は言う。「だが今や、相手が何をしようとしているのか互いに分かるようになった」

ロシアにとって合同軍事演習の最大の目的は西側への挑発ではなく、戦闘即応性の維持だと戦略技術分析センターのプーコフ氏は指摘する。「NATOの戦力がロシアを数倍上回っているのは明らかだ。軍事的に優位なNATOにロシア軍が立ち向かうには、緊急対応力と早期展開力を高めるほかに方法はない」

それでもバルト3国はルカシェンコ氏の常軌を逸した行動から、今回の合同演習で損害を被る可能性が高まったとみている。(中略)

バルト3国はベラルーシをならず者政権に牛耳られた国とする見方を強めつつある。エストニア議会のミフケルソン外交委員長はルカシェンコ氏を「狂人」とさえ評している。

誤解が危機的事態招く
ミフケルソン氏はさらにこう続ける。「ベラルーシとの国境地帯に機関銃や狙撃ライフルなどを装備した途端、緊張状態を挑発と受け取られかねない。敵を必要としているルカシェンコにとって欧州諸国はとても都合のいい存在だから、彼は当然それに乗じるかもしれない」

NATOの多国籍部隊が駐留するバルト3国とポーランドには、いずれも国境での有事の際の明確な交戦規定があると当局者は言うが、何らかの手違いが起きる懸念は残る。

ラトビアのリンケービッチ外相は、1962年のキューバ危機のさなかに米軍機が地対空ミサイルでソ連に撃墜された事件のように、上官の承認を経ない現場の行動により誤解を生じる可能性が「かなり高い」と述べた。「そうしたことが危機的な事態を招きうる」(2021年9月9日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)【9月10日 日経】
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