孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  TTPによる学校襲撃事件を受けて高まる掃討への機運 アフガニスタンとの協調も模索

2014-12-20 20:56:39 | アフガン・パキスタン

(惨劇のあとに残された靴 “flickr”より By scrolleditorial https://www.flickr.com/photos/115313787@N08/15860525370/in/photolist-qaxkBY-qs1A2F-qsWewW-qaFcPz-qrUYNe-qrs6Gn-qs2nnS-qbsBsY-pvyLCt-qaDTzm-qaD7jG-qakcki-qrEXrA-pwkuuY-pwdQmL-qbGGBr-qbod1s-qqDqG1-qsVB4Z-qsKzen-qsS2vE-qbePiu-pw2Q7P-pvNkgQ-pw2Q5p-pw2Q4x-qsBcRt-pvsmMf-qaY5Y8-qaLFLi-qrUcgc-qrEbyt-puNCkf-qabhGm-q9ToMj-pusLEb-qrh57p-qpaZxo-qpaZso-qrotQW-q9TnPY-qrotrE-qrh4sZ-qa1vRX-qrh4iv-qpaYJ9-puGbj8-q9TndN-qrot3J-q9Tn3Y)

【「人間のすることではない」】
パキスタン北西部ペシャワルの学校で起きたイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」による学校襲撃事件については、12月16日ブログ「血なまぐさい1日  シドニー、フィラデルフィア、そしてパキスタン・ペシャワル」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141216)でも取り上げました。

死者は生徒132人を含む計148人、負傷者約120人に達したとのことで、死者数は2007年に同国のカラチで起きたベナジル・ブット元首相暗殺事件の139人を上回り、パキスタンでも最悪の事件となっています。

また、生き残った者の証言で、残忍なテロの有様が報じられています。

****教室で女性教師をイスに縛り火つける…武装集団****
・・・・「国境警備隊」の制服姿でカムフラージュしていた武装集団は、「神は偉大なり」と叫び、発砲しながら教室や講堂に向けて廊下を移動。

応急処置の講義などのために約400人が集まっていた講堂に入ると、至近距離から次々と生徒を撃った。

武装集団の1人が「ベンチの下にたくさん隠れているぞ」と叫ぶと、ベンチの下を乱射して回ったという。

教室を襲った武装集団の1人は、女性教師をイスに縛り付けて火をつけた。その後、生徒たちに向けて銃を乱射した。・・・・【12月18日 読売】
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****大切な人が死ぬのを見ろ」 一列に並ばされ撃たれる****
・・・・(ペシャワルの病院で治療を受けた14歳の)カーンさんによると、男は8人解放すると言い、「解放してほしい者は手を挙げろ」と言った。クラスのほぼ全員が手を挙げた。

「男たちは生徒8人を選び、クラスの前の黒板のそばに壁側を向いて立たせて、私たちに8人の方を見るように命令した」とカーンさんは振り返る。

屈強な男が教師を椅子に座らせ、教師にこう言った。「大切な人が死ぬのを見ろ。われわれの愛する人たちも同じやり方で殺されているんだ」

武装した男らは並んでいた生徒たちに発砲し、生徒たちは地面に崩れ落ちた。死んだ人もいたが、痛みにうめき声をあげてもだえ苦しんでいる人もいた。・・・・【12月18日 AFP】
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「人間のすることではない」(軍の担当者)という惨劇ですが、もちろんTTPの犯人たちは異常者でもなければ、殺戮を楽しんでいる訳でもありません。

「大切な人が死ぬのを見ろ。われわれの愛する人たちも同じやり方で殺されているんだ」という言葉にもあるように、彼らが暮らす地域における掃討作戦において、TTPメンバーの家族らが政府軍によって殺害されているという現実もあり、今回の襲撃事件はそのことへの復讐でもあります。

【「今は国家が団結する時だ」】
しかし、このような残忍な、一般市民・子供を対象にしたテロ行為が許されるものでないことは言うまでもありません。

おそらくテロの頻度では世界でも最悪の状況にあるパキスタンでも、今回事件は衝撃をもってとらえられています。

パキスタン政府は16日、3日間の服喪期間を設けると発表し、就任当時はTTPとの和平交渉を模索していたシャリフ首相も「きょう流された私たちの子供たちのあらゆる血の一滴のため、報復する」、「われわれはテロ掃討のため、命をかけてきた。これからもテロリストに容赦はしない」と述べて、TTPへ強い姿勢で臨むことを表明しています。

首都イスラマバードの首相府、議会、最高裁などが立ち並ぶ「憲法大通り」の一角を100日余りにわたって占拠したていたイムラン・カーン党首率いる野党「愛国運動(PTI)」の反政府デモ隊も、「今は国家が団結する時だ」(カーン氏)と、抗議行動を中止しました。(抗議運動の長期化に伴う混迷に区切りをつけたという側面もありますが)

隣国アフガニスタンの“本家”タリバンも、TTPによる今回テロを批判しています。

****タリバーン系、非難声明 パキスタン学校襲撃「教えに反する****
パキスタン北西部ペシャワルで学校が襲われ、児童生徒ら140人以上が殺害された事件で、犯行声明を出した反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)に対する包囲網が狭まっている。

共闘関係にあるアフガニスタンの反政府勢力タリバーンも異例の非難声明を出した。

アフガン・タリバーンの声明は、報道担当者名で16日付で出された。犠牲者に哀悼の意を示し、「罪のない女性や子どもを殺すことはイスラム教の原則に反する。いかなるイスラム勢力もこの原則を守らなければならない」と、TTPへの名指しは避けつつ、強い調子で事件を批判した。

TTPはパキスタン側の組織だが、アフガン・タリバーンの指導者オマール最高幹部に忠誠を誓っている。
アフガン・タリバーンはTTPの支配地域で潜伏場所を確保し、アフガン側でのゲリラ戦に兵力を出してもらうなど密接な関係を保ってきた。

今回、同じ「タリバーン」を名乗るTTPが凶悪事件を起こしたことで、アフガン・タリバーンの幹部の一人は朝日新聞の電話取材に「我々への支持に影響が出なければいいが」と懸念を口にした。

パキスタン国内でも、今回のテロを機にTTP寄りだったイスラム原理主義政党からさえ、非難が出ている。シャリフ首相は17日、ペシャワルで各政党を招いた会議を開き、TTPに対する軍の掃討作戦への全面的な支持を取り付けた。

アフガン側でも事件後、TTPの最高幹部らの潜伏情報がある東部で米国の無人機攻撃があった。パキスタン軍トップのラヒル・シャリフ陸軍参謀長は17日、アフガンの首都カブールを訪れ、ガニ大統領にテロ対策での協力を要請した。【12月18日 朝日】
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「罪のない女性や子どもを殺すことは・・・」 男性の大人なら一般人でも殺していいのか?という話は今はやめておきましょう。

こうした反TTP機運を受けて、パキスタン政府・軍はTTPへの強硬な姿勢・行動をすでにとり始めています。

****テロ死刑囚の刑執行へ=一時中止措置を解除―パキスタン首相****
パキスタンのシャリフ首相は17日、過去にテロ事件に関与した死刑囚に対する刑執行を再開するよう関係当局に命じた。北西部ペシャワルの学校襲撃事件を受け、より強い姿勢でテロリストに臨むことを示した形だ。

シャリフ政権は野党や人権団体などからの批判を受けて死刑執行を中止しており、政府内の強硬派から「テロを助長する」と批判されていた。

今後はテロ事件に関与したとして死刑が確定した死刑囚に限り、執行を認めるという。
地元メディアによると、パキスタンの死刑囚は約8000人に上る。【12月17日 時事】 
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実際、19日、パキスタン中部のファイサラバードの収容施設で、過去のテロ事件にかかわった死刑囚2人に絞首刑が執行されました。

“「パキスタン・タリバン運動」は19日、死刑執行に先立ち新たな声明を出し、死刑が執行された場合は報復すると宣言しており、さらなるテロや襲撃への懸念が高まっています。”【12月20日 NHK】

****タリバンに空爆20回「テロリスト57人殺害****
パキスタン北西部ペシャワルで、反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が学校を襲撃し、子供ら140人以上が死亡した事件を受けて、同国軍報道官は17日夜、事件発生後にTTPなどを標的とした空爆を20回行ったと発表した。

空爆は、隣国アフガニスタンとの国境沿いにある部族地域内で行われた。パキスタン軍は「テロリスト57人を殺害した」と説明している。(後略)【12月18日 読売】
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掃討にはアフガニスタンの協力が不可欠
軍関係者は、TTPの最高指導者ムラー・ファズルラー師が、潜伏先の隣国アフガニスタンから今回襲撃を指揮していたとの見方を示しています。【12月19日 読売】

また、軍が傍受した通話記録によれば、犯行グループの「講堂にいた子供は全員殺しました。今度は何をしましょうか」と問いに、指示役が「軍人を殺して、自爆しろ」と命じたとのことですが、TTP関係者によると、この指示役は、アフガニスタン東部に潜伏し、ペシャワル周辺を担当するマンスール司令官だと言われています。【12月19日読売より】

いずれにしても、TTP幹部は隣国アフガニスタンに潜伏し、一方、アフガニスタンのタリバンはパキスタンのTTP支配地域に逃げ込む・・・という連携関係があり、TTPへの対応はアフガニスタンとの協調が必要になります。

****<パキスタン>テロ掃討機運高まる アフガン協力が不可欠****
パキスタン北西部ペシャワルで140人以上が死亡した学校襲撃事件を受け、国内でテロ組織掃討に向けた機運が高まっている。

だが、犯行を認めた武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は隣国アフガニスタンに潜伏しているとされ、掃討にはアフガンの協力が不可欠だ。自国もテロの脅威にさらされているアフガンとどう連携できるかが鍵となりそうだ。

「タリバンに『良い』も『悪い』もない。最後のテロリストを掃討するまで戦いは続く」。パキスタンのシャリフ首相は17日、全政党の代表者と協議後、テロ組織の掃討作戦継続を宣言。7日以内にテロ対策の国家行動計画を策定することを明らかにした。

また、2008年から続けてきた死刑の一時停止措置(モラトリアム)を「テロリスト」については解除する方針を決定。テロに対して改めて強硬姿勢を示した。

一方、首都イスラマバードでは、8月からシャリフ首相辞任を求めて反政府デモを続けていた野党「正義のための運動」が17日、「国家の結束が必要だ」としてデモの収束を宣言。挙国一致でテロ対策に取り組む姿勢を見せた。

パキスタンのシンクタンクCRSSのジーシャン・サラフディン上級研究員は「TTPは初めて子供を標的とし、一線を越えた。事件は国家の安全保障政策の転換点になるだろう」と話す。

TTPは北西部・北ワジリスタン管区を拠点としていたが、6月に始まった軍の掃討作戦でアフガンに逃走。最高指導者ファズルラ師もアフガンに潜伏しているとされる。

パキスタン軍トップのシャリフ陸軍参謀長は17日、カブールでアフガンのガニ大統領と会談し、テロ対策での協力を求めた。

だが、アフガンでは旧支配勢力タリバンのテロ攻撃が相次いでいるうえ、駐留外国軍の規模縮小も進む。アフガン軍は情報収集能力に欠けるとの指摘もあり、実効性のある作戦を遂行できるかは不透明だ。

サラフディン氏は「パキスタン軍は合同作戦や共同訓練などあらゆる手段を取ろうとするだろう」と指摘する。【12月18日 毎日】
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事件を機に、両国の協調が進み、イスラム過激派によるテロが沈静化するのであれば、せめてもの救いと言えます。

“今ようやく、パキスタンの軍人や政治家は、スンニ派過激主義者が自国の存続を脅かしていることをはっきり意識し始めたのかもしれない。”【12月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】ということですが、一方で、パキスタン国軍の一部、特に諜報機関ISIがアフガニスタンでタリバンを支援している(というか、指示している)ということもあります。

このあたりの関係を整理しないと、パキスタンとアフガニスタンの協調というのは形だけのものになってしまいます。

新たな襲撃事件が起きる可能性も
ただ、当面は軍の掃討作戦が激化すれば、それへの報復テロもまた激化することが予想されます。

****パキスタン学校襲撃の武装勢力、他校も標的か****
パキスタン北西部ペシャワルの軍営学校を襲撃した反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が、さらにテロを展開する構えを見せている。

他の学校を攻撃対象にしているとみられ、テロ続発の懸念が高まっている。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、TTP幹部は18日、「さらに多くの学校や他の民間の標的を襲撃する」「我々は無差別攻撃をする」などと、ビデオメッセージで述べたとされる。

パキスタンには、襲撃された学校と同様に軍が運営する教育施設が140か所以上あり、新たな襲撃事件が起きる可能性がある。(後略)【12月19日 読売】
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掃討作戦を進めれば、現実には不可避的に家族・関係者などの犠牲者も増大します。
「大切な人が死ぬのを見ろ。われわれの愛する人たちも同じやり方で殺されているんだ」・・・TTPのテロは断じて容認できませんし、話し合いが成立するような状況になく、軍による掃討しか道がないとも思います。ただ、ないものねだりかもしれませんが、それに伴う犠牲者の増大は受け入れざるを得ないのか・・・整理しきれない部分も残ります。
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アメリカ・オバマ大統領  対キューバ政策の歴史的転換 中間選挙敗北で逆に強気姿勢へ豹変

2014-12-18 23:28:31 | アメリカ

(17日、ホワイトハウスで演説を行い、キューバに対する政策転換を発表するオバマ大統領 “flickr”より By Social Extremely https://www.flickr.com/photos/126452132@N07/16044657495/in/photolist-qrP4FM-qaK9Za-qaFwtS-qpXeWJ-qaEJto-qs4kVt-qaPpct-qpXmBh-pvtyGV-qaEBU1-qa9NE9-qaEGkL-qaFAZW-qpXmqA-qsaS5W-qsaR8W-qaEHQQ-qsaR9h-qpX9DE-qaH3TK-qs4uqL-qs4qVQ-qpQWpw-qaH44e-qrX68e-qazeQJ-qs849i-qayiRE-qazb5h-pv8JG5-qs4s2N-pvnb5c-qaH3rT-qpQXsJ-pvnbcg-qazfb3-qrWYXD-qaC6xz-qauUru-qpMzvy-qpMzvJ-qaDCua-qrTFFF-qpMzwf-qavPZJ-pviLZv-pv5jP1-qavQ8j-qauWTJ-qs15E5)

国内反対論を振り切ってキューバとの歴史的和解へ
アメリカ・オバマ大統領は半世紀にもわたって続けてきたキューバ封鎖政策を「失敗だった」と認め、国交正常化・禁輸措置緩和に向けて大きく舵を切る方針を発表しました。

1962年のアメリカ・ケネディ大統領とソ連・フルシチョフ書記長が世界核戦争の危機に直面した「キューバ危機」に象徴されるように、フロリダ半島のすぐ近く、アメリカの“裏庭”あって反米を主張するキューバは、のどにささった小骨のような存在でもありました。

****米とキューバ、国交正常化へ始動 歴史的政策転換****
米国とキューバは17日、冷戦以来の対立関係を打開する歴史的な突破口を開き、国交正常化と、米国による50年に及ぶ禁輸措置の緩和に向け動き出した。

バラク・オバマ米大統領は、キューバとの通商関係の見直しと、1961年に閉鎖された在キューバ米大使館再開の用意があると発表。また、キューバのテロ支援国家指定の再検討を米国務省に指示したことも明らかにした。

キューバのラウル・カストロ議長は、首都ハバナでほぼ同時に行った演説で、旧敵国同士の両国が半世紀以上を経た後に「外交関係の再樹立に同意した」と発表した。一方で、禁輸措置を「封鎖」と呼んだ上で、この問題はこれから解決すべき事案だと注意を喚起した。

オバマ大統領は、米国による禁輸措置は失敗だったと認め、外交関係や渡航制限の問題に関する前進とともに、禁輸解除を検討するよう米議会に要請すると述べた。

歴史的な発表に先立ち、両国はそれぞれが拘束していた情報要員の身柄交換を行っていた。まず、キューバで投獄されていた米国人請負業者アラン・グロス氏と、米国のスパイとして20年間身柄を拘束されていたキューバ人が解放された。

オバマ大統領は、このキューバ人を、最も重要な駐キューバ米工作員の一人としている。これに対し、米国はキューバのスパイ3人を解放した。

オバマ大統領はまた、ローマ・カトリック教会で中南米初の法王となったフランシスコ(Francis)法王と同教会が、両国の関係改善を仲介したことを明らかにし、その功績をたたえた。【12月18日 AFP】
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この件については、これまでの交渉の経緯、バチカン・ローマ法王の仲介、キューバ側の事情・・・等、いろいろな話はありますが、それはまた別の機会に。

今日とりあげたいのは、アメリカ・オバマ大統領の最近のアグレッシブな姿勢についてです。

キューバとの関係の歴史的転換については、国際世論は歓迎していますが、アメリカ国内には強い反対論があります。

****キューバ政策転換に米与野党批判*****
オバマ米大統領がキューバとの国交正常化交渉を始める方針を示したことに、米議会では野党・共和党だけでなく与党・民主党からも批判が噴出。オバマ氏が表明したキューバへの大使館開設や、議会が設定した対キューバ制裁の解除にも影響を与えそうだ。

共和党のマケイン、グラハム両上院議員は17日、「独裁者、悪党、敵への宥和政策であり、世界での米国の影響力を小さくさせる」と批判した。

マケイン氏は共和党が上院で過半数を得る1月招集の新議会で軍事委員長に、グラハム氏は歳出委員会で外交予算を担当する小委員長に、それぞれ就任予定。大使館開設の予算審議などに影響を与える立場だ。

キューバからの移民を両親に持ち、2016年大統領選出馬が取り沙汰される共和党のルビオ上院議員は声明で、キューバがシリアやイランと同じテロ支援国家であり、北朝鮮との武器の違法取引に関わっていると指摘。オバマ氏の決定は「米国の国家安全保障を危険にさらす」と強調した。

一方、与党・民主党でもキューバ系のメネンデス上院外交委員長が声明を発表し、オバマ氏の決定を「連邦法や議会を迂回(うかい)するものだ」として非難した。

さらに、オバマ政権がキューバのカストロ体制に経済的な命綱を投げ与えることになったとし、新議会で政府側に「劇的で間違った政策変更」についての説明を求める考えを表明した。【12月18日 産経】
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今回の措置は「大統領権限で可能な範囲」(米政府高官)とのことですが、一部制裁措置の解除には法的変更が必要であり、共和党主導となる1月以降の新議会で実現するかは厳しい情勢とも指摘されています。

そうした議会内の反対を押し切る覚悟でオバマ大統領が今回の方針転換を図ったのは、「歴史的実績」、“レガシー”づくりのためとも言われています。

共和党との対決を厭わない対決姿勢鮮明化
先の中間選挙では与党・民主党が大敗し、その原因はオバマ大統領の不人気にあると言われています。

オバマ大統領に対しては、オバマケアに見られるようなリベラルな施策への保守派からの批判に加え、外交面でも“レッドライン”を超えたシリアへの攻撃を回避したことなどで、“優柔不断”“アメリカの権威失墜を招いた”との批判もあります。

また、議会との関係が機能せず、政府機関閉庁や債務不履行(デフォルト)の危機を繰り返し、“決められない政治”が続いていました。

こうした事情に加え、中間選挙大敗で野党・共和党が上下両院を制したこともあり、次期大統領選挙に向けて“レームダック化”が避けられない・・・とされていたオバマ大統領ですが、選挙後は矢継ぎ早に、反対を押し切って自身の考えを打ち出す、アグレッシブな姿勢が目立っています。

その最たるものが、就任時からの公約である移民制度改革について、野党・共和党の反対で関連法案成立の見通しが立たないため、大統領権限を使って進展を図ると表明したことです。
(11月21日ブログ「アメリカ・オバマ大統領  移民制度改革を大統領令で強行 批判を強める共和党 深まる対立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141121

11月18日には、カナダのオイルサンド(油砂)から採取された原油をテキサス州の精製施設に運ぶパイプライン「キーストーンXL」の建設を承認する法案が上院で否決されました。

「キーストーンXL」の建設には、オイルサンド採掘や精製時に温室効果ガスを多く排出することや、パイプラインからの原油の漏洩の可能性などが問題視されており、環境問題に関心が高い層の支持を受ける民主党議員の多くやオバマ大統領が反対し、共和党は賛成の立場でした。

しかし、民主党内部にも賛成意見があり、特に、建設計画への支持が強いルイジアナ州で中間選挙の決選投票を控えていた民主党現職のランドリュー氏にとっては、建設反対は完全な逆風となるものでした。

オバマ政権は、身内の現職議員を“見殺し”にする形での建設反対姿勢であり(すでに民主党大敗という大勢が決していたということはありますが)、もし法案が上院を通過すれば、拒否権を行使するとも見られていました。

11月26日には、光化学スモッグの発生を招くオゾンの排出規制を見直し、大気汚染対策を強化すると発表しました。
これも、2011年に一度、規制の強化案を公表し、産業界や野党・共和党などから、企業は巨額の費用の負担を強いられ景気回復を妨げるなどとして激しい反発に遭い、実施を見送った経緯がある案件で、共和党・産業界の強い反対が予想されます。

12月9日は、米上院情報特別委員会が、中央情報局(CIA)による過酷な尋問の実態を批判した報告書を公表しましたが、チェイニー前副大統領など保守派が強く反発しています。
(12月11日ブログ「アメリカ  CIAによる過酷な尋問の実態を批判した報告書を公表」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141211

外交面でも、中間選挙対外直後のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)や20力国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)に出席したオバマ大統領は、中国の習近平国家主席と温室効果ガスの排出削減で歴史的な合意に達しました。

これにも、国内的には、中国に甘く、アメリカは過重な負担を負うとして反対も強く存在します。

人事面でも、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」への掃討作戦をめぐる対応などでオバマ大統領に異論を唱えてきたヘーゲル国防長官を事実上、更迭することを11月24日に発表。
ホワイトハウスを軸とする「中央集権」と「側近政治」を強化し、求心力の低下に歯止めをかける態勢づくりを行っています。

オバマは大統領就任後初めて、「政治」から自由になった
こうした一連のオバマ大統領の反対論を蹴散らすかのような積極姿勢は、中間選挙大敗でもはや選挙を気にする必要もなくなり、政治的自由を得たことが大きいとも言われています。

****残りの任期は2年、内政も外交も失敗続きの「弱腰大統領」が強力なリーダーシップを発揮し始めた****
アメリカ史上初の黒人大統領として華々しくホワイトハウス入りしてから6年。バラクーオバマ大統領への熱狂的な期待はすっかりしぼんでしまった。

オバマは党派を超えた融合を目指したが、今のワシントンは激しい党派対立に分断されている。就任1年目にノーベル平和賞を受賞したのに、オバマ政権下で米軍の無人機攻撃は激増し、同盟国の首脳らを盗聴していた疑惑まで浮上した。

米口関係は「リセット」どころか一段と悪化。シリアのアサド大統領が化学兵器使用という「レッドライン」を越えてもオバマが武力行使に踏み切らなかったことで、米大統領の言葉の重みは決定的に失われてしまった。

医療保険制度改革の「オバマケア」は実現した数少ない公約だが、在任中に2度も米国債のデフォルト(債務不履行)危機が起きたことを考えれば、政府が保険金を負担できるのかさえ不安になる。

もっとも、そうした「ダメつぷり」は見せ掛けにすぎないのかもしれない。オバマは残された2年間で別人に生まれ変わる可能性がある。

オバマ時代の最終章は、アジア訪問で幕を開けた。11月の中間選挙で民主党が大敗を喫したわずか数日後、オバマはアジアに飛び、APEC(アジア太平洋経済協力会議)や20力国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)に出席。中国の習近平国家主席と安全保障や貿易、さらには温室効果ガスの排出削減でも歴史的な合意に達した。

つまり、オバマは政治家人生の中で最も低調な時期に、批判派から足りないと長年指摘されてきたもの、リーダーシップを見事に発揮したわけだ。

しかも、これは序の口にすぎない。オバマは近いうちに、どの大統領も成し遂げられなかったほど大規模な地球温暖化対策を打ち出すとみられてぃる。

その際、オバマはもはや共和党に歩み寄ったり、合意を得る努力を重ねたりしない。議会の承認が不要な大統領令で一気に事態を動かすだろう。

選挙の心配がなくなって
上院に加えて下院でも過半数を制した共和党はオバマ政権に対し、移民制度改革で大統領権限という力技を使わないよう警告してきた。

だがオバマは、アジアから帰国するとすぐに大統領権限を行使して不法移民を救済する制度改革を発表した。

オバマは、この政策で民主党の支持基盤であるヒスパニック系住民の支持を固められることを熟知していた。2年後に大統領選を控えたこのタイミングで、彼は民主党と自身の後継者らに多大な財産を残したことになる。

それでも、疑問は残る。国内外の重要課題の解決に向けて大胆なりリーダーシップを発揮するまでに、なぜこれはどの時間を要したのかという疑問だ。

答えはシンプル。2期目の中間選挙を終えた今では、大統領選や議会選挙への影響を懸念する必要がなくなったからだ。

もちろん、中間選挙の大敗による打撃は大きいが、選挙を気にしなくていいことはそれ以上の意味を持つ。

今後のオバマは目の前の政治情勢やそれが投票行動に及ぼす影響に振り回されずに、長期的な政治アジェンダに自由に取り組める。

オバマは大統領就任後初めて、「政治」から自由になった。批判派がダメ大統領の熔印を押したくなる気持ちは理解できるが、最終的な判断を下すのはもう少し待ってもよさそうだ。【12月23日号 Newsweek日本版】
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【「女性」、「ヒスパニック」、「黒人」の少数派連合が機能すれば民主党必勝の読みも
オバマ大統領の“対決姿勢”に、中間選挙で大勝した野党・共和党は及び腰にも見えます。

予算を人質にとった従来の対応は、政府機関閉庁を招き、債務不履行の危機にさらしたということで、共和党に対して世論の厳しい批判が集まりました。

その経験もあって、2015会計年度(14年10月~15年9月)予算案について、米議会上院は13日、下院に続き、大半の政府機関の資金を来年9月まで手当てして政府機関の閉鎖を回避する予算案を可決しています。

大統領権限を有するオバマ大統領を本当に追い込むとしたら“大統領弾劾”という話になりますが、それでは民主党支持層の戦意を高め、共和党が世論から悪者扱いされる危険があります。

オバマ大統領としては、むしろ共和党との対決姿勢を鮮明にし、支持基盤である黒人、ヒスパニック、女性などをしっかり把握できれば、次期大統領選挙も民主党が勝利する・・・という読みもあるようです。

****オバマと米議会は「全面対決」へ****
「大統領弾劾」をにらんで政争激化
オバマ政権の最後の二年間が大荒れの様相を強めている。
オバマ大統領は、中間選挙の敗北後、解き放たれたかのように、移民、環境、外交で次々と大権を発動し、共和党とは正面から激突する構えだ。

二〇一六年の大統領選を控え、双方とも「大統領弾劾」をにらみながら、最高裁判所も巻き込んだ、泥沼の政争が始まった。

三権すべてが機能不全
(中略)
一連のオバマ攻勢に対して、中間選挙で大勝した共和党はむしろ守勢だ。

米政治で、ホワイトハウスと議会が正面衝突した場合、議会は不利である。大統領の拒否権を覆すには、上下両院で三分の二以上の多数で再可決する必要がある。これは非常に高いハードルで、クリントン時代に三十七回の拒否権で二度、ブッシュ子時代に十二回の拒否権で四度、あるだけだ。

ベイナー議長はオバマ大統領を提訴した。行政訴訟で大統領令の執行を止める構えだ。この法廷戦術では必ず最高裁まで争うことになるが、最高裁もまた民主、共和で拮抗している。

最高裁判事九人のうち、共和党大統領に指名されたのが五人、民主党大統領に指名されたのが四人。向こう二年間で最高裁判事に欠員が生じた場合、オバマが指名する候補を、共和党多数派の上院が簡単に承認する可能性は低い。

「今の米国は、行政(ホワイトハウス)、立法(議会)、司法(最高裁)がそれぞれに対立し、すべてが機能不全」(在ワシントン政治記者)という状態だ。

残された手段は、大統領弾劾である。これは、下院が「弾劾裁判を開く」ことを可決した上で、上院が弾劾裁判所になり、議員の三分の二以上の賛成でようやく弾劾の運びになる。

過去に弾劾裁判が開かれたのは二回だけで、どちらも失敗。ウォーターゲート事件のニクソン大統領は、下院司法委員会が訴追勧告を決めた段階で辞任した。クリントン大統領の弾劾裁判では、共和党議会の方が悪者にされた。

共和党筋は「これこそオバマ陣営が狙うシナリオだ」と警戒する。
移民・環境問題のように民主党支持層の琴線に触れる問題で、戦う大統領に弾劾の動きが起これば、一六年の大統領選・議会選では、支持層にカツが入る。

身を賭しての瀬戸際戦術であり、共和党内では「オバマが仕掛ける弾劾のワナに乗せられてはいけない」(保守系コラムニストのチャールズ・クラウトハマー)という声が強い。

ただ、共和党の腰が引けていたままでは、失望が広がる。ピュー・リサーチ・センターの調査では、中間選挙で共和党に投票した有権者の三分の二が「オバマと対決すべき」と考えていた。

保守系市民団体は「弾劾」「任期途中の辞任」を強く求めている。有権者全体で見れば、オバマの「不法移民恩赦」は不支持が多いだけに、共和党は来年、弾劾を軸にオバマの任期途中退陣を目指す姿勢を示さなければならない。

次の大統領までたたる禍根
オバマ大統領は中間選挙での敗北後に、「有権者の声を聞いた」と語ったが、協調姿勢はあっという間に消えた。
ホワイトハウスで何が起こっているのか。

実は中間選挙の敗北こそ、大統領を対決路線に向かわせたという見方がある。

「中間選挙は民主党議会が主導し、オバマは遊説もせず、各候補に任せた。『オバマ隠し』で大敗だから、オバマは自分の戦略に自信を深めた」と前出政治記者は言う。

〇八年の大統領選を含め、オバマが臨んだ過去四回の選挙では、明白な有権者動向があった。

オバマは「女性」(一二年大統領選で得票率五五%)、「ヒスパニック」(同七一%)、「黒人」(同九三%)が三大支持層。この少数派連合が機能すれば民主党必勝である。

投票率が高い大統領選(〇八年六一・六%、一二年五八・二%)では民主党が勝ち、低い中間選挙(一〇年三九・九%、一四年三六・三%)では共和党圧勝の図式ができた。

「オバマ隠し」で臨んだ南部各州の女性候補は上院選で軒並み惨敗した。少数派に熱気を引き起こさなければ、民主党は勝てない。「中道」で勝ち切ることを望むヒラリー・クリントンの陣営には、悪いメッセージだった。

ただ、少数派連合は低所得層でもあり、これに頼る戦略は、二大政党の階級政党化を一段と進めてしまう。

議会を迂回して強権で導入した政策は、しょせん長続きしない。民主党が多数派だった時代に強行可決した「医療保険制度改革(オバマケア)」のように、将来の政争のもとになるだけだ。

オバマの政令政治は、残る任期だけでなく、次の大統領の時代にまでたたる大きな禍根を残した。「分断」と「決められない政治」は、オバマ時代の負の政治的遺産になってしまった。【12月号 選択】
********************

シェールガス・オイルの生産拡大、それに伴う原油価格下落は、アメリカ経済を潤し、ロシア・イラン・ベネズエラなどアメリカに敵対する国家の財政を揺るがしています。

そうした環境もオバマ大統領に追い風として働いています。

ただ、「リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただ『アメリカ合衆国』があるだけだ。ブラックのアメリカもホワイトのアメリカもラティーノのアメリカもエイジアンのアメリカもなく、ただ『アメリカ合衆国』があるだけだ」と“ひとつのアメリカ”を掲げて大統領への階段を駆け上がったオバマ大統領が、結果的に分断と対決を強めるという皮肉な結果ともなります。
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原油価格下落で悪化するロシア経済 ウクライナ東部は沈静化? 破綻寸前のウクライナ財政を抱え込むEU

2014-12-17 22:31:39 | 欧州情勢

(ウクライナ東部ドネツクの親ロシア派勢力の兵士 “flickr”より By Playing Futures: Applied https://www.flickr.com/photos/centralasian/15993876416/in/photolist-qnjNeW-q9j1Jh-q9sBdF-q8KVok-q85sBp-q9jJGf-qqPRbC-q9tjvv-q9rSft-qoBheA-qqHpAv-qpkPFe-q6DyRW-qo2fyz-qo43cG-qnu43A-qpAsAi-q8dzZA-q6Mkxn-q9BZH3-qqgziu-qqk6LR-qqS9TY-q8HedK-qqabpp-q6ZbP8-qkV8mh-qqP98L-pu7PQt-qqGG3a-qqhTZL-qqSESP-qnXEne-ptiU3k-qpKZtc-pqRsWn-qpmdEm-q7dc7V-qquq8j-q6JBp9-qm1Vmd-q5WfLC-q8GrVS-q7oaDL-q9qVzh-ptEAcP-ptVbQE-q6XvHW-psHARq-q8gqgk)

崖っぷちロシア経済は、自ら招いた結果だ
ロシア経済が、ウクライナ情勢に伴う欧米の制裁や国家財政を支える原油の価格下落によって厳しい状況になりつつあることは、11月22日ブログ「ロシア 欧米の対ロシア制裁による国内経済への影響 食品価格高騰・ルーブル急落」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141122 でも取り上げました。

当時の原油価格は、代表的な指標であるWTI原油先物でみると1バレル=76ドル前後でしたが、その後、OPECが生産調整を見送ったこともあって更に下落を続けています。
(12月5日ブログ「ベネズエラ 原油価格下落で経済悪化が加速 迫るデフォルト・社会不安の危機」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141205))

財政収支を均衡させるために必要な原油価格(財政均衡原油価格)は、収入の半分を原油に依存するロシアの場合は100ドル程度と見られていますが、現在は55ドル水準にまで下落しています。

それにともなって、ロシア通貨ルーブル安に歯止めがかからない状態になっていることを各メディアが報じています。

****ロシア・ルーブル急落、過去最安値記録 試される大統領の手腕****
ロシア・ルーブルが16日暴落し、一時1ドル=80ルーブル、1ユーロ=100ルーブルと過去最安値を記録した。

ウラジーミル・プーチン大統領がこの経済の危機的状況と欧米との衝突という2つの難題を乗り越えられるのか、その手腕が試されている。

これまで石油価格の下落に加え、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力を支援していることに対する欧米からの制裁で、ルーブル安が続いていた。

ロシア中央銀行は日付が16日に変わった直後に主要政策金利を17.0%に引き上げたが、ルーブルの暴落を食い止めることはできなかった。

ロシアの歳入は石油輸出に大きく依存しており、過去6か月間に原油価格が半分程度にまで下がったことを受けて景気の大幅な減速を危惧する声は強まっており、中央銀行が来年5%のマイナス成長を警告するという異例の事態に陥っている。

同日中に20%下落したルーブルは午後遅くの取引で若干持ち直し、1ドル=72ルーブル、1ユーロ=91ルーブルの水準になった。

経済の見通しが悪化の一途をたどり、景気後退が懸念される中、有権者に経済の安定と相対的な繁栄を公約していたプーチン大統領は、極めて難しいかじ取りを迫られている。(後略)【12月17日 AFP】
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“ロシアの連邦歳入の約5割が石油・天然ガスの税収で、石油の収入はガスの約7倍にのぼる。資源産業を最重要視するプーチン政権下で、ロシアは原油頼みの経済構造から全く抜け出せず、原油価格下落が通貨の信頼を下げたのは自然な結果だ。”【12月17日 産経】
ロシア経済の原油依存体質は今も昔も変わっていません。

プーチン大統領が絶大な国民的支持を獲得できたのは、チェチェン問題など対外問題での強気の姿勢とエリツィン時代の経済混乱を立て直したことによるものですが、当時ロシア経済が立ち直り、BRICSの一画を担うまでになったのはプーチン大統領の手腕というより、好調な原油市場がもたらした利益のせいでした。

プーチン大統領に限らず、経済政策の成果を誇示する政治家について冷静に判断すれば、単に登場時期が経済環境に恵まれていただけ・・・というのはよくある話です。

いずれにしても、プーチン政権下でもロシア経済の原油依存体質改善が一向に進まなかったため、現在の原油価格下落を受けて“なすすべがない”のも仕方がないところです。

“ロシア中央銀行のシベツォフ第1副総裁は16日、外国為替市場での通貨ルーブル暴落は「危機的な状況だ」と宣言した。その上で「近日中に2008年(の金融危機)に匹敵する状況が訪れると思う」と述べた。”【12月17日 時事】

ウクライナ問題などでロシア・プーチン大統領に振り回されてきた欧米側には、「それ見たことか」ともいった受け止めもあるようです。

****ルーブル急落、自業自得=ロシア経済は「崖っぷち」―米CEA委員長****
米大統領経済諮問委員会(CEA)のファーマン委員長は16日の記者会見で、通貨ルーブルが急落したロシアについて「非常に深刻な事態に直面しているが、(ロシアが)国際ルールに従わなかったため、自ら招いた結果だ」と述べた。

委員長は、ウクライナ情勢をめぐり米国などが講じた経済制裁に加え、原油価格の下落がロシア経済を直撃していると指摘。「(ロシア経済は)危機の崖っぷちにある」との認識を示した。

また、ロシアには通貨防衛のための政策金利引き上げなど「望ましくない選択しか残されていない」とし、ロシア中央銀行による利上げがロシア経済を萎縮させ、ルーブルの信認をさらに損なう可能性があると述べた。【12月17日 時事】 
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【「ロシアはここ数日、建設的に動いている」】
経済的に苦しい状況に陥っているロシアとしては、ウクライナ問題でこれ以上の欧米との軋轢を起こし、更なる制裁強化を招くことは避けたいところではないでしょうか。

そうしたロシア側の苦境も反映していると想像されますが、ウクライナ情勢はこのところ比較的落ち着いた展開になっています。

9月に停戦協定が発効したウクライナ東部では、その後も衝突が止まず、停戦合意は空文化していましたが、東部2州の親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍は12月9日から再度、停戦に入ることで合意しました。

9月の停戦合意が意味をなさなかった経緯もありますので、今回もその実効性には疑問もありましたが、今のところはそれなりの効果を示しているようです。

****再停戦後初の死者=親ロ派、重火器撤収か―ウクライナ****
ウクライナ国家安全保障・国防会議のルイセンコ報道官は11日、親ロシア派の砲撃でウクライナ兵3人が死亡したと発表した。政府軍が9日に東部での再停戦を宣言して以降、同軍兵士の犠牲者は初めて。

東部では局地的な砲撃が続き、政府軍と親ロ派の双方が「相手の仕業」と非難合戦を繰り返している。ただ、ロシア外務省のルカシェビッチ情報局長は記者会見で「停戦はおおむね順守されている」と評価した。

一方、親ロ派「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」は11日、支配地域の前線から口径100ミリ以上の重火器の撤収を開始したと主張した。

9月の停戦合意は、政府軍と親ロ派が重火器を15キロずつ撤収させ、幅30キロの緩衝地帯を設置するとうたっている。親ロ派の重火器撤収が事実なら、近く再開する和平協議を前に、緊張緩和に寄与することになる。【12月11日 時事】 
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ウクライナ政府側も、状況が好転しつつあるとの認識を持っているようです。

****対ロ制裁の効果出ている=ウクライナ大使が評価****
ウクライナのハルチェンコ駐日大使は17日、都内で記者会見し、通貨ルーブルが急落するなど経済が不振に陥っているロシアに関して、ウクライナ情勢をめぐり欧米が発動した対ロ制裁の効果が着実に出ていると評価した。

大使は「作用はゆっくりだが、この数日、この経済的な『武器』は目に見える形で効果を表している」と指摘。「ルーブルはこの2日間で20%下落し、株式市場も急落した」と語った。

大使は「新しい年はウクライナに平和が訪れることを希望する」と強調。クリミア編入やウクライナ東部への介入といったロシアの行動は、政権崩壊にもつながり得ることをロシアの指導者が理解するよう望むと語った。【12月17日 時事】
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一方、アメリカ議会は、ロシアへの追加制裁やウクライナへの武器供与など、ウクライナ問題への対応を強化する法案を可決し、オバマ大統領が署名する運びとなっています。

****<ウクライナ危機>米大統領、露追加制裁法案に署名へ****
アーネスト米大統領報道官は16日の定例会見で、ウクライナ危機を巡りロシアへの追加制裁やウクライナへの武器供与を可能にする法案にオバマ大統領が週内にも署名すると明らかにした。

一方、ケリー国務長官はウクライナ東部で政府軍と親露派が停戦に入っていることなどを受け「ロシアはここ数日、建設的に動いている」と評価した。

オバマ政権としては議会の対露強硬姿勢に配慮しつつ、ルーブル急落など経済情勢の悪化に直面するロシアの妥協を促す構えだ。

米議会が13日に可決した法案は、ロシアの防衛・エネルギー産業や金融企業などを対象に追加制裁を行うよう大統領に求めている。

また、対戦車兵器など致死的兵器を含む3億5000万ドル(約409億円)の軍事支援をウクライナに供与することを2015会計年度に認めている。

アーネスト報道官は法案について、「懸念もある」と発言。これまで連携して対露制裁を実施してきた欧州などの意向を反映していない文言が含まれており、「混乱したメッセージ」を発していると指摘。

それでも、「制裁実施の決定権が大統領にあり、署名する意向だ」と説明した。実際の制裁は、ロシアの動きを見ながら実施を検討するとみられる。【12月17日 毎日】
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オバマ大統領は署名しても、制裁強化などの実際の運用はしばらく留保するようです。

ようやくロシア・親ロシア派勢力を追い詰める情勢も見えてきたところですので、いたずらに刺激して反発を高めることもありませんので、ここは時間をかけて事態の推移を見守る・・・といったところでしょう。

なお、EUは16日、ロシアが一方的に編入したウクライナ・クリミア半島について、投資の全面禁止やクルーズ船の立ち寄りも含めた観光の禁止、石油・ガス開発関連技術の提供禁止などの追加制裁を実施することで基本合意しています。

EUにとって厄介なウクライナ財政支援
ウクライナ東部での戦闘が落ち着いているのは結構なことですが、ロシアにもましてウクライナ財政は危機的な状況にあります。

膨大な軍事費に加え、ロシアからのガス輸入再開で更に資金を必要としていますが、結局はEUやIMF頼みという状況です。

****ウクライナ、ガス輸入再開 ロシアに支払い、財政危機深化****
ウクライナがロシアからの天然ガス輸入を半年ぶりに再開した。

ロシアへのエネルギー依存を避けたいウクライナは10月に条件面で合意した後も再開を見送っていたが、東部の紛争で深刻な電力不足に陥った。

一方で財政危機はますます深刻化。新たな支援を求める声も強まり、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)を悩ませそうだ。

ガス輸入は、国営エネルギー会社が、ロシアの天然ガス企業ガスプロムに10億立方メートル分、3億7800万ドル(約455億円)を前払いし、9日から再開された。

EUが仲介した10月末の合意では、ウクライナが債務の一部を支払えばロシアは3月までは料金前払いを条件輸出に応じる。

ウクライナは直後に債務31億ドルのうち14億5千万ドルを支払ったが、輸入を続けるためには残りも年内に支払わなければならない。財政をさらに圧迫する要因になる。

財政が破綻(はたん)の危機にあるにもかかわらず再開に踏み切ったのは、エネルギー危機が現実になったからだ。

11月下旬から電気消費が急増。「虎の子」のガス備蓄は、暖房が始まった10月末から12月第1週までに2割も消費された。

火力発電でガスの代替となる石炭も、東部ドネツク、ルガンスク両州の炭坑地域が親ロシア派に支配され、生産が激減。12月の備蓄は昨年同期の4割を切った。各地で計画外の停電が続く。

2月の前政権崩壊で明らかになった財政危機は悪化の一途をたどる。

欧米各国やIMFが2年間で総額270億ドルを融資する支援策を決めたのは東部で紛争が始まる直前の今春。
現在の経済危機は当時の予想をはるかに超えている。最大の原因は国内経済の2割を占めるとされる東部2州での紛争激化と、劇的な軍事関連費の増大だ。

すでに危険な水準にあった外貨準備高は、債務支払いと下降する一方の通貨フリブナを買い支えるため半減。ヤツェニュク首相は11日、議会で「欧米のパートナーたちの新たな助けが必要だ」として、支援国会合の開催を求めた。

ウクライナ政府は必要額を明確にしていないが、債務不履行(デフォルト)回避のため、さらに150億ドルが必要との見方もある。

ウクライナ政府は、9日から始まったIMFとの次の融資実施をめぐる協議で、支援枠拡大を求めている。ただ、ウクライナ議会は同日あらたな財政再建計画を可決したが、春に決めた緊縮政策も滞っており、IMFからその実施を厳しく求められるのは必至だ。

EUは15日の外相理事会でウクライナ危機を協議する。対ロシア制裁ですでに経済的打撃を受け、さらなる支援拡大に二の足を踏む加盟国は少なくないと見られる。【12月14日 朝日】
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国際秩序を力で変更しようとするロシア・プーチン大統領に対抗する形で、EUはウクライナ支援を行ってはいますが、経済的な本音で言えば、財政破たん寸前のウクライナは、引き受けたくない厄介な“お荷物”とも言えます。
(2月25日ブログ「ウクライナ 想定外の政権崩壊で生じた国内の先行き不透明感とEU・ロシアの困惑」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140225

地政学的にみても、ウクライナはEUとロシアの緩衝国であり、完全に自陣に引き込む必要はなく、どっちつかずの状態にあればいい存在です。

ウクライナ問題と発端となったヤヌコビッチ前大統領がEUとの連合協定署名を見送って、ロシア寄りの姿勢を強めたときも、EU側には本音ではホッとしたところがあったと言われています。

“EUの全加盟国がウクライナとの連合協定締結を公には支持したが、昨年11月にヤヌコビッチ大統領が協定署名を見送ると、一部の国の当局者はひそかに胸をなで下ろした。ウクライナへの追加資金援助を求められずに済むと考えたからだ。”【2月20日 WSJ】

昨年末段階より財政的には更に悪化し、おまけにロシアとの衝突の危険という特大の爆弾まで抱えたウクライナにあてにされているEUですが、EUとしても今さらウクライナを見離す訳にもいきません。

そこらあたりの事情を踏まえてのEU側とウクライナ政府の駆け引きが行われているものと思われます。
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血なまぐさい1日  シドニー、フィラデルフィア、そしてパキスタン・ペシャワル

2014-12-16 22:06:13 | アフガン・パキスタン

(パキスタン・ペシャワル 負傷して病院に運ばれる女子生徒 【12月16日 AFP】)

シドニー:「イスラム国」に共感する「一匹おおかみ」的な単独犯か 移民・難民対応への影響も
今日は、各地で血なまぐさい事件が報じられる1日でした。

オーストラリア・シドニーでは昨日からの立てこもり事件が、銃撃戦の結末となり、犯人のほか人質2名が犠牲となりました。

****シドニー立てこもり 射殺の犯人はイラン出身の難民 人質の男女2人も犠牲に****
オーストラリアの最大都市シドニー中心部のカフェに武装した男が客や従業員を人質に立てこもった事件で、地元警察の特殊部隊は16日午前2時(日本時間同0時)すぎ、店内への強行突入に踏み切った。

警察発表によると、実行犯が銃撃戦で死亡したほか、人質の男女2人も犠牲になった。さらに警官1人を含む4人の負傷者を出して、事件は約16時間ぶりに解決した。

警察は単独で「リンツ・ショコラ・カフェ」に立てこもった男について、イラン出身の難民で、自称イスラム教聖職者マン・ハロン・モニス容疑者(50)と断定。

人質を解放するよう説得してきたが、午前2時すぎ、人質6人が自力で脱出した直後に店内で発砲音が起きたため、特殊部隊が銃撃を加えながら店内になだれ込んだ。

人質は計17人だったことが判明。突入の時点で数人が店内に残っていたが、店長の男性(34)と、女性客(38)が死亡した。人質の死傷が銃撃戦によるものか、容疑者に危害を加えられたのかは明らかでない。
地元警察の幹部は、強襲を断行したことについて、「突入しなければより多くの人命が失われていた」と説明した。

死亡したモニス容疑者は、アフガニスタンで死亡したオーストラリア軍人の遺族に侮辱的な手紙を送りつけたほか、元妻の殺害に関与するなどしていた。

オーストラリアのアボット首相は、容疑者について「暴力的犯罪に多数かかわり、(イスラム教)過激派への心酔や精神的な不安定さを抱えていた」と指摘。米治安当局は、容疑者にテロ組織などの背景がないことを豪当局に伝えていた。【12月16日 産経】
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事件は、イランから豪州に政治亡命していた自称イスラム教聖職者のモニス容疑者(50)によるものとされていますが、元妻殺害での従犯など、複数の犯罪容疑で起訴されている問題の多い人物でした。

****シドニー立てこもり 前妻殺害の共犯、黒魔術と称し性的暴行…奇行重ねた実行犯****
・・・・現地メディアによると、豪州治安機関は、モニス容疑者が2007年、アフガニスタンで死亡したオーストラリア兵士の遺族に脅迫的な手紙を送ったことで、同容疑者に注意を払ってきた。09年にはインドネシアのホテルで爆弾テロの犠牲者になった遺族にも同様の手紙を出した。

昨年は前妻の殺害をめぐり共犯として訴追された。今年4月にはシドニー西部で10年以上前に「黒魔術」と称して性的暴行を行った容疑に問われた。10月には40件の余罪も追加され、現在保釈中だった。

イラン出身の容疑者は、最近はシドニー南部に居住。自身のウェブページで警察の追及に「(私の)政治的な行動は止められない」などと投稿。内部告発を公開する民間ウェブサイト「ウィキリークス」創設者のアサンジ氏が「政治的な理由」で告発されているなどと訴えた。(後略)【12月16日 産経】
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州検事総長は“複数の犯罪容疑で起訴されていながら自由の身にあったことには重大な疑問点があるとし、どのような抜け穴があったのか綿密に検証するよう、州および連邦政府の各当局に要請したことを明らかにした。”【12月16日 AFP】

モニス容疑者は、イランの国教であるイスラム教シーア派からスンニ派に改宗し、「イスラム国」とバグダディ指導者に忠誠を誓うと自身のウェブサイトに記していたと報じられており、犯行時には「イスラム国」の旗を持ってくることなどを要求していますが、アボット豪首相は16日朝に記者会見し、「イスラム国の象徴を使い、自らの行動を覆い隠そうとした」と述べ、イスラム国と直接関係したテロの可能性は低いことを示唆しています。

“「イスラム国」のメンバーではないが、共感して犯行に走る「一匹おおかみ」的な単独犯だったとされる。”【12月16日 時事】とも。

犠牲となった人質2名は、他の人質のため体を張った行動に出た結果、犠牲になったと報じられており、その死を悼む悲しみが大きくなっています。

****3児の母、体張り妊婦かばう=犠牲者に称賛の声―豪人質事件****
・・・・カトリーナ・ドーソンさん(38)は弁護士で、3児の母。16日未明に警官隊と犯人が銃撃戦になった際、妊婦の友達をかばおうと覆いかぶさり、銃弾に倒れたとみられている。

トーリ・ジョンソンさん(34)は、事件の舞台となったカフェのマネジャーだった。他の人質を逃そうと、犯人の銃につかみかかり、撃たれたとの目撃情報があるという。(後略)【12月16日 時事】
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「移民の国」オーストラリアが増大する難民受け入れに苦慮していることは、このブログでも何回か取り上げてきました。
2013年10月5日ブログ「オーストラリアを目指すボート・ピープル  取締りを強化する豪、中継地インドネシアと協議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131005)など。

イランからの密航者の多くは、迫害などで追われた政治難民ではなく、より良い生活を求める「経済移民」と見られています。

国内には移民・難民との軋轢もあり、今回事件の影響が懸念されます。

なお、イラン外務省報道官は「宗教の名の下に恐怖をもたらす非人道的な手法で、決して容認できない」と非難しています。

【「銃社会」アメリカで繰り返される銃による事件
アメリカでは、連続発砲事件が起きています。

****米で連続発砲事件、6人死亡 容疑者は逃走****
米北東部ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊で15日、発砲事件が3件相次ぎ、6人が死亡、1人が重傷を負った。警察は逃走中の容疑者の男の行方を追っている。

同州モンゴメリー郡検察当局によると、警察が行方を追っているのはブラッドリー・ウィリアム・ストーン容疑者(35)。

撃たれた7人は容疑者と親類関係にあった。ストーン容疑者は武装していることから、警察は付近の住民に屋内にとどまるよう警告している。

犯行の動機は今のところ不明。地元メディアによると、犠牲者の1人はストーン容疑者の元妻のニコール・ヒルさんで、深夜にローワーサルフォードにある自宅で幼い娘2人の目前で射殺されたとみられる。容疑者とヒルさんは娘の養育権を争っていたという。

またランズデールの住宅でも2人の遺体が見つかり、1人はヒルさんの祖母とみられる。ストーン容疑者について、米ABCテレビ系列のWPVIは、元兵士だとの情報を伝えた。

ほかの犠牲者の遺体は、ヒルさんの姉妹が住んでいたとみられるサウダートンの住宅に警察が突入した際に見つかった。また住宅からは10代の負傷者がヘリコプターで病院に搬送されたと、NBC系列の「NBC 10」は報じている。【12月16日 AFP】
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ブラッドリー・ストーン容疑者(35は元海兵隊員で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを患っていたとも報じられています。【12月16日 産経より】

「銃社会アメリカ」については、昨日ブログでも多発する警官による黒人への過剰暴力問題で取り上げたほか、これまでも再三言及してきましたが、何度こうした事件が起きても銃規制が一向に強化されないのがアメリカの現実です。

そうした現実にあって、銃乱射事件遺族が銃製造メーカーを告発したとのニュースもあります。
ただ、おそらく遺族が満足するような結果はでないのではないでしょうか。

****銃メーカーなど提訴=米小学校乱射事件の遺族ら****
米東部コネティカット州ニュータウンの小学校で2012年12月、児童ら26人が銃撃され死亡した事件で、児童9人の遺族と負傷した女性教師が15日、犯行に使われた銃のメーカーと卸業者、販売店の3者を相手取り、過失責任を追及する訴訟を州の裁判所に起こした。米メディアが伝えた。

訴えられたのは銃メーカーのブッシュマスター社(本社ノースカロライナ州)など。遺族側は使用された同社製のライフル銃ARー15について、軍用に設計されたもので、一般市民に販売されるべきではなかったと主張している。【12月16日 時事】 
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パキスタン:TTPの軍への報復「やつらにも同じ痛みを味わわせたい」】
血なまぐささで突出するのが、パキスタン・ペシャワルで起きた(まだ銃撃戦が続いているとのことですから、“起きている”と言うべきでしょう)イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)による学校襲撃事件です。

時間が経過するごとに、被害者数が増えており、死者はメディアによっても異なりますが、100名を超えているようです。

****学校襲撃で126人死亡=過去最悪規模のテロ―タリバンが犯行声明・パキスタン****
パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワルで16日、武装集団が軍運営の学校を襲撃し、国営ラジオによると、生徒ら126人が死亡した。

学校を標的としたテロ事件としては、パキスタン国内では過去最悪の被害という。イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が犯行を認めた。

地元当局によると、同日午前、パキスタン軍の制服姿の武装集団5、6人が学校に侵入し、教室にいた生徒らに対して無差別に発砲。生徒らを人質に取って立てこもり、駆け付けた治安部隊との間で銃撃戦が展開された。

地元メディアによると、校外に避難した生徒は「教室にいたところ、外から銃声が聞こえ、先生が『机の下に伏せろ』と叫んだ。その後、軍の兵士がやってきて校舎の外に避難したが、多くの生徒が血を流して廊下に倒れていた」と証言した。

同校は軍関係者の子供が多く通う公立学校。事件当時は教師や生徒ら約500人が校内にいたとみられる。

パキスタン軍は6月以降、北西部の北ワジリスタン地区に地上部隊を投入し、TTPの大規模掃討作戦を実施。
TTPスポークスマンは今回のテロに関し、声明で「軍はわれわれの家族を殺害した。その痛みを分からせるために学校を狙った」と主張した。【12月16日 時事】 
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“パキスタン軍司令部によると、事件発生から3時間以上が経過した時点でも銃撃戦が続いている。
事件発生当時、校内にいた生徒や職員数百人について、軍は大半が避難したとしているが、治安関係者は現在も校内にとどまっていると述べ、状況把握が食い違っている”【12月16日 AFP 19:55】 

「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、イスラム法による統治を掲げ、支配地域では女性の教育を禁じており、ことしのノーベル平和賞を受賞したパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんを銃撃し頭に重傷を負わせたことでも知られています。

マララさんのノーベル平和賞受賞については、「(欧米が)マララを通じてイスラム教を侮辱するならば、全てのパキスタン人がタリバンになり、多くのマララたちが殺されるだろう」と警告する声明を出していました。

今回襲撃された学校は、軍が運営する、軍関係者が集中する学校ということで、軍が進めるTTP掃討作戦への報復とされていますが、マララさんの受賞との関連も懸念されます。

****<パキスタン>タリバン学校襲撃 犠牲者は多数の子供たち****
パキスタン北西部ペシャワルで起きた学校襲撃事件は、多数の子供たちが犠牲になり、内外に衝撃を与えた。

犯行声明を出した武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は今年、パキスタン軍の集中攻撃を受けてきたが、反撃能力を維持している。

隣国のアフガニスタンと同様、パキスタンの「テロとの戦争」も出口がまったく見えない状態だ。

タリバンのコラサニ報道官は、ロイター通信に対し、「我々が軍(運営)の学校を標的にしたのは、政府(軍)が我々の家族を狙っているからだ」と、犯行の目的を語り、こう続けた。「やつらにも同じ痛みを味わわせたい」。

2013年の下院選挙に勝利し、首相に返り咲いたシャリフ氏は、公約に掲げた「タリバンとの和平」の実現のため、今年2月には代表団による協議にこぎ着けた。

だがその後もタリバン側が攻撃をやめなかったことから6月にはタリバンなどが潜伏する北ワジリスタン管区に軍を投入し、掃討作戦を開始。政権は和平路線を放棄していた。タリバンは、政府の作戦への報復として今回、学校を襲撃した。

北ワジリスタン管区などアフガン国境地帯では、米国の無人機による空爆作戦も続けられている。タリバンの歴代指導者や司令官も米無人機によって殺害されてきた。だがそのたびに後任者が選ばれ、タリバンは勢力を維持してきた。

タリバンに12年に銃撃されたパキスタン出身のマララ・ユスフザイさんは、今月10日のノーベル平和賞授賞式で「平和」と「教育」の重要性を改めて訴え、世界に感動を与えた。

だが、その声はタリバンには届かない。パキスタンでは、タリバンの報復を恐れ、マララさんへの称賛をためらう住民が多い。
また、マララさんを「反イスラム的な欧米思想にかぶれた人物」ととらえる、欧米的価値観への根深い反発もある。

今回、タリバンが軍運営の学校を標的にしたのには、マララさんを積極的に支持しない住民感情につけこみ、タリバンへの支持拡大を図ろうとする狙いもある。

パキスタンでテロ攻撃が盛んになったのは、01年のアフガン戦争開戦以降だ。米国の「テロとの戦争」に協力したムシャラフ政権(当時)への反発からだ。米軍の誤爆などで多数のアフガン住民が犠牲になったことから反米感情が高まった。

米軍などアフガン駐留軍は今月末で任務を終了し、アフガン戦争は大きな区切りを迎える。だが、アフガニスタン、パキスタン共に治安回復のめどはなく、今後もタリバンなど武装勢力による攻撃は続きそうだ。【12月16日 毎日】
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学校には小学生から大学生が通っており、「子供ではなく、大人の兵士を殺害するよう指示してある」(TTP報道官)【12月16日 毎日】、あるいは“戦闘員らは、学年が上の生徒を撃つよう命じられているという”【12月16日 AFP】とのことですが、犯行現場ではそんな識別は無理でしょう。

“タリバンのコラサニ報道官は、ロイター通信に対し、「我々が軍(運営)の学校を標的にしたのは、政府(軍)が我々の家族を狙っているからだ」と、犯行の目的を語り、こう続けた。”とも。【12月16日 毎日】

パキスタンの「テロ地獄」は今に始まった話ではありませんが、軍の学校が襲撃され、多くの生徒が殺戮される・・・ということで、今後の軍の対応にも影響しそうです。

シャリフ政権としては、和平交渉でもテロが止まず、軍に突き上げられる形で掃討作戦に変更したものの、やはりテロは止まず・・・ということで、今後の対応に苦慮しそうです。

血なまぐさい事件が多発した1日でしたが、別にこうした事件がない“穏やかな1日”であっても、常に世界の各地で紛争・衝突が続き、毎日多くの犠牲者が出ているのも現実です。
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アメリカ  人種的緊張を高める警官の過剰暴力  暴力を容易に誘発する“銃社会”の現実

2014-12-15 21:45:52 | アメリカ

(12月13日 ニューヨークの抗議デモ “黒人の命だって大事なんだ!”“殺人警官を刑務所に!”“沈黙=同意” “flickr”より By ChrisN126 https://www.flickr.com/photos/chrisnarvaez/15995734256/in/photolist-qnujvE-qpLsRx-qpAuut-qpAufa-q8dJkU-qpGYDo-q8jWWx-q8jWUZ-q8cVVh-qpGYJU-q8cVU5-q8dJdQ-q8cVPW-psMdNu-q8cW2Q-psMdL5-q83GZC-qn5NZS-psBaQV-q7YS4A-q88riV-qptVwC-q7ZGsS-q88sQT-qpnpRB-qptUYd-q7ZJjs-qpnqT6-psydFS-qptWnf-q88qGV-qpnoC4-qpqkXZ-q8bo2i-psQENi-psBaU3-qpAmKp-qnjeiW-q8boYP-q8bnzB-qpjMpr-qpApF4-q7RAs1-q7R6ES-qn7H7W-psD6pr-q7R6CC-qnBCUE-ptiZM6-qp2vo9)

全米各地で抗議のデモ
アメリカでは黒人に対する白人警官の過剰とも思える対応、問題を起こした警官の不起訴処分が続き、13日も全米各地で抗議のデモが行われています。

「人種のるつぼ」ニューヨークでは、多様な人種を含む25000人規模で行われています。

****<米国>黒人暴力に抗議、NYで2万人超がデモ****
全米の主要都市で13日、警官による黒人への暴力などに抗議するデモが行われた。

公共物の破壊行為容疑などで西部カリフォルニア州オークランドでは、少なくとも45人、東部ボストンでは23人が逮捕された。また、ニューヨークでは警官2人がデモ参加者から暴行を受けたという。

ニューヨークでは2万5000人以上(AP通信)が参加。同市内での一連のデモでは最大規模となり中心部のマンハッタン地区を数時間かけて行進した。

「人種のるつぼ」ニューヨークを象徴し、デモには多様な人種が加わっていた。
フィリピンからの移民でコックとして働くパオロ・メントザさん(43)は「米国は民主主義の国で、誰もが平等のはず。でも警察は白人や金持ちを優先的に守り、有色人種や貧乏人には冷たい」と不満を語った。

デモを主催した団体のメンバーで黒人女性のシネード・ニコルスさん(23)によると、ツイッターなどソーシャルメディアで参加を呼びかけた。

黒人少年を射殺した白人警官が不起訴となり暴動に発展した中西部ミズーリ州ファーガソンなどのグループとも連絡を取り合っているという。

ニコルスさんは「事件が忘れられないうちに行動を起こすことが大事だと思い、デモを計画した。これからも闘い続ける」と語った。(後略)【12月14日 毎日】
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首都ワシントンでも、ファーガソンで銃撃され死亡したマイケル・ブラウンさんや、ニューヨークで首を絞められて死亡したエリック・ガーナーさんらの家族も参加して、約1万人のデモ行進が行われました。

****米首都で1万人黒人死亡抗議デモ****
全米で白人警官が黒人住民を死亡させる事件が相次いでいることに抗議する大規模デモが13日、ワシントン中心部で行われた。

約1万人がホワイトハウス近くの広場から米議会に向けて行進し、人種偏見や差別の撤廃を訴えた。

参加者はニューヨークで首を絞められて死亡した黒人男性、エリック・ガーナーさんが最後に口にした「息ができない」という言葉や「正義がなければ平和はない」のかけ声を上げて行進した。

被害者家族もデモに加わり、ガーナーさんの母親は抗議の声に耳を傾けるよう政府や議会に求め、次の首都訪問は偏見や差別の撤廃を「祝福するために来たい」と語った。

ミズーリ州ファーガソンで射殺されたマイケル・ブラウンさんの母親は「すごい人波。後押ししてくれてありがとう」と謝意を示した。

デモ参加者は全米各地から駆けつけ、メリーランド州職員の女性(47)は「肌の色で息子が警官からひどく扱われた。人種にかかわる政府の政策は不十分だ」と訴えた。デモはニューヨークやボストンなどでも行われた。【12月15日 産経】
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すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない
日本や欧州では、警官が街中で発砲するといったことはほとんどありませんが、アメリカでは“警察に射殺される人の数は、1日平均1人を超える(すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない)。”【英エコノミスト誌 12月13日号】とのことで、今回問題となったような事件も日常的に発生しているようです。

“すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない”というのが、その実態を物語っています。

****刑事司法体系:裁かれる米国警察****
米国は法執行制度を全面的に見直す必要がある

店内の防犯カメラが、痛ましい経緯を明らかにしている。場所はオハイオ州にあるウォルマートの店舗。ジョン・クローフォードさんは、店の棚から手に取ったオモチャのエアライフルを持って立っていた。恐らく、買うつもりだったのだろう。

彼はそのオモチャの銃を床に向け、携帯電話で話しながら、ほかの商品を見て回っていた。近くで遊んでいる子供たちは、彼を危険な存在だと思っていない。近くに立つ母親も同じだ。

だが、「黒人男性が銃を持って人々を脅している」という通報を受けて出動した警官が店内に突入し、クローフォードさんを射殺した。

近くにいた子供たちの母親は、その後のパニックで心臓発作を起こし、死亡した。今年9月、大陪審はクローフォードさんを撃った警官の不起訴を決定した。

相次ぐ黒人射殺事件で抗議行動に火
ほとんどの人は、この話を聞いたことがないだろう。というのも、こうした悲劇は、恐ろしいほどありふれているからだ。

米国の警察に射殺される人の数は、1日平均1人を超える(すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない)。

だが、最近起きた2つの事例が、全米規模の抗議行動に火をつけた。1つ目は、ミズーリ州ファーガソンで、黒人のティーンエイジャー、マイケル・ブラウンさんが、コンビニで強盗を働いた直後に射殺された事件だ。
射殺時の状況は曖昧で、よく分かっていない。

2件目は、無害な中年黒人男性、エリック・ガーナーさんが、ニューヨークの路上でタバコを販売していただけの咎で警官に窒息死させられた事件だ。

この事件は、5人の警官が見ている中で起きた――そしてこの時は、近くにいた人が一部始終を撮影していた。

これまでのところ、米国内の議論の大半は、人種問題に焦点が当てられている。それについては、筋違いとは言えない。犠牲者はすべて黒人で、関わっていた警官のほとんどは白人だったからだ。

米国の黒人は、刑事司法体系が自分たちを守るのではなく、自分たちにとって不利に働いていると感じている。米国の白人のおよそ59%は警察を信頼している。

だが黒人では、その割合は37%にとどまる。この事態は深刻だ。法の執行に不信を抱く人種グループが存在すれば、社会契約が損なわれる。

また、世界における米国の道徳的な評判にも傷をつけている(中央情報局=CIA=による拷問が明らかになったこともプラスには働いていない)。だが、米国の過去に根ざす人種的分断は、簡単に緩和できるものではない。【英エコノミスト誌 12月13日号】
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3億丁もの銃が溢れる銃社会アメリカ
この問題は、人種差別の問題である以前に、警官によってなぜ過剰なまでの暴力が使用されるのか?・・・という問題でもあります。

その背景には、日本や欧州の感覚では理解しがたい“銃社会アメリカ”の現実があります。
夥しい銃が存在しているため、警官も身を守るためには、条件反射的な発砲、それも相手のとどめを刺すような発砲が求められています。

****撃つな****
しかし、前述のような残酷な事件を吟味するにあたっては、また別の視点も存在する。国家による過剰な暴力の使用という問題である。

この問題にも複雑な原因があるが、その大半は改革で改善できる可能性がある。

米国の法執行制度がほかの先進国と比べてどれほど気まぐれで暴力的であるかを、米国民の多くは全く認識していない。制度を改善することで、米国は、今よりも安全で、黒人と白人の双方に公平な国にできるだろう。

米国の刑事司法体系には称賛すべき点もある。例えば、ニューヨーク警察はデータ主導の取り締まりの先駆者だ。しかし、全体として見れば、米国は全く間違った理由から世界の標準とかけ離れている。

米国では、成人人口の1%近くが投獄されている。この割合は、先進国平均の5倍を超える。ある推計によれば、米国の黒人男性は、3分の1の確率で刑務所暮らしを経験するという。

量刑も厳しい。一部の州では、常習的だが暴力的ではない犯罪者に対して、仮釈放のない終身刑が科されることもある。ほかの先進国では例のないことだ。

また、米国の警察には、貪欲になる動機がある。法律により、犯罪に関わっているという疑いがあるだけで資産を差し押さえ、その売却益を備品の購入に充てることが認められている。

さらに、ほかの国々が地域密着の警察活動に力を注いでいるのに対し、米国の一部の警察は準軍事組織となり、グレネードランチャーや装甲車を装備している。

重武装の特別機動隊(SWAT)による強制捜索の回数は、1980年には年間3000回だったが、現在では5万回にまで増加しているとする推計もある。

何よりも、米国の法執行プロセスでは、死亡事例が異常なほど多い。部分的な数字だけを見ても、2013年には警察により少なくとも458人が射殺されている。これに対して、イングランドとウェールズでは、警察により射殺された人は1人もいない。

すぐに発砲する警官がこれほど多いのは、1つには、あまりにも多くの米国民が銃を持っているからだ。

2014年には、警官46人が射殺されている。警官が暴行を受けた件数は、2013年に5万2000件に上った。強盗阻止のために現場に出動する警官は、たった1つのミスで定年退職まで無事にたどりつけなくなる可能性があることを意識している。

本誌(英エコノミスト)がしばしば指摘しているように、米国の殺人率がほかの先進国の数倍に上る理由は、概ね銃で説明がつく。

そして、警官が若い黒人男性に発砲する割合が異様に高いのは、単純に差別意識では片づけられない。

警官に撃たれる米国民のおよそ29%は黒人だが、警官を殺害した犯人のうち、人種が分かっている者のおよそ42%もやはり黒人なのだ。

米国に3億丁もの銃が流通していなければ、こうした状況のほとんどが変わるはずだ。だがその変化は、悲しいことだが、すぐには現実にならないだろう。とはいえ、警察による暴力を減らす方法はほかにもある。【同上】
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“銃社会アメリカ”の改革が一向に進まないことは、これまでも何回か取り上げてきました。
根強い“銃信仰”があるアメリカでは、選挙でも銃規制が取り上げられることは殆どありません。取り上げれば票を失うだけですから。

銃乱射事件や、ファーガソンでの抗議デモの暴徒化などが起きると、多くの住民が自衛のために銃の購入に向かい、銃砲店は大繁盛する・・・というのが今のアメリカです。

透明性の確保 責任の明確化 警察に軍事化阻止
“銃社会”をすぐに変えることはできなくても、警官にカメラを装備させて、何が起こったのかを明確にさせることはできます。

オバマ大統領も12月1日、警官の小型カメラ装着を全米で強化するための予算を議会に要請する方針を明らかにしています。

問題が起きたときは、その責任を問う中立・公正な判断が求められます。

また、警察がまるで軍のように重装備化されていることも、人種絡みの敏感な問題をいたずらに刺激するところとなっており、改善が求められます。

****装甲車を減らし、警官のカメラ装着を増やせ****
第1の手段は、透明性の確保だ。すべての警察に対して、死亡させた人数を連邦政府に報告させるように義務づける必要がある。

また、各自治体は、新しい機器の購入を検討するのなら、警官にカメラを装着させるべきだろう。装着したカメラは、どちらの側にとっても不当行為の抑止力になり、のちの調査も容易になる。ブラウンさんを撃った警官がカメラを身につけていれば、誰の目にもことの経緯が明らかになっていたはずだ。

第2の手段となるのが、責任の明確化だ。問題のある警官を、もっと免職しやすくする必要がある。

米国にある1万2500の地方警察署の多くは小規模のものだ。組織内の懲戒委員会が身内の警官3人で構成され、うち1人が調査対象の警官により指名されるケースもある。

警官がなんらかの罪に問われた場合、起訴するか否かの判断は、地元の警察と密に連携している地方検事に委ねられる。警察関係者と一緒にバーベキューをしたり、再選を目指す際に警察組合の支援を仰いだりする地方検事に、だ。

あるいは、市民で構成される地域の「大陪審」が起訴の判断をすることもあるが、彼らの耳に入るのは、検事が聞かせようとする内容だけだ。

責任を明確化するためには、訴えの内容の審理を外部から招いた独立した裁定人に委ねる必要がある。

最も難しい第3の手段は、警察の軍事化の方向を逆転させることだ。

警察の仕事を犯罪者との戦争であると考える人が、あまりにも多い。貧困地区では、警察が占領軍と見なされることも少なくない。

警察に必要なのは、訓練を強化し、武器を減らすことだ。その手はじめとして、国防総省は地域の警察への軍備品の配布をやめるべきだ。

米国は今でも、多くの点で他国の模範となる存在だ。米国経済のエンジンは勢いを取り戻している。米国の価値観は、良識ある人なら広めたいと考えてしかるべきものだ。

だが、どんな社会においても背骨の役割を果たす刑事司法に関して、米国の制度には根深い欠陥がある。それを変えるのは難しいだろう。だが、変革の機はとうに熟している。【同上】
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いくつかの改善策はあるにしても、問題を蒸し返すようですが、やはり“銃規制”の問題をなんとかしないとアメリカの現状が大きく改善することは難しいようにも思えます。

ほとんど“病気”とも思えるアメリカ社会の“銃依存症”は、患者本人に自覚がない以上、どうにもなりません。

国内に“銃依存症”を抱える国の行動は、国際的な国家間の問題においても、日本のような国の行動とは異なるものになる可能性があります。

今後、集団的自衛権で関係が深まるパートナーの“病状”には、よく注意しておく必要があります。
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ギリシャ  大統領選出前倒しという「危険な賭け」に出たサマラス首相

2014-12-14 23:21:32 | 欧州情勢

(最大野党・急進左派連合のツィプラス党首 大躍進した2012年5月総選挙時の写真 政権を手にしたとき、どのような施策がとれるのか・・・ “flickr”より By Teacher Dude https://www.flickr.com/photos/teacherdudebbq2/7163931100/in/photolist-bV428s-c3AZnG-c3AZgw-c3AZjY-c3AZcS-eki4Jg-fQzPsu-dhdUk3-ekoU5s-ekoQzo-ekoVvU-eki7Zt-ekoNk1-4Dqg75-nmxChY-c3B9m9-c3B9xh-bT8Gr6-ekhLM2-ekoych-eki2nn-mKDnpL-c3B9go-c3B93w-c3B8Zh-c3B9EN-c3B9cU-c3B96Y-c3B9Bo-bTmJmz-nmt7kx-nD2P1A-nD3iRn-nD3inB-nmxPx5-nmt7tP-nCPvmj-nEPyFz-nCEZVk-nD3iAn-nEPziX-nmxC1q-nCKtXe-nCXNaX-nCKu34-nmxPvS-nmxB6F-nCKtdP-nmxCGL-nEPzva)

安倍首相、早期解散の賭けに見事な勝利
日本では、総選挙の投票が終了し、開票作業が始まったところです。
解散当初は、自民党は議席を減らすのでは・・・との観測がありましたが、現段階の予測では、自民党が単独でも300議席をうかがう勢いで、公明党を含めた与党では3分の2も・・・という情勢のようです。

「アベノミクス」という一般国民には判断が難しい問題について、明確な結果が出る前の段階でその継続を争点にする形で早期解散に打って出た安倍首相の思惑が的中した見事な政治的勝利と言えます。

第2次安倍政権成立当時、自民党の政権復帰、安倍首相の掲げる大胆な金融緩和政策に期待する形で、為替・株価が大きく動き、「アベノミクス」という言葉が一人歩きした感がありますが、「アベノミクス」によって日本の経済構想がどのように変わったのかは、よくわからないところでもあります。

「アベノミクス」を云々するまえに、それが脱却を目指す「失われた20年」というものが、いったい何なのか?何に問題があるのか?言われるほどにネガティブな状況なのか?・・・等々の議論が必要でしょう。

もっとも、私を含めて一般国民としては難しい理屈は理解しがたいので、自分の財布の中を覗いて判断するしかないところです。

「アベノミクス」については、著名な経済学者である伊東光晴氏のインタビュー記事がわかりやすかったので、紹介しておきます。

****アベノミクスは何もしていない・・・伊東光晴氏****
 -アベノミクスの是非を問うとして衆議院が解散されました。
 
伊東 問うも何も、安倍晋三政権はこの二年間何もしていない。
政権の政策はもちろん、安倍首相によって日銀総裁に据えられた黒田東彦氏による金融緩和にしても、成果は何もない。

株価の上昇を成果という向きがあるが、そもそも株価は政権交代前の二〇一二年十一月から上がり始めた。この株価を決めたのは東京証券市場を支配していた外国人投資家の動きだった。外国人投資家の買い越しは解散風など吹いていなかった同年十月第二週から既に始まっていた。

 -円安を評価する声もあります。

伊東 政権交代直後から始まった円安は、為替介入によるものに他ならない。財務省財務官の専権事項であり、黒田日銀による金融緩和とは関係ないと私は断言する。

日銀による金融政策が、経済に好影響を与えるなどということはない。外国からの株投資マネー流入は、リーマンショックで落ち込んでいたものが戻ったにすぎない。そのタイミングと政権交代の時期が重なっただけなのだ。

 -さらに追加された金融緩和によって何がもたらされますか。
 
伊東 日銀が市中銀行から国債を買って供給した円のほとんどは日銀の当座預金口座に積み上がっている。日本の市場に流れることもなければ外国に向かってもいない。結局日銀は政府の発行する国債を買って、国債が下落するリスクを上げているだけ。

今後、国債が下落して、金利か1%でも上がれば政府は予算編成すらできなくなる。
税収は金利返済で吹き飛び、財政は立ち行かなくなるだろう。
 
-消費増税の先送りには問題があるということですか。
 
伊東 日本の財政の収入と支出は乖離し続けている。本来は平行に推移しなければならないものが、収入は現状
維持しながら、財政支出だけが右上がりで増えている。

「経済成長すれば税収が増えて財政が安定する」なんて言う人聞かいるが、そんなことはありえない。日銀が引き受けた国債で財政出動してもほとんど意味がない。(中略)

 -日本経済への処方簾は何ですか。

伊東 そんなものはない。景気停滞期には安静にしてやり過ごすしかないし、できないことを見抜く叡智が必要。

特に人口減少期に入った日本で、これに対応する方法は一つではない。個別の企業によって対処方法は異なるし、
自治体によってもその取り巻く状況ごとに考えなければならない。

ただ、そこで知恵を絞れば、個別の企業や自治体の単位では生き残っていくことができる。ただし、日本が直面する少子化は世界でどこも経験のないレベルのスピードで進む。

「困難に直面する先進国」として試されていることを自覚しなければならない。何もせずにやった気になっている政権に期待しているようではだめだ。【選択 12月号】
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今後、安倍首相は本来の目的である「戦後レジームからの脱却」に向けて、憲法改正も視野にいれた動きをとると思われますが、日中関係を含めた国際情勢のなかで、それらの施策が持つ意味が問われるときが、安倍政治が評価されるときでしょう。

大統領を選出できなければ解散総選挙 緊縮財政路線は?】
景気刺激政策と財政安定の問題は、日本だけでなく、世界の多くの国々が直面している問題です。

財政破たん寸前までいった欧州経済のトラブルメーカーでもあったギリシャは、EUやIMFの支援を受けて財政安定を目指した緊縮財政を進め、信用力回復とともに経済状況は幾分持ち直した感があります。

4月10日には、財政危機で2010年以降停止していた国際金融市場での長期国債の発行を再開し、今年は2008年以降では初めて、わずかながら0.4%の経済成長が期待されています。

しかし、EU・IMFに強いられていると国民に評価されている緊縮財政のもとで、失業率は8月で25.9%と依然として高い水準にとどまっています。特に、若年層(15~24歳)の失業率は下降してきたものの、50.7%(ギリシャ統計局2014年7月)といまだ著しく高い状況です。

国民には疲弊感も強く、総選挙を行えば、緊縮財政を批判する左派勢力の勝利も予測されています。

サマラス首相・与党勢力にすれば、「EU・IMF支援体制からの脱却」を国民に示したうえで総選挙に臨みたい・・・という思惑があります。

“ギリシャのアントニス・サマラス首相とその同僚たちにしてみれば、これはどちらかと言えば財政の問題ではない。国の威信の問題であり、民主主義国では当然予想される政治的な計算の問題なのだ。”【10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

政治的なスケジュールとしては、2016年6月に予定されている総選挙の前に、来年2月に予想されていた次期大統領を選ぶ議会内投票があります。

サマラス首相は、今年末で国際支援を終了させ、「EU・IMF支援体制からの脱却」の実績を掲げて来年の大統領選挙を乗り切れば、2016年の総選挙も勝てる・・・という思惑でした。

しかし、ユーロ圏財務相会合が8日、サマラス首相が目指していた年末での支援終了について、2カ月間の延長を決定したことで、首相・政権与党は大統領選出を前倒しするという賭けに出ることを決定しました。

もし、前倒しした議会内での大統領選出で決められないと、自動的に解散総選挙になるという「危険な賭け」でもあります。

****ギリシャ首相、危険な賭け 大統領選出前倒し 与党苦境、財政再建影響も****
欧州連合(EU)などの支援を受けて財政再建中のギリシャで、サマラス首相が大統領選出を前倒しして行うと決め、波紋を広げている。

連立与党が大統領選出に失敗すれば、国会は解散・総選挙となり、緊縮財政に反対する野党の躍進が確実視される。緊縮策でようやく光が見えてきた取り組みが頓挫し、欧州にも影響を与えかねないからだ。

大統領選出は、パプリアス大統領の任期満了に伴い来年2月に予定されていたが、政府は今月17日に前倒しして実施すると決定。

首相は9日、候補としてEUのディマス元欧州委員の擁立を発表し、「大統領が選出されれば、雲は晴れる」と述べた。

首相の決断の背景には、ギリシャの支援をめぐるユーロ圏の動向がありそうだ。ギリシャ経済の先行き不安が拭えないユーロ圏財務相会合は8日、サマラス首相が目指していた年末での支援終了について、2カ月間の延長を決定した。

これでは首相は財政再建に道筋をつけたと胸を張ることができず、緊縮策に疲弊した国民の反発が政権に向かいかねない。

このため、首相は大統領選出を前倒しし、早期の支援終了を目指す方針をアピールする方が得策だと考えたものとみられる。

とはいえ、連立与党には難問が立ちはだかる。大統領選出には定数300の国会で最低でも180票を確保する必要があるが、3度の投票でもこれを満たさなければ国会が解散される。

連立与党は155議席にとどまっており、首相の決断は「危険な賭け」とも指摘されている。

財政緊縮への国民の不満は強く、世論調査では反緊縮派で最大野党の急進左派連合が首相与党の新民主主義党をリード。

総選挙となって急進左派が政権を握れば、ユーロ圏との交渉だけでなく、6年連続のマイナス成長から脱した経済や財政再建にも影響しかねない。

大統領選出の前倒し実施が決まった直後には同国の国債利回りが上昇し、株式市場では株価が1日としては1987年以来最大の下げ幅を記録した。【12月12日 産経】
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早期の選挙に打って出ることで日本。安倍首相は成功しましたが、ギリシャ・サマラス首相はどうでしょうか?
大統領選挙での「180」のハードルは高く、「年明けの総選挙は免れられない」との観測が広がっているとも言われています。

そうなれば、EU懐疑派の急進左翼進歩連合が勝利し、緊縮財政路線が大きく修正されるのでは・・・、その結果、ギリシャにとどまらず欧州経済全体の危機が再来するのでは・・・とも懸念されています。

首相周辺は、仮に総選挙になっても「今ならまだ勝機がある」という判断でしょう。

****ギリシャ危機、再燃懸念 17日の大統領選出、混迷の気配****
ギリシャの大統領選が17日に行われる。選出が行き詰まれば解散総選挙に追い込まれ、欧州連合(EU)主導の緊縮策に反対する野党の躍進が予想される。ユーロ危機の震源地となった同国政治の混迷は、再び世界経済を揺るがす可能性がある。

ギリシャの大統領は国会(一院制、定数300)の投票で選ばれる。最終的には180以上の賛成票が必要だが、連立政権の保有議席は155にとどまる。

3回の投票を経て決まらなければ国会を解散し、総選挙となる。与党は無所属議員の取り込みを図るが、地元記者には「年明けの総選挙は免れられない」との観測が広がっている。

現段階の国民の政党支持率は、EU懐疑派の急進左翼進歩連合が27%で首位。与党の新民主主義党の22%を上回る。総選挙になれば急進左翼が勝つとの見通しが高まっている。

大統領選はもともと来年2月に予定されていたが、サマラス首相が8日に前倒しを発表した。EU側が構造改革を伴う支援策の延長を決めたため、その痛みが国民に浸透する前に選挙に打って出たとみられる。

与党は政党支持率では劣勢にあるものの、「だれが首相にふさわしいか」という世論調査では、サマラス首相がわずかに急進左翼のチプラス代表を上回っている。経済成長率も今年は7年ぶりにプラスに転じる見通しで、サマラス政権は現段階であれば勝機はまだあると見ている模様だ。

ギリシャでは2009年、政府による債務隠しが明らかになり、国債の償還ができなくなるとの見通しから、金利が急騰。国債を保有する各国銀行の信用不安にもむすびつき、欧州全体の経済危機を招いた経緯がある。

急進左翼が政権を担うことになれば、緊縮財政の路線が修正され、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏を離脱するリスクが高まる可能性がある。

混乱を見越して、ギリシャの金融市場は動揺。大統領選の前倒しが8日に発表された後、株式市場は12日までの4日間で約20%下落した。

米経済通信社ブルームバーグは「1987年以降最悪の値下がり」と伝える。10年国債の金利も8日の7・24%から12日には9・11%まで上昇した。イタリアなど各国の株式市場にも影響が広がっている。【12月14日 朝日】
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もっとも、EU懐疑派の急進左翼進歩連合(ツィプラス党首)ですが、総選挙で勝利したとしても、ストレートにこれまで主張してきたような政策に変更はできないのでは・・・との観測もあります。

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SYRIZA(急進左派連合)が政権を握った時に、これまでの主張通りの政策を強力に実行するかどうかは定かでない。また、解散総選挙でSYRIZAが圧倒的過半数を獲得することは考えにくい。

恐らく、SYRIZAが第1党になれば同党のアレクシス・ツィプラス党首は連立政権の首相になり、連立を組むほかの政党や金融市場から圧力を受けて、ギリシャの債権者との和解に傾くことになるだろう。

そうなった場合、SYRIZAに率いられたギリシャは、無謀な財政でも終わりの見えない緊縮財政でもない、責任感にある程度影響された政策を経験することになるだろう。

ツィプラス氏は常々、ギリシャがユーロ圏にとどまることを望むと発言している。このスタンスは、正真正銘の左派の政策に自動的に歯止めをかけるものだ。【10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ギリシャが抱える本当の問題
ギリシャにとって経済政策云々以上に必要なのは、社会・経済に深く根付く“クライエンテリズム(恩顧主義)、賄賂、そして私腹を肥やす行動”であるとも指摘されます。
しかし、この体質改善は経済再建以上に難しいようです。

****ギリシャ:緊縮から脱しても利益誘導と賄賂は残る****
ギリシャの恩顧主義、そして富裕層の身勝手さは、20世紀に入って何度も困難に遭遇したが、そのいずれにも屈しなかった。2度の世界大戦にも、外国による占領にも、内戦にも、軍の独裁にも滅ぼされなかった。今度も、つまりトロイカという名の外国人領主(EU・IMF)がこの地を去った後に生き残ったとしても、決して驚いてはいけない。【同上】
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児童労働  「無知と貧困の悪循環」 形だけの法規制だけでは問題が地下に潜る危険も

2014-12-13 21:26:42 | 南アジア(インド)

(ネパール・カトマンズ 人身売買業者から救出され、施設で読み書きや手仕事を習う少女たち ネパールの貧しい地域の親から買われた少女の多くはインドへ送られ、売春を強要されます。“flickr”より By Peace Gospel https://www.flickr.com/photos/peacegospel/14206563167/in/photolist-ifQcET-nTTmDv-7Se7Zx-fQeqB2-4f5qeH-oHqyu1-mRpEwV-mRpVig-7vT9zt-8yAPSE-4vFxZG-7ciTkC-mLv3pn-7ciLXG-7ceUiH-7ceWmR-nDomhg-mmxt8E-dHP6v6-6v24SS-7n42Tu-bBRZKJ-7omWDr-7oqQNE-3SVZh-9PvFFv-otQbcW-48WfAH-3mwUVY-bANfRV-ehGtEj-4UcHbz-4bHERE-4UcHbx-daKc6q-dpx4RK-8MzDub-4KBKAf-VfbH7-kQczVi-7SFA6x-pQEhBK-b35X5K-4UcHbp-b2dkrr-4Uckw2-4UcHbF-4UcHbv-2VmeMy-aWxC6D)

【「経済が発展したというが、貧しい者はいっそう貧しくなっている」】
昨日ブログで取り上げたマララさんとともにノーベル平和賞を受賞したのが、インドの児童人権活動家、カイラシュ・サティアルティ氏(60)。

サティアルティ氏は1980年以降、インドの農場などで労働を強いられていた子供約8万人を救出してきたました。
授賞式では「すべての子供たちに生きる権利、自由になる権利、健康になる権利、教育を受ける権利を与えるのはきょうだ」と語り、政府や企業、宗教指導者らに子供への暴力を終わらせる努力に取り組むよう求めています。

****世界で1億6800万人****
国際労働機関(ILO)が2013年に発表した報告書によると、働かされている18歳未満の子供は世界で1億6800万人。子供全体の11%にあたる。

最も多いのは、アジア太平洋地域の7770万人。次いでサハラ以南アフリカの5900万人。

最も多い産業は農業で58.6%、サービス業25%、工業7.2%、家事労働(メイドなど)6.9%となっている。全体の68.4%が、家族の所有する畑での耕作や放牧など、現金の支払われない労働だ。

ILOは児童労働のうち、(1)人身売買、徴兵を含む強制労働や奴隷労働(2)売春やポルノ関連(3)薬物関連(4)児童の健康、道徳を害するおそれのある労働を「最悪の形態の児童労働」と位置づけ、16年までに根絶することを目標としている。【12月11日 朝日】
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インドでは、サティヤルティさんをはじめとする各NGOや政府の取り組みもあり、労働を強いられている5~14歳の子供の数は統計上、2001年の1266万人から11年には売春を除き435万人に減ったとされていますが、“実態はもっと多いというのが通説で、国連児童基金(ユニセフ)の推計では2800万人に上る。09年には120万人が児童売春を強要されたとの別の政府調査もある。”【12月12日 産経】とも。

ILOが「最悪の形態の児童労働」と位置づける児童買春については、売春で働く母親(多くは不可触民やカースト制下位層の出身者)の娘もまた売春でしか生きていけない・・・という連鎖があります。

****インドの貧困層地域、児童売春いまだ深刻 救出活動のNGO「ノーベル賞励み****
働かされる子供たちの救出に尽くしてノーベル平和賞を受賞したインドの人権活動家カイラシュ・サトヤルティさん(60)の母国インドでは、児童労働が深刻だ。

なかでも、貧困層が多い北部ウッタルプラデシュ州では、児童売春を強いられる少女が少なくない。

ガンジス川を抱く仏教とヒンズー教の聖地、バラナシにある州最大の売春街では、ここで働く女性の娘を母親と同じ職に就かせないための努力が続けられていた。

その売春地帯は町の中心バラナシ駅からわずか2・5キロのところにあった。1・5キロほどの路地沿いで約350人の女性が働いている。入り口近くに、児童売春・労働から子供を救う活動をしている非政府組織(NGO)「グリア」のビルが建つ。

売春女性の子供50~60人が、広間で黙想を始めた。すると、施設に通って4年になる少女、シャシさん(13)が涙を流し出した。

「子供たちは日ごろ、学校や地域で売春婦の子供だとののしられ、傷ついている。ほとんどみな、父親が誰なのかわからない。心に闇を抱えている」
グリアを運営するサントラ・マンジュさん(34)はこう話した。

ここでは黙想や工作、描画、授業を通じて子供に心のケアを行っている。

インドでは、大人の売春は売春宿を使ったり、斡旋(あっせん)業者を通じたりしなければ合法だが、18歳未満は違法。

かつてこの通りには少女があふれていたが、グリアの活動で約10年前に姿を消した。少女らは別の仕事に就くようになり、シャシさんも「将来は先生になりたい」と言う。

ただ依然として3~4割の少女は、別の場所を見つけて売春するようになるという。(中略)

マンジュさんの夫でグリア代表のアジート・シンさん(44)は「児童売春は増えているという印象だ。経済が発展したというが、貧しい者はいっそう貧しくなっている」と訴えた。

貧困家庭では、良い働き口があるとか、ダウリ(持参財)なしで娘の嫁ぎ先があるといった話に乗せられ、親が子供をわずかな金額で人身売買業者に売り渡してしまう。

「売春女性の大半はカースト制の不可触民やシュードラなど下位層の出身者。この世界に入った少女は稼ぎの8割を巻き上げられ、奴隷的労働を強いられる」

ウッタルプラデシュ州では、サトヤルティさんも数年前、れんが工場などで働かされる子供を救出した。シンさんは、今回の受賞について、「この地域の問題が注目され、私たちのようなNGOの活動にも日が当たった」と祝福している。【12月12日 産経】
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【「子供の仕事場が工場から自宅の土間に変わっただけだ。問題が地下に潜った」】
児童労働を単に法律で規制するだけでは、工場ではなく「内職」という各家庭における労働に形を変えるだけにすぎず、社会の目の届かないところに潜ってしまうという問題もあります。

****児童労働、絶てぬ悪習 インド、働く子供435万人 「内職」で規制くぐり抜け****
インドの児童労働問題活動家カイラシュ・サティヤルティさん(60)が10日、ノーベル平和賞を受賞した。インドでは400万人を超える子供たちが働かされている。児童労働の現場を歩いた。

「学校? 行ってみたいけど、働かないと」
首都ニューデリーから南東に車で4時間。ガラス細工で知られるフィロザバードのスラム街の軒先で、兄や妹と並んで半円状のガラスをバーナーであぶって腕輪にする作業をしていた少女(14)は言った。

「煙を吸い込むと胸が痛くなる。いつも炎を見ているから目も痛くなって、寝るときにしみてつらい」

得られる対価は、5人家族が一日働いて200ルピー(400円)程度。母親は学校に通ったことがない。自分の年齢も知らない。「子供たちを学校に行かせたら、みんな暮らしていけなくなる」

インドでは、サティヤルティさんをはじめとする各NGOや政府の取り組みもあり、働く子供の数は統計上、2001年の1266万人から11年には435万人に減った。

フィロザバードで児童労働問題に取り組むNGO「女性と子供の権利キャンペーン(CWCR)」のディリップ・セバルティ代表(42)によると、この十数年で、児童労働の温床だったガラス細工やじゅうたん織りの工場から、子供たちの姿が消えた。

しかし、工場主らは代わりに、「内職」を各家庭に発注するようになった。家庭内で親が子に何をさせようと、企業に児童の雇用を禁じた法律の対象外だからだ。セバルティさんは「子供の仕事場が工場から自宅の土間に変わっただけだ。問題が地下に潜った」と指摘する。

人口約60万人のフィロザバードでは、今も4万5千人の子供が働いているとセバルティさんはみる。子供を働かせる親の多くは学校で学んだことがない。その子供は働き続け、やがて教育を受けたことのない大人となる。「無知と貧困の悪循環だ」という。

そこで、スラム街に教室をつくり、子供たちに無料で読み書きを教える。母親たちの自助グループもつくり、手芸や酪農など、より割のいい仕事を教えて悪循環を絶つ道を探ろうとしている。

 ■だまされ売られた
「窓が開いていたから逃げたの。外に出たら警察の人に声をかけられて、ここに来ることになったの」
東部ジャールカンド州ランチ近郊。1カ月ほど前にニューデリーから逃げてきた少女(12)はか細い声で言った。

児童労働問題に取り組むNGO「インド農民委員会(BKS)」によると、少女は同州の山村で育ったが、1年ほど前に近所の男にだまされて連れ出され、メイドとして売られた。

警察に保護されて同州内まで戻ってきたが、文字が読めず自宅の住所を覚えていないため親元に帰れず、BKSが運営する保護施設で暮らす。

BKSのサンジェイ・ミシュラ理事長は「こうした子をニューデリーの中流・富裕層が人身売買と知りながら雇い、住み込みで使っている」と語る。BKSによると、同州で年1万~1万4千人の女の子が行方不明となる。多くはメイドなどとして売られるという。

ランチの寄宿舎学校で学ぶアールティ・クマリさんは16歳だという。5歳の頃に東部の都市コルカタにメイドとして売られ、2年後に逃げ出した。自宅の住所を知らなかったため、家族とは会えないまま。正確な生年月日も分からないため、保護された3月10日を「誕生日」にしている。

NGO「セーブ・ザ・チルドレン」などと協力して村々を回り、子供を学校に行かせることの大切さを寸劇などで伝える活動を続けている。「子供には仕事じゃなくて、自由を与えないといけない。私は勉強して、子供のために働く大人になりたい」【12月11日 朝日】
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売春婦の娘が売春婦に、教育を受けたことがない親の子供がまた児童労働に・・・・単に子供を逆境から救うだけではなく、「無知と貧困の悪循環」を断つ施策が必要とされています。

母親たちの自助グループ活動を、マイクロファイナンスで資金的に支援するのも有効なはずですが、現実には、インドでは悪質なマイクロファイナンス民間業者に食い物にされた貧困者が自殺に追い込まれる・・・といった、貧困層の支援という本来の目的と全く異なる様相も呈しているようです。
(2010年12月29日 ブルームバーグ 「インドを襲うマイクロファイナンスの悲劇、借金苦で貧困層の自殺多発 」http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LE4EIB1A74E901.html

【「子どもたちが安全に労働できる環境を整えるべき」という主張も・・・
形だけの単なる法規制では問題が地下に潜ってしまうので、どうせ働かないと生きていけない現実があるなら、児童労働を認めたうえで、その環境改善を図ったほうが現実的だ・・・という発想もあるようです。

****就労可能年齢を10歳に引き下げた南米最貧国****
南米最貧国のボリビアで今月、就労可能年齢が14歳から10歳に引き下げられた。

教育を受ける権利が妨げられないことなどが条件だが、年齢引き下げは児童労働撲滅に向けた世界的な取り組みに逆行する恐れがあるとして、国際社会から懸念の声が出ている。

就労可能年齢を引き下げた法律が今月17日に発効。親の監督下にあることなどを条件に10歳以上の子供の就労が認められ、12歳以上では契約に基づく労働が可能となった。

国連児童基金(ユニセフ)によると、同国では児童労働が横行し、50万人以上の子供が家計を助けるために路上での靴磨きや露店での物売りに従事。劣悪な環境にある鉱山や農場での強制労働も問題化している。

今回の法律は現状を追認する形で労働者としての権利擁護を図ったもので、児童虐待の厳罰化や労働日数制限なども盛り込んだ。【7月28日 読売】
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****10歳から働くことが常識? ボリビアで児童労働を認める法案が可決された・・・****
南米のボリビアは世界でも最貧国のひとつに数えられる。この国では子どもたちも貴重な労働力だ。

アリシアは道行く人やドライバーに色とりどりの花を売る。父は2年前に他界した。母は幼い妹や弟の面倒を見なければならない。彼女は働かなくてはいけないのだ。

アリシアの一日の稼ぎは日本円にしてせいぜい1700円程度。ここボリビアでは、彼女のように労働に従事し、一家を支える未成年は決して珍しくない。

世界の多くの国が児童労働をなくそうと試みる現代にあって、ボリビア政府は2014年7月に10歳以上の子どもの労働を合法化。それも大統領不在時に副大統領が法案にサインをするという強引な手法が取られた。

当然のことながら、法案は国連の協定に反しており、抗議する者も多い。

しかし、一方でボリビアの貧しい家庭では、子どもは貴重な労働力である。アリシアのような子どもから労働を取り上げることは、さらなる貧困につながる可能性がある。

ボリビア国内には、「子どもたちが安全に労働できる環境を整えるべき」という主張もある。そして、実際に児童労働者による組合(UNATSBO)までもが存在している。

国際労働機関とボリビア政府による2008年の調査では、同国内の5〜17歳の労働者は約85万人とされている。これは、約3分の1の子どもたちが学校に通っていない計算となる。

「他の子が映画を観にいくように、私も楽しみたい。でも、お母さんが頑張っているのに、私だけそんなことできない・・・」アリシアの言葉が、ボリビアの現実だ。

果たして、子どもたちが働かずに、学校に通える日は来るのだろうか?【7月20日 tabilabo】
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ボリビアといえば、故チャベス・ベネズエラ大統領と盟友関係にあった反米左派路線の先住民出身のモラレス大統領が10月に3選を果たして長期政権を実現しています。
アンデスの高地にある県は貧しい先住民が多いのに対し、東部は天然ガスなどの地下資源が豊富で白人富裕層の住民が主流を占めるという地域格差・対立もある国です。

“大統領不在時に副大統領が法案にサイン”・・・・どういう事情か、建前と異なる別の思惑もあるのか・・・詳しい事情を知りませんので、評価もできません。

闇の世界で無権利状態で働かせるよりは・・・、子どもから労働を取り上げることは、さらなる貧困につながる可能性がある・・・・確かに言われればそうですが、現状追認に堕すだけの危険もあります。
政府・当局の運用・監視体制にもよります。
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マララさんノーベル平和賞受賞 祖国で根強い反発 それでも夢の実現に向けて

2014-12-12 22:07:13 | アフガン・パキスタン

(授賞式、スピーチ前の緊張した表情でしょうか 左は同時受賞のサティヤルティさん “flickr”より By Mundo33 https://www.flickr.com/photos/87718284@N06/15806688617/in/photolist-q5MpQ6-q5CUKQ-pqd7rj-q5Zo3f-q6a1vj-q641gU-qnALPt-pqR5fk-qntYve-qjVtEu-qnE2J2-qntVtc-q67grh-pqUjBa-pqUm9t-pqUmfv-q67iv7-q66Hwd-pqBDqs-qnxk5f-pqR4Kn-q63pyL-q6dLE4-qnE5hi-q6f97P-qnAKag-q6418s-qnAM4X-pqR5rH-q643bW-qnADfY-qntUqR-qko131-qnE4vt-q66GGN-q67hKj-q67hoN-q6f96B-qnACoN-pqEVgE-qknZ1b-qntV4V-qknWuu-pqEVt3-qntYvz-q6fa3g-qknZ3A-q6f9rM-pqUkMX-q6dLMZ)

【「この賞は、教育を望む世界中全ての少女のためのものだ」】
日本人研究者3人が物理学賞受賞ということで話題にも多く取り上げられているノーベル賞ですが、平和賞は、これも周知のようにパキスタンの17歳の少女、マララさんがインドの児童人権活動家カイラシュ・サティヤルティさんとともに受賞しました。

マララさんが、女子教育の大切さをネットで訴えていたことでイスラム過激派の襲撃で重傷を負い、奇跡的な回復後も精力的な活動を続けていることは、これまでも何度も取り上げてきました。
(10月11日ブログ“マララさん、ノーベル平和賞受賞 「これが終わりではなく始まりに過ぎない」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141011

****マララさん、ノーベル平和賞受賞=史上最年少17歳―児童人権活動家の男性も****
2014年のノーベル平和賞授賞式が10日午後1時(日本時間同9時)からノルウェーのオスロ市庁舎で開かれた。

子供の教育の権利を訴えてきたパキスタンの教育活動家マララ・ユスフザイさん(17)と、子供の労働の撲滅を目指すインドの児童人権活動家カイラシュ・サティヤルティさん(60)が受賞し、メダルと証書が贈られた。

2人はこの後記念演説し、マララさんは教育問題を「最優先課題」として取り組むよう世界の指導者らに向けて呼び掛けた。

マララさんの17歳での受賞は、すべての部門のノーベル賞を通じ歴代最年少。

マララさんは演説で、賞が自分のためではなく「教育を受けたいと願っている忘れられた子供たち、平和が欲しいと望んでいるおびえた子供たち」のものだと強調した。

また、全ての子供が学校に行くまで活動を続けることを誓い「これが子供の教育のための最後の闘いとなる」よう望むと述べた。

世界の指導者たちに行動を求める一方で、こうした活動は政治家や指導者だけでなく「私やあなた、われわれの義務だ」と指摘、「この仕事を今から終わらせよう」と締めくくった。

一方、サティヤルティさんも「すべての子供たちに生きる権利、自由になる権利、健康になる権利、教育を受ける権利を与えるのはきょうだ」と語り、政府や企業、宗教指導者らに子供への暴力を終わらせる努力に取り組むよう求めた。【12月10日 時事】
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マララさんは受賞前の記者会見で、
「子供たちが必要としているのは、1冊の本と1本のペンです。それだけで本当に子供たちの未来、世界が変わるのです」
「なぜ本とペンを子供たちに与えられないのでしょうか」「私は、子供たち全員が学校へ行き、教育を受けられるようにしていきたい」とも語っています。【12月9日 読売より】

授賞式には、2012年にイスラム武装勢力に頭部を銃撃された際、巻き添えになって負傷した友人2人と、女性が教育を受ける権利を訴えるナイジェリア人やシリア人の少女活動家らを招待し、「私の主張は独りの声ではない」と強調、「この賞は、教育を望む世界中全ての少女のためのものだ」と訴えました。【12月9日 時事より】

印パ首脳は国内の強硬派に配慮
祖国パキスタンは隣国インドと宿命的な対立を続けていますが、今回インド人のサティヤルティさんとの同時受賞ということで、マララさんは両国首脳の出席と関係改善をも期待していましたが、残念ながら国際関係の現実はそのような少女の夢をかなえてはくれませんでした。

****<ノーベル>平和賞授賞式 印パ首相は欠席 関係改善見えず****
10日のノーベル平和賞授賞式では、受賞者のマララ・ユスフザイさん(17)が期待していた母国パキスタンと、敵対する隣国インドの両首相の出席は実現しなかった。

印パ両国は領土問題などを巡って分離独立(1947年)以来、60年以上にわたって敵対しており、領有権を争うカシミール地方では今年も国境を挟んで両軍の激しい衝突が発生した。

インドのカイラシュ・サティヤルティさん(60)との同時受賞をきっかけに関係改善を期待する声も出ていたが、両国間の対話は停滞している。

「印パ首相が来てくれれば、関係改善をお願いするいい機会になったと思う」。マララさんは9日、記者会見でこう語った。10月に受賞が決まった際は印パ両国の首相に「出席をお願いしてみる」と語っていたが、パキスタン政府からは特に反応はなかったという。

カシミールでは国境や実効支配線を挟んだ衝突が断続的に続いており、今年10月には印パ両軍による砲撃で周辺住民ら約20人が死亡。今月5日にはインド軍の基地がパキスタン側から越境したとみられる武装集団に襲撃され兵士ら13人が死亡するなど、過激派によるテロ行為も活発化した。

両国はいずれも核保有国だけに、平和賞の同時授賞は印パ関係改善を促す意味合いがあった。だが、領土問題解決の糸口は見えていない。

インド側カシミールに住む社会活動家、ファルーク・ムシュタルさん(62)は「カシミールの緊張関係は平和賞だけでは改善しない」と語る。

インドのモディ首相は5月、就任宣誓式にパキスタンのシャリフ首相を招き関係改善を期待させた。しかし、8月に予定していた外務次官級協議は、パキスタン側がカシミール地方の分離主義者に接触をはかったとして出席を拒否。

その後も対話は進展していない。パキスタンの政治アナリスト、カディム・フセイン氏は「両首相は対話に反対する国内の強硬派に配慮せざるを得ないため、今回も授賞式に出席するというリスクを取れなかったのではないか」と話した。【12月10日 毎日】
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【「西洋の価値観を押しつけられている」との反発も
過激派から命を狙われながらも教育の大切さを訴え続け、「世界中の人々を突き動かした」(オバマ米大統領)マララさんへの賞賛は欧米世界では今さら語る必要もないものがありますが、多くのメディアも報じているように、祖国パキスタンには彼女を欧米の操り人形とみなすような反感が根強くあります。

「女性は母親や姉や妹、そして妻であるだけではなく、アイデンティティーを持ち、認知されるべきです。女の子は、男の子と同じだけの権利を持っているのです。」(受賞スピーチ)という欧米的価値観を体現する彼女への評価が欧米で高い分だけ、そうした反感も強い・・・とも言えます。

****<ノーベル賞>平和賞マララさんに母国パキスタン内に反感も****
 ◇「西洋の価値観を押しつけ」と 専門家「背景に反米感情」
女子教育の必要性を訴え史上最年少のノーベル平和賞受賞者となったマララ・ユスフザイさん(17)。
母国パキスタンでは、受賞を歓迎する声がある一方、マララさんに批判的な意見も少なくない。

「女子教育の権利」には賛同しつつも、近代的な学校教育を主張するマララさんに「西洋の価値観を押しつけられている」と感じているためだ。

専門家は、米国主導の「対テロ戦争」に振り回されてきた国民の反米感情が背景にあると指摘する。

「欧米の伝統や文化は我々とは違う。我々には独自の価値観がある」。全パキスタン私立学校連盟のミルザ・カシム理事長は、マララさんの自伝「わたしはマララ」を「欧米の視点」と切り捨てる。

同連盟は2013年、自伝の中の一部の表現が「反イスラム的だ」として加盟校での閲覧を禁止。今年11月には自伝タイトルをもじった「わたしはマララではない日」を設定し、抗議デモを行った。

カシム氏は「女性教育に反対ではないし、(マララさんを銃撃したイスラム過激派)タリバンを支持するわけでもない」と言う。だが、マララさんが「イスラム教や国家を不当に批判し、パキスタンの誤ったイメージを広めた」と非難する。

マララさんの銃撃(12年)は悲惨な事件として欧米メディアを中心に大きく報じられ、パキスタンの女性が置かれた境遇や教育の現状に批判が集まった。

このため、パキスタンでは銃撃を仕組まれた「陰謀」とする見方さえある。北西部の大学生(18)は「事件があったから平和賞が簡単に取れた」と語る。

北西部ペシャワル大のサルファラーズ・カーン教授はこうした「マララ批判」の背景に「米国の対テロ戦争に対する否定的な感情がある」と分析する。

パキスタンは01年、米国から対テロ戦争への協力を迫られた。それまでアフガニスタンのタリバン政権(当時)を支えてきたが、アフガン攻撃を容認した。

国内でも「テロリスト暗殺」を目的に米国の無人機による空爆が繰り返された。これが反米感情を高め、イスラム過激派の活動もかえって活発化した。

インドのシンクタンクによると、今年も1500人以上の民間人がテロの犠牲になった。「治安悪化は米国のせい」(南部カラチの会社員)との思いを抱く人も少なくない。

一方、マララさんは西洋式の近代的な学校教育の重要性を主張しており、欧米で広く支持を得てきた。カーン教授は「マララさんの主張は西欧の価値観と重なる。

このため、批判的な人たちはマララさんが欧米の価値観を広めるために活動しているとみている」と指摘する。

だが、マララさんの受賞が教育関係者に希望を与えているのも事実だ。イスラマバードの教育NGOで働くワカス・バジュワさん(36)は「マララさんの努力で国民の意識は高まっている。政府の支援も得やすくなった」と語り、今後のマララさんの活躍に期待を寄せた。【12月10日 毎日】
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“銃撃を仕組まれた「陰謀」とする見方”・・・・今年4月にパキスタンを観光した際にも、ガイド氏が全く同じようなことを語っていました。
「イスラム過激派は本当に狙ったのなら、外すはずはない。奇跡的に回復し、本が出版され・・・仕組まれたものだ」

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・・・・イスラム強硬派がマララさんを今も非難し続けることは驚きに値しない。
だがマララさんの支持者たちにとって理解が困難なのは、パキスタンの中間層から非難の声が出ている点だ。彼らは女子にも教育を受けさせたいと熱心ではあるが、自国の問題を国外で報じられることには反対している。(中略)

マララさんに対する憎悪の一部は、保守的な宗教観や女性の地位向上の反対などに由来する。ただ、パキスタンの多くの人は同国における武装勢力との10年に及ぶ衝突が米国によってもたらされていると考えており、この衝突に対する疑念もマララさんへの憎悪につながっている。(中略)

「マララのことが嫌いな人々」と題されたSNSフェイスブック(Facebook)のページには、マララさんの顔写真に牙を合成した写真と、米軍無人機の攻撃で死亡したとされる子どもたちの遺体の写真が並べられていた。これはマララさんが美化される一方で、欧米の暴力による犠牲者たちのことは全く伝えられていないとの主張だという。”【10月17日 AFP】
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もちろん、マララさんを支持し賞賛する声もパキスタン国内にも多くありますが、手放しで喜べない現実があることも指摘しています。

****称賛の一方、根深い問題指摘****
(パキスタンの)英字紙ドーン(電子版)は、(中略)マララさんの受賞は「パキスタンにとって栄誉である一方、いかに国が国民に対して義務を果たしてこなかったかを思い知らせるものだ」と指摘。

「非寛容と頑迷」に満ちた者たちが長期間、幅を利かせてきたとし、2012年にマララさんを銃撃した「パキスタンのタリバン運動(TTP)」などの武装勢力の横暴を非難した。

そして、「彼女が現在も帰国できないという事実が、こうした勢力が継続して力を持っていることの証明だ」との見解を示した。

同紙は12日の署名記事で、TTPとの戦いでは、マララさんが「正しい側であることは明白だが、この国で勝利していると考えるのは難しい。だからこそ彼女の戦いは価値あるものだ」と訴えた。

また、パキスタンの英字紙ニューズ(電子版)も11日の社説でマララさんを称賛する一方、「外国勢力の“スパイ”とみる向きも多かった」と言及した。

その上で、1979年にノーベル物理学賞を受賞したパキスタン人のサラム氏が、イスラム世界で異端視されている教団に属していたために、パキスタン国内では業績が無視されていることにもふれた。

社説は、2人のノーベル賞受賞者の評価が国内で割れているとし、「われわれはマララが安全に帰ることができ、命の危険を冒すことなく活動できるような国に変えなければならない」と結んだ。【12月20日 産経】
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TTP「多くのマララたちが殺されるだろう」】
「そこには、二つの道しかありませんでした。声を上げずに殺されるのを待つか、声を上げて殺されるか。私は後者を選びました」(受賞スピーチ)という彼女の活動が祖国で反感を招いてしまう・・・・なんとも残念な現実です。

授賞式に合わせて、2年前にパキスタンでイスラム過激派勢力に銃撃された時に着ていた制服が初めて公開されました。

****マララさん、銃撃時の血の付いた制服見て涙****
・・・・AFP通信などによると、マララさんは血が付いた制服を見て泣き出し、(同時受賞の)サティアルティさんが「あなたはとても勇敢だ」とマララさんを抱きしめたという。【12月12日 読売】
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当然ながら、イスラム過激派はマララさんの受賞を苦々しく見ています

****多くのマララ殺される…イスラム武装勢力が警告****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は11日、同国出身のマララ・ユスフザイさん(17)がノーベル平和賞を受賞したことに関し、「(欧米が)マララを通じてイスラム教を侮辱するならば、全てのパキスタン人がタリバンになり、多くのマララたちが殺されるだろう」と警告する声明を出した。

TTPは2012年にマララさんを銃撃した反政府過激派組織。声明ではマララさんについて、「パキスタンの社会を破壊するため邪悪な勢力と結託した」としている。【12月12日 読売】
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一方のマララさんは、受賞スピーチで敢えてイスラム過激派を強く批判しています。

****マララさん、イスラム過激派を非難 演説に付け加え****
「あなたたちは(イスラム教の)聖典コーランを学んでいないでしょう」

ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(17)は10日の演説で、イスラム過激派を強い口調で非難した。テロに訴えて女子教育の権利を否定し、自らを殺害しようとした過激派を、イスラム教の観点から批判した。

マララさんは受賞演説で、「コーランの中で、アラーの神は一人を殺せば人間性すべてを殺すことと同じだとおっしゃった。預言者ムハンマドは、自らも他者も傷つけてはいけないと説いているのを知らないのか」と続けた。

マララさんが事前にノーベル賞委員会に提出した演説原稿にはコーランのくだりはなく、最終盤で自ら付け加えたようだ。身ぶりを交え、学ぶ権利を奪う暴力を改めて批判する姿に、会場は大きな拍手に包まれた。【12月11日 朝日】
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コーランを引き合いに出しての批判・・・・いささか“危ない”ものにも思えますが、何事もないことを願います。
彼女は自分の命を懸けることを厭わないのでしょうが。

【「母国を助けて国を前進させたい」】
マララさんは、「将来は首相になりたい」との無垢な抱負を語っています。

****マララさん「将来は首相になりたい****
・・・・その後の記者会見で、マララさんは「母国を助けて国を前進させたい。だから、政治に関わろうと決めました。将来、大勢の人に支持されれば首相になりたいです」と将来の目標を話しました。

そして、パキスタンで初の女性首相となったブット元首相が手本だと説明したうえで、「母国の子どもたちすべてが質の高い教育を受けられるようにしたい」と述べました。

さらに、「ノルウェーにも女性リーダーがいる」とソルベルグ首相をたたえ、政治を含むあらゆる分野で女性がさらに活躍すべきだと訴えました。(後略)【12月12日 NHK】
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日本では、「将来は首相になりたい」なんて話す少年・少女はいなくなりました。
17歳にもなれば、そんな“かっこ悪い、ダサいこと”などは決して口にしません。
いかに現実と折り合いをつけ、大過なく生きるか・・・それが多くの人の考えるところでしょう。

個人的には、マララさんの現実に真正面から取り組む姿勢を応援したいと思います。

ただ、先述のような宗教的価値観の違いだけでなく、反米感情に根差した批判も根強いなかで、今後多くの挫折を経験するのでしょう。
そうした際に、今回のノーベル平和賞受賞が新たな挑戦の支えとなることを期待します。

「われわれはマララが安全に帰ることができ、命の危険を冒すことなく活動できるような国に変えなければならない」(パキスタンの英字紙ニューズ)・・・・1日も早く実現することを願います。
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アメリカ  CIAによる過酷な尋問の実態を批判した報告書を公表

2014-12-11 21:43:21 | アメリカ

(2009年5月22日ブログでも使用しましたが、拷問反対集会での「水責め」のデモンストレーション写真 “flickr”より By Isabel Esterman http://www.flickr.com/photos/isa_e/2023183793/)

事実上の拷問は「米国の世界での地位を著しく傷つけた」】
アメリカ上院情報特別委員会は9日、2001年の同時多発テロ後にブッシュ前政権下で中央情報局(CIA)がテロ容疑者に対して行った水責めなどの過酷な尋問に関する報告書の要旨を公表しましたた。

報告書は12年12月に議会で承認されましたが、非公開扱いとされました。
今回、約520ページの要約版として公表された背景には人権と人道問題を重視するオバマ大統領が、過酷な尋問に反対し、公表を求めていたことがあります。

報告書は、尋問について「CIAが政策形成者らに説明していたものより残酷」とし、「正確な情報を得る手段として効果的ではなかった」と批判。また、詳細をホワイトハウスや議会にも伝えずに「独走」したとも報告しています。

板に寝かせた容疑者の手足を縛り、布で目隠しをして顔に大量の水を浴びせる「水責め」などの、外傷を与えずに最大限の肉体的、精神的苦痛を与えることで、テロ計画や組織の情報を得ようとした「強化尋問技術」については、事実上の拷問だとの批判が強く、オバマ大統領が09年の就任直後に大統領令で禁止しています。【12月10日 毎日より】

“事実上の拷問”というより、“拷問そのもの”でしょう。

****<CIA>尋問は拷問…テロ情報取得「効果なし」上院報告書****
◇同時多発テロ後実施
同委は09年から、CIAが同時多発テロ後に国外の「ブラックサイト」と呼ばれる秘密基地にテロ容疑者を拘束し、極秘に実施してきた「強化尋問技術」(EIT)と呼ばれる過酷な尋問について、内部文書などから包括的な検証を実施。報告書は6700ページを超えるもので、要旨約500ページや結論部分約20ページなどが公開された。

報告書によると、秘密基地には119人を拘束。テロ容疑者に対し、水責め▽氷風呂▽最大180時間眠らせない睡眠妨害▽子供や親に危害を加えるとの脅迫--などを行っていた。

コンクリートに裸の体を固定されて低体温症で死亡したケースもあった。同委のファインスタイン委員長は上院で演説し、「強圧的な尋問手法が用いられ、一部は拷問に相当するものだった」と指摘した。

一方、EITの対象だった39人のうち7人からは何の情報も出てこなかった▽EITを受けていない拘束者も正確な情報を出してきた--などとし、EITがテロ容疑者から正確な情報を得たり、容疑者の協力を得たりするうえで効果はなかったと結論づけた。

報告書はまた、司法省に不正確な情報を繰り返し提供することで拘束や尋問の法的な側面の検証を妨げたり、ホワイトハウスや議会に対しても正確で十分な情報の提供をせず、EITの効果があると印象付けたりした、とCIAを批判。

EITに対する世論の批判に対抗するため、CIAが一部メディアに不正確な情報を流して世論形成をしようとしたことなども指摘した。

オバマ大統領は09年の就任直後、ブッシュ時代の過ちを明確にして、EITを含めた残虐な尋問手法を中止した。オバマ氏は報告書要旨の公表を受けた声明で「米国の世界での地位を著しく傷つけた。こうした手法を用いることは二度とない」と拷問との決別を確約した。

これに対し、CIAのブレナン長官は、過ちがあったことは認めながらも、EITにより「(テロリストの)攻撃計画を阻止し、テロ容疑者を拘束し、人命を救うことにつながる情報を入手することに確かにつながった」との声明を出し、「効果がなかった」との指摘に反論した。【12月10日 毎日】
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「強化尋問技術」の内容については、以下のようにも報じられています。

****水責めだけじゃないCIAの拷問法****
バラク・オバマ米大統領が「拷問」と呼んだCIA(中央情報局)の「強化尋問テクニック」。米上院情報委員会が9日に発表した報告書の要旨で、その残酷きわまりない実態が明らかになった。
 
CIAはすでにテロ容疑者にこうした尋問を行っていたことを認め、テロに関する「唯一無二の、その他の方法では入手不可能な」情報を得るためには有用なテクニックだと主張してきた。

しかし報告書を見ると、こうした手法が有効だった事例はほとんどなく、CIAは関係当局に事実を隠蔽するような報告を行っていた疑いがある。

CIAが用いた残酷なテクニックの代表格が水責めだ。傾斜した板に足を上にして容疑者を固定し、鼻と口に水を注ぎ続けて溺死寸前の状態に追い込む。CIA内部ではイニシャルのKSMで通っていたアルカイダの大物幹部ハリド・シェイク・モハメドには、水責めによる尋問が15セッション行われた(1回のセッションで繰り返し水責めに遭わされる)。

睡眠を奪うこともCIAの常套手段だ。テロ容疑者は「最高180時間、通常は立ったままか、苦痛を伴う姿勢で、ときには両手を縛って頭上に上げさせたまま」一睡もできなかったと、報告書は述べている。「長期間睡眠を奪われた被収容者のうち、少なくとも5人が幻覚に苦しむようになったが、そのうち少なくとも2人に対して、この処置が続行された」

CIAの内部文書から、長時間苦痛を与え続ける手段として、無理な姿勢をとらせる拷問が日常的に行われていたことが分かる。

KSMに対する「最初の水責めセッションは30分間行われ、それに続いて体を横にした無理な姿勢をとらせたが、このやり方はCIA本部が事前に許可していなかったものだ」と、報告書は指摘している。「(グアンタナモ米軍)基地の責任者は法的に問題になるのを恐れて、医療スタッフにこの尋問について(上層部に)報告しないよう命じた」

また報告書によると、アブ・ズベイダ容疑者は「棺桶サイズ」の箱に11日と2時間閉じ込められ、引き続き「幅52.5センチ、奥行きと高さ0.75メートルの窮屈な箱」に29時間閉じ込められた。


報告書はさらに、「上級の尋問官」の証言として、「『自分たちが確認できただけでも』17日間立ったまま壁に鎖で縛り付けられていた収容者がいた」と語っている。

顔に平手打ちをくらわせる、全裸にする、壁にぶつけるなどの手法が多くの場合、複数同時に用いられていた。数人の尋問者が容疑者を取り巻き、「母親を連れてきて、目の前で性的に虐待してやろうか」とすごむこともあったという。

報告書は「荒っぽい連行」と呼ばれていた手法も伝えている。「5人ほどの捜査官が収容者に向かって怒鳴り散らし、独房から引きずりだして、衣服を切り裂き、絶縁テープで縛って体の自由を奪い、フードを被せ、長い廊下を延々と引き回しながら、平手打ちやパンチをくらわせる」というものだ。

食事と水分を摂ることを拒否した容疑者には「直腸から」の水分と栄養補給が強制された。ある容疑者は「無理やり直腸からボトル2本分の栄養ドリンクを注入され、その後同じ日に『ランチ・トレー』と称して、ヒヨコマメとゴマのペースト、ソースを絡めたパスタ、ナッツ、干しぶどうを『ビューレ状』にしたものを直腸に注入された」という。

こうした尋問に耐えかねて、自殺を図る容疑者も続出した。報告書要旨の序文で、ダイアン・ファインスタイン上院議員はCIAのテロ容疑者の扱いを「アメリカの法律にも、国際条約の遵守義務にも、アメリカ人の価値観にも反する」として、厳しく糾弾している。【12月11日 Newsweek】
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CIAや共和党は内容・公開を批判
「国家安全確保に対して死活的に重要な役割を果たし続けてきた」(ブレナン長官)と強く自負するCIAは、報告書が公開間近とみられていた今年3月、委員会スタッフのコンピューターに不正に入り込んで捜索していたことが発覚するなど、報告書公表に抵抗してきました。

オバマ大統領の“弱腰”を批判する共和党も、報告書公開に反発しています。
報告書作製には共和党も当初は参加していましたが、意見の対立から離脱し、結局民主党だけでまとめられました。

****<CIA>上院報告書、反論で公開遅れ…民主主導に共和反発****
・・・・ただ、CIAは報告書の内容を受け入れたわけではない。ブレナン氏は報告書公表後の声明で、尋問の有効性を改めて主張したうえで、「拘束や尋問の仕組みに関わったCIA当局者の誰からも聞き取りが行われていない」とし、同委の調査は不十分だと批判。

報告書のテロリストの拘束や人命の保護につながる特別な情報を引き出せなかったとする部分などに「同意しない」と反論した。

来年1月から議会上下両院で多数派となる共和党からは、マコネル上院院内総務と同委員会のシャンブリス議員が共同声明を発表。

報告書を「議会民主党がイデオロギーに基づいて取り組み、歴史的事実をねじ曲げて記録した」と批判した。
報告書公開については「海外で反発を生み、米軍などの脅威になる」「テロ組織が反米宣伝に使う」などの指摘も出ている。【12月10日 毎日】

確かに、北朝鮮の外務省報道官は9日、アメリカなどの要請で、北朝鮮の人権侵害が国連安全保障理事会で初の公式議題となったことについて批判、CIAの拷問や白人警官による黒人青年の射殺事件などを例に挙げ、「アメリカで 蔓延 している人権侵害から問題視すべきだ」とも強調しています。【12月10日 読売】

まあ、北朝鮮が何を言おうがかまいませんが、“イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」などとの対テロ戦が続く状況下で、尋問の実態が公表されればテロ組織が報復しかねず、米国人をはじめとする人質にも危害が及ぶとの懸念が反発を増幅させた。”【12月11日 産経】とのことです。

チェイニー前副大統領「この報告書は全くのたわごとだ」】
テロなどの危険も想定される状況で、テロ組織と関係があると疑われる人物から拷問によって情報を引出し、テロを未然に防ぐというのは、国家として当然の行為だとの考えはもちろんあります。

****CIAの拷問報告書は「たわごと」、チェイニー前副大統領が反論****
米中央情報局(CIA)がテロ容疑者に行っていた過酷な尋問の実態を明らかにした米上院報告書について、ディック・チェイニー前米副大統領は10日、「ひどい内容」で「全くのたわごと」だと激しく批判した。

チェイニー氏は、自身が副大統領を務めたジョージ・W・ブッシュ前政権下で採用された「強化された尋問手法」について、完全に正当化できると主張。

「9.11同時多発テロの犯人を捕らえ、さらなる攻撃を防ぐため、まさに必要なことを行っただけだ。そして、われわれはその両方に成功した」と米FOXニュースに語った。

上院が9日に公表した500ページ余りの報告書は、国際テロ組織アルカイダの容疑者に対してCIAが使っていた暴行や直腸栄養法、睡眠妨害などの尋問手法を、これまでに確認されていた以上に残虐なうえ、有用な情報をもたらさなかったと酷評。

CIAが意図的に、収集した情報の価値をめぐる議会とホワイトハウスの判断を誤らせたと結論付けた。

チェイニー氏はこれらの指摘を真っ向から否定。「この報告書は全くのたわごとだ」「昨日は『ばかな!』と言ってしまった。申し訳ないが、実際に使った言葉で言わせてもらう」と、公的な場での使用が下品とされる俗語を大声で言い放った。

その上でチェイニー氏は、上院の調査には「大きな欠陥」があり、「尋問プログラムに関与した主要な人物への聞き取り調査を行おうとさえしなかった」と非難した。

■ブッシュ前大統領は「知っていた」
上院報告書は、ブッシュ前大統領がこれらの尋問手法に関して報告を受けたのは導入から4年後の2006年で、ブッシュ氏は報告の内容に「不快感を示した」としている。

しかし、チェイニー氏は「大統領も尋問プログラムの不可分の一部であり、大統領の許可は不可欠だった」と述べ、ブッシュ氏が蚊帳の外に置かれていたとの報告を否定した。

一方、ブッシュ氏が各尋問手法の詳細を細部まで認識していたのかという質問に対しては、チェイニー氏は曖昧な返答にとどまり、「手法について議論はした。大統領を議論から排除しようとはしなかった」とのみ語った。

またチェイニー氏は、9.11米同時多発テロを首謀したと自白しているハリド・シェイク・モハメド被告など、重要な容疑者を尋問する取調官は断固たる態度でなければならないとの見解を示唆し、次のように述べた。

「容疑者の両頬にキスをして『お願いです、どうかご存知のことを教えて頂けませんか』と聞くべきなのか?もちろん、そんなわけはない」【12月11日 AFP】
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拷問をめぐるオバマ・チェイニーの論争は以前からのものです。
2009年5月22日ブログ「アメリカ 水責めなどの“過酷な尋問”をめぐり、オバマ大統領とチェイニー氏が論戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090522

おそらく、日本のネット世論などもチェイニー前副大統領と同様な考えでしょう。
ドラマ「24」のジャック・バウアーも。

捕虜・虐待経験があるマケイン議員は公開を支持
一方、自身がベトナム戦争当時に捕虜となり、虐待を体験した共和党重鎮のマケイン上院議員は報告書を支持しています。

****<CIA>マケイン議員が民主党主導の報告書公表を支持****
 ◇演説を上院の本会議場で
捕虜への虐待は、悪い情報を多く引き出すということを私は個人的な経験から知っている--。米上院情報特別委員会が中央情報局(CIA)による過酷な尋問に関する報告書の要旨を公表した9日、オバマ政権への厳しい批判で知られる野党・共和党のマケイン上院議員が、民主党が主導した報告書の公表を支持する演説を本会議場で行った。

マケイン氏はベトナム戦争で捕虜となり、拷問で骨や歯を折られるなど5年半にわたって虐待を受けた。後遺症で両手は今も高くは上がらない。

報告書の公表に共和党の多くの議員は反対しているが、マケイン氏は「真実は時として受け入れがたいものだ。しかし、米国民は国家を定義づける価値観が安全保障政策によって軽視される時には、その真実を知らなければならない」と主張。

拷問を受けている人は意図的に間違った情報を流すようになるため、過酷な尋問は情報獲得につながらないと指摘し、報告書の中身を支持した。【12月10日 毎日】
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ベトナム・ハノイのホアロー収容所には、マケイン議員の捕虜当時の写真などが多く公開されています。
もちろん、ベトナム側の対米接近の路線に沿ったものですが。

理想は、それを掲げるのが辛いときに掲げてこそ
****CIA収容所 ポーランドに存在****
アメリカ議会が同時多発テロの後、テロ容疑者に過酷な尋問が行われたとする報告書を公表したことに関連して、当時のポーランドの大統領は、尋問が行われた収容所がポーランド国内にあったことを明らかにしました。

当時ポーランドの大統領だったクワシニエフスキ氏は10日、ワルシャワで記者会見を開きました。
この中で、尋問が行われたCIA=中央情報局の収容所がアメリカの要望でポーランド北部の軍事施設に秘密裏に設けられていたことを明らかにしました。

CIAの秘密収容所について、ポーランド政府はこれまで一貫して存在を否定していました。

一方、元大統領は、内部で過酷な尋問が行われたことは一切知らなかったと主張し、「内部の情報が入らず対応に不信感を抱いたので、2003年、アメリカ側に施設を閉鎖させた」としています。

CIAの秘密収容所は、ポーランド北東部だけではなくリトアニアやルーマニアそれにタイやアフガニスタンにも存在したと指摘されていて、真相究明を求める声が高まっています。【12月11日 NHK】
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仮に「強化尋問技術」を正当化する場合であっても、自分たちは清潔なテーブルで楽しく食事をしながら、他国の施設で秘密裡に・・・というのは“偽善”であり、“卑怯”でしょう。
国民全員が自らの手を血と汚物で汚しながら、「それでもこれは必要なのだ」と自身に問いかけるべきでしょう。

“オバマ氏は09年1月の就任直後から、ブッシュ前政権が残したイラク、アフガニスタンという「負の遺産」の清算に主眼を置いた。米国が租借し、テロ容疑者が収容されているグアンタナモ米軍基地の閉鎖も、公約にしている。報告書の公表は清算の一環だ。”【12月11日 産経】

そうしたオバマ大統領の考えが、2009年のノーベル平和賞受賞時のオスロでのスピーチに示されています。

****オバマ大統領:オスロ演説****
・・・・武力が必要な場合、私たちは一定の行動規範で自分たちを縛らなくてはなりません。それは道徳的な要請、かつ戦略的な要請です。

何のルールにも従わない凶悪な敵と対決する時でさえ、アメリカ合衆国は、戦争遂行のふるまいにおいて世界の手本にならなくてはならないと考えます。

それこそが自分たちと敵を分け隔てるものなのだと。それこそが私たちの力の源泉なのだと。
だからこそ私は、グアンタナモ収容所の閉鎖を命令しました。だからこそ私は、アメリカはジュネーブ諸条約を遵守すると改めて確認したのです。

自分たちの理想を守るために戦っているのに、その戦いにおいて自分たちの理想を曲げてしまっては、自分自身を失うことになります。

理想を掲げるのが楽な時だけそうするのではなく、そうするのが辛い時に掲げてこそ、自分たちの理想を守ることになります。・・・・【2009年12月11日 「ニュースな英語」】
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今ではそのカリスマも地に落ちたオバマ大統領ですが、当時このスピーチはアメリカ国内ではおおむね好評でした。
「正義の戦争」「正しい戦争」(just war)を前面に打ち出したオバマ大統領でしたが、その考えの妥当性には賛否もあります。

個人的には、「理想を掲げるのが楽な時だけそうするのではなく、そうするのが辛い時に掲げてこそ・・・」というのは好きなフレーズです。
腹の足しにならない“理想”など一顧だにされない今の日本では「馬鹿か!死ね!」と罵倒されるだけでしょうが。
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アフガニスタン  外国戦闘部隊撤退後に向けたガニ新政権 わずかな期待と大きな懸念

2014-12-10 21:28:06 | アフガン・パキスタン

(12月5日の国際ボランティアデーの取り組み かつて150種類以上の野鳥が生息していたカブール近郊のエリアの清掃作業に200名ほどのボランティアが参加したそうです。 政府・国連の支援事業です。
とても素晴らしいことではありますが、正直なところ、「もっと先に取り組むことがあるだろう・・・」という感も。 “flickr”より By undpaf https://www.flickr.com/photos/undpafghanistan/15765530629/in/photolist-q29sZB-q22e79-qipMGn-q29sor-q22RYs-q29rmX-q22iNJ-qipPLH-qipNsv-q22izY-qipRrM-qgiBso-qipNWg-q22mod-pmQ58c-qgiCsu-q22eBY-qipJEF-pmQ9Gx-q2aSt6-qiwt6w-qgiFE1-qgiH6s-pmQ5wD-qiwpy1-qgiBeC-pmAw9j-qipNMi-qipL3k-qipQjg-qipKCn-qipLqK-qizTp8-qipRBr-q22ZTq-qipPqT-qizKWc-q29onF-q5x8YK-qmLUJD-q5pkk1-q5vLHx-pmAviS-qiwsMf-qiwuFf-qf5C6u-q1Qnn8-qket5G-qjf3cd-q1jH8b)

来月1日から1万2500人規模で、アフガン国軍の訓練・支援・助言
このブログでも、これまで何回も“アフガニスタンでは14年末の米軍など外国戦闘部隊撤収を控え・・・”といった記載を行ってきましたが、いよいよその“期限”となりました。

****<アフガン>ISAF司令部が任務終了 カブールで式典****
アフガニスタンで治安維持を担っていた国際治安支援部隊(ISAF)の司令部が8日、任務を終了し、カブールで旗を降ろす式典が行われた。

キャンベル司令官は「アフガン国軍は有能になりつつある。我々は戦闘任務を終え、アフガン国軍を長期に維持するためシステム作りに専念する」と述べた。

式典には、ISAFの任務を担った北大西洋条約機構(NATO)加盟国や、協力国の代表が参加した。NATOなどは、来月1日から1万2500人規模で、アフガン国軍の訓練・支援・助言にあたる「決然たる支援」を開始する。

一方、武装組織タリバンはNATOの戦闘任務終了を狙って攻勢を強めており、8日には南部カンダハルの警察署が攻撃され、5人が死亡した。【12月9日 毎日】
*******************

アメリカ・ヘーゲル国防長官は、反政府武装勢力タリバンの攻勢が強まるなか、現地に駐留する米軍の規模を今後数か月の間は当初の予定よりも1000人多い10800人にすると発表しました。

アフガニスタン軍を後方で支援する欧米の兵力を一定の規模、維持する必要があるとの判断からと見られています。

ドイツ連邦議会(下院)は5日、アフガニスタンから国際治安支援部隊(ISAF)が撤収する2014年末以降も、ドイツ連邦軍850人を駐留させることを賛成多数で承認しています。

【「アフガンを見捨てることはない」】
こうした来年以降の軍事的支援体制と併せて、資金的な支援を含めて、今後のアフガニスタンを支えるための国際的支援体制を整備するための会議が4日、ロンドンで開催されました。

****<アフガニスタン支援会議>汚職撲滅などの改革案支持し閉幕****
アフガニスタンを支援するためロンドンで開かれた閣僚級国際会議は4日、アフガン新政府の汚職撲滅への取り組みなどを柱とした改革案への支持を確認して閉幕した。

アフガン政府が表明した改革案は、汚職の撲滅▽治安状況の改善▽女性の地位向上▽輸出の促進--などが柱になっている。

閉幕の記者会見でアフガンのガニ大統領は「歴史は繰り返さない。我々は過去を克服する」と改革への意欲を表明し、国際社会に支援の継続を要請した。

一方、同じ会見でキャメロン英首相は、安全保障や財政などあらゆる面で国際社会が一致してアフガンを支援していくことを約束した。

ケリー米国務長官は会議で、米政府として2017年に向けた対アフガン特別支援策を承認するよう議会に要請することを約束した。【12月5日 毎日】
******************

前回会合は2012年に日本とアフガニスタン両政府の共催により、東京で開かれています。

“東京会合では、国際社会が15年までに総額160億ドル(約1兆9000億円)を超える規模の支援を行う一方、アフガン側も民主化や治安改善に向け対応を強化することなどを盛り込んだ東京宣言を採択しており、ロンドン会合では宣言内容の履行状況を確認し、今後の支援計画を話し合った。”【12月4日 時事】 

会議では、“キャメロン英首相は演説で「アフガンを見捨てることはない」と強調。ガニ大統領も「(外国からの)戦闘上の直接支援を二度と必要としなくなるよう望んでいる」と述べた。”【12月5日 時事】とのことです。

新政権:汚職や失政にメスを入れる姿勢も
今後のアフガニスタンが自立できるか否かは、タリバンの問題は別にして、まずアフガニスタン政府自身が“良き統治”を実現できるどうかにかかっています。

この点に関しては懸念を示す向きが多いようですが、そうした懸念の前に、やや期待を感じさせる話題から。

****アフガン大統領、「刷新」強調 就任2カ月、前政権下の汚職にメス****
9月末に就任したアフガニスタンのガニ新大統領が、カルザイ前大統領のもとでの汚職や失政にメスを入れる姿勢を鮮明にしている。

国際社会の支援が今も必要ななか、失われた政府への信用を取り戻すためだ。だが、2カ月近くたっても閣僚は決まらず、危うさも垣間見える。

アフガンの特別法廷は今月11日、前政権下で最大の疑獄事件について決定を出した。巨額の負債を抱えて2010年に破綻(はたん)した旧カブール銀行の不正融資事件だ。

経営陣が預金8億ドル(約940億円)以上を私物化し、カルザイ氏の実兄マフムード・カルザイ氏を含む政界の有力者に乱脈融資をした。

決定では、主犯格の旧経営陣2人の量刑を禁錮5年から15年に引き上げ、マフムード氏やファヒム元副大統領の弟ら融資先の個人や団体の資産を全額返済まで凍結するよう命じた。

ガニ氏が、就任から2日後に事件の再調査を命じる大統領令を出し、特別法廷が再審理をした結果だった。

マフムード氏は「命令は新政権による政治的なものだ」と反発するが、カルザイ氏の威光は色あせつつある。
空港やカブール市庁舎など首都のあちこちにあったカルザイ氏の大型の肖像写真は一斉に撤去された。カルザイ氏自身、退任後に住むために大統領府脇に公費で建てた邸宅を政府に返納せざるを得なくなった。

ガニ氏はほかにも、大量の未決勾留者の存在が疑われていた首都郊外の刑務所を事前連絡なしに訪問し、1カ月以内に全収容者の調査を終えるよう指示。夜間勤務をサボっていると報じられた警察署や公立病院も「アポなし」で乗り込んで幹部の更迭を命じ、政治刷新をアピールしている。

ガニ氏事務所のハバス・ノヤン報道担当は「カルザイ氏を継承した政権と見られたくない。前政権下で国民が失った信頼や希望を取り戻すことが重要」と話す。

政府として、国際的な信頼を回復する必要性に迫られている面も、背景にある。12月には、アフガン支援国の国際会議がロンドンで開かれる。支援をつなぎとめるため、汚職追放や法治の徹底など支援国がカルザイ政権に長年不満を募らせてきた分野で、目に見える成果を出す必要がある。

外交でも、前政権で冷え込んだ関係を立て直そうとする姿勢が見える。
武装勢力を捜して夜間に民家に踏み込む作戦などであつれきが生じ、カルザイ氏が署名を拒んできた米軍の駐留延長協定には、就任翌日に署名。

関係が悪化していたパキスタンも今月14日から初訪問し、「前政権の外交には計画性や戦略がなかった」と批判した。(後略)【11月28日 朝日】
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アフガニスタンの汚職・腐敗体質は世界最低水準にあります。

“世界各国の腐敗や汚職を監視するNGO(非政府組織)「トランスペアレンシー・インターナショナル」が3日に発表した報告書によると、アフガンの清潔度は175カ国・地域のうち172番目だった。清潔度を最高100とした場合のアフガンの指数は12。過去2年に比べ4ポイント上がったとはいえ、これより下位にはスーダンと北朝鮮、ソマリアしかなく、最低水準であることに変わりはない。・・・・国連によれば、アフガンでは国民の半数が公共サービスを受けるために賄賂を払っているという。・・・・”【12月5日 産経】

麻薬対策も全く効果をあげていません。

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ケシ栽培も深刻度を増している。ヘロインの原料となるケシの栽培はイスラム原理主義勢力タリバンの資金源となるため、支援国は農地の代替作物転用を後押ししてきたが、効果は上がっていない。

国連薬物犯罪事務所によれば、今年の栽培面積は昨年比7%増で過去最悪の22万4千ヘクタール。このうち9割近くがタリバンの動きが活発な9州に集中していた。

ケシ畑の除去面積は、昨年より63%減って2692ヘクタールにとどまった。国際部隊の規模縮小後の混乱を見越した農民らが、ケシ栽培に回帰しているとされる。【同上】
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ロンドン会議を前にして“目に見える成果を出す必要”があった・・・という面はあるものの、ガニ新大統領の姿勢に、腐敗と汚職にまみれ、麻薬対策などまともな施策も実行できなかった前政権から少し変わるのか・・・という期待も感じました。

権力対立から政治空白 前途への大きな懸念
しかし、新政権に対する評価は総じて厳しいものがあります。

最大の問題は、混乱した大統領選挙の後遺症で、未だ閣僚の顔ぶれすら決まらないという政治空白が続いていることです。

混乱した大統領選を収拾するため、「挙国一致」の旗印のもと、対立候補だったアブドラ氏が首相格の行政長官として政権入りしましたが、閣僚ポストの配分を巡って両陣営の調整が長引いています。

****アフガンは政治空白を埋めるべき****
アフガニスタン支援国による閣僚級の会合が先週、ロンドンで聞かれた。この国のために大金をつぎ込んでいる60力国以上の支援国にとっては、「カルザイ後」の経済と安全保障の針路を把握しておきたいところだ。

しかしガニ大統領が9月に就任してから2ヵ月以上がたち、イスラム原理主義勢力タリバンやアルカイダの脅威も増しているというのに、いまだに組閣すらできていない。

憲法では新大統領の就任後60日以内に、前閣僚は職務を辞職しなければならないと決まっている。その規定に基づいて、下院は前閣僚職の失効を宣言済みだ。

つまりアフガニスタンには現在、内閣は存在せず、政府にいるのはガニ大統領と、ガニと大統領選を争ったアブドラ・アブドラ行政長官、数名の側近とアドバイザーだけ。

このような政治空白が続けば、国の不安定化は目に見えている。再び内戦に陥る可能性も否定できない。

組閣の遅れはガニとアブドラが対立している証しだ。2人は自分かちが有能で当てにできる政権だと支援国にアピールして資金援助を仰ぐべきときに、足並みの乱れをさらすことを選んだ。

これでは治安の回復も経済復興も無理だろう。

政府が一枚岩で臨まなければ、汚職の撲滅も不可能だ。国内最大の民間銀行、カブール銀行による不正融資問題への対処の甘さにも、指導部の団結の弱さが表れている。

経済的自立を本気で目指しているのかも疑わしい。10年に完了予定だったナグルダムの補修工事はいまだ終わらず、その理由を責任者に問いただすこともしていない。

結果、電力は輸入に依存し、その支払いも支援国に頼ったままだ。国内最大の資源とされるハジガク鉱山の開発は3年以上も遅れている。

トップ2人が国民や国益のために協力しなければ、アフガニスタンは立ち直れない。援助資金もドブに捨てるようなものだ。

カルザイ時代には腐敗まみれの政府に何十億ドルもが費やされた。いったい何の役に立ったのかは今も分からないままだ。【12月16日号 Newsweek日本版】
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ガニ氏とアブドラ氏の権力の二分化・対立は予想されたことではありますし、おそらく閣僚ポストで揉めるだろうとも予測されてはいました。

両氏とも選挙戦では閣僚ポストの見返りを乱発して各方面の協力を仰いだことでしょうが、「挙国一致内閣」ということで、割り振れるポストが半減してしまったことから、ひとつでも多くを確保したい・・・というところなのでしょう。

事情はわかりますが、自立・再建にむけたこの重要な時期に何をやっているのか・・・という失望感は否めません。

国際社会からの支援に寄生して、自身の権益確保にしか関心が向かないような政権であれば、攻勢を強めるタリバンに遠からず飲み込まれてしまうでしょう。かつての南ベトナム政権のように。

一日も早く挙国一致内閣」を樹立して、前政権下で失った国民の信頼や希望を取り戻してほしいものです。

アフガニスタンでは駐留外国軍戦闘部隊の撤収が進む一方、治安が急速に悪化しています。
特に、外国人に対するタリバンの攻撃が目立っています。

首都カブールでは11月27日、イギリス大使館の車両を標的とした自爆テロがあり、英国人ら5人が死亡。同日夜にも外国人が利用するゲストハウスが襲撃されています。

やはりカブールで11月29日、武装集団が国際援助団体の施設を襲撃し治安部隊と交戦し、外国人1人を含む少なくとも2人が死亡しました。【11月30日 毎日より】

こうした攻撃によって外国が手を引けば、腐ったアフガニスタン政府はおのずから倒れる・・・というタリバン側の考えでしょうか。
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