10月4日夕方、救急車で江東区のかかりつけの産婦人科医院に搬送された出産間近の36歳の妊婦が下痢や嘔吐、頭痛を訴え、脳内出血の疑いがあるとして同じ江東区の「総合周産期母子医療センター」の墨東病院に治療受入れを要請したが、墨東病院は医師不足を理由に受入れを拒否。墨東病院は都内の22病院をネットワークで結ぶ「総合周産期母子医療センター」に端末で受入れ可能表示を示している病院を検索、かかりつけ医院に紹介。しかしかかりつけ医院が問い合わせたところ、8病院がことごとく受入れを拒否。
最終的に再び墨東病院に受入れを要請し、受入れ許可を得て搬送したが、妊婦は墨東病院到着時に既に意識不明の状態で、胎児を無事出産したものの、母親は脳内出血の手術を受けたが死亡。
かかりつけ医院は患者を搬送してきた救急車を待たせたままでいたと言う。それ程、緊急性を感じていたのだろう。にも関わらず、「墨東病院に搬送されるまで1時間20分」(「日刊スポーツ」)経過していたという。
パソコンと電話を使った病院探しと救急車の搬送時間を合わせて1時間20分のロスを生じせしめたということだろう。
医学が高度に発達した時代だと言われていることに逆説する医療体制及び医療状況の不備から一人の女性の生命(いのち)を救い得ず死なせてしまうこととなったこの痛ましい事態を実感できていたのかどうか、これが妊婦受入れ拒否の最初の事例ではないにも関わらず、東京都の石原知事は国の責任だと言い、桝添厚労省は都の責任だと責任の擦り付け合いを演じた。
今年7月に神戸市灘区都賀川親水公園で遊んでいた子供及び大人が山間部の局地的な豪雨が原因で急激に増水した鉄砲水に10人程押し流されて子供3人、29歳女性が一人死亡する水難事故が起きてから国土交通省や自治体がそれぞれが管轄する河川を調査、危険箇所に警報装置や警告看板を取付けることにしたり、公園の遊具で児童が整備不良が原因の重大な事故を受けると、全国の公園の遊具点検を行って危険箇所がないか調査するように、何か事故が発生してから事故起因の関連箇所の状況調査に入る常套手段に従って厚労省も産科救急の中核を担う全国74カ所の総合周産期母子医療センターの医師数の後手となる調査に入った。
厚労省は<4月現在の医師数を把握していたが、非常勤の数え方などが不統一だったため、10月現在の最新値を聞き取り調査した。>(「毎日jp」)というから、まさしく事態発生後の後手の調査であり、後手となる危機管理であろう。
医師数の多い少ないは人口密度によって評価の違いが生じるから単純には比較できないが、その調査によると常勤医で比較した場合、産科医6人だった都立墨東病院よりも少ないのは3施設で、非常勤の9人を加えた15人で比較すると、6割以上の46施設が墨東病院を下回っていたと上記「毎日jp」記事は伝えている。
医師の補充がままならない現状を考えると、それを放置してきた国の調査で比較の基準とされるのは墨東病院にしたら迷惑もいいところだろうが、事故の発端を演じてしまったとなると、我慢するしかないといったところか。
11月5日の「毎日jp」記事≪救急搬送:6病院、妊婦拒否 今年9月、脳内出血で今も重体--東京・調布≫が受入れ不備によって脳内出血を併発させて死亡した妊婦は墨東病院の事例だけではなく、今年9月に東京都三鷹市の杏林大病院でも起きていたことを伝えている。
(全文引用)<嘔吐(おうと)や半身まひなど脳内出血の症状を訴えた東京都調布市の妊婦(32)が今年9月、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林大病院(東京都三鷹市)など6病院から受け入れを拒否されていたことが分かった。女性は最初の受け入れ要請から約4時間後に都立墨東病院(墨田区)に搬送され出産したが、現在も意識不明の重体。子供は無事だった。
都内の別の妊婦が10月、墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した事故の約2週間前に起きたケースで、妊婦に対する救急医療体制の不備が改めて浮かび上がった。
この妊婦のかかりつけ病院だった調布市の飯野病院によると、女性は出産のため9月22日に入院。23日午前0時ごろから嘔吐や右半身まひなどの症状が出た。脳内出血の疑いがあり、医師が外科治療が必要と判断、午前3時ごろから複数回、杏林大病院に受け入れを要請したが、「産科医が手術中で人手が足りない」と拒否されたという。
一方、杏林大病院によると、要請を受けた時、当直医2人が手術中で、約1時間後に再要請を受けた時も術後管理や空きベッドがなかったことから受け入れられなかったという。岩下光利・同大教授(産婦人科)は「飯野病院からの連絡に切迫性はなく、外科措置が必要との認識はなかった」と話している。その後、杏林大病院は飯野病院と分担し、小平市など多摩地区の3病院と23区内の2病院に問い合わせたがいずれも受け入れを拒否されたという。>――
10月の妊婦受入れ不備問題の2週間前も墨東病院が舞台となっていたとは皮肉な巡り合わせじみているが、10月は「墨東病院に搬送されるまで1時間20分」経過していたのに対して9月の受入れでは「最初の受け入れ要請から約4時間」も経過している。
「msn産経」記事によると、杏林大病院は東京23区外の多摩地域で唯一「総合周産期母子医療センター」に指定されいて、かかりつけの病院からは約4キロの距離だが、妊婦が最終的に搬送された都立墨東病院は約25キロ以上の距離だったと伝えている。6倍の距離と時間を科したのである。
治療が1分1秒を争うときの時間と比較した場合、「1時間20分」の経過、「約4時間」の経過は搬送距離数も含めて取り返しのつかない重大なロスに相当する。
産科医の補充・十分な配置が早急に望めない現状を踏まえると、上記ロスをロスとしない時間短縮方法は一般のかかりつけ医院が自前では不可能な患者の緊急治療を必要とした場合、産科救急の中核を担う総合周産期母子医療センターかそれに準ずる病院に連絡、医師の受入れ態勢に関係せずに可能ならかかりつけ医院の医師及び看護師を伴わせて搬送し、連絡を受けた病院は医師が対応不可能な場合は最寄の病院・医院から順番に電話で連絡、手すきの医師を探し出して患者の搬送を受けたセンター、もしくはそれに準ずる病院に派遣を願い、その医師が到着するまでかかりつけ医院から同行した医師もしくは看護師、あるいは搬送先の看護師等が重症妊婦が少しでも楽になれるように処置を施す。
吉村・日本産科婦人科学会理事長の話としてが「年に約100万件のお産のうち、脳出血で亡くなる妊婦は約20人。欧米でもこのような妊婦を救命する体制はできていないが、日本でまず整備していきたい」(「asahi.com」)と語ったいうことだが、最悪の事態に備える危機管理体制のあるべき姿として常に脳内出血の併発を想定してセンター及びそれに準じる病院に脳外科医が所属していていて手がすいているなら治療を要請するのは当然のことだが、手がすいていないなら、他の病院の手がすいている場合は派遣可能な脳外科医を把握・記録しておいて、探し出して至急出向を願う。
手すきの医師を見つけることができなかったとしても、搬送さえしておけば、搬送先の医師が手がすく場合もあるし、それさえも望めなかったということなら、最善の手を尽くしたということになるのではないだろうか。
但し、最善・喫緊の課題は医師の数を増やすことだが、医師の地域間格差、病院規模対応格差、給与規模対応格差はなくならないだろうから、いわば都市のより給与の高いより大きな病院に集まる傾向はなくならないだろうから、医師の補充が最終的な解決方法につながる保証はないように思える。
そのような状況を踏まえつつ、救命に最善を尽くす体制の構築が求められている。上記提案がそれに合致するかは不明だが、色々と手を尽くしてみるべきだろう。