家訓は「遊」

幸せの瞬間を見逃さない今昔事件簿

石臼作戦

2013-01-05 09:46:06 | Weblog
廃屋に放置された石臼に気がついたのは、もう2年も前のことだ。

すぐに手を打とうと現場近くの人知人に頼み所有者に話を持ちかけてもらったのだが断られた。

去年の末になって、その廃屋を壊す工事が始まった。

現場近くの代理人は、すかさず話を進めてくれた。

当初は「あげない」という感じだったが、解体屋の3人でも重くて動かせないことが分かると今度は「何とかして」という態度になったという。

私は、まだぎっくり腰から癒えていない体に鞭打ち現場を見に行った。

妻の運転する車の助手席で背中にシートが当たらないように斜めに座った。

精神の喜びは体の痛みに勝るものだった。

近所の友人である庭師に搬出を任せた。

クレーン付トラックで向かったが、とてもトラックの入れない狭い場所にある。

うまい位置にある駐車場を利用させてもらうことにした。

駐車場主は「午後4時まで空いていますからどうぞ」と好意的だった。

クレーンの届かない位置にある石臼を、どのように運び出すのか少し心配だった。

庭師はガスボンベを運ぶ時に使っているような二輪車をトラックから降ろした。

私は石臼の中に溜まっている雨水と瓦礫を取り除いた。

庭師は石臼の周りの土をどけて石臼を左右に揺り動かすようにして少し広いところに移動させた。

ここで私に手伝いの依頼があった。

「僕がこうやって石臼を上げますから、その下に、この二輪車の先端を差し込んでもらえますか」

「よし分かった」と答えて彼とのタイミングを計った。

一発で決まった。

「それじゃあ持ち上げてください」

彼の合図に私は上がりきった二輪車の取っ手を引き下げようとするが全く動かない。

「それじゃあ交代します」と言って彼が引っ張り私は二輪車から石臼が転がり落ちないように押さえた。

見事に二輪車に石臼が乗った。

そのままトラックの横まで二人で運んだ。

彼が持ち上げようのベルトを石臼に巻きクレーンの先端をそのベルトに固定するまで私は一人でバランスをとって二輪車を支えた。

先端がベルトに固定されると、あとはクレーンが力強く静かに持ち上げて荷台に下ろした。

帰宅して、あらかじめ決めておいた場所に石臼を下ろしてもらった。

庭師は隣に置いてある水甕をのぞき込み魚を探した。

暖かくなった頃には、この石臼の中にもメダカや金魚が泳いでいることだろう。