12/6「日曜討論」から導き出すべき答は人手不足要因の賃上げ上昇の限界後に外国人材受入れ拡大を実施すべきということ

2018-12-17 11:43:22 | 政治
                                     
 2018年12月16日のNHK日曜討論は「景気は 暮らしは 日本経済の先行きを読む」と題して、「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなり、来年の1月には戦後最長となると予想されているアベノミクス景気の問題点や消費増税に伴う景気対策、税制改正、米中貿易摩擦の日本への影響等を専門家が議論していた。

 最初のコーナーで取り上げられたアベノミクス長期景気の問題点の議論から、人手不足が招くことになる人手確保のための賃上げがギリギリの限界を迎えてから、外国人材の受入れ拡大は実施すべきであるという答を導き出した。そのような受入れが一般的な日本人労働者にとっても、外国人材にとっても、ハッピーになれる。

 2018年12月16日NHK日曜討論「景気は 暮らしは 日本経済の先行きを読む」

 【出演】高橋進(日本総合研究所チェアマン・エメリタス)
     飯田泰之(明治大学准教授)
     井手英策(慶應義塾大学教授)
     細川昌彦(中部大学特任教授)
     水野和夫(早稲田大学教授)
     矢嶋康次
 【司会】太田真嗣、牛田茉友

 ナレーション「景気の回復が続いているとされる日本経済。先週、高度経済成長期の"いざなぎ景気"を超えて、戦後2番目の長さの景気回復となったことが確認されました。来年10月に消費税率の引き上げが予定される中で日本経済の先行きはどうなるのか、予算編成や税制改正の動きに注目が集まっています。

 一方、貿易を巡って続くアメリカと中国の対立、新たな展開を見せる中で日本経済への影響は?6人の専門家が読み解きます」

 (キャプション 「景気は 暮らしは 日本経済の先行きを読む」)

太田真司「おはようございます。太田真司です」

 牛田茉友「牛田茉友です」

 太田真司「今日は経済がテーマです。今、高度成長期を超える長期の経済回復が続いているとされていますが、国民の間には実感が持てないという声も聞かれます。

 また、消費税率の引き上げや米中の貿易摩擦といった世界の動きはこの先、どのような影響を与えるのでしょうか。今朝の日曜討論は6人の専門家が日本経済の現状、そして先行きについて徹底討論します。みなさん、どうぞよろしくお願いします」

 6人「よろしくお願いします」

 太田真司「では先ず、日本経済の現状について検証しましょう」

 牛田茉友「景気の動向について先週内閣府の有識者による研究会は、2012年12月から始まった今の景気回復が高度成長期のいざなぎ景気を超えて、戦後2番目の長さとなったことを確認しました。さらに今の景気回復が今月まで続いていることが確認されれば、戦後最長の景気回復に並ぶとしています。

 1年当たりの実質GDPの伸び率で見てみますと、いざなぎ景気の際は10%を超える成長が続いていたのに対し、今回は1.2%となっています。この間の雇用の状況見て行きます。仕事を求めている人一人に対し企業から何人の求人があるかを示す有効求人倍率、2012年12月にはおよそ0.8倍でしたが、その後上昇し、今年10月時点で1.62倍となっています。

 また、働く人の賃金について見てみますと、名目賃金はここ15ヶ月は連続での増加となっています(10月速報値+1.5%)。一方、物価の変動分を反映した実質賃金は最新のデータでは前の年の同じ月を0.1%下回っています(10月速報値-0.1%)。

 株価の動きです。2012年12月初めに9000円台だった日経平均株価はおととい時点(2018年12月14日)で21300円(21374.83円)余りとなっています。

 太田真司「早速議論を始めます」

 牛田茉友「経済再生諮問会議議員で日本総合研究所チェアマン・エメリタスの高橋進さんです」

 太田真司「高橋さん、今、日本経済は長期の景気回復が進み、戦後最長を窺うということですけれども、高橋さんは日本経済の現状、先行き、どう見てますか」

 高橋進「ま、よく言われますけど、緩やかな景気回復が続いてると思っています。あの、7月期-9月期マイナス成長になりましたけれども、ただ、企業部門の設備投資が伸びているし、個人消費も悪くないと、民需主導の回復がずっと続いているというふうに思います。

 で、今回、そのいざなぎ景気を超えたってことが話題になりましたけれども、ただ緩やかに長く続いてるって事であって、いざなぎ景気に比べて景気がいいとかって話だってことは全く無いわけでして、そう意味で長さはいいことですけれども、本当に景気の良さっていうことではいざなぎには追いつかないのも間違いないと思います。

 ただ、ま、そういう中でもいくつかいい材料が出てきている。例えば賃金はあまり上がっていませんが、雇用環境はすごく良くなってきている。それからデフレっていう状況でもなくなってきている。

 それから都市部から地方に少しではありますけれども、景気の回復の波が及んできている。そういった緩やかな景気回復の中でいい材料も随分出てきていると思います」

 牛田茉友「慶應義塾大学教授で財政や金融(?)を研究している井手英策さんです」

 太田真司「井手さんはどう見ていますか」

 井手英策「いまお話にあったようにですね、確かに長さっていう面で見ると、非常に長いわけですね。ただ、今回ポイントは戦後2番目っていうことで、1番はいつだったのかってことだと思うんです。で、小泉政権期ですよね。これを見ますと、要するに確かに景気は良かったんだけど、その間に現実の所得は落ち続けました。

 で、同時に格差も広がっていったわけです。ですから、よく実感なき好景気っていうことが言われたかと思います。あの、現実の人々の暮らしを見てみましてもですね、例えば持ち家比率が下がってきています。同時に出生率も、皆さんご存知のように下がってきています。さらに日本の中で経済が成長したということと同時に世界の経済の中での地位を見てみることも大事だと思います。

 1人当たりのGDPを見たときに安倍政権発足時に先進国の中で11位だったものが18位に落ちている。つまり国内で緩やかに伸びているという現実と世界的に見て、地盤沈下していってるっていう現実とが両方存在してるということだと思います」

 牛田茉友「中部大学特任教授で経済政策や産業政策に詳しい細川昌彦さんです」

 太田真司「細川さんは現状をどういうふうにご覧になっていますか」

 細川昌彦「そうですね、高橋先生と基本的に認識は違いはないのですが、あの、付け加えるとすれば、今地方、地域ですね。地方の方で相当景気の回復が浸透してるなという感じがしますね。

 今、全地域で景気が良くなったってほうも、悪くなったっていうのも、多くなってるっていったとかですね(????)。有効求人倍率も、全ての地域で今1を超えていますし、そういう意味では地域の方に広がりが出てきたということが一つと、今の設備投資の話がございますね、企業の方を見てますと、やはり収益が上がった結果を設備投資が今回の(景気回復の)牽引の役になってると思うんですけども、あの、一つ心配はですね、データで見る数字が確かに今上がってるんですが、本当の足元は、まだ統計上はタイムラグがありますから、仕方ないんですけども、今直近、本当の足元を言えば、来年に向けて、これから先ではありますけれども、懸念が相当出てきてですね、

 非常に慎重になってきていますから、これから先は非常に今まで引っ張ってきた設備投資、民間の設備投資ってところがですね。スローダウンしてくる可能性が十分考えられるし、ある意味ではですね。この、今までの2018年のこの前半がですね、景気のピークだったんじゃないというようなことにもなりかねない今状況に来てるんじゃないかなとは思います」

 牛田茉友「早稲田大学教授で、マクロ経済や金融政策が専門の水野和夫です」

 太田真司「水野さんは今の経済をどう見ていますか」

 水野和夫「戦後2番目の長さで、恐らく来年の1月にはそれを越えて、戦後最長になると思うですけれども、殆ど、あの、景気回復という定義自体がですね、もう、今の時代に全くそぐわなくて、景気回復と言っても、殆ど意味がないと思うんです。その理由は、その景気回復というのは生活水準を、1億2000万人のですね、生活水準を引き上げていくっということに意味があると思うんですけども、その生活水準を測る、一つは所得、実質賃金ですので、この実質賃金というのは今回の景気回復でもマイナス、70ヶ月を通じてですね。均すとマイナスですし、それから戦後最長のときも、小泉総理大臣のときも、1人当たりの実質賃金はやっぱりマイナス。

 景気が回復したからといって、生活水準上がるわけじゃないですし、それから所得の蓄積である金融資産、これもあの、この30年間、金融資産を保有できないっていう人が急増しているわけですけど、もう景気回復という言葉は私は使わない方がいいんじゃないかなと思ってます」

 牛田茉友「ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストで国内外の経済・金融政策を分析している矢嶋康次(やすひで)さんです」

 太田真司「矢嶋さんは現状をどう分析されていますか」

 矢嶋康次「実感なきというお話が非常に適切なんかなというふうに思います。非常に長期にわたって経済回復が続いていて、ある意味、そのアベノミクスの最初のカンフル剤というのは非常にうまくいったと思うんですけれども、基本的な問題がこの長期間の回復の中で何も解決していないっていうところにも、目を向けるべきだというふうに思います。

 具体的に例えば経済の中身で見ると、この間実質成長率が平均で1.2%、先程伸びたっていう話ありましたけども、輸出が大体5%以上って意味で実質GDPは4倍伸びています。
  
 設備(投資)が3倍。民間消費って3分の1以下なんですね。ということはやっぱり民間消費が強くならないと実感てのはどうして出てこないという状況ですし、それからやはりが外需に振られやすい、日本が何か外から問題が起きたときに内需でできる策が非常に少なくなってしまうということもこれから後で議論あると思いますが、国内で例えばそのストックを作るための消費税の議論であったり、海外で中国やアメリカが景気減速になったときに日本として何が出来るのかという議論が非常に重要なんですけども、問題が根本的に変わってないので、数年前と全く多分同じ議論がこれから展開されるんじゃないかなというふうに思います」

 牛田茉友「明治大学准教授で、マクロ経済が専門の飯田泰之さんです」

 太田真司「飯田さん、どうでしょうか」

 飯田泰之「今高橋さん、細川さん共に言及されたように確かに今回の景気回復、雇用を見ていると、地方間の格差が小さい景気回復です。これは前回に於いて言いますと、小泉政権下の回復との顕著な違いです。その一方でこの実感を感じられない大きな理由はやはり賃金にあると思うんですね。元々の現在に於いてと言いますか、金融政策によって脱デフレを図るという議論は金融政策によって雇用を改善する。これは実際に改善しているという。

 その中で賃上げをしなければ、人を確保できないという状態にまで到達させることによって脱デフレを図るという理由だったんですけれども、当初はですね、予想以上に高齢者の雇用の拡大、女性の雇用拡大によってなかなか賃上げしないと人手を確保できないという状態に至らなかった。

 ところがですね、最近、あの、多くの議論で人手不足が深刻な重荷になっているという人手不足、これは賃上げしないと人手が集まらないという意味であって、本来の人手不足ではないんじゃないかと。

 本来の賃金を上げざるを得ない人手不足という状況を如何に維持できるかというのは、これからのポイントだと思います」

 太田真司「高橋さん、そのま、確かに期間は長いけど、実感が持てないんじゃないかというご指摘が多かったんですが、どうでしょうか」

 高橋進「高度成長期のときというのはマクロ経済全体が膨らみますけども、個人の賃金っていうのが本当に何パーセントも上がっていったので、それで懐が暖かくなるっていう実感があったんだと思います。

 今回は賃金の上がり方そのものは小さなものなのは間違いないわけで、そういう意味ではなかなかこう自分が豊かになるっていう実感がないのは事実なんだろうと思います。ただですね、私は、これ賃金だけの問題だけで議論するのは少し違うと思います。

 例えば今人手不足の話、出ましたけれども、あの、生産年齢人口が安倍政権になってから450万人ぐらい減っているわけですけども、一方で就業者数は250万人増えてるわけですね。やっぱり、あの、皆さん働き口がないっていう状況ではなくて、安倍政権が色々と環境整備することで、女性・高齢者がより働きやすくなって、そして働く人の数が増えていく。で、賃金は余り上がっていないけど、働く人の数とそれから賃金両方掛け合わせた所得という意味では伸びるようにはなってきていますので、私は賃金だけじゃなくて、所得環境全体で考えていくべきだと思います。

 それから、もう一つ、長くなってあれですが、安倍政権なる前って本当にデフレの中で日本経済がどんどんどん賃金が低下していく、で、企業が全く賃上げってことを考えなくなってしまった。(一部聞き取れない)ところが安倍政権の下でやっぱりベアも復活して2%程度ではありますけれども、あの、5%の、失礼、賃上げが5年間続いたのです。

 最低賃金も6年連続で引き上げてきていますので、政府は賃金を引き上げる努力を、政権はしてきている。企業がなかなかまだ賃上げってことについて慎重であるというのは間違いないと思いますけど」

 太田真司「なる程。さらにですね、経済の疑問について細かく見ていきたいんですけれども、まず井手さん、今の企業はかなり利益を上げてるのにそれが賃金という形でなかなか跳ね返っていかない。

 そのことがひいてはですね、個人消費であったり、物価の上昇の足枷になっているという指摘もあるんですけど、どの辺にこの問題はあるんでしょうか」

 井手英策「賃金、今高橋さんがおっしゃったように所得環境が改善してるっていうことは事実だと思うんです。ただ、この社会の一番難しいのはやはり賃金が増えて、貯金ができて、様々な将来リスクに備えれるようにするっていうことが一番重要なんだと思うんですね。

 そのときに安倍政権の政策のインパクトの問題と日本経済の構造的な問題と、やっぱ分けて考えないといけない面があるとおもうんです。端的に言いますと、勤労者世帯の収入を見たときに安倍政権の間に3%増えてるんですね。ですから、効果なかったかあったかと言ったら、確実にあったわけです。

 しかしながら、私たちの所得の勤労者世帯のピークで言うと、97年ですから。で、この20年間ほぼ貯蓄は、あー、賃金は落ち続けていて、この間10%落ちてるわけですね。つまり安倍さんの間に3%増えたっていうのはこれ大きな効果なんだけど、ただ長い目で見ると、10%落ちている。貯金もできなくなっている。

 そうすると、将来不安が人々の暮らしを直撃するっていう状況がやっぱ生まれてるんだと思います」

 太田真司「細川さん、日本で賃金、雇用の状況について」

 細川昌彦「私はですね、高橋さんがおっしゃったように雇用者数は増えていますから、総所得が増えているのは事実だと思います。ただやっぱっり実感という意味では、一人当たりの実質賃金っていうのが一番大事なポイントだと思うんですね。

 そうすると、最大の課題っていうのは前から言われている労働生産性が低いと、他の先進国に比べても7割ぐらいしかないというこの実態を抜本的に改革をしない限りはですね、この賃金って、実質賃金は上がらないわけですね。そうするとこの労働生産性を上げるということになると、一番大事なのは成長戦略だと思うんですね。確かに色んなメニューでこれまでやってきて、政府は努力をしてきたと思います。

 あのメニューは大事なんですが、この労働生産性っていう意味からはですね、環境整備に応える民間の動きがないとダメですよね。そういう意味からはですね、いま民間のこの動きっていうのは、例えば回帰(?)投資一つとってもですね、確かに人手不足の省力化投資は今やってますけども、抜本的にドラスティックにですね。今やデジタルトランスフォーメーション(ネットから。「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念)と言われるようにビジネスモデルもを変革するようなですね。大きな動きがどこまであるか。だから、経営者自身がITというところに、すぐにITっていうところがまだ十分ではないんじゃないかな、日本企業と思うんですね。

 そういう問題とか、あるいはM&A一つ取ってみてもですね、最近増えていますけども、大規模なダイナミックなM&A、他の国に比べてやはり低いですよね。そういう経営戦略としてのあり方が、もう一つ成長戦略としてですね、これは繋がっていかないと、あくまでも環境整備だけでとどまってるというところが一つネックだと思いますね。

 太田真司「飯田さん、どうでしょうか」

 飯田泰之「まさに企業の戦略で非常に重要なポイントでデフレの続く中で日本の多くの企業は低賃金、そしていつでも代えの効く、いわば失業者プールというのに頼って経営を行う、つまりは人はどんな賃金でも、どんなきつい仕事でも、それなりに集められるという前提の経営体質というのが根付いてしまった。これからの賃金の上昇というのを非常に強く押さえている部分がある。

 やはりですね、これ賃金というのが上がっていく人手不足の深刻化が進むということはまさにITを通じた省力化投資もそうですし、また個々の労働者の生産性について量であったり、縦の質(?)ではなくて、様々なバラエティとか、より高付加価値のビジネスにシフトしていく契機にもなりますので、その意味でも、やはり賃上げというのがボーリングの次のピンになるんだと思いますね」

 太田真司「高橋さん、どうなんでしょうか(?呟くような声になっていて、よく聞き取れない。カメラの向こうにいる視聴者に語りかけているということを時々忘れるらしい。)」

 高橋進「一つはですね、それはやっぱり日本企業の問題で、先程おしっいましたけども、やっぱりデフレが長く続いている中で企業はどうしても賃金だけではなくて、人件費全体を抑制するっていうことが定着してしまったと。

 で、今、こう収益良くなっていますけども、やっぱり収益の確保はまだ本物じゃないと考えていて、非常にまだ賃金にあげることに慎重だっていう問題が一つあると思います。(総所得の増加に意味を置くことができなくなる。)

 で、政府は色んな政策を打ち出して、それをぶち破ろうとしてきましたけれども、破れては来ていますけども、まだそれでも企業の賃上げ抑制、あるいは人件費を使うこと
に慎重な姿勢を完全に覆すまでには至ってないということ。もう一つは、そうは言ってもですね、企業が、先程お話がありましてけども、世界的にIT、AIが進む中で、これでいいんだろうかってふうに少し思い直してきてると思います。

 国内では人手不足で、もう省力化投資やらなければいけないっていうとこまで来てますし、世界がAI革命が進む中で日本企業がこのままで置いていかれるっていう感じにはなってきてると思います。ですから、最近見てみますと、その中で研究開発だとか、新分野の開拓だとか、あるいはまあ、企業によっては、その人を育てるというとこにようやくお金を使うようになってきた。
 
 そのことが少し足元の設備投資の拡大にもつながってきてる。そういう意味で企業の体質変わり始めているので、それをさらに高成長戦略を通じて後押ししていくってことは私も、必要だと思います」

 来年10月の消費税率10%引き上げの影響と政府の対策に関わる議論のコーナーに移る。

 アベノミクス景気が高度成長期超えの長期の、戦後2番目とされる経済回復でありながら、実感なき景気回復であることに議論が集中している。そしてその原因を決定的な賃上げ不足に置いている。

 安倍晋三は雇用は250万人増えた、有効求人倍率は全国全てで1を超えた、実質GDPは1を超えたとアベノミクス効果の統計を持ち出して、自政権の景気回復への貢献度を自慢しているが、賃上げ不足によって実質賃金が見るべき額に到達せず、結果、個人消費が低迷していたのでは景気回復に実感など持てるはずはない。

 早稲田大学教授の水野和夫が景気回復ということの本質を衝いた発言をしているゆえに再度ここに掲載してみる。

 「戦後2番目の長さで、恐らく来年の1月にはそれを越えて、戦後最長になると思うですけれども、殆ど、あの、景気回復という定義自体がですね、もう、今の時代に全くそぐわなくて、景気回復と言っても、殆ど意味がないと思うんです。その理由は、その景気回復というのは生活水準を、1億2000万人のですね、生活水準を引き上げていくっということに意味があると思うんですけども、その生活水準を測る、一つは所得、実質賃金ですので、この実質賃金というのは今回の景気回復でもマイナス、70ヶ月を通じてですね。均すとマイナスですし、それから戦後最長のときも、小泉総理大臣のときも、1人当たりの実質賃金はやっぱりマイナス。

 景気が回復したからといって、生活水準上がるわけじゃないですし、それから所得の蓄積である金融資産、これもあの、この30年間、金融資産を保有できないっていう人が急増しているわけですけど、もう景気回復という言葉は私は使わない方がいいんじゃないかなと思ってます」

 一般国民の生活水準の向上を着地点としない景気の結末は景気回復とは言わない。いわば一般国民以外の少数の選ばれた者の生活水準の向上にのみ役立つ景気回復でしかないと警告を発している。

 実感なき景気回復のそもそもの根本原因が賃上げ不足であるなら、決定的な賃上げからスタートさせなければ、実感ある景気回復を一般国民に約束も保証もできないことになる。「賃金が増えて、貯金ができて、様々な将来リスクに備えれるようにするっていうことが一番重要である」(慶應義塾大学教授井手英策)が、大企業は過去最高の内部留保を更新し続けながら、「いつでも代えの効く、いわば失業者プールというのに頼って経営を行う、つまりは人はどんな賃金でも、どんなきつい仕事でも、それなりに集められるという前提の経営体質というのが根付いてしまった」(明治大学准教授飯田泰之)、あるいは「日本企業の問題でデフレが長く続いている中で企業はどうしても賃金だけではなくて、人件費全体を抑制するっていうことが定着してしまった」(日本総合研究所チェアマン・エメリタス高橋進)ために決定的な賃金上昇を渋る状況になってしまっている。

 アベノミクス景気の正体であるこういった情況が人手不足を受けた人材囲い込みが自ずともたらすことになるプラスアルファの賃上げを以ってしても決定的な賃上げに至らない原因となっているということなのだろう。
 
 安倍政権のデフレ脱却政策について明治大学准教授の飯田泰之は「賃上げをしなければ、人を確保できないという状態にまで到達させることによって脱デフレを図るという理由だったが、予想以上に高齢者の雇用の拡大、女性の雇用拡大によってなかなか賃上げしないと人手を確保できないという状態に至らなかった」、いわば一方では人手不足からの賃上げを狙ったが、その一方で高齢者の活用と女性の活用によって、それが賃金抑制の働きをしてしまったばかりではなく、「賃上げしないと人手が集まらない」という情況は「本来の人手不足ではない」、いわば人手不足に合わせた便宜的な賃上げであって、企業活動の活発化と経営拡大を先に置いた人手不足こそが「本来の人手不足」であって、企業活動の活発化と経営拡大に応じた賃上げこそが過不足ない額を保証することになる本来の賃上げだとの趣旨を述べている。

 となると、人手不足だからと外国人材を活用するのは技能実習制度が既に証明しているように賃金抑制の働きし、日本人の賃金への影響なしとすることはできない。先ず制度が日本人の同等の報酬を謳いながら、最低賃金以下の雇用、法定労働時間を超える違法残業の強制、残業時間の未払い等々が横行したのは賃金抑制を目的とした外国人材の利用だった証明としかならない。

 4月に施行される外国人材受入れ拡大政策にしても、今までが今までであったことと、農業や漁業は派遣外国人を認めるということだから、賃金抑制の力となって働くのは目に見えている。

 勿論、全ての受入れ機関が人件費抑制を主目的としているわけではなく、日本人と同等の報酬を支払う受入れ機関も存在するだろうが、日本人と同等であったとしても、日本人に対するそのような賃金が景気の実感を保証できる金額のレベル、生活水準の向上に振り向けることができる金額のレベルとはなっていないことは実感なき景気回復がこれまた証明していることで、逆に人手不足を放置して、人手確保ためにはギリギリ賃金を上げなければならない切羽詰まった情況をつくり出してから、初めて外国人材の活用に持っていけば、少なくとも景気回復に実感を持てる余地をつくり出すことができるし、自ずと生活水準の向上に向かうことにもなる。

 日本人労働者の賃金が決定的に上がれば、同等の報酬を外国人材に保証しなければならなくなって、その回避のために違法雇用が増加する危険性が生じるが、徹底的に取り締まることで、外国人材の賃金が母国の近親者の生活向上や社会に向けた消費に役立ち、母国自体が僅かずつは豊かになる素地を日本が提供できることになる。

 人手不足に困り果てて、賃金を大幅にアップする。12月16日のNHK「日曜討論」を見て導き出した答である。

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