LPレコードに関する本なので、本来は、オーディオ愛好家向けの内容ですが、目次をみると、エリック・ドルフィーやジャズ喫茶、ナット・キング・コールという文字があったので、読んでみました。レコードとその製作を行う過程などに関する記述は多岐にわたり、技術論も多いのですが、僕の関心のある部分について、内容と感想を書き留めます。
(レコードの再生に関して)
レコード再生の関連では、いい音で、いい音楽を聴くには、ソースはもちろん、オーディオの装置をいじるなどの努力が必要だということが具体例を交えて書いてあります。僕はほとんど頓着しない点なので、もう少し気を遣おうという気にさせられました。それも、ナット・キング・コールの歌う「スターダスト」について、歪を取り去ることに取り組んだ例が示されるので、説得力があります。
(ドルフィー、最後の日々)
エリック・ドルフィーのアルバム「ラスト・デイト」について、その録音前後のドルフィーの足取りも書かれていて、興味深く読みました。1984年に日本フォノグラムから発売されたデジタル・リマスター盤で、児山紀芳氏が、「ラスト・デイト」のレコーディング前後の状況を原盤ライナーノートを基に詳しく書いていますが、その文章が転載されています。
また、アメリカでLimelightレーベルから出されたものは、ジャズ評論家のナット・ヘントフがライナーノートを書いていますが、油井正一氏が国内盤解説で、それを翻訳するかたちで書いているものも転載しています。これらのライナーノートをまとめると同時に、4種類の出されたレコードについて触れています。
「ラスト・デイト」について、著者の山口さんは、『演奏の凄さに唖然とするばかりだ。「絶頂期を前に他界した」と言われるように、このままもう少し生きていてくれたら、ジャズの世界はどうなったのだろう』と総括しています。このアルバムの「Epistrophy」や「You Don't Know What Love is」におけるドルフィーの演奏を聴くと、僕もそんな思いに囚われます。
左は、1964年6月2日録音「Last Date」のLimelightレーベル・ジャケットの日本盤LPで、学生時代に購入したもの。右は、「Complete Last Date」で、Jazz Galleryから出されたLP。
1964年6月11日録音の実際には最後の録音で、フランス国営放送の番組のために収録されたもの。僕が持っているのは、日本のDIWレーベルから出されたLP。
(リアル・タイム ジャズ喫茶)
著者が、ジャズ喫茶に通い始めた1959年の春からジャズ喫茶に行かなくなった64年ころまでの様子や、人気アルバムのことを書いています。ジョン・コルトレーンが急に人気が出てきたことについて触れ、『エリック・ドルフィーは、もっとも無視されていたのではないか、めったにリクエストされることもなく』と記しています。これは、僕にはかなり衝撃的でした。60年代にはすでに評価が高く、ジャズ喫茶でも聴かれていたと考えていました。
その当時、よくかかっていたアルバムとして、ドナルド・バードの「フュエゴ」(ブルーノート4026)、ジャッキー・マクリーンの「スイング・スワング・スインギン」(同4024)、ホレス・シルヴァーの「ドゥーイン・ザ・シング」(同4076)や「ソング・フォー・マイ・ファーザー」(同4185)、マル・ウォルドロンの「レフト・アローン」(ベツレヘム)という、今でも人気のあるものを挙げています。
このラインナップは僕にもしっくりきて、たまに聴けば、やっぱりいいなあと思えるものばかりです。黒っぽいものが多いですが、このへんは聴いて無条件に楽しめます。
マクリーンの「Swing Swang Swingin'」(Blue Note)。東芝から出た国内盤LP。
(目 次)
ジャズに関する章だけ取り出しましたが、以下に目次を記します。著者は、オーディオやクラシックに詳しいので、言及する範囲は広範に渡っています。
最後のアナログ盤『カインド・オブ・ブルー』
三人の王子様(デジタル・リマスターとは)
米国の「戴冠式」
モノ―ラル盤とステレオ盤
ウィーンの香り
『ブランデンブルグ協奏曲』
セロニアス・モンクの七変化
敵性語追放
二十世紀のクレッセント・シティ(SP復刻のオムニバス盤)
「凸版印刷」か、「オフセット印刷」か
ドルフィー、最後の日々
テープは歪む(テープ・レコーダーの問題点)
「THE THREE」を聴く
リアル・タイム・ジャズ喫茶
ナット・キング・コールの『スターダスト』