先日のN響高崎公演(その記事)でコンサートマスターを務めていた篠崎史紀さんが書いた本がちょうど発売になったので、購入しました。
(本書の概要)
「マロ」の愛称で知られ26年間務めあげたN響第1コンサートマスターという肩書を超えて、様々な活動で知られる唯一無二のヴァイオリニスト「篠崎史紀」さんが、人生、音楽、教育、多彩すぎる趣味などについて語った本。クラシック音楽愛好家はもちろん、そうでない人も愉しく読める内容です。
(おおまかな目次)
第1章 ウィーンが「音楽の流儀」を教えてくれた
ヴァイオリン教師の楽譜をこっそり盗んでは練習する日々
イヴリー・ギトリスとの出会い
第2章 ウィーンで身につけたマロ流妄想力
「モルダウ」と「新世界」の妄想的背景
第3章 北九州が「人生の流儀」を育んでくれた
第4章 N響が「コンサートマスターの流儀」を確立させてくれた
サヴァリッシュとの思い出と堀さんの思い
フェドセーエフを救った「くるみ割り人形」
第5章 偉大なマエストロたちが音楽の流儀を教えてくれた
シャルル・デュトワ、ウラディーミル・アシュケナージ、アンドレ・プレヴィン
パーヴォ・ヤルヴィ、ファビオ・ルイージ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ
ヘルベルト・ブロムシュテット、ロリン・マゼール、ロジャー・ノリントン
トゥガン・ソヒエフ、ネッロ・サンティ、ワレリー・ゲルギエフ
第6章 いま、日本の音楽界に、そして故郷に伝えたい思い
(感想など)
NHK交響楽団のコンサートマスターを26年間務め、現在は同楽団の特別コンサートマスターである篠崎史紀さんが書いた本なので、特に、来日した指揮者とのやりとりや評価が記されている第4章や第5章が印象に残りました。
指揮者について、著者はトゥガン・ソヒエフさんのことを『言葉では説明できないけれど、とにかくすごい』というタイプとして、高く評価しています。僕は一度だけソヒエフの指揮でN響を聴いたことがありますが、また聴いてみたい。
第1章に登場するおじいさんと第4章のフェドセーエフさんの話は、ナチスドイツの行為や戦争の悲惨さを物語るもので、平和の大切さと音楽の力に思いを至らせてくれるものでした。また、映画「シャイン」の主人公「ヘルフゴット」と著者との邂逅が劇的で、篠崎さんの才能を見抜く力がすごいと感嘆。
(文中で印象に残った箇所・写真など)
著者は、ウィーン市立音楽院で、トーマス・クリスティアンについて学んでいます。
スイスで開催されたイヴリー・ギトリスの講習会で、篠崎さんが練習しているところに、突然現れたデイヴィッド・へルフゴット。すぐ才能に気づき、二人は非公開の演奏会を行うことに。ヘルプゴットは、1995年の映画「シャイン」の主人公のモデル。
2015~22年にN響首席指揮者を務め、その後は名誉指揮者になったパーヴォ・ヤルヴィと著者。
2022年からN響首席指揮者を務めるファビオ・ルイージと筆者。ルイージがオペラを振れることも評価していました。僕は、サイトウキネン(セイジオザワ)フェスで、チャイコフスキーの「エウゲニー・オネーギン」を彼が指揮しているのを観ました。
トゥガン・ソヒエフは、2008年10月にN響と初共演。特に2016年以降N響と共演を重ねている。『うまく言葉では言い表せないけれど、とにかくすごい、と思った指揮者のひとりはロシア出身のトゥガン・ソヒエフ。有無を言わせぬハンドパワー・・・を持っている。』と著者は評価しています。
(映画「シャイン」)
(概要)
デヴィッドは、音楽家になれなかった父親ピーターから英才教育を受けて育った。父親の反対を押切って、ロンドンに留学したデヴィッド。だが緊張と父親との対立から、彼は精神を病んでしまう。実在の天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いた作品。アカデミー賞主演男優賞受賞など受賞多数。
著者は、実際のデヴィッド・へルフゴットと、非公開の演奏会で共演しています。このエピソードには驚きました。DVDで一度観たことがありますが、この本をきっかけに、再視聴しました。