中小の商工業者の利益代弁者である日本商工会議所の三村明夫会頭は安倍晋三が子育て支援一部財源として経済界に求めた300億円の拠出負担に当初反対した。
その理由の一つとして子育て支援は安定的な財源確保の必要上、税による恒久財源で賄うべきであるということをを挙げた。
二つ目の理由として労使折半負担の厚生年金保険料の使用者側(企業側)負担分納入の際にこの保険料とは別立てで全額企業側負担を義務付けられている子ども・子育て拠出金が2017年度4000億円のうち大企業よりも多い約6割弱を中小企業が負担しているという不公平さを挙げた。
中小企業の数の方が圧倒的に多いから大企業よりも中小企業の方が負担額が多くなるのだが、要するに大企業の方が資金が豊富なのだから、資金力で負担割合を決めるべきだとの主張なのだろう。
多分、この主張が政府に認められて、何らかの配慮を約束されたのだろう。日本商工会議所会頭三村明夫は12月21日の記者会見で待機児童対策や幼児教育の無償化などを盛り込んだ2兆円規模の政府の政策パッケージに関して安倍晋三が子育て支援等の財源として経済界に要請していた3000億円の拠出金の負担を容認する考えを示した。
この記者会見よりも前のことだと思うが、あるいは後かもしれないが、三村明夫会頭と経済再生担当大臣茂木敏充との会談を12月21日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
但しは会談日が12月20日なのか12月21日なのか、いつものことで触れていないが、この点NHKは情報伝達能力に優れていると言うことなのだろう。
三村明夫会頭「中小企業の景況感は1年前から着実に改善しているが、人手不足が深刻化するなど、大企業と中小企業の間には依然として大きな格差があり、楽観できない」
この発言は中小企業への支援の充実を求めたものだと記事は解説している。但し「中小企業の景況感は1年前から着実に改善しているが」、「大企業と中小企業の間には依然として大きな格差がある」と指摘している。
要するに口に出しては言わないが、アベノミクスは大企業と中小企業の間の格差の是正に大した役に立っていないと言っていることになる。役に立っていないばかりか、大企業の続く最高益獲得の状況を見ると、格差は拡大していると見なければならない。
茂木敏充「日本企業の99%を占め、雇用の7割を支える中小企業は、まさに日本経済、地域経済の屋台骨だ。中小企業の攻めの投資を力強く応援することで、生産性革命と経済の再生を地域の隅々までお届けしていきたい」
記事はこの発言を、〈今月閣議決定した政策パッケージの施策を通じて、中小企業の生産性向上への支援を強化していく考えを強調し〉たものだとしている。
中小企業が日本企業の99%を占め、日本経済、地域経済を支える屋台骨でありながら、屋台骨ではない大企業との格差拡大が生じている。茂木敏充は安倍内閣の一員だから、この矛盾については触れない。勿論、アベノミクスが格差ミクスであることを認めることになるからだ。
認めないばかりか、「格差を是正します」等々、「格差」という言葉を使った議論はしない。これも安倍内閣の一員としては触れてはならない禁句となっているからだ。
12月10日(2017年)放送のNHK「日曜討論」は各種教育無償化を柱とした人づくり革命、企業の収益性向上や投資促進を柱とした生産性革命を目標とした安倍政権の「新政策パッケージ」を取り上げていた。そこで大和総研のチーフエコノミスト熊谷亮丸(くまがい・みつまる)が大企業と中小企業の格差について触れている。
熊谷亮丸は名は体を表すということなのか、丸々太った亮丸体型となっている。
熊谷亮丸「アベノミクスが始まって1年辺り円安に乗って企業収益がどのくらい改善したか調べてみると、私供の計算では全企業・全産業で3兆円改善した。
その中で大企業が2兆円、中小企業が1兆円改善。
ここから言えることは全体が改善する中で格差が拡大している状況にある。景気は全体は良くなっているので、格差の部分に手を打たなければならない。
何をやるかというと、固定資産税を軽くするということは中小企業にストレートに効いていく。もしくは事業継承税制、企業が跡継ぎをしやすいような色んな仕組みを整えることで、徐々に中小企業を後押しすることがポイント」
アベノミクスが始まって1年辺りで円安貢献を受けて全産業で3兆円業収益が改善したが、その割合は大企業2に対して中小企業が1。但し茂木敏充が言っているように中小企業は「日本企業の99%」を占めている。
実際には2006年の中小企業庁の統計で中小企業は約32.6万社99.7%に対して大企業は約1.2万社0.3%しか占めていない。
約1.2万社0.3%の大企業がアベノミクスが始まって1年辺りで2兆円も企業収益が改善し、約32.6万社99.7%の中小企業が1兆円しか改善しない。それぞれの企業数で平均した場合、大企業1社平均で約1億7千万円の企業収益改善に対して中小企業1社平均で約312万5000円の企業収益改善。
勿論アベノミクス前から大企業と中小企業間の格差は存在していただろうが、アベノミクス開始1年間の企業収益に限って言うと、大企業と中小企業の格差が約1億7千万円対約312.5万円もあることになる。
この大企業対中小企業の無視できない大きな格差は、当然、高所得層と中低所得層の格差にそっくりそのまま無視できない大きな懸隔で、あるいはそれ以上の隔たりで反映していることになる。
と言うことは、安倍晋三のアベノミクスは格差拡大によりよく機能する景気回復エンジンだとの指摘は可能となる。全体を見ると景気は回復しているように見えるが、それが上だけの回復で、下への恩恵がゼロに近い歪な形を取っているから、真の景気回復とその回復を受けた税収の増加は望みようがなく、相撲取りが他人のフンドシで相撲を取るように賃上げも政策の財源も企業に頼らざるを得ない状況を抱えることになる。
アベノミクスの特徴的属性が格差拡大にあるなら、アベノミクスの全面的軌道修正を行わない限り、あるいは日銀が現在の金融緩和策を取る限り、格差拡大のどのような是正策を打っても、これまで見てきたように少なくとも格差の方向に進路を取ることになる。