安倍政権のTPP採決要求と交渉結果のみを無条件に受け入れろの態度は政府を無誤謬な存在に祭り上げるもの

2016-11-01 11:50:40 | 政治

 2016年10月30日のNHK「日曜討論」で冒頭、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の国会承認を求める議案と関連法案の衆議院での採決を巡って交わされた議論を10月30日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。 

 自民党政務調査会長代理の田村憲久と民進党政務調査会長の大串博志の発言のみを取り上げてみる

 田村憲久「審議時間は50時間になり、議論も煮詰まってきている。アメリカが揺れているが、日本が先に承認してアメリカを引っ張り、仮にアメリカで承認されないという不測の事態が起きても、日本が承認していることが、外交上、いかに有利になるか。どちらにしても早く承認することに大きな意味がある。そろそろタイムリミットが近づいていることは確かで、なるべく早く理解を頂き、採決してもらいたい」

 大串博志「アメリカの大統領候補が不同意を示している中で、日本だけが国会で議論するのには無理がある。ましてや、『何十時間議論すればいい』という時間ありきの問題ではない。特に農業問題や自動車問題に加えて、食の安全のような国民生活に大きく影響のある論点も出てきた。今、時間ありきで採決に向かうのはありえない」

 田村憲久は「日本が先に承認してアメリカを引っ張る」といった日本の優先的承認に於ける外交上の有利性の観点から早期の採決を求めている。

 日本でも妥結に至ったTPP協定のテキスト全文が仮訳の形で公表されているから、民進党の大串博志は農業問題や自動車問題、食の安全等、妥結に至る結果の妥当性に問題点を置いていることになる。

 妥結に至る結果の妥当性を知るために野党は交渉経緯の記録開示を求めた。対して政府は黒塗りの資料を開示、安倍晋三が2016年4月7日午後の衆院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会で「交渉は妥結した結果が全てで、結果に至る過程の協議がすぐ表に出るようなら、外交交渉はそもそも成立しない」と黒塗りの資料の開示を正当化し、結果の妥当性を俎上に上げるのを拒否した。

 但し安倍晋三のこの発言は交渉過程を国民の目に隠す形としているから、国民には結果の妥当性を知る由もないにも関わらず、あるいは判断する手がかりが何もないにも関わらず、結果を全て正しいとしてしていることになる。

 正しいから交渉の結果を無条件に受け入れて、無条件に早急に採決に応じろと迫ることになっているのだろうし、田村憲久の発言はその趣旨から出ていることになる。

 2016年10月31日の衆議院の特別委員会TPP集中審議での安倍晋三の答弁も同じ趣旨に則っている。10月31日付「NHK NEWS WEB」記事から見てみる。  

 中川康洋公明党議員「日本が、アメリカ大統領選挙の動向によって、承認手続きの歩みを緩めたり、躊躇したりすれば、ほかの参加国との信頼を大きく損ねる。日本こそが主導すべきだ」

 安倍晋三「日本がTPP協定を承認することは、貿易、投資のルール作りを主導していくという意思を世界に示すことになる。(さらに)国会でTPP協定が承認され法案が成立すれば、『再交渉はしない』との、立法府も含めたわが国の意思が明確に示されることになる。

 このまま無為に時を過ごせば、むしろ再交渉を求められる事態を引き寄せることにもなりかねないと憂慮している。日本は受け身で他国の動きを待つのではなく、国益に合致する道を自ら進んでいくべきだ。

 (TPP協定によって、遺伝子組み換え食品への規制が緩むのではないかとの指摘に対して)TPP協定は、必要と考える制度の変更に新たな制約を加えるものではなく、安全性において必要な措置を求めることに変更を求めるものではない。安全ではないものが一般家庭に届けられることは絶対にない。

 中川康洋公明党議員「アメリカが、日本の薬剤価格に介入するおそれがあるのではないか」

 安倍晋三「薬価を極めて合理的に決めており、アメリカから要求されたとしても、今の仕組みを変える考えはない」――

 「日本がTPP協定を承認することは、貿易、投資のルール作りを主導していくという意思を世界に示すことになる」という答弁にしても、「国会でTPP協定が承認され法案が成立すれば、『再交渉はしない』との、立法府も含めたわが国の意思が明確に示されることになる」という答弁にしても、「無為に時を過ごせば、むしろ再交渉を求められる事態を引き寄せることにもなりかねないと憂慮している」という答弁にしても、「日本は受け身で他国の動きを待つのではなく、国益に合致する道を自ら進んでいくべきだ」という答弁にしても、その発言の殆どが外交上の有利性のみに視点を置いている。

 こういった答弁にしても交渉結果を全て正しいとする前提に立っているからできることで、この前提は黒塗りの資料が示すことになっている交渉過程の非開示と、非開示によって強いられることになっている結果の妥当性の判断不可能性に裏打ちされていることは断るまでもない。

 つまり安倍晋三を筆頭に安倍政権は国民に対しても野党に対しても交渉の経緯や交渉結果の妥当性は問題とせずに交渉結果のみを無条件に受け入れろという態度で迫っていることになる。

 このような態度は、少なくともTPP交渉に関しては政府は絶対正しいと、政府を無誤謬な存在に祭り上げていることになる。

 間違ったことはしていない、全てイエスと言え。まるで独裁である。

 オバマ大統領は来年1月までの自身の任期中のTPP国会承認目指しているが、議会多数派の野党共和党が審議入りに反対、承認の見通し立たっていない上に11月のアメリカ大統領選の立候補者クリントン、トランプ共にTPPに反対している。
 
 クリントンは国務長官時代はTPP推進派だったが、大統領選立候補以降反対に回ったのは米世論の反対に合わせた転向だと言われている。

 2016年8月25日付「日経ビジネス」にTPPと関連付けた大統領選に於ける投票行動を尋ねた2016年2月23日~3月3日調査のアメリカの世論調査が載っている。     

 「TPP協定から撤退し、米国内の雇用を優先すると公約した大統領候補に投票するか」

  「投票する」          24%
 「どちらかと言えば投票する」  30%
 「どちらかと言えば投票しない」 12%
 「投票しない」          6%
  「わからない」         29%

 「投票する」+「どちらかと言えば投票する」で54%、半数以上を占めている。

 いわば大統領選はTPPに関わる世論を無視できない状況下にある。

 こういった世論調査に答えるためにはTPPの妥結内容を知らなければならない。記事は、〈米国でも交渉過程については外交上の約束事(基本的未公開)もあり、全容は米国民に明らかにされていません。ただリークを基にメディアが断片的に報道はしています。〉と解説している。

 要するにリークに基づいた報道内容を手がかりにアメリカ国民はTPPを判断、世論調査にも答えていることになる。

 但しクリントンの場合は国務長官をしていたから、その交渉経緯についてはある程度精通しているのだろう、記事が〈クリントンは「TPP反対」ではなく、「TPP協定反対」だ〉と書いていて、クリントンが2016年7月13日以降繰返している、交渉経緯についてはある程度精通した立場からの自らのTPPに対する姿勢を示す発言を伝えている。

 クリントン「私たちは高いハードルを設置する必要がある。(協定内容が)雇用を創出し、賃金を上げ、安全保障を増進する協定でなければならない」

 つまりTPPはアメリカにとって「雇用を創出し、賃金を上げ、安全保障を増進する協定」とはなっていないと見ていることになる。

 と言うことは、交渉結果の妥当性に一部異議を唱えたTPP反対ということになる。

 アメリカの議会多数派を占める共和党にしてもTPPそのものに反対ではなく、内容の修正を求める立場から議会の早期審議入りに反対しているという。

 クリントンは世論を背景とした大統領候補という立場からの態度であり、共和党は議会多数派を占めている力関係からできる態度であるが、いずれにしても両者共に無条件に結果を受け入れることはできないという態度を示していることに変わりはない。

 日本の安倍政権の交渉結果のみを無条件に受け入れろという政府無誤謬の独裁的な態度とは大違いである。

 自公与党の審議に時間を尽くしたとか、野党のまだ審議に時間を尽くしていないとかの問題で終わらせてはいけない。


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