2019年7月28日任期満了実施参院選で 安倍自民党を大敗に追いつめれば 政権運営が行き詰まり 2019年10月1日の消費税10%への増税を 断念させる可能性が生じる |
2019年3月11日、政府主催の「東日本大震災8周年追悼式」が行われ、安倍晋三が立派な「スピーチ」を披露している。勿論、口先とスピーライター御提供の言葉の使い方で魅せている見せかけの立派さに過ぎない。
冒頭、「かけがえのない多くの命が失われ」た大震災から「8年の歳月が流れました」と言い、「最愛の御家族や御親族、御友人を失われた方々のお気持ちを思うと、今なお哀惜の念に堪えません」と近親者や友人・知己を亡くしたことで遺された多くの被災者が8年経っても今なお癒えないであろう哀しみを思い遣ると、安倍晋三センセイ自らは「今なお哀惜の念に堪えない」と胸の内を訴えている。
当然、なかなか癒えることのない哀しみとは別に困難な生活状況のもとに遺された被災者や、周囲に命を亡くした人々がいなくても、被災によって苦しい生活を余儀なくされた被災者がせめて生活の場ではそれぞれの苦しみや哀しみ、孤独を味わうことから早く抜け出すことのできる復興政策を、インフラ復興に重点を置いた政策とは別に同じように重点的に推進することになったはずた。そして8年も経過したのだから、相当程度の成果を挙げていなければ、「今なお哀惜の念に堪えません」と言っていることは身近な命を亡くすことになった残された被災者の哀しみを口先だけで言っていることになる。
この目的は立派な高速道路を造ったからと言って、片付くものではない。被災前とは比べ物にならない立派な施設をあちこちに造ったからと言って、それでヨシとすることはできない。
だが、次に口にしたことはインフラに関わる復興の進捗度に重点が置かれている。「震災から8年が経ち、被災地の復興は、着実に前進している」とか、「地震・津波被災地域では復興の総仕上げに向け、生活に密着したインフラの復旧はおおむね終了した」とか、「住まいの再建も今年度末でおおむね完了する見込みだ」、あるいは福島の原発事故被災地域では帰還困難区域を除く避難指示解除地域では、「本格的な復興・再生に向けて生活環境の整備が進んでいる」とか、帰還困難区域にでも、特定復興再生拠点の整備が開始され、「避難指示の解除に向けた取組が動き出している」とか、要するにインフラ整備を基準に復興は確実に進んでますよと請け合っている。
次いで、「一方で、いまだ1万4千人の皆さんが仮設住宅での避難生活を強いられるなど、長期にわたって不自由な生活を送られています」と、仮設住宅に残されている1万4千人に亘る避難生活での不自由な生活に触れているが、生活上の物理的な不便さへの言及であって、このことが心身に与える心理的・身体的労苦(心身が疲れ苦しい思いをすること)への言及ではない。
そして「政府として、今後も、被災者お一人お一人が置かれた状況に寄り添いながら、心身の健康の維持や、住宅・生活再建に関する支援、さらに子供たちが安心して学ぶことができる教育環境の確保など、生活再建のステージに応じた切れ目のない支援を行い、復興を加速してまいります」と約束し、その約束の中に「心身の健康の維持」を入れて、いわば身体のケアだけではなく、心のケアへの支援に触れているが、安倍政権は民主党菅政権下の2011年7月29日策定の《東日本大震災からの復興の基本方針》で、〈復興期間は10年間とし、被災地の一刻も早い復旧・復興を目指す観点から、復興需要が高まる当初の5年間を「集中復興期間」と位置付ける。〉としていたことを受け継いで、2016年から2020年までを「復興・創生期間」と位置付ける復興政策2016年3月11日に《「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針》を閣議決定、その中で、〈被災者支援(健康・生活支援)〉として〈避難生活の長期化や恒久住宅への移転に伴う被災者の心身の健康の維持やコミュニティの形成、生きがいづくり等の「心の復興」など、復興の新たなステージに応じた切れ目のない支援を行う。〉と公約、「具体的な取組」を次のように謳っている。
〈コミュニティ形成の支援や心身のケアを始めとした被災者支援の重要な課題に対応するため、50の対策からなる「被災者支援(健康・生活支援)総合対策」を着実に推進する。
見守りや生きがいづくりのための「心の復興」といった心と体の健康についての支援を行うなど、被災者の心身のケアに対する支援を継続する。また、被災者の移転に伴うコミュニティ形成や既存のコミュニティとの融合などを引き続き支援する。〉
「コミュニティ形成」にしても、新設コミュニティと「既存のコミュニティとの融合」にしても、「心の復興」に帰着する。「心の復興」のためには身体的ケアよりも心のケアが重要となる。いくら身体的に健康でも、心を病むと、その病が早晩、身体まで蝕んでいくことになる。心が健康であると、身体の健康も自ずと維持されることになるからだ。
当然、安倍政権発足から前政権の復興政策を引き継いで復興期間を6年3カ月、《「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針》の閣議決定の2016年3月11日から計算しても、3カ年を経過させている。経過させた期間なりにインフラの復興のみならず、それに劣らずに被災者に対する心のケアを通した「心の復興」を安倍政権としても成果を上げていなければならないことになる。
安倍晋三は記者会見や公式行事でも被災地における心のケアに触れている。そのいくつかを拾ってみる。
《「東日本大震災四周年追悼式」における内閣総理大臣式辞》(首相官邸/2015年3月11日)
安倍晋三「被災地に足を運ぶ度、復興の槌音が大きくなっていることを実感します。高台移転、被災者向けの住宅の事業は着実に前進し、復興は新たな段階に移りつつあります。しかしながら、今なお、原発事故のために住み慣れた土地に戻れない方々をはじめ、23万人の方が厳しい、不自由な生活を送られています。新しい生活をスタートさせた方々も、生活環境への適応など、御苦労は絶えません。健康・生活支援、心のケアも含め、被災された方々に寄り添いながら、さらに復興を加速してまいります」
「健康・生活支援、心のケアも含め、被災された方々に寄り添いながら、さらに復興を加速してまいります」と、復興はインフラだけじゃないそ、精神面の復興も進めているぞと、後者の復興についても手落ちがないことを宣言している。
《3回国連防災世界会議ハイレベル・パートナーシップ・ダイアローグにおけるスピーチ》(首相官邸/2015年3月14日)
安倍晋三「東日本大震災の発災直後、全国から女性警察官を中心にその部隊が甚大な被害があった地域に派遣されました。彼女たちは、長期間にわたって多くの地域を歩き、様々な境遇にいる被災者の方々の話を聞きました。女性らしい、きめ細かい『心のケア』によって、多くの被災者が救われたのです。私は、東日本大震災後、22回にわたって、東北に足を運んでまいりました。そこで、多くの女性たちと出会ってきました。
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女性は災害による被害を、より受けやすい『災害弱者』だと言えます。あってはならないことですが、災害後の混乱状態では女性への暴力が増えるとの報告があります。しかし、女性は家族を災害から守る知恵と知識を持ち合わせています。そして、被災後、多くの困難に立ち向かわなくてはならない被災者の身体と心のケアにきめ細やかに対応することができます。災害によって損なわれたコミュニティを取り戻すためにも、女性の力は欠かせません。私は、被災しながら地域活動に懸命に取り組む女性たちに、被災地を訪れるたびにお会いしています」
「被災者の身体と心のケア」と毀損コミュニティの回復に女性の力に期待しているが、政府の心の復興政策をベースとしなければ、自治体や女性個人が太刀打ちできない事業であろう。当然、政府の心の復興政策が先行している状況下でなければ、このような発言はできない。
東日本大震災発災5年目を次の日に控えた2016年年3月10日の安倍晋三の「記者会見」(首相官邸/2016年年3月10日)
安倍晋三「避難指示が解除された地域では、生業、生活、心のケアなどについて、それぞれきめ細かく支援し、戻りたいと考えている住民の皆様が安心して戻れる故郷を取り戻すことができるように、全力で取り組んでいきます」
勿論、この「生業、生活、心のケア」の必要性は原発被害の福島だけに限らない。
「復興推進会議・原子力災害対策本部会議合同会合」(首相官邸/2019年3月8日)
安倍晋三「東日本大震災からの復興は、内閣の最重要課題です。発災から間もなく丸8年となります。復興の総仕上げ、福島の本格的な復興に向けて、確固たる道筋をつける重要な局面を迎えています。
これまでの取組の結果、復興は一歩一歩、着実に進展しています。一方で、被災者や被災地のおかれた状況は多様化しており、よりきめ細やかな対応が求められています。
各閣僚におかれては、復興・創生期間の残り2年間、一日も早く復興を成し遂げるため、全力で取り組んでください。
他方、復興・創生期間後においても、心のケア等の被災者支援などについては対応が必要です。
・・・・・・・・・・・・
東北の復興なくして、日本の再生なし。被災者の声を聴き、その声を復興につなげていく。私自身、明日、岩手県を訪問します。現場主義が安倍内閣の原点です。改めて、閣僚全員が復興大臣であるとの意識を共有し、被災者の心に寄り添いながら、一日も早い被災地の復興に向けて全力を尽くしてください」
ここではインフラに関する「復興は一歩一歩、着実に進展している」が、「心のケア等の被災者支援などについては対応が必要です」と、間接的に遅れていることを示唆している。具体的にどれ程に遅れているかについては触れていないし、安倍晋三発言の全体を通して見た場合でも、被災地に於ける「心の復興」がインフラ整備に劣らずに重要であることを機会あるごとに被災者に向けて、さらには国民に向けて発信しているものの、では、どれ程に成果を上げているのか、その説明責任を負っているはずだが、過去の追悼式辞でも触れていないし、今年3月11日の追悼式辞でも、一言も触れていない。
安倍晋三が散々に「心のケア」だ「心の復興」だと"やっている感"を国民にアピールし、それなりに"成果を上げている感"を匂わせている実際の成果がどの程度なのか、マスコミ記事から見てみる。
「朝日新聞福島県民対象世論調査」(asahi.com/2019年2月27日23時00分)
◆あなたは、福島第一原子力発電所の事故に対する、これまでの政府の対応を評価しますか。評価しませんか。
評価する 20
評価しない 58
その他・答えない 22
◆東日本大震災や原発事故から8年がたち、あなたは、福島の復興への道筋がどの程度ついたと思いますか。(択一)
大いについた 3
ある程度ついた 49
あまりついていない 38
まったくついていない 6
その他・答えない 4
◆あなたは、福島県全体で、元のような暮らしができるのは今からどのくらい先になると思いますか。(択一)
5年ぐらい 4
10年ぐらい 15
20年ぐらい 18
20年より先 56
その他・答えない 7
◆あなたは、福島第一原発の事故による放射性物質があなたやご家族に与える影響について、どの程度不安を感じていますか。(択一)
大いに感じている 19
ある程度感じている 41
あまり感じていない 32
まったく感じていない 7
その他、置かれている状況について答えているが、否定的反応が半数近くか半数以上となっている。当然、いくら政府が心のケに務めたとしても、「心の復興」は覚束ないことになる。
このことの証明として既にリンク切れとなっているNHK NEWS WEB記事、《福島県内の「震災関連死」心臓と脳血管の疾患が肺炎と並び最多》(2019年3月2日 18時23分)を挙げることができる。
福島県からの情報として、〈福島県内で先月までに震災関連死と認定された人は2267人、震災と原発事故から8年がたった今も増えていて、津波などで犠牲となった1605人を大きく上回〉って、そのうちの〈200人は、避難に伴う転居などの回数が平均で6回以上に上り、死因は、心臓と脳血管の疾患が肺炎と並んで最も多いことがNHKが行ったアンケート調査で分かった。〉と伝えている。
「不明」などの25人を除いた避難所の移動や転居などの回数
▽1回から2回が6%にあたる10人、
▽3回から4回が22%にあたる37人、
▽5回から9回が58%にあたる99人、
▽10回以上が14%にあたる24人で、
平均6.7回、最多31回。当然、記事は避難先を転々としてふるさとに帰れないままに死亡した例も挙げている。
死因
▽肺炎54人
▽心疾患39人
▽老衰が19人、
▽脳血管疾患15人
心臓と脳血管の疾患合計54人は肺炎と並んで最多。そして自殺者11人。
これが安倍晋三の「心の復興」"やっている感"に反した福島県に於ける実際の「心の復興」ということになる。
ところが、NHKの2018年12月~1月にの岩手・宮城・福島の被災者、原発事故の避難者当合計4400人余りに対する「アンケート」(全体の36%に当たる1608人の回答)を見ると、インフラ復興に応じた地域経済の復興が伴っていないことが分かって、このことに言及している安倍晋三の言い振りが口程でもないことが分かる。
「震災前に暮らしていた地域の復興の状況をどう感じるか」
「まったく進んでいない」8.6%
「思ったよりも遅れている」54.5%
「思ったよりも進んでいる」27.4%
「復興は完了した」2.6%
「進んでいる分野」
「道路や鉄道などの交通インフラ」の復興
「実感がある」+「やや実感がある」49.4%
「進んでいない分野」――「地域経済」の復興
「実感がある」「やや実感がある」13.5%
「実感がない」と「あまり実感がない」47.8%
「国が復興の総仕上げと位置づける『復興・創生期間』残り2年余で今後、計画どおりに復興が進むと思うか」
「そう思わない」26.2%
「あまりそう思わない」39.4%と 合計65.6%
記事解説。〈インフラや公共施設の復興が進む一方で、地域経済が低迷して復興の遅れを感じる人が多い現状が浮き彫りになっています。〉
このことの主たる原因は人口減少であろう。被災地は全体的にその傾向にあるようだが、特に福島県の減少は大きくて、「時事ドットコム」(2019年03月09日14時50分)記事は、〈東京電力福島第1原発事故による避難指示が解除され、小中学校が地元で再開した福島県内の10市町村では、児童・生徒数が2018年5月時点で計758人と、事故前の1割強にとどまっている。避難の長期化で、多くの子育て世代が新たな場所で生活を再建したことが背景にあり、各市町村は厳しい学校運営を強いられている。〉と伝えている。
そして2017年3月に避難指示解除の川俣町山木屋地区を例に挙げて、〈昨年4月から小中学校が再開したが、小学生は6年の児童5人だけ。今年の新入生もおらず、4月から休校する見通しだ。住民の帰還率は約4割だが、60代以上が4分の3を占め、「子育て世代は避難先の学校で子供の友人関係ができたり、家を新たに建てたりして生活基盤を移している」(町教育委員会)という。〉と、住民帰還の厳しい状況を伝えている。帰還者のうち60代以上が4分の3を占めているということは長く住んでいて、地縁・血縁が色濃く心身に染み込むことになっていることからの帰還であって、そこまではいっていない若者は故郷を離れることにさほど抵抗感はなく、故郷への思いよりもより生活がしやすい新たな地を求める向上心を容易に優先させることができるのだろう。
人口流出・人口減少はコミュニティーの維持を難しくする。インフラの復興に成功したとしても、訪れる人は少く、いつもガランとしている立派な公共施設を新たに建設する状況を提供するようなことで終わることになって、そこに活発な経済活動も望めないことになる。残された被災者・残った被災者は抱えている心の傷を癒やす機会も与えられずに傷をより深めるような鬱々とした時間を送りかねない。
その結果の、現在も跡を絶たない、特に福島県に多い震災関連死ということであるはずだ。
インフラの復興のみに邁進している政府の姿だけが浮かんでくることに対してこのように心のケアを通した「心の復興」が遅々として進んでいないのは安倍晋三が故郷に取り残さらた被災者を眼中に置くことができない心の持ちようと力不足が原因なくて、何であろう。
安倍晋三が2019年3月9日に津波などで大きな被害を受けた岩手県釜石市を訪れて、自動車専用道路の開通式典に出席してテープを切り、さらに南北2つに分かれていた路線が今月23日から1つの路線につながる三陸鉄道リアス線の釜石駅で運転士の技能を高めるための訓練運転の列車に試乗したことは、復興政策がインフラ重点となっていることに対して象徴的である。
要するにインフラの復興に主たる眼中を置いて全体の復興を進めているから、「心の復興」が遅れる歪みを生じさせている。その結果の、「政府の復興が計画通りに進むと思うか」の問いに対して「そう思わない」26.2%+「あまりそう思わない」39.4%の合計半数以上の65.6%も占めることになっているのだろう。
安倍晋三の言葉だけで魅せている復興の姿に誤魔化されてはいけない。