孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ポスト・アフガン」の新たなパワーゲーム 米英豪で「AUKUS」

2021-09-16 22:21:21 | 国際情勢
(3か国首脳による共同記者会見【9月16日 BBC】)

【「クアッド」に続いて軍事的な性格が強い「オーカス」】
従来からの米中対立に加え、新型コロナに関する独立調査要求以来の中国のオーストラリアへの強い貿易圧力とオーストラリアの反発、また、イギリスは今年、覇権的な海洋進出を強める中国を念頭に、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を核とする空母打撃群をインド太平洋に向けて派遣するなど、インド太平洋地域における中国に対抗する動きが顕在化していましたが、米中対立を基盤とする新たなパワーゲームの枠組みが明らかになりました。

****米英豪、インド太平洋安保で「AUKUS」創設…中国包囲網を強化****
米国のバイデン大統領、英国のジョンソン首相、オーストラリアのモリソン首相は15日(米東部時間)、インド太平洋地域の安定に向けた新たな安全保障協力の枠組みを創設すると表明した。

最初の協力案件として、米英が豪州の原子力潜水艦導入を技術面などで支援する。米国は日米豪印の協力枠組み「クアッド」と並ぶ対中戦略の柱に据える考えだ。
 
新枠組みは、豪英米の順に国名の頭文字を組み合わせて「AUKUS」(オーカス)と名付けた。3首脳は15日夕(日本時間16日朝)にオンラインで共同記者発表に臨み、バイデン氏は「21世紀の脅威に立ち向かうための共通の能力を強化していく」と述べた。

名指しは避けたが、軍事力を背景に南・東シナ海などで現状変更を試みる中国を念頭に置いているのは明らかだ。
 
モリソン氏は「安全と安定のための協力関係を新しい次元に引き上げる必要がある」と強調した。
 
バイデン政権には、日米豪印のクアッドとは別にオーカスを設け、対中包囲網を強固にする狙いがある。クアッドは新型コロナウイルス対策など安保以外でも連携を図るのに対し、オーカスは、対中安保に焦点を絞ったものと言える。
 
今後は米英豪3か国の外交・国防高官による協議体を置き、軍事利用が進む人工知能(AI)やサイバー、量子技術などでも連携強化を進める方針だ。【9月16日 読売】
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最初の協力案件として、米英がオーストラリアの原子力潜水艦導入を技術面などで支援するというように、「AUKUS」は、日米豪印の「クアッド」など他の枠組みと比べてより軍事的な性格が強いことが大きな特徴です。

素人考えでも、クアッドで対中国包囲網を・・・と言っても、一触即発の国境問題を抱え、中国との経済関係も強いインドはもとより中国を刺激することには及び腰だし、日本も軍事的には数のうちに入れられないし、中国との経済関係も重視する立場だし・・・・ということで、アメリカとしては心もとないところだったのでは。

やはりパワーゲームの基本は軍事面でしょう。

****豪州、原子力潜水艦8隻建造へ 米英との新安保協力で****
オーストラリアは、米英と合意したインド太平洋の新たな安全保障協力の枠組みの下で、原子力潜水艦を8隻建造する。

米国はこの枠組みの下でオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与する。1958年に技術供与を受けた英国に次いで2カ国目となる。

オーストラリアのモリソン首相は「世界は複雑になってきている。特にここインド太平洋地域はそうだ」とし「こうした課題に対処し、われわれの地域に必要な安全と安定を確保するため、パートナッシップを新たな段階に引き上げなければならない」と述べた。

新たな安保協力の枠組みを発表した米英豪の首脳は、中国を名指ししなかったものの、米同盟国は台湾・南シナ海問題などで中国をけん制することを目指している。

中国の在米大使館は「第三者の利害を標的にしたり、利益を損ねる排他的なブロックを構築すべきではない」と述べた。

モリソン首相は、フランスと締結していた通常型の潜水艦の開発契約(400億ドル規模)を破棄すると表明。原子力潜水艦8隻を建造するため、18カ月にわたって米英と交渉を進める方針を示した。原子力潜水艦に核兵器は搭載しない。【9月16日 ロイター】
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原子力潜水艦は長時間にわたる潜水・運航が可能で、インド洋と太平洋に囲まれたオーストラリアにとっては防衛力の大幅な向上につながります。一方で、この地域での影響力を強めている中国に対する強い牽制となります。

核兵器国ではないオーストラリアの原潜保有は、核不拡散条約(NPT)をめぐって物議を醸す恐れがありますが、モリソン豪首相は「オーストラリアは核兵器の獲得を目指しているわけではない」と主張。バイデン大統領も「原子炉を動力とした通常兵器搭載の潜水艦だ」と述べ、問題はないとの認識を示ししています。【9月16日 朝日】

もっとも、オーストラリアとの間で潜水艦建造の案件を進めていたフランスは、はじき出された形で怒っています。

****米英豪の潜水艦契約を仏が非難、「バイデン氏はトランプ氏のよう」****
フランス政府は16日、オーストラリアの潜水艦配備支援で米英豪が合意しフランスが排除されたことについて、バイデン米大統領の裏切り行為でトランプ前大統領のような振る舞いと批判した。

米国、英国、オーストラリアはインド太平洋地域における安全保障上の協力関係を構築し、米英はオーストラリアに原子力潜水艦を配備する技術と能力を提供すると発表した。オーストラリアとフランスによる400億ドル規模の潜水艦製造計画は破棄される。

ルドリアン仏外相はフランスアンフォラジオに「これは一方的で、予測不能なひどい決定だ。(前米大統領の)トランプ氏のやり方を思わせる」と指摘し「信義に反するもので非常に腹立たしい」と語った。

オーストラリアは2016年にフランスの造船会社ナバル・グループと次期潜水艦建造に関する契約を結んだが、豪政府が部品の多くを国内で調達するよう求めたことなどから問題が生じていた。【9月16日 ロイター】
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このあたりに配慮して“、バイデン米大統領は15日の記者発表で「特にフランスは、すでにインド太平洋地域で大きな存在感を示している。この地域の重要なパートナーだ」とあえて強調した。”【9月16日 読売】とのことですが・・・

当然ながら、中国は強く反発しています。

****米英豪の新安保枠組みに中国反発「地域の安定破壊」****
中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は16日の記者会見で、米英豪の3カ国による新たな安全保障の枠組み構築について「地域の平和と安定を深刻に破壊する」と反発した。「軍備拡大競争を激化させ、国際的な核不拡散の努力を害する」とも述べ、事態の進展を注視すると強調した。

新枠組みで3カ国の対中連携強化が進むという見方に対し、趙氏は「第三国を標的にしてその利益を損なったり、閉じられた排他的な小派閥を作ったりすべきでない」と批判した。

注目されるのは豪中関係への影響だ。中国は、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源について第三者による調査を求めたことに猛反発。牛肉や大麦、ワインなど通商面の幅広い分野で事実上の報復措置を取るなど豪側への圧力を強めており、両国関係は完全に冷え込んでいる。【9月16日 産経】
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【対中国で新パワーゲーム】
より広い範囲での協調関係を目指す日米豪印のクアッド、アジア各国とアメリカの2国間関係に加えて今回の米英豪の安全保障に力点を置く「AUKUS」ということで、これらの関係が組み合わさる形で「ポスト・アフガン」の対中国パワーゲームが加速する流れとなっています。

****米英豪安保枠組み 対中で新パワーゲーム****
バイデン米政権が米英豪3カ国による新たな安全保障の枠組みとなる「AUKUS(オーカス)」をこのタイミングで立ち上げたのは、アフガニスタン駐留米軍の撤収を受けて米国の外交・安全保障戦略の軸足を対中国に全面的に移し、民主的価値観を共有する欧州とオセアニアの同盟国と連携して権威主義体制の中国に対抗していく立場を打ち出す狙いがある。

一方、米国と対立関係にある中国やロシア、イランなどは上海協力機構(SCO)の枠組みなどを通じ、米軍の撤収でアフガンに生じた「力の空白」を埋めるため、中央アジアとアフガンでの影響力拡大と安定に向けて連携していく姿勢を示すなど、「ポスト・アフガン」の世界は新たなパワーゲームに向けた動きが一気に活発化してきた。

米英豪によるAUKUSの発表は、アフガン駐留米軍の撤収が円滑に終了していれば、バイデン政権のアジア重視を鮮明に打ち出す演出として、中国をより強く牽制(けんせい)する効果を発揮していたはずだった。

それでも、米英にとって「秘中の秘」である原潜技術を豪州に移転することは、空母と戦略原潜を軸に海軍力を着実に増強させる中国による西太平洋での覇権的行動の抑止に向け、大きな効果を期待できることに違いはない。

AUKUSは、第一次世界大戦以降の主要な戦争を共に勝ち抜いた3カ国の歴史的結束の強さを見せつけた。

米国としては、日米豪印の4カ国(クアッド)や、日韓やタイ、フィリピンといった条約同盟国との2国間関係を含めた同盟・パートナー諸国の重層的なネットワークにAUKUSを組み込み、中国への圧力を強化させたい考えだ。

加えて、英国が事実上の対中安保の枠組みに参加したことは、フランスやドイツなど他の欧州諸国の目をインド太平洋に向けさせることにつながる。

欧州連合(EU)も、米国が「自由で開かれたインド太平洋」構想を本格化させたのに呼応し、中国の経済圏構想「一帯一路」に対抗するため、地域諸国とのインフラ投資連携を進めていく方針を表明。独自のインド太平洋戦略も策定する。

欧州はこれまで、中国との経済関係を維持したい思惑から中国への対応で慎重姿勢を示す国も少なくなかったが、対中国で友邦諸国に連携を呼びかけるバイデン政権の取り組みで潮目は変わったといえそうだ。【9月16日 産経】
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【EU欧州委員長 軍事面での対米依存、経済面での対アジア依存からの脱却を志向】
“対中国で友邦諸国に連携を呼びかけるバイデン政権の取り組みで潮目は変わった”とのことですが、必ずしもEUは“アメリカと協調して・・・”という話でもなさそう。むしろアフガニスタン撤退の混乱から、対米依存を見直し“独自色”を強める動きも。

****EU欧州委員長「必要なのは防衛連合」 米依存からの自立方針示す****
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は15日、欧州議会で行った一般教書演説で「私たちに必要なのは欧州防衛連合だ」と述べ、米国に依存しない独自の防衛力強化を目指す方針を示した。

2022年にも、「欧州軍」創設を提唱してきたフランスのマクロン大統領と共に欧州の防衛をテーマにした首脳会議を開催する予定という。
 
フォンデアライエン氏は演説で、欧州各国が米国に協調する形で関与したアフガニスタン戦争が混乱して終わったことについて「非常に苦痛だった」と述べたうえで、「欧州は自分たち自身でより多くのことができ、またそうすべきだ」と強調した。

さらに独自の防衛力強化に向けた「政治的意志」の必要性を主張し、「欧州が次のレベルにステップアップすべき時だ」と訴えた。
 
多くのEU加盟国は第二次世界大戦後、米国との同盟である北大西洋条約機構(NATO)に安全保障を大きく依存してきた。だが、アフガン戦争の失敗で米国からの「戦略的自立」を求める声が強まり、5000人規模の即応部隊を創設する構想などが浮上している。
 
米国と緊密な関係の英国がEUを離脱したことも、EU内の防衛協力の議論を後押しする一方で、ロシアの軍事的脅威を間近に感じるポーランドやバルト3国などはNATOの枠組みを依然として重視している。

07年には1500人規模の即応部隊の仕組みが設置されたが、加盟国内の意見の相違などから発動されておらず、「欧州軍」構想が実現に向かうかどうかは不透明だ。【9月16日 毎日】
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フォンデアライエン欧州委員長は、経済面ではアジア依存からの脱却を目指すことも主張しています。

****EU、半導体の生産強化へ法整備 アジアへの依存度下げる狙い****
欧州連合(EU)は15日、世界的な半導体不足を踏まえ、域内での研究開発から生産までを一貫して強化する「欧州半導体法」をつくると表明した。EU全体で取り組み、台湾や中国など生産シェア上位を占めるアジアへの依存度を引き下げて、経済面での安全保障の確立をめざす。

EUの行政トップ、フォンデアライエン欧州委員長が施政方針演説で発表した。EU内の生産シェアは世界の1割にとどまっているといい、2030年に2割以上(金額ベース)に引き上げるのが目標だ。「最先端の技術を持つ半導体の経済システムをつくる」とし、実現に向けた法的枠組みを整える。
 
半導体不足は世界的に問題化し、自動車をはじめとする様々な機器の生産に支障をきたしている。フォンデアライエン氏は「デジタル化への対応は死活問題だ」とした上で、半導体の供給確保は「EUの競争力にとどまらず、テクノロジーの主権にかかわる」と危機感をあらわにした。
 
防衛、安全保障分野では北大西洋条約機構(NATO)とのさらなる連携強化や、EU加盟国間で情報を共有して情勢を把握する新組織の立ち上げのほか、「サイバー防衛法」づくりなどを打ち出した。
 
米軍のアフガニスタン撤退の際、欧州諸国だけでは治安維持ができなかったことも踏まえ、EUが取り組む「戦略的自立」につなげる。フランスがEUの回り持ち議長国となる2022年前半に、防衛問題を議論する首脳会議を開くことも表明した。
 
また、強制労働をともなって生産された製品をEU市場で販売できなくする方針も示した。中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害や強制労働を意識した対応だとみられる。米議会上院はすでに、同自治区で製造された強制労働が絡む製品の輸入を禁止する「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決している。【9月16日 朝日】
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