色川武大さん(1929~1989年)は、1978年に「離婚」で直木賞、1989年に「狂人日記」で読売文学賞を受賞するなど小説家として活躍しましたが、雀士としても有名で、阿佐田哲也名義で麻雀関連の小説を書いています。これはレコードコレクターズ誌に連載した「唄」に関するエッセイをまとめたものです。
連載は19回に及び、目次ばかりでなく文中に多数の唄が出てきますが、どんな唄が登場するのか、目次の一部を記してみます。
イズント・ジス・ア・ラヴリィ・デイ
イエス・サー・ザッツ・マイ・ベビィ
アラビアの唄
フウ?
フォー・ユー
昔はよかったね
チャイナタウン・マイ・チャイナタウン
マイ・アイデアル
ジーズ・フーリッシュ・シングス
アム・アイ・ブルー
「シャイン・オン・ハーヴェスト・ムーン」や「フォー・ユー」、「プリーズ」といった小唄を近頃は誰も唄わなくなったとし、その原因を『モダン・ジャズの時代になって、モダンのプレイヤーたちが好まない、モダンを奏するうえで適当でない曲がかえりみられなくなった』と記し、モダンも大好きだけれど、その傾向に強い寂しさも覚えると残念がっています。
古い小唄が大好きな色川さんらしい嘆きですが、現在ももちろんそのような傾向です。CDやライブでは、メリハリの効いた、器楽ソロも映えるようなスタンダード曲が取り上げられるのが一般的です。時代が変わるので、仕方がないですが、僕も「フォー・ユー」あたりは好きなので、ちょっと残念です。
好きな歌手では、フレッド・アステアをまず挙げ、女性歌手ではリー・ワイリーに肩入れしています。また、現役のキャロル・スローンが『「スターダスト」と「ソフィスティケイテッド・レディ」が一番難しいのよ』と語る場面も出てきて、キャロルに限らず筆者の交友範囲の広さも特筆ものです。
縦横無尽に好きな唄や映画、ヴォードヴィルについて語っていて、僕はなんども共感したり、ニヤリとしながら、読み進みました。聴いてみたい知らない唄もたくさん出てきます。ジャズやヴォーカルのファンに限らず、戦前~戦後の風俗全般に興味のある方、映画ファンの方などにお薦めです。文庫本(ちくま文庫)が出ていました。