河野太郎の12/11記者会見:日ロ北方四島返還問題対記者質問「次の質問どうぞ」4連発は日本側窮地を代弁

2018-12-13 12:16:28 | 政治
                                     
 外相河野太郎が2月11日の記者会見で現下の日露関係に関わる記者からの質問そのものには何ら答えず、無視、各マスコミが「次の質問どうぞ」を四連発したと報じていた。(文飾は当方)

 「河野太郎記者会見」(2018年12月11日(火曜日)13時39分 於:外務省会見室)

 時事通信越後記者「日露関係について伺います。先日,ラヴロフ外務大臣が日露平和条約の締結について,第二次世界大戦の結果を認めることを意味すると,日本が認めることが最初の一歩になるというような発言をされていますけれども,この発言に対する大臣の受け止めをお願いします」

 河野太郎「次の質問どうぞ」

 読売新聞梁田記者「今のに関連して伺います。大臣,国会答弁等でも日露関係については交渉に資することはないので,発言は一切控えるというふうにおっしゃってますけれども,今のように,ロシア側ではラヴロフ外相,ペスコフ報道官等々,いろいろな原則的立場の表明があります。これに対して反論を公の場でするおつもりもないということでよろしいんでしょうか。

 河野太郎「次の質問どうぞ」

 共同通信田中記者「引き続き,関連の質問なんですけれども,大臣は良い環境を整備したいということで,発言をこれまで抑制的あるいは抑えてこられたと思うんですけれども,一方でロシア側からは,どんどんこれまでとおりの発言が出てきます。こういった端から見たらアンバランスな状況が,実際の協議にも影響を与えるという懸念もあると思うんですが,その点に関してはどうお考えでしょうか」

 河野太郎「次の質問どうぞ」

 時事通信斎藤記者「大臣,何で質問に「次の質問どうぞ」と言うんですか」

 河野太郎「次の質問どうぞ」

(ゴールデンウィーク10連休の外務省の体制に関しての質問が間一つに入る。)

 毎日新聞秋山記者「先程来,ロシアの質問に『次の質問どうぞ』というふうに回答されていますけれども,大臣の従前のお立場というのは我々も分かってますけれども,公の場での質問に対して,そういうご答弁をされるというのは適切ではないんじゃないでしょうか。どう思われますか」

 河野太郎「交渉に向けての環境をしっかりと整えたいと思っております」

 11月13日(2018年)のASEANに合わせたシンガポールでの通算23回目となる安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談から、この河野太郎「次の質問どうぞ」までの経緯を振り返ってみる。

 この日ロ首脳会談で北方四島帰属問題と平和条約締結問題が大きく前進したかに見えた。実際には前進していない。前進していたなら、河野太郎の「次の質問どうぞ」は別の形を取ったはずだ。安倍晋三が前進したかに見せていたに過ぎない。

通算23回目安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談で両首脳は平和条約締結後に歯舞群島・色丹島返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言を今後のスケジュールとして平和条約交渉を加速させることで合意。

 日本政府は四島返還を基本方針としている。この合意は一見すると、歯舞・色丹二島返還への転換に見える。安倍晋三はシンガポールからAPEC首脳会議が行われるパプアニューギニアに移動の途中、11月16日午後、オーストラリア北部のダーウィンに到着、夕方から記者会見。

 「安倍晋三内外記者会見」(首相官邸)

 安倍晋三「先ず初めに申し上げておきたいことは、領土問題を解決して平和条約を締結するというのが我が国の一貫した立場でありまして、この点に変更はないということであります。

 1956年共同宣言第9項は、平和条約交渉が継続されること、及び、平和条約締結後に、歯舞群島、色丹島が日本に引き渡されることを規定しています。

 従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります。したがって、今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません」――

 「日本側の平和条約交渉の対象は四島の帰属の問題との立場であり、今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾しない」

 要するに平和条約締結後に歯舞・色丹返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言に基づいた平和条約締結交渉であっても、いざ、目指すは四島返還、歯舞・色丹二島先行返還と国後・択捉継続返還をスケジュールとした二段階方式であって、日本政府が従来から基本的方針としている四島返還と何ら矛盾しないと断言した。

 当然、プーチンにしてもこの二段階方式を認識していなければならない。安倍晋三がいざ、目指すは四島返還の記者会見を開いた前日の2018年11月15日に首脳会談の結果についてロシアメディアの取材に答えている

 プーチン「日本はかつてこの宣言を議会で批准しながら実行しなかった。しかしきのう、日本の首相がこの問題を日ソ共同宣言に基づいて協議する用意があると言ってきた。

 日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」(NHK NEWS WEB

 プーチンは二段階方式だとの認識を一切示していない。示していたなら、報道機関が記事にしないのはあり得ない。しかも、「引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない」と断りを入れている。

 ロシアは従来から、「北方四島は第2次大戦の結果、ロシア領となった」ことをロシア側の絶対根拠としていて、このことと北方四島がロシアに主権があることを連動させている。日本政府はこの根拠と戦わなければならない。

 プーチンが歯舞・色丹の二島を返還した場合、二島に関して「北方四島は第2次大戦の結果、ロシア領となった」とする絶対根拠を取り下げることになる。

 この取り下げは国後・択捉に対しても絶対根拠としていることに自ずと影響を与えないではおかない。取り下げることができる絶対根拠など、自己撞着そのものだからで、絶対根拠自体を弱めることになる。国後・択捉をロシア領として維持し続けるには別の絶対根拠を打ち立てなければならなくなる。

 但しロシアが最終的に四島返還に応じる気があるなら、絶対根拠としている理由もなくなる。当然、「引き渡す根拠」に拘ることも、「主権」の帰属に拘ることもない。だが、プーチンは1956年日ソ共同宣言には「引き渡す根拠」も、「主権」の帰属についても書いてないとの物言いで間接的にロシア領であることに拘っている。

 このことは同時に絶対根拠への拘りを表していることになる。大体がロシア側が返還交渉に応じること自体、自らによる絶対根拠への挑戦となる。だが、挑戦を冒している気配は見えない。

11月24日(11月13日シンガポール通算23回目となる安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談から11日目)、河野太郎は国際会議に出席するため訪れているローマでロシアのラブロフ外相と会談している。

 河野太郎「平和条約締結問題について少し突っ込んだやり取りをした。交渉のフォーマットはこれから首脳間で合意したうえで進めることになるが、外相間でも活発に議論していきたい」( NHK NEWS WEB /2018年11月24日)

 「少し突っ込んだやり取り」に関しての詳細は一切触れていない。

 11月26日(11月24日のローマでの河野太郎・ラブロフ外相会談から2日後)衆院予算委での「無所属の会」の大串博志の質問に対する河野太郎の答弁。

 大串博志「北方四島は現在ロシアによって不法占拠されている状態にある。この認識でよろしいですね。総理」

 大串博志は従来から日本政府が「北方四島はロシアが不法占拠している」としてきた基本的位置づけに変わりはないのかと安倍晋三に問い質した。

 河野太郎が安倍晋三に代わって答弁に立つ。

 河野太郎「これから日ロで交渉しようとするときにですね、政府の考え方ですとか、交渉の方針ですとか、内容というものを対外的に申し上げるのは日本の国益になりませんので、今一切、差し控えさせて頂いているところでございます。ご了解を、理解を頂きたいと思います」

 大串博志がなお食い下がって不法占拠状態なのかと質問すると、安倍晋三は「北方領土は我が国の主権を有する島々だ」と答えるのみで「不法占拠」だとする言質を与えない答弁をしている。大串博志は安倍晋三の答弁に納得せず、同じ質問を繰返した。

 河野太郎「これから日ロの機微な交渉やろうというときに先程総理からも答弁がありましたけども、場外乱闘になることは日本にとって決してメリットはありません。様々なことについての交渉は交渉の場の中で行いますので、交渉の外で日本の政府の考え方、方針、そういったものを申し上げれば、当然、ロシア側もそれに対してコメントをしなければならなくなり、場外乱闘になります。それは日本にとって決してメリットにならないことをご理解を頂きたいと思います」

 2018年12月2日、G20サミットに合わせてアルゼンチンを訪問していた安倍晋三とプーチンが首脳会談。この会談で河野太郎とラブロフを交渉責任者とし、森外務審議官を総理特別代表、モルグロフ外務次官を大統領特別代表とする今後の平和条約交渉の枠組みとすることを確認下とマスコミは伝えている。

 では、今までの枠組みはどうなったのだろう。交渉の役に立っていなかったから、新しい枠組みを構築したということなのだろうか。

 いずれにしても、新しい枠組みで交渉をすることになった。

 12月7日(12月2日のアルゼンチンでの日ロ首脳会談から僅か5日後)

 ラブロフ外相(記者会見で)「平和条約を締結するということは、第2次世界大戦の結果を認めるということだ。これこそが不可欠な第一歩であり、これがなければ何も議論できない」(NHK NEWS WEB/2018年12月7日 22時30分)

 新たな枠組みで交渉しましょうと確認したアルゼンチン日ロ首脳会談からたった5日しか経っていないのにラブロフは北方四島がロシア領であり、ロシアに主権があるとする絶対根拠を持ち出して、絶対根拠容認に基づいた平和条約締結を突きつけた。

 意味するところは北方四島をロシア領としたままの平和条約締結だと手の内(=ロシア側の姿勢)を明かしたことになる。11月13日のシンガポールでの日ロ首脳会談でプーチンは安倍晋三の提案に応じて平和条約締結後に歯舞群島・色丹島返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言に添って今後の交渉を進めることで合意しておきながら、1956年日ソ共同宣言には「引き渡す根拠」も、「主権」の帰属についても書いてないとの物言いで間接的に示すことになったロシア領であることへの拘りがラブロフの北方四島はロシア領だとする絶対根拠のあからさまな提示に繋がったと見ることができる。

 しかしこの手の内は新たな枠組みに基づいた交渉の中で提示すべき事柄であるのに、河野太郎がロシアが北方四島を不法占拠しているとでも言えば、このことに相手も応じて場外乱闘になると気兼ねしていたが、ロシア側は場外乱闘への気兼ねもなく、一種のルール違反になるにも関わらず、交渉外という場で北方四島がロシア領であることを露骨に振り回した。

 このルール違反を読み解くとしたら、11月24日のローマでの河野太郎・ラブロフ外相会談という正式な会談の場でラブロフが既にこの絶対根拠を河野太郎に突きつけていた可能性を考えると、ルール違反ではなくなる。

 だが、河野太郎はこのことを公表せずに「少し突っ込んだやり取り」程度に変えた。ラブロフはこの情報隠蔽に苛立って、正式な会談の場ではないことを承知しながら、絶対根拠を持ち出し、ロシアの立場を明確にした。
 
 河野太郎がラブロフ会談との詳細をどう隠蔽しようと、ラブロフの絶対根拠の改めての提示は11月13日通算23回目安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談は日本側にとって無意味化するだけではなく、11月13日から19日しか経っていない2018年12月2日のアルゼンチンでの日ロ首脳会談も無意味だったことを示すことになる。

 こういったことが背景となっていた12月11日の記者会見であり、河野太郎がロシア問題に関わる記者の質問に何ら答えないままの「次の質問どうぞ」の四連発だとしたら、ここ2回の日ロ首脳会談が、あるいはそれ以前の全ての日ロ首脳会談も含まれるかも知れない、無意味でしかなかったことを証明することよって立たされることになった日本側の窮地を代弁する発言だったと解釈可能になる。

 ラブロフの12月7日「第2次世界大戦の結果」云々の絶対根拠提示にロシア副首相トルトネフが12月10日、日本に対して更に追い打ちを掛けることになった。
 
(ロシアのメディアに)「両首脳は、島の引き渡しの問題についてこれまでいっさい議論していない。話し合われているのは、島での共同経済活動に関わる問題だ」(NHK NEWS WEB/2018年12月11日 3時55分)

 23回目の首脳会談で平和条約締結後に歯舞・色丹二島返還を取り決めた1956年の日ソ共同宣言に基づいて交渉することを合意しているのだから、島の引き渡しについて議論していないことはない。にも関わらず、「議論していない」と否定する。

 ラブロフの「第2次世界大戦の結果」云々の絶対根拠提示と併せると、四島帰属の今後の議論否定への宣告とも受け取り可能となる。

 安倍晋三のように言葉を巧みに費やしてさも交渉が進展しているかに見せる掛けることはできるだろうが、河野太郎がそういった話術に長けていなければ、交渉の過程での様々な事実を隠さなければならなくなった場合、隠すこと自体が交渉が進展していないことの証明でしかないが、記者の質問に「次の質問どうぞ」と答えたくもなるはずだ。

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