長野市立図書館から「人を魅了する演奏」という本を借りてきました。著者の紙谷一衛さんは、1930年生まれで、46年から斎藤秀雄に指揮法を学び、師の「指揮法教程」執筆に参画。57年東芝EMIに入社し、クラシックなどのレコードを制作し、78年より東京音楽大学指揮科助教授など。70年代より欧米でのコンサートも多数行ったという経歴の方です。
欧米の音楽家から「空っぽでナンセンス」といわれる日本の演奏家の演奏をどうしたら変えることができるかという課題に対して、自らの経験から解決策を探っている内容です。著者は、そのようにいわれる理由として次の6点を挙げ詳述しています。
1、ロマン派爛熟期の音楽に接し、音だけでも魅了されたこと
2、レコードの発明とラジオ放送―演奏している場と無関係に音楽が聴けるようになったこと
3、日本人の血のなかのものと異なる、西欧音楽の音階やリズム
4、和音の推移に対する感受性が薄い日本人
5、日本語と西欧の言語の根本的違いー西欧音楽の捉え方の誤り
6、日本人の生活習慣からくる静的・内向的特質が、西欧音楽を表現する際には異質であること
後半では、その対策について音楽教育の重要性が書かれていました。上記のの6点の中で、興味を惹かれたのは、2の「演奏している場と無関係に音楽が聴けること」と、4の「和音の推移に対する感受性が薄い日本人」の2つです。
「演奏している場と無関係に音楽が聴ける」とは、自宅で音楽を楽しめるので、演奏家と聴衆の接触が少なく、演奏家が聴衆に音楽をわかってもらおうとする努力をしないことや、聴衆側はよい音楽に対する反応ができないことが問題点として挙げられています。コンサートに足を運んでもらう努力も必要かもしれません。
「和音の推移に対する感受性が薄い日本人」の章は、説得力がありました。西洋の石造りの家だと音の反響がすごく、残響や音の重なりに関心が自ずと向き、澄んだ響きが求められるというのです。邦楽では、旋律の高低や間に重点が置かれるのに対し、西洋音楽は和音の推移が大事だそうです。
モダンジャズでは、和音の響きが注目されるようになりました。ビル・エヴァンス(p)は、特に響きを重視したミュージシャンですが、出自からも、そういう傾向になったのかもしれません。ヨーロッパのジャズピアニストにエヴァンスのように演奏する人が多いのもこういった点が関係しているのでしょうか。
ビル・エヴァンス「Alone」(Fantasy)。これを流しながら本の感想を書いています。
全体を通し、日本の音楽家は、技術的には高くても、世界で通用するようになるのはたいへんなことなのだと、考えさせられました。小澤征爾(指揮)や内田光子(ピアノ)は稀有な例なのでしょう。
小澤征爾指揮:ラヴェルのオペラ「子供と魔法」(DECCA)。出演は、Isabel Leonard, Susan Graham, サイトウキネンオーケストラなど。松本市におけるプロダクションで、グラミー賞受賞作です。