安倍加計疑惑:2015年6月5日「国家戦略特区WGヒアリング(議事録)」に見る数々の情報捏造と隠し事

2017-11-17 13:36:29 | 政治
 
 今治市は2015年6月4日に国家戦略特区での獣医学部新設を提案し、2015年12月15日の「第18回国家戦略特別区域諮問会議」で国家戦略特区指定を受け、翌年の2016年1月29日に正式に特区指定されている。

 今治市が国家戦略特区での獣医学部新設を提案した2015年6月4日の翌日の2015年6月5日、内閣府は提案に対する「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング」を行っている。提案したすぐの翌日に内閣府がヒアリングを行う。役所という組織を頭に置いた場合、バカに手回しのよい対応に見える。

 一般的な遣り方を見ると、前以って根回ししていた可能性が浮かぶ。

 2015年6月5日のヒアリング約2カ月前の2015年4月2日に今治市の企画課長と課長補佐が首相官邸を訪れている。この訪問は今治市が情報公開請求で一部黒塗りで開示した文書に記録されていると言う。

 今治市の面会に対して首相官邸で対応したのは経済産業省出身で当時首相秘書官だった柳瀬唯夫なる人物と目されているが、国会で野党の追及を「記憶にない」の一点張りでかわしている。首相官邸としては今治市の記録にある以上、面会はなかったとすることはできない。「記憶にない」で逃げるしかないのだろうが、首相官邸に対する面会者が存在するのに対応者が不明という奇妙な矛盾を生み出している。

 獣医学部新設を提案したすぐの翌日のヒアリングという手回しの良さはこの面会のときに根回しが行われた可能性が浮上する。そして政府はヒアリングの25日後の2015年6月30日に獣医学部新設に関わる4条件を閣議決定。

 改めて時系列で示してみる。  

 ①2015年4月2日   今治市職員が首相官邸を訪れて、国家戦略特区指定の願い出と指定された場合の特区での獣医学部新設計画の提示を行って、一定
             の保証を受ける根回しを行った。
 ②2015年6月4日   今治市は国家戦略特区での獣医学部新設を提案。
 ③2015年6月5日   内閣府は今治市に対して「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング」開催。
 ④2015年6月30日   獣医学部新設に関わる4条件を閣議決定。
 ⑤2015年12月15日  今治市国家戦略特区指定を受ける。

 閣議決定が後回しになったのは、加計学園の獣医学部新設を認可するためには文科省や日本獣医師会が獣医大学新設に反対していることに対する反対をクリアする正式な手続きとする必要からだろう。「既存の獣医師養成でない構想」という条件を第1番に掲げて“革新性”をウリにすることで反対の主張を封じ込めることができると考えたに違いない。

 この今治市の獣医学部新設の提案に対する内閣府の2015年6月5日の「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング」に3名の加計学園関係者が出席していたにも関わらず、議事要旨に記載はない、政府のWGの議事内容を「すべて公開し、透明性が高い」との説明に反するとのスッパ抜き記事を2017年8月6日付「朝日デジタル」が載せた。   

 このスッパ抜き記事に対する政府側の対応は早かった。WGの座長でアジア成長研究所所長の八田達夫名で8月6日同日付で「事実関係」なるPDF記事を公表した。文飾は当方。

 「国家戦略特区WG(平成27年6月5日)の議事要旨について」(2017年8月6日)   

国家戦略特区WG座長 八田達夫

8月6日付朝日新聞で、「特区会議に加計幹部 議事要旨に出席・発言の記載なし」との記事が掲載されていますが、事実関係は以下のとおりです。

1、国家戦略特区WGで自治体等から提案を受けるヒアリングを行う際、提案者の要望により「非公開」と扱うことは、通常の取り扱いとして行っています。

すべて公開を前提とすれば、提案者が十分に情報を示せなくなり、国家戦略特区における提案制度の趣旨にかなわなくなることがあるためです。

平成27年6月5日の特区WGは、提案主体の愛媛県・今治市から、「議会対策、反対派・競合相手との関係上、非公開の希望」があり、非公開の前提で議事進行しました。

しかし、その後、今治市が国家戦略特区に指定され、提案が実現したことから、議論経過をできる限りオープンにすべきと私が考え、提案主体とも再度協議し、本年3月6日に議事要旨を公開しました。その際、当初は非公開を前提としていた経緯も踏まえ、公開する内容を調整しました。

2、6月5日のヒアリングでは、今治市が、独自の判断で、説明補助のために加計学園関係者(3名)を同席させていました。特区WGの提案ヒアリングでは、通常、こうした説明補助者は参加者と扱っておらず、説明補助者名を議事要旨に記載したり、公式な発言を認めることはありません。

6月5日のヒアリングでは、非公開との前提で、提案者以外の者(加計学園関係者)の非公式な補足発言も認めていましたが、議事要旨の公開に際しては、通常どおり、提案者以外の発言は掲載しませんでした。

なお、提案者から、説明補助者の参加・発言について議事要旨に記載してほしい等の特段の要望があった場合は、議事要旨に記載している場合がありますが、今回はこうしたケースにあたりません。

3、以上のとおり、特区WGの議事要旨の公開については、国家戦略特区の制度趣旨にかなうよう運営しているところであり、今回のケースは通常の取扱いどおり行ったものです。

問合せ先 内閣府地方創生推進事務局 TEL 03-5510-2151

 加計学園関係者は「説明補助者」の資格での出席だから、名前も発言も議事要旨に載せなかった。

 もっともらしい「事実関係」だが、このワーキンググループには今治市が2015年6月4日に内閣府に示した、国家戦略特区でどういった獣医学部を計画しているのかの構想を書き記した「2015年6月4日今治市国家戦略特別区域提案書」と理解を得るために色文字や色枠を使って要所を強調したプレゼンテーション用の「添付資料」を提出している。   

 上記「WGヒアリング」には愛媛県企画振興部地域振興局長である山下一行が提案者として出席していて、委員から獣医学部の経営形態を問われると、「現状では、民設民営で考えております」と発言していることからも、加計学園関係者が単なる「説明補助者」として出席していたとしても、「提案書」と「添付資料」の作成は加計学園の手を借りてのことであり、また加計学園関係者がどのような資格で出席していようと、紹介があり、名刺交換もしただろうから、当然、内閣府側にしても、加計学園が事業主体だと理解していたはずだ。

 だが、加計学園が今治市が国家戦略特区として計画した獣医学部の事業主体として名乗り出たのは2017年1月4日の内閣府による「広島県・今治市 国家戦略特別区域会議の構成員(特定事業を実施すると見込まれる者)の公募」、いわゆる事業主体公募に対して6日後の2017年1月10日に応募したときが初めてで、それ以前の国家戦略特区諮問会議にも国家戦略特区ワーキンググループヒヤリングにも加計学園の名前は現れることはなかっし、2015年6月30日の獣医学部新設に関わる4条件閣議決定以降の両会議で加計学園を事業主体と目して計画している獣医学部の「構想」が4条件を満たしているか、あるいは満たすことができるのかどうかの議論を行った形跡は議事録のどこにも見当たらない。

 なぜ加計学園は事業主体として早い時期に正々堂々と名乗り出なかったのだろうか。表に出すことができない理由として考えられることは安倍晋三が政治関与で動かしている獣医学部新設という事実以外にあるだろうか。

 8月6日付で八田達夫名で公表した「事実関係」の正当性を見てみる。

 八田達夫は「事実関係」公表の文書で2015年6月5日の「特区WGヒアリング」での議事要旨を本年3月6日に「当初は非公開を前提としていた経緯も踏まえ、公開する内容を調整」して公開したと言っている。

 2017年3月6日の公開らしいPDF記事の最初の部分をここに取り上げてみる。会議の進行係は内閣府地方創生推進室次長の藤原豊。 安倍晋三の腰巾着萩生田光一や地方担当相の山本幸三と共にその下で疑惑隠蔽を支えた有名人の一人である。

 リンクアドレスをクリックすると、現在もネット上に存在する。

 「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)」(平成27年6月5日(金)11:26~11:45)  

○藤原次長 済みません。お待たせをいたしました。

 それでは、国家戦略特区のヒアリングを再開させていただきます。

 提案を既に頂戴しておりますが、愛媛県今治市から国際水準の獣医学教育特区ということで、以前から構造改革特区には何度も御提案いただきましたが、今回は抜本的にコンセプトをかなり固めていただいて御提案を頂戴している形になっております。
 
 これは30分の時間でございますけれども、10分程度で御説明いただきまして御議論をいただくということでございますが、資料その他、議事内容は公開の扱いでよろしゅうございますでしょうか。

○山下地域振興局長 はい。

○藤原次長「それでは、八田座長、よろしくお願いいたします」

○八田達夫 お忙しいところをお越しくださいまして、ありがとうございました。

 早速、御説明をお願いいたします。

○山下地域振興局長 私は愛媛県の地域振興局長の山下といいます。よろしくお願いいたします。

 愛媛県地域振興局長の山下一行が自己紹介の後、「説明はこの1枚で集約したつもりなので、この紙を中心にお願いいたします」と言っているのは理解を得るために色文字や色枠を使って要所を強調したプレゼンテーション用の「添付資料」のことなのだろう。

 「国際水準の獣医学教育特区」だとか、「獣医学教育空白地域である『四国』に国際水準の大学獣医学部を新設」だとか、以後新設計画の獣医学部の「構想」を以後説明している。

 ではもう一つ、「朝日デジタル」が加計学園関係者が出席していながら、「議事要旨」に出席者名も発言も記載がないとスッパ抜いた後に冒頭部分を書き換えて載せたのだろう。両方共ヒアリングが行われた「平成27年6月5日」の日付となっているのみで、新たに載せた日付は記載がないから不明だが、アドレスの最後の方が前者は「gijiyoushi」(議事要旨)となっていて、後者は「gijiroku」(議事録)となっている違いしか分からない。

 正確な情報伝達という点で言うと、会議の開催日とは別に公表日まで入れるべきだろう。斜体文字と下線文字は当方が行った文飾ではなく、記事のままである。蛍光ペンのみ、当方が文飾。

 「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事録)」(平成27年6月5日)  

 (注)下線部分では、ヒアリングの当時、議事を非公開扱いと整理しているが、平成29年3月6日に公開した議事要旨の作成に際して提案者と再度協議した結果、現在は、公開扱いで差し支えないとされている。

○藤原次長 済みません。お待たせをいたしました。

 それでは、国家戦略特区のヒアリングを再開させていただきます。

 提案を既に頂戴しておりますが、愛媛県今治市から国際水準の獣医学教育特区ということで、以前から構造改革特区には何度も御提案いただきましたが、今回は抜本的にコンセプトをかなり固めていただいて御提案を頂戴している形になっております。

 これは30分の時間でございますけれども、10分程度で御説明いただきまして御議論をいただくということでございますが、資料その他、議事内容は公開の扱いでよろしゅうございますでしょうか。

山下地域振興局長 済みません。諸般の事情によりまして、非公開でお願いできたらと思っておるのです。

 理由は、対抗するというか、いろいろな意見を持った勢力もかなりあることと、行政の支援で、議会筋のようなところにまだ説明が至っていないので、その辺はちょっと非公開でお願いできたらという理由でございます。

八田座長 わかりました。

 ただし、提案なさっていること自体は議会の方も御存じですね。

山下地域振興局長 はい。

藤原次長 提案をしていただくこと自体は公開させていただきますけれども、提案内容、議事録は非公開という位置づけにさせていただきます。

 それでは、八田座長、よろしくお願いいたします。

○八田座長 お忙しいところをお越しくださいまして、ありがとうございました。

 早速、御説明をお願いいたします。

○山下地域振興局長 私は愛媛県の地域振興局長の山下といいます。よろしくお願いいたします。

 前者の文書では進行係の藤原豊が「資料その他、議事内容は公開の扱いでよろしゅうございますでしょうか」と尋ねたのに対して愛媛県地域振興局長の山下一行が「はい」と答えているだけだが、後者文書では下線付きで「済みません。諸般の事情によりまして、非公開でお願いできたらと思っておるのです。」云々と答えている。

 常識的に考えた場合、もし愛媛県側がこのような事情で非公開を望んでいたなら、2015年6月5日の「WGヒアリング」の開催に先立って主催者側に伝えて了承を得ているはずである。

 もし得ていなければ、内閣府の藤原豊に「資料その他、議事内容は公開の扱いでよろしゅうございますでしょうか」と聞かれた後に下線付き発言を行っても、何ら差し支えないばかりか、却って正々堂々としていることになって隠し事の必要性は何もない。

 ところが前者の「議事要旨」に後者の「議事録」の下線付きに当たる発言が記載されていないということは、前以って非公開を要望して了承を得たからであろう。

 当然、「議事録」であろうと「議事要旨」であろうと、加計学園関係者の名前も発言も載せないことになるし、載らないことになる。

 つまり何らかの隠し事があって、載せなかったわけではない。載せなかったことが後日露見して問題にされたとしても隠し事がないはずだから、8月6日日付八田達夫名の「事実関係」なる説明で十分である。

 また、前以って非公開を伝えておいて了承を得るのが常識であることと隠し事がなければ、山下一行の下線で記した「済みません。諸般の事情によりまして」云々とそれ以下の発言はなかったことになって、捏造(情報の捏造に当たる)したことになる。

 と言うことは、八田達夫名の「事実関係」にしても捏造したことになって、非公開が実際は隠し事が目的の口実である疑いが出てくる。朝日新聞にスッパ抜かれた手前、辻褄合わせのために非公開という「事実関係」を作り上げて、さらに辻褄を合わせるために八田達夫名の「事実関係」とほぼ同じ内容の下線付きの発言を加えた新しい「議事録」を公表することにした。

 何も隠し事がなければ載せなくてもいい発言をわざわざ捏造してまで載せたことは、逆に隠し事が必要だったからであろう。

 この隠し事が2015年6月5日の「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング」に加計学園関係者が出席していながら、獣医学部事業主体としての加計学園の名前が2017年1月4日の内閣府の公募に対する2017年1月10日の応募までどの「議事録」、どの「議事要旨」にも出ることがなかった不自然さを継続させることになったはずだ。

 朝日新聞のスッパ抜き記事に対する八田達夫名の8月6日「国家戦略特区WG(平成27年6月5日)の議事要旨について」に書いてある「事実関係」とそれに合わせた「議事録」の改めての公表が却って譲歩の捏造や様々な隠し事を露見させることになったはずだ。

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安倍晋三加計政治関与:獣医学部新設4条件を満たしていると言うが、国家戦略特区諮問会は議議していない

2017-11-16 12:14:14 | 政治
 

 11月10日(2017年)文部科学省の大学設置審議会が学校法人「加計学園」の獣医学部の来年2018年4月開学を認可するよう、文科相の林芳正に答申し、林芳正は11月14日、来年2018年4月の開学を正式に認可した。

 大学設置審議会から答申を受けた11月10日(2017年)の林芳正の「記者会見」文科省)      

 記者「獣医学部の関係ですけれども、審査が終わった、修正がいろいろかけられたものとして、それが特区に見合っているかどうか、専門教育課の方でチェックもされたというふうに伺っていますけれども、特区の中の4条件、いわゆる4項目というか、4条件。その中に、他の大学ではできないという条件も含まれているのですが、審査が終わったあとの内容として、他の大学ではできないという内容で出しているということなのでしょうか」

 林芳正「今回の獣医学部の新設につきましては、これまで国家戦略特区を所管する内閣府を中心に、段階的にそのプロセスが進められてきたところでございまして、4項目につきましては、昨年の11月9日の『追加規制改革事項』の決定の際に、関係省庁において4項目が満たされているという確認を行っております。

 今回の設置認可のプロセスにおいては、文科省として申請書の内容が4項目を満たしているか否かを確認したものではなくて、4項目を踏まえて進められた、国家戦略特区のプロセスの中で進められた『加計学園の構想』と適合しているか否かについて、確認を行っているところでございます。したがって、本年1月までの国家戦略特区におけるプロセスの判断が覆るものではないということが確認をされたところでございます」

 記者は大学設置審の加計学園新設答申が2015年6月30日の政府閣議決定「日本再興戦略」改訂(抜粋)の獣医学部新設に関わる4条件に適合しているのか質問した。  

 対して林芳正は大学設置審は4条件を満たしているかどうかは確認しない、「昨年の11月9日の『追加規制改革事項』の決定の際に、関係省庁において4項目が満たされているという確認を行って」いて、この確認を踏まえて国家戦略特区のプロセスの中で進められた「加計学園の構想」と4条件が適合しているか否かについて、確認を行っている。従って、「本年1月までの国家戦略特区におけるプロセスの判断が覆るものではないということが確認をされた」としている。

 先ず林芳正が言っている獣医学部新設に関わる2017年11月9日の「追加規制改革事項」について見てみる。

 「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」(2017年11月9日)

 先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置

 人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国 際的に拡大する中、創薬プロセスにおける多様な実験動物を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するため、現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。

 要するに4条件に適う「獣医学部の設置」の地域的条件を〈現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り〉とするよう制度改正を直ちに行うと提案している内容であって、4条件に対する適合性には何も触れていない。

 2017年11月9日の「追加規制改革事項」は同日の「第25回国家戦略特別区域諮問会議」に同じ題名「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」の「案」――「資料3」としてそのままの文言で提出されている。      

 今治市が国家戦略特区での獣医学部新設を提案したのは2015年6月4日である。

 「今治市国家戦略特別区域提案書」(2015年6月4日)

①国際水準の大学獣医学部の新設 

 これまでの国立大学の研究者養成、私立大学の臨床獣医師養成と異なる公共獣医事を担う第三極の国際水準の大学獣医学部を空白地域の四国に新設する。越境感染症や人獣共通感染症、国際的食の安全、バイオテロ等への危機管理と国際対応の資質を持った人材を育成する。

 国際貿易自由化に伴う食品流通等で獣医学的支援の必要な水産、畜産、生物資源利用分野等との連携、創薬研究での医獣連携など分野横断型応用ライフサイエンスの研究・教育と人材育成を進める。

 この提案書を受けて、今治市提案2015年6月4日から26日後の6月30日に4条件を閣議決定したのだろう。

 「獣医学部新設4条件」

①既存の獣医師養成でない構想が具体化すること、
②ライフサイエンスなど、獣医師が新たに対応すべき分野の具体的な需要が明らかになること、
③既存の大学・学部では対応が困難なこと、そして、
④獣医師の需要の動向を考慮すること

 要するに経緯から見て、今治市の提案に対してこれこれの4条件を満たせば、獣医学部の新設を認めますよという内容にしているということなのだろう。

 今治市が千葉市、北九州市と共に国家戦略特区指定を受けるのは今治市提案から約6カ月後、閣議決定から5カ月半後の2015年12月15日の「第18回国家戦略特別区域諮問会議」第18回)のことであるから、今治市から獣医学部新設の提案を受けて、国家戦略特区に指定したことになる。

 昨日、2017年11月15日に衆議院文部科学委員会が開催されて、加計学園獣医学部開学正式認可について林芳正が言っていた4条件を満たしているとしている発言の正当性に対する追及が行われたと11月15日付のマスコミが伝えている。

 但し林芳正を含めて政府側は「国家戦略特区のプロセスの中で確認された」との答弁を繰返すのみで、具体的な経緯についての発言がなく、立憲民主党の逢坂誠二の質問の際は10回も質疑が中断したという。

 要するに林芳正の11月10日の記者会見での発言をただ単に繰返すことで追及をかわそうとい戦術なのだろう。勿論、「確認された」が事実なら、何度同じ発言を繰返そうが構わないが、実際に「確認された」のか、関係する各国家戦略特区諮問会議の議事要旨を紐解いて見ることにした。

 最初に今治市が国家戦略特区の指定を受けた第18回から獣医学部新設言及の発言を見てみる。18回当時は戦略特区担当は山本幸三ではなく、石破茂である。

  「第18回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」(首相官邸/2015年12月15)   

 石破茂「国家戦略特区の第3次指定の対象となる区域といたしまして、広島県及び愛媛県今治市、千葉県千葉市、福岡県北九州市の3地域を考えております。

 しまなみ海道でつながっております広島県と今治市を連携して指定したいと考えます。雇用ルールを明確化し、グローバル企業や家事支援人材を積極的に受け入れます。また、ビッグデータを活用し、民間主導の道の駅の設置や、ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野における獣医師系の国際教育拠点の整備については、6月の改訂成長戦略に即して行います」

 竹中平蔵有識者議員「今まで中国・四国に特区はなかったわけでありますので、その点についても今回新たに入るということは意味があること。広島、今治が入るということだと思います。

 今回、その中でとりわけ獣医学部等々を含むライフサイエンス系の問題にこの地域が取り組もうとしているところは、私は高く評価すべきであろうかと思います。この問題は成田で38年ぶりに医学部ができる。これは大変大きな話題、アベノミクスが進捗している象徴になったわけですけれども、獣医学部に関しては、それを上回る47年間新しいものがない。かつ、昭和50年、つまり約40年前から定員がふえていない。これは驚くべきことだと思います。そういう意味で、ここにぜひ獣医学部の問題も含めて、ライフサイエンスで頑張っていただきたいという思いがあります」

     ・・・・・・・・

 石破茂「「御意見ありがとうございました。

 いただきました御意見につきましては議長一任とし、国家戦略特別区域を指定する政令案及び区域方針に反映させたいと存じます。それでよろしゅうございましょうか。

 (「異議なし」と声あり)

 石破茂「それでは、異議がないということで扱わせていただきたいと存じます。

 最後に、議長であります安倍総理から発言をいただきますが、ここでプレスを入室いたさせます。

 (報道関係者入室)

 それでは、総理お願いいたします」

 安倍晋三「全国で10番目となる国家戦略特区を、新たに決定しました。瀬戸内のしまなみ海道でつながった、広島県と愛媛県今治市です。

 例えば、しまなみ海道の『道の駅』の民間による設置、ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野における獣医師系の国際教育拠点の整備など、観光、教育、創業などの分野で、国際的な交流人口の流れを呼び込み、地方創生を実現します」

 広島県及び愛媛県今治市を国家戦略特区に指定したことと4条件を満たした獣医学部新設に対する期待とそのような新設の方針に言及しているのみであって、4条件を満たすかどうかの議論にまで至っていない。

 第19回、第20回と今治市への獣医学部新設は取り上げていない。

 「第21回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」(首相官邸/2016年4月13日)   

 石破茂「3月24日に、3次指定の千葉市及び北九州市を含めた東京圏など7区域の合同区域会議を開催し、30日には、広島県・今治市の区域会議を立ち上げ、合計36事業の申請がございました」

 これ以外に言及はない。

 石破茂が2016年3月「30日には、広島県・今治市の区域会議を立ち上げ」と言っていることは「広島県・今治市国家戦略特別区域会議(第1回)」のことで、今治市長の菅良二と前愛媛県知事の加戸守行、民間議員の八田達夫等が閣議決定の4条件に合致する獣医学部の新設の必要性を訴えているのみである。

 大体が事業主体として計画している新設獣医学部が4条件を満たすことができるかどうかの判断は先ず事業主体として名乗り出て、その事業主体が計画している新設獣医学部の規模・内容等の、いわゆる「構想」を議論の対象にしなければ、如何なる判断もできない。

 2016年5月19日の「第22回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」では今治市への獣医学部新設に関わる発言なし。

 「第23回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」  

 民間有識者議員八田達夫「例えば、獣医学部の新設は、人畜共通の病気が問題になっていることから見て極めて重要ですが、岩盤が立ちはだかっています。その他にも、クールジャパンの『外国人材』の受け入れとか、『シェアリングエコノミー』へのさらなる拡大など、厚い壁で守られているものばかりです。強力に解決を推進したいと思います。

 今回の内閣改造により、山本大臣が、『国家戦略特区』と『規制改革』の双方を一体的に担当されることになりました。また、先日発表された規制改革推進会議の委員に、特区ワーキンググループの八代・原両委員が任命されました。

 こうした新体制によって、岩盤規制改革が格段に進むことを期待したいと思います』

 これ以外に獣医学部に関わる発言はない。獣医学部新設を含めた岩盤規制改革の進捗への期待を述べているに過ぎない。

 次の「第25回」会議で上記の「国家戦略特区における追加の規制改革事項について(案)」として「資料3」が提出される。

 「第25回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)(首相官邸/2016年11月9日)  

 山本幸三「引き続き、特区ワーキンググループなどで、関係各省と議論を煮詰めてまいります。

 続きまして、資料3を御覧ください。

 前回の会議で、重点課題につきましては、法改正を要しないものは直ちに実現に向けた措置を行うよう総理から御指示をいただきましたので、今般、関係各省と合意が得られたものを、早速、本諮問会議の案としてとりまとめたものであります。

 内容といたしましては、先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置、農家民宿等の宿泊事業者による旅行商品の企画・提供の解禁となっております。

 これらにつきまして、各規制を所管する大臣より御発言をいただきます。

 まずは、松野文部科学大臣、お願いします」

 松野臨時議員「文部科学省におきましては、設置認可申請については、大学設置認可にかかわる基準に基づき、適切に審査を行ってまいる考えであります。

 以上です」

 山本幸三「次に、山本農林水産大臣、お願いします」

 山本有二農水相「産業動物獣医師は、家畜の診療や飼養衛生管理などで中心的な役割を果たすとともに、口蹄疫や鳥インフルエンザといった家畜伝染病に対する防疫対策を担っており、その確保は大変重要でございます。

 近年、家畜やペットの数は減少しておりますけれども、産業動物獣医師の確保が困難な地域が現実にございます。農林水産省といたしましては、こうした地域、家畜やペットの数は減少しておりますけれども、産業動物獣医師の確保が困難な地域が現実にございます。農林水産省といたしましては、こうした地域的課題の解決につながる仕組みとなることを大いに期待しておるところでございます」

    ・・・・・・・・・

 麻生太郎「松野大臣に1つだけお願いがある。法科大学院を鳴り物入りでつくったが、結果的に法科大学院を出ても弁護士になれない場合もあるのが実態ではないか。だから、いろいろと評価は分かれるところ。似たような話が、柔道整復師でもあった。あれはたしか厚生労働省の所管だが、規制緩和の結果として、技術が十分に身につかないケースが出てきた例。他にも同じような例があるのではないか。規制緩和はとてもよいことであり、大いにやるべきことだと思う。しかし、上手くいかなかった時の結果責任を誰がとるのかという問題がある。

 この種の学校についても、方向としては間違っていないと思うが、結果、うまくいかなかったときにどうするかをきちんと決めておかないと、そこに携わった学生や、それに関わった関係者はいい迷惑をしてしまう。そういったところまで考えておかねばならぬというところだけはよろしくお願いします。以上です」

 八田達夫「獣医学部の新設は、創薬プロセス等の先端ライフサイエンス研究では、実験動物として今まで大体ネズミが使われてきたのですけれども、本当は猿とか豚とかのほうが実際は有効なのです。これを扱うのはやはり獣医学部でなければできない。そういう必要性が非常に高まっています。そういう研究のために獣医学部が必要だと。

 もう一つ、先ほど農水大臣がお話しになりましたように、口蹄疫とか、そういったものの水際作戦が必要なのですが、獣医学部が全くない地方もある。これは必要なのですが、その一方、過去50年間、獣医学部は新設されなかった。その理由は、先ほど文科大臣のお話にもありましたように、大学設置指針というものがあるのですが、獣医学部は大学設置指針の審査対象から外すと今まで告示でなっていた。それを先ほど文科大臣がおっしゃったように、この件については、今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった。

 麻生大臣のおっしゃったことも一番重要なことだと思うのですが、質の悪いものが出てきたらどうするか。これは、実は新規参入ではなくて、おそらく従来あるものにまずい獣医学部があるのだと思います。そこがきちんと退出していけるようなメカニズムが必要で、新しいところが入ってきて、そこが競争して、古い、あまり競争力がないところが出ていく。そういうシステムを、この特区とはまた別にシステムとして考えていくべきではないかと思っております」

 「本日は、『獣医学部の設置』や『地域主体の旅行企画』についての制度改正を決定しました。このスピード感で、残された岩盤規制の改革にもできるものから着手し、そして実現していきます。山本地方創生・規制改革担当大臣と民間有識者の皆様には、引き続き、私と一緒にドリルの役割をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします」

 山本幸三「御意見をいただき、ありがとうございました。

 それでは、資料3につきまして、本諮問会議のとりまとめとしたいと思いますが、よろしゅうございますか。

 (「異議なし」と声あり)

 御異議がないことを確認させていただきます。ありがとうございます。

 それでは、本とりまとめに基づき、速やかに制度改正を行いたいと思いますので、関係各大臣におかれましても、引き続き御協力をお願い申し上げます。

 以上で、本日予定された議事は全て終了しました」

 「資料3」が謳っている4条件に適う「獣医学部の設置」の地域的条件、〈広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。〉ことを「『異議なし』と声あり」で決定しただけのことであって、新設獣医学部の事業主体が計画しているその「構想」が4条件を満たしているかどうかを議論しているわけでもないし、当然、議論していないのだから、満たしているとの確認が行われたわけではない。

 ところが、文科相の林芳正は11月10日の記者会見で「昨年の11月9日の(「第25回国家戦略特別区域諮問会議」での)『追加規制改革事項』の決定の際に、関係省庁において4項目が満たされているという確認を行」い、「4項目を踏まえて進められた、国家戦略特区のプロセスの中で進められた『加計学園の構想』と適合しているか否かについて、確認を行っているところでございます」と、さも4条件適合の確認を行っているかのように偽っている。

 前のところで事業主体として計画している新設獣医学部が4条件を満たすことができるかどうかの判断は先ず事業主体として名乗り出て、その事業主体が計画している新設獣医学部の規模・内容等の「構想」を議論の対象にしなければ、如何なる判断もできないと触れたが、加計学園が事業主体として名乗り出たのは2017年1月4日の内閣府による「広島県・今治市 国家戦略特別区域会議の構成員(特定事業を実施すると見込まれる者)の公募」、いわゆる事業主体公募に対して加計学園が6日後の2017年1月10日に応募したときである。

 応募用紙に事業主体として学校法人加計学園の名前と「事業を実施する場所」とか、定員等の「事業の規模」、4条件が掲げている内容に合致する「事業の内容」等が初めて顔を出している。

 そして2017年1月20日の「第27回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」で、加計学園が新設獣医学部の事業主体として「『異議なし』と声あり」で認められている。  
  
 安倍晋三はこの「第27回」まで加計学園が事業主体であることを知らなかったと国会答弁しているが、その真偽はともかく、安倍晋三が議長である国家戦略特区諮問会議で新設獣医学部が閣議決定の4条件を満たすかどうか議論の機会を持たなかったことの明確な証拠となる。

 当然、国家戦略特区諮問会議が加計学園が計画した獣医学部の4条件適合性を議論していない以上、大学設置審議会がその適合性を審査しなければならないことになる。

 だが、林芳正は、と言うよりも、政府は「今回の設置認可のプロセスにおいては、文科省として申請書の内容が4項目を満たしているか否かを確認したものではない」として、大学設置審議会を4条件適合性の審査から外している。

 国家戦略特区諮問会議も審査しない、大学設置審議会も審査しない。だが、諮問会議で4条件を満たしていると確認したと言っている。

 ここにインチキ、極まれり。国民をバカにするにも程がある。要するに安倍晋三が政治関与して決めた加計学園獣医学部新設認可だからこそ、こういった不一致を曝け出すことになるのだろう。

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安倍晋三の外国訪問国数・首脳会談数を以って自身を優秀な外交能力者と見做す底なしの単細胞

2017-11-14 09:47:48 | 政治

 安倍晋三が時折り記者会見や何かのスピーチで外国訪問回数や首脳会談数を自慢することがある。そのことを何度かブログに触れたり、メインのテーマとして取り上げたことがあるが、今回、調べることができる範囲で纏めてみた。



 安倍晋三が実際に喋っている動画を載せておいた。前半は「第190回国会における安晋三施政方針演説」、後半は「平成27年度防衛大学校卒業式内閣総理大臣訓示」、30秒程度の短さだが、参考のために。

 安倍晋三は自身に都合の良い景気統計を持ち出して、「数字がファクトを示している」とアベノミクス景気の成果を自慢するのことが慣例となっているが、好景気に反して振るわない個人消費はそれが平均値で示されている以上、格差が拡大していることの現れであって、中間層以下がアベノミクス景気に実感を感じることができていないことには目をつぶってファクトとは見做さない。

 取捨選択したファクトには意味がない。当然、外国訪問も訪問回数のみをファクトと見做すことも、首脳会談数のみをファクトとすることもできないのだから、そのファクトのみを以って全てのファクトを表しているかのように一大成果の如くに誇示するのは意味はないし、一国のリーダー、大の大人がそういった態度を取るのは単細胞としか言いようがない。

 では、安倍晋三の外国訪問国数、首脳会談数を次、自慢している発言を列記してみる。

 「内外情勢調査会2015年12月全国懇談会 安倍晋三スピーチ」首相官邸/2015年・平成27年12月14日)  

 安倍晋三「この3年間で、私が訪問した国は、すでに63の国と地域に及びます」

 

 「コロンビア大学訪問 安倍総理スピーチ首相官邸/平成26年9月22日)  

 安倍晋三「(父の安倍晋太郎は)秘書官になってからは、米国を含む各国を父と飛び回りました。外務大臣としての父は、外国の指導者との交流を重んじ、3年8ヶ月の間に46カ国を訪問しました。同じ信念の下、私も総理として世界を周り、今月初めの南アジア訪問で、就任からの訪問国数は先程47カ国と紹介がありましたが、バングラデシュとスリランカを加えて49カ国となり、父の記録を超えたところです」

 

 「読売国際経済懇話会(YIES) 講演会2015 安倍スピーチ首相官邸/2015年11月6日)

 安倍晋三「総理就任以来、訪問した国は、既に60か国を超えました。」

 

 「第190回国会における安晋三施政方針演説」首相官邸/2016年・平成28年1月22日 

 安倍晋三「 さて、この3年間で、63の国と地域を訪問し、首脳会談は400回を超えました」

 

 (拉致解決)「『もう我慢できない。今年こそ結果を!国民大集会」首相官邸/2014年〈平成26年〉9月13日)   

 安倍晋三「私も総理就任以来、49か国を訪問し、200回にわたる首脳会談を行いましたが、その度に必ず相手国に対して、この拉致問題を説明し、支持と協力を頂いております」

 拉致解決に向けた北朝鮮との交渉が何ら進展していない中にあって、そうであるどころか、北朝鮮からは「拉致は解決済み」とする突き放された状況に立たされている中にあって、外国訪問国数と首脳会談数を口にして、「支持と協力を頂いた」からと言って、一体どのような意味があるのだろうか。

 意味なしの最たる例であろう。

 意味が出るのは、「支持と協力を頂いた」外国訪問と首脳会談の中でいずれかの外国、いずれかの首脳会談が拉致交渉進展の役に立ったときであって、外国訪問国数と首脳会談数を口にしたとしても意味はない。しかもいずれも役に立っていないにも関わらず、口にする。

 「平成27年度防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示」首相官邸/2016年)  

 安倍晋三「私は、これまで63の国と地域を訪問し、400回を超える首脳会談を行ってきました」

 日本の対外防衛は主として北朝鮮と中国を対象としている。いわば陸海空の自衛隊戦力は主に中国、あるいは北朝鮮に向けられている。中国との尖閣諸島の領有権問題や中国の海洋進出、北朝鮮のミサイル開発と核開発によって生じている両国との緊張関係に効果的な打つ手を見い出すことができていないにも関わらず、防衛大学校卒業式で「私は、これまで63の国と地域を訪問し、400回を超える首脳会談を行ってきました」と訓示することに何かの意味があるとでも思っているのだろうか。

 安倍晋三は2017年11月11日にベトナムで習近平中国国家主席と首脳会談をした際、習近平から関係改善のシグナルが発信されたが、中国が妥協の余地のない核心的利益としている尖閣諸島の領有権問題と南シナ海の領有権問題ついての対立を残したままのいびつな関係改善となるのは目に見えていて、当然、北朝鮮のみならず、中国にも自衛隊戦力が向けられる軍事的緊張状態に変わりはないことを考えると、やはり何カ国を訪問した、首脳会談を何回したと、その殆どが自衛隊員として巣立っていく防衛大学卒業式での訓示の中で触れる意味はない。

 「安倍晋三ロンドンでの内外記者会見」首相官邸/2016年5月5日)  

 安倍晋三「日露間では、戦後70年以上を経た今も、平和条約が締結されていないという異常な状態にあります。プーチン大統領との首脳会談は、今回で13回目となりますが、この問題は、首脳同士の直接のやりとりなくして、解決することはできません。北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結する。その共通の目標に向かって、胸襟を開いて、率直な会談を行いたいと考えています」

 安倍晋三は2016年5月5日、英ロンドンを訪れて、キャメロン英首相と首脳会談を開いている。翌5月6日、ロシアのソチを訪れてプーチンとの非公式首脳会談を予定していた。

 プーチンと何回首脳会談を開催しようと、首脳会談を通じてどれ程に信頼関係を構築しようと、北方四島の帰属問題も平和条約締結交渉も何ら進展を見ていない。安倍晋三は過去の北朝鮮との「対話の試みは時間稼ぎに利用された」と言って、北朝鮮に対しては対話の効果を排除しているが、プーチンの北方四島の帰属問題・平和条約締結交渉を臭わせるだけで態度は日本から経済的利益を獲得するための時間稼ぎ以外の何ものでもないだろう。

 少なくとも帰属問題交渉の取っ掛かりも、平和条約締結交渉の取っ掛かりも見出すことができていない。

 であるにも関わらず、「プーチン大統領との首脳会談は、今回で13回目となります」と意味のない回数を挙げる。

 第三者から見たら意味がないとしか見えないのに回数が自ずと外交課題が進展しているかのよう見えるところから、安倍晋三は自分が優秀な外交能力者であることの根拠を回数で見せているということなのだろう。

 あるいは優秀な外交能力者という強い自負があるから、進展しない外交課題を回数で進展しているかのように見せ掛けている。前者・後者であっても、自分が優秀な外交能力者と思わせている点は変わらない。

 懸案となっている深刻な外交問題は何一つ改善できていないファクトを回数で終わっているファクトで置き換えようとする意思を自ずと働かせること自体に底なしの単細胞しか見えてこない。

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安倍晋三が「規範意識」重視である以上、人づくり革命と生産性革命が少子高齢化打破の車の両輪とはならない

2017-11-13 12:01:55 | 政治

 「2012年衆院選自民党政策パンフレット」  

教育を、取り戻す。
Action2 教育再生

「人づくりは国づくり」
日本の将来を担う子供たちは、国の一番の宝です。
自民党は、世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度を育むために「教育再生」を実行します。
日教組の影響を受けている民主党には、真の教育再生はできません。

 

 「自民党参議院選挙公約2013」(平成25年度) 

教育は、国家の基本。
将来を担う子供たちは、日本の宝です。
教育再生を断行し、
世界トップレベルの学力と規範意識、歴史や文化を尊ぶ心を持つ子供たちを育みます。

「 教育再生実行会議」を設置するなど、自民党の提言に沿った「教育再生」が本格的にスタートしました。
また、「いじめ防止対策推進法」を制定しました。

2020 年までに、留学生数を倍増します(大学生等6万人→12 万人)

 第2次安倍政権発足となった2012年12月の衆議院選挙と2013年7月参議院選挙の教育に関わる公約を挙げてみた。

 2012年衆院選公約では、「『人づくりは国づくり』」と謳って、「国づくり」の基本となる人材に子どもを置き、「世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度」を人材育成の要点として掲げている。

 2013年参議院選挙公約には「人づくり」という文言は出ていないが、国の将来を担う主たる人材を子どもと看做して、衆院選公約と同じように「世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度」を国の将来を担う人材育成の要点に置いている。

 このことは第2次安倍政権発足当日に閣議決定までしている。

 基本方針 安倍内閣閣議決定(2012年12月26日)  

3.教育の再生

 人づくりは、国づくり。日本の将来を担う子供たちは国の一番の宝である。 子供たちの命と未来を守るため、道徳教育の徹底を始め、統合的ないじめ対策を進めるとともに、公教育の最終責任者たる国が責任を果たせるよう改革を行うなど、教育再生に取り組む。

 これにより、世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度を育む。

  ここに来て安倍晋三は「人づくり革命」と「生産性革命」、そして「教育の無償化」を掲げ出した。「教育の無償化」を動力にして「人づくり革命」を成し遂げ、その「人づくり革命」を「生産性革命」に役立てようという魂胆なのだろう。

 「安倍晋三解散記者会見」首相官邸/2017年9月25日)  

 安倍晋三「急速に少子高齢化が進むこの国が、これからも本当に成長していけるのか。この漠然とした不安にしっかりと答えを出してまいります。それは、生産性革命、そして人づくり革命であります。この2つの大改革はアベノミクス最大の勝負です。国民の皆様の支持を頂き、新しい経済政策パッケージを年内に取りまとめる考えであります」

 4年連続の賃金アップの流れを更に力強く、持続的なものとする。そのためには生産性を高めていくことが必要です。ロボット、IoT、人工知能、生産性を劇的に押し上げる最先端のイノベーションが今、世界を一変させようとしています。

 この生産性革命を我が国がリードすることこそ、次なる成長戦略の最大の柱であります。2020年度までの3年間を生産性革命集中投資期間と位置づけ、中小・小規模事業も含め、企業による設備や人材への投資を力強く促します。大胆な税制、予算、規制改革。生産性革命の実現に向かってあらゆる施策を総動員してまいります」

 

 「第48回衆議院総選挙の結果をうけた記者会見」(自民党/2017年10月23日)    

 安倍晋三「「我が国の持続的な成長のカギは、少子高齢化への対応です。アベノミクス最大の挑戦であります。


 「生産性革命」によって、全国津々浦々に至るまで、賃上げの勢いを更に力強いものとすることで、デフレ脱却を目指す。

 そして、「人づくり革命」を進めていく。幼児教育の無償化を一気に進め、真に必要とする子どもたちには、高等教育を無償化していきます」

 

 「第4次安倍内閣発足記者会見」首相官邸/2017年11月1日)   

 安倍晋三「生産性革命と人づくり革命を車の両輪として、少子高齢化という最大の壁に立ち向かってまいります。

 2020年までの3年間を生産性革命・集中投資期間と位置付け、大胆な税制、予算、規制改革、あらゆる施策を総動員してまいります。生産性を大きく押し上げることで4年連続の賃上げの勢いを更に力強いものとし、デフレからの脱却を目指します。

 人づくり革命を断行します。幼児教育の無償化を一気に進め、真に必要な子供たちには高等教育を無償化していきます」

 既に触れたように選挙の公約では「国づくり」の基本となる人材に子どもを置き、人材育成の要点――「人づくり」は「世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度」にあるとして、この3点を重点的な育成課題としている。

 当然、幼児教育無償化や高等教育無償化が「世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度」の育成に役立ち、この育成が「国づくり」の基本的な人材と目した子供を始めとした「人づくり革命」となって現れ、ゆくゆくは「生産性革命」という成果となって現れなければいけないことになる。

 安倍晋三は第1次安倍内閣でも「世界トップレベル」とまでは大風呂敷を広げてはいないが、「高い学力と規範意識」を教育の重点的な育成項目に掲げていた。文飾は当方。

 「2006年安倍晋三所信表明演説」首相官邸/2006年9月29日)  

 安倍晋三「私が目指すこの国のかたちは、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、『美しい国、日本』であります。この『美しい国』の姿を、私は次のように考えます。

 1つ目は、文化、伝統、自然、歴史を大切にする国であります。

 2つ目は、自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国であります。

      ・・・・・・・・

 先ず、教育基本法案の早期成立を期します。

 すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障するため、公教育を再生します。学力の向上については、必要な授業時間数を十分に確保するとともに、基礎学力強化プログラムを推進します。教員の質の向上に向けて、教員免許の更新制度の導入を図るとともに、学校同士が切磋琢磨して、質の高い教育を提供できるよう、外部評価を導入します。

 こうした施策を推進するため、我が国の叡智を結集して、内閣に「教育再生会議」を早急に発足させます」

 この所信表明演説で、今回のブログのテーマに関係しないが、次のような発言もあったことを参考までに取り上げてみる。

 安倍晋三「国政を遂行するに当たり、私は、先ず、自らの政治姿勢を、国民の皆様並びに議員各位に明らかにいたします。私は、特定の団体や個人のための政治を行うつもりは一切ありません。額に汗して勤勉に働き、家族を愛し、自分の暮らす地域や故郷を良くしたいと思い、日本の未来を信じたいと願っている人々、そしてすべての国民の期待に応える政治を行ってまいります。みんなが参加する、新しい時代を切り拓く政治、誰に対しても開かれ、誰もがチャレンジできる社会を目指し、全力投球することを約束いたします。」

 「私は、特定の団体や個人のための政治を行うつもりは一切ありません」なる安倍晋三の一大宣言は有言実行の鑑として後世にまで語り継がれるに違いない。

 どうも安倍晋三は「高い学力と規範意識」「文化、伝統、自然、歴史」の優れた素養が「人づくり革命」の重要な鍵を握っていると見ているようだ。

 「規範意識」とは「ある対象について価値判断を下す際、その前提になっている価値を価値として認める意識」を言うと「goo辞書」には書いてある。    

 「規範」とは「行動や判断の基準となる模範。手本」を言う。いわば「規範意識」とは「行動や判断の基準となる模範。手本」を守ろうとする「意識」、上記の「価値を価値として認める意識」と言うことになる。

 「世の中はこうなっている」という規範を「こうなっている」通りに守らなければ、言い替えると、「こうなっている」としている価値を価値として認めて、その通りにしなければ、規範意識を働かせていることにはならない。

 もし強い規範意識を持っていたなら、その規範意識は固定化された価値として存在する伝統を守る、あるいは受け継ぐには優れて役に立つことになるだろう。

 だが、伝統を破って、今までにない独創性を追求するには、つまり伝統の殻を破るには規範意識は逆に阻害要件として立ちはだかることになる。

 伝統以外にも「歴史や文化」にしても、一般化した型通りの解釈で扱われることになった場合は同時に規範意識を育むに優れて役に立つことになるが、その規範意識が伝統・歴史・文化に挑戦して新しい解釈や新しい形態を創造し、時代を先取りする、あるいは時代の先端をいくといった斬新な変革を妨げることになるだろう。

 要するにいくら「世界トップレベルの学力」を身につけさせる教育再生に成功したとしても、学力に考える力が伴わなければ、学力に応じて規範意識だけは育むことができるが、かつて「総合学習」で言っていた「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力」――自律的・主体的な思考・判断能力は置き去りにされて、その程度の「人づくり革命」であった場合、被雇用者個々の生産性を高めて少子高齢化による人口減の解決策とする「生産性革命」は覚束ないことになる。

 考える力なければ、生産性は基本のところで高まることはないからだ。

 安倍晋三が言っている「人づくり革命」と「生産性革命」には自律的・主体的な思考・判断能力に対する視点が抜けているということである。このことは上に挙げた9月25日の「解散記者会見」の次の発言に現れている。

 安倍晋三「4年連続の賃金アップの流れを更に力強く、持続的なものとする。そのためには生産性を高めていくことが必要です。ロボット、IoT、人工知能、生産性を劇的に押し上げる最先端のイノベーションが今、世界を一変させようとしています」

 確かに「ロボット、IoT、人工知能」は「生産性を劇的に押し上げる最先端のイノベーション」ツールではあるが、コンピューターという機械関連はすぐに真似される。いわば「ロボット、IoT、人工知能」に頼って生産性を上げたとしても、自国だけの土俵として守ることはできず、他の国も簡単に同じ土俵を作ることになって、差引きの生産性は元のままということになる。

 このことはスーパーコンピュターを見れは理解できる。かつて日本はスーパーコンピュター「京」が世界一の計算速度を誇ったが、今では中国勢に押されて、世界一の中国の計算速度9京3014兆回に対して7位につけた東大・筑波大のスパコンは1京3554兆回と約7分の1の速度で甘んじている。

 かつて世界一の理研「京」の1京0510兆回は約9分の1。

 いくら優れたコンピューターを発明したとしても、計算速度を早めたり、情報の記憶容量の膨大化を可能にして、その中から欲しい情報が短時間で常に手に入れることはできるが、コンピューター自身が自律的・主体的な思考・判断能力を備えているわけではない。ノーベル賞-などが与えられる画期的な創造的発案は自律的・主体的な思考・判断能力を力にして人間だけが持つ。

 安倍晋三が言っている「教育無償化」が言葉通りの無償化であろうとなかろうと、無償化で就学の機会の幅を広げた教育の力で「国づくり」の基本となる人材に据えた子どもたちに「世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度」を涵養できたとしても、「規範意識」重視の態度である以上、何よりも重視しなければならない自律的・主体的な思考・判断能力の視点が抜けていることになって、それらの涵養不足が教育無償化を力とした人づくり革命と生産性革命を少子高齢化打破の車の両輪とすることは決してない。

 自律的・主体的な思考・判断能力を持たなければ、「世界トップレベルの学力」は大風呂敷に過ぎない。

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安倍晋三の対北朝鮮日米合同軍事演習で軍事的圧力をかけながら、朝鮮有事を言わない偉大な詐欺

2017-11-12 12:03:17 | 政治

 日米合同軍事演習、米韓合同軍事演習が繰返されている。2017年に入ってからの主なところを拾ってみると、陸上自衛隊と米海兵隊が3月6日から17日まで、群馬県の陸自相馬原(そうまがはら)駐屯地で合同軍事訓練が行われて、沖縄米軍普天間飛行場所属のオスプレイ6機が参加している。

 2017年4月23日から海上自衛隊の護衛艦2隻と朝鮮半島に向かう米海軍の原子力空母「カール・ビンソン」を中心とする打撃群の合同演習が西太平洋の海域で開始している。

 2017年6月13日~16日、海上自衛隊ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」と護衛艦「さざなみ」が米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」と南シナ海で合同演習を行っている。

 2017年7月30日、米空軍は戦略爆撃機B1Bを2機、九州や朝鮮半島に展開させ、航空自衛隊と日米合同軍事演習、米韓と合同軍事演習を行っている。

 外相の岸田文雄は7月30日、「5月26日の日米首脳会談で一致した北朝鮮の脅威を抑止する具体的行動の一環だ」(毎日新聞)と述べている。

 5月26日の日米首脳会談はイタリア・タオルミーナにて開催された5月26日、27日のG7首脳会談に合わせて行われている。そのとき既に、あるいはもっと前からかもしれないが、安倍晋三とトランプはそれまでの国連安保理制裁決議に従った金融・経済その他の圧力だけではなく、日米合同軍事演習を通して日米一致して北朝鮮に対して軍事的圧力をかけることで意思を統一させていたことになる。

 日本政府は「北朝鮮の脅威を抑止する」とか、「対北朝鮮牽制」、「北朝鮮の挑発的な行動を抑止」とか日米合同軍事演習の目的を理由づけているが、これらいずれも米軍単独の軍事演習、あるいは日米合同軍事演習、さらに米韓合同軍事演習にしてもそうだが、それぞれの軍事演習を用いた軍事的威圧性が可能とする軍事的圧力となって現れる。

 いわば日米合同軍事演習を行うこと自体が北朝鮮に対する軍事的圧力となって向かうことになる。

 2017年8月に入って8月10日から8月28日まで北海道大演習場(恵庭市など)を中心に陸上自衛隊と米海兵隊の合同軍事演習が行われている。この演習では普天間所属のオスプレイ2機が初めて夜間訓練に参加している。

 8月31日には航空自衛隊が九州周辺の空域で米軍との合同軍事演習を実施している。空自新田原基地(宮崎県)のF15戦闘機2機と米領グアムから飛来させた米空軍B1爆撃機2機、その他米海兵隊岩国基地(山口県)所属の最新鋭ステルス戦闘機F35の4機が参加

 9月に入って8日、東シナ海上空を含めた九州周辺の空域で8月31日に行ったのと同様の演習を行っている。マスコミは大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に踏み切った北朝鮮を牽制する狙いだと伝えている。いわば軍事的圧力を目的としていた。

 9月8日から25日にかけて御殿場市、裾野市、小山町にまたがる東富士演習場で市街地戦を想定した米軍約800人、自衛隊約1200人参加の日米合同軍事演習が行われている。

 これは朝鮮半島有事を想定した陸上演習であろう。

 2017年9月11日から9月28日まで、海自の大型護衛艦「いせ」などの護衛艦が米軍原子力空母「ロナルド・レーガン」と沖縄周辺の太平洋上で日米合同軍事演習を行っている。この演習後、「ロナルド・レーガン」は米韓合同軍事演習に参加している。

 2017年10月10日夜、航空自衛隊はF15戦闘機2機と米空軍B1戦略爆撃機2機参加の九州周辺空域での合同軍事演習を実施している。

 11月11日、日本側は海上自衛隊の護衛艦3隻や航空自衛隊が参加、アメリカ側は原子力空母「ロナルド・レーガン」と「セオドア・ルーズベルト」、「ニミッツ」の3隻参加の西太平洋地域での日米合同軍事演習が4日間の日程で開始されている。

 この演習後、米海軍は米韓合同軍事演習を行う予定となっている。

 日米合同軍事演習、あるいは米韓合同軍事演習が対北朝鮮牽制の軍事的圧力であると同時に牽制のつもりの軍事的圧力が有事を誘発しない保証はないのだから、朝鮮半島有事をも想定に入れた対北朝鮮軍事的圧力である以上、岸田文雄が日米合同軍事演習を「日米首脳会談で一致した北朝鮮の脅威を抑止する具体的行動の一環だ」と話していたことからも理解できるように安倍晋三の対北朝鮮圧力政策には軍事的圧力も加えていることになる。

 にも関わらず2017年9月25日の解散記者会見では、「圧力の強化は北朝鮮を暴発させる危険があり、方針転換して対話をすべきではないかという意見もあります。世界中の誰も紛争などを望んではいません。しかし、ただ対話のための対話には、意味はありません」と自身の対北朝鮮圧力政策に自ずと一枚加えていることになる北朝鮮に対する軍事的圧力が北朝鮮の軍事的暴発も朝鮮半島有事も誘発しないかのような発言をしている。

 2017年11月6日のトランプとの首脳会談後の「日米共同記者会見」産経ニュース)でも同趣旨の発言をしている。    

 記者「北朝鮮との偶発的な軍事衝突を避けるためにどのような対応が必要と考えるか」

 安倍晋三「誰も紛争などを望んではいません。私もトランプ大統領もそうです。しかし、北朝鮮は国際秩序に挑戦し、挑発を繰り返している。この北朝鮮に対し、国際社会が連携しながら、その政策を変えさせるために圧力をかけていく。北朝鮮側から『政策を変えるから話し合いたい』という状況を作っていくことが極めて重要だと考えています。そうした考え方についてはトランプ大統領と完全に一致をしたところであり、多くの国々とも一致できているのではないかと思っています」

 自身の対北朝鮮圧力政策が北朝鮮の暴発も朝鮮半島有事を誘発することなく、「北朝鮮側から『政策を変えるから話し合いたい』という状況」に向けることができる唯一の方策であるかのように話している。

 ところが防衛省の小野寺五典は朝鮮半島有事を想定した発言をしている。11月7日のBS日テレの「深層NEWS」

 小野寺五典(朝鮮半島有事が起きた際の在韓邦人の保護・退避に関して)「(米国と)常日頃から準備している。

 (韓国との協議については)具体的なところはできていない。韓国が非常にデリケートなのは理解できる」(YOMIURI ONLINE)      

 防衛大臣の小野寺五典が朝鮮半島有事に備えた姿勢でいるのに対して内閣の長である安倍晋三が日米合同軍事演習が北朝鮮に対する軍事的圧力の役割を担っているにも関わらず、軍事的圧力の反動としての北朝鮮の軍事的暴発や朝鮮半島有事についての言及がない。

 副総理兼財務相の麻生太郎が2017年9月23日の宇都宮市内での講演で朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れた上で、「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」と話したのは朝鮮半島有事を前提とした発言でなければならない。

 麻生太郎は2017年10月14日の岐阜県羽島市の街頭演説でも「大量の難民が来ることを覚悟しなきゃならない。その人たちは不法難民。武器を携帯してるかもしれない。テロになるかもしれない。その時に我々はきちんと対応できる政府を持っておかねばならん」ハンギョレ/2017.10.20 07:12)と同じ趣旨の発言をしている。  

 朝鮮半島有事に対処できるのは自公政権のみであるかのように朝鮮半島有事をおどろおどろしく利用しているが、国連安保理決議に基づいた制裁という対北朝鮮圧力も日本独自の制裁がもたらすことになる対北朝鮮圧力も日米合同軍事演習が生み出す対北朝鮮軍事的圧力もそれぞれが一枚噛むことになる朝鮮半島有事と理解していなければならない。

 自民党元幹事長石破茂も11月9日の派閥会合で朝鮮半島有事に於ける韓国在留邦人の保護には自衛隊が当たるべきだとの認識を示したと2017年11月9日付の「産経ニュース」が伝えている。
   
 石破茂「自衛隊本来の責務は自国民の保護だ。それを米国に委ねるというのは独立国家としてどうか」

 これは小野寺五典の在韓邦人の保護・退避に関しては「(米国と)常日頃から準備している」との発言に対する反論ではあるが、朝鮮半島有事を前提とした発言であると同時に日本の北朝鮮に対する日米合同軍事演習を用いた軍事的圧力を含めた様々な圧力が一枚噛むことになることも前以っての危機管理として置かなければならない。

 但し記事は〈国では、自衛隊の艦船などを国内に受け入れることへの抵抗感が強く、自衛隊の活用に難色を示す可能性がある。〉と解説している。日本が戦前韓国を併合、植民地としたことが影響している。

 結果は常に原因を伴う。北朝鮮のミサイル開発・核開発→国連安保理制裁決議→日米あるいは韓米合同軍事演習→北朝鮮の暴発、あるいは朝鮮半島有事という原因と結果。

 勿論、経済制裁や軍事的圧力を原因として北朝鮮のミサイル開発・核開発放棄を結果とする原因と結果の形も可能性としてあるが、この可能性が他の可能性を絶対的に排除する保証はない。

 アメリカが北朝鮮を軍事攻撃することになるのか、制裁によって北朝鮮が国家として立ちゆくことができなくなって北朝鮮の方から軍事的に暴発するのか分からないが、安倍晋三自身が立場上、可能性として想定しなければならない、自身の対北朝鮮圧力政策も一枚噛むことになる朝鮮半島有事について一国のリーダーとして何ら国民に説明責任を果たさないのは単なる無責任と言うことだけではなく、果たさないことによって選挙を有利に戦い、大きな勝利を得たのだから、無責任以上の偉大な詐欺である。
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安倍晋三政治関与加計獣医学部認可答申:「獣医学部新設4条件」審議せずの決定であることをNHK記事報道

2017-11-11 11:57:45 | 政治

 最初に2015年6月政府閣議決定の新たな獣医学部新設を認めるための4条件を確認しておきたいと思う。

「獣医学部新設4条件」
①既存の獣医師養成でない構想が具体化すること、
②ライフサイエンスなど、獣医師が新たに対応すべき分野の具体的な需要が明らかになること、
③既存の大学・学部では対応が困難なこと、そして、
④獣医師の需要の動向を考慮すること

 この4条件が満たされていた場合、獣医学部の新設が認可される。4条件共、既存の獣医学部にはない新構想の獣医学部を目指していることになる。

 2017年11月10日付「NHK NEWS WEB」の記事内容を追ってみる。     

 文部科学省の大学設置審議会が学校法人「加計学園」の獣医学部の来年2018年4月開学を認可するよう、文科相の林芳正に答申した。

 大学設置審議会は獣医学などの専門家14人で構成。国家戦略特区で認められた獣医学部の審査は今回が初めてだが、専門的な見地から加計学園から申請された教員の数や定員、教育内容に法令違反がないか審査に当たった。

 今年2017年5月の専門委員会審査では抜本的な見直しが必要な場合にのみつけられる「警告」が出される。
 
 理由。国家戦略特区は既存の獣医学部にはない新たな構想の獣医学部の必要性、その他の条件を掲げたが、加計学園が構想している獣医学部が生み出す「具体的な需要が不明」などの指摘、いわば「獣医学部新設の4条件」を満たしていないと指摘されたことになる。

 その他、国内最大の160人の学生規模について「実習を円滑に実施できるか不明」との指摘。

 委員の一人「学園が当初提出した計画は、教員の年齢層が偏っていたりとか、研究施設が狭く、既存の大学に比べても非常に劣ったりしているものだった」

 2017年7月7日付「朝日デジタル」記事によると、2017年3月時点の計画では就任予定の約72人の専任教員のうち、最初の卒業生が出る開設6年後には65歳以上になる教員が15人、約20%。70歳以上も15人と伝えている。  

 合わせて72人の内半数近くが65歳以上となる。

 このことのどこが問題かと言うと、記事は〈朝日新聞が獣医師養成系の学部・学科のある既存の16大学に取材したところ、いずれも定年は65歳以下。今年3月末時点で、65歳以上だったのは専任教員計666人中、再雇用されるなどした5人。獣医学部と同じく診療も受け持つ医学部の新設計画では、2016年開設の東北医科薬科大で8%、17年開設の国際医療福祉大で12%〉と問題点を指摘している。

 加計学園獣医学部の教員年齢が如何に高齢者に偏っているかということと、取り敢えず年齢に関係なく掻き集めた様子を窺うことができる。

 「警告」に対して学園側は定員を20人少ない140人に減らして専任教員数を増やす修正案を出す。

 この修正案に対して大学設置審は学生の実習計画などが不十分だなどとして認可の判断を保留。

 記事は次に大学設置審が「獣医学部新設の4条件」との適合性を問題にしている点に触れて、〈委員の間から「学園の申請内容はいわゆる4条件を満たしていない」という意見が出された〉との指摘を取り上げている。

 文部科学省担当者「4条件は特区での検討事項であり、この審議会では審査しない」

 記事は、このように〈繰り返し説明したということです。〉と解説しているが、大学設置審議会の議論に獣医学などの専門家14人以外に文科省の担当者も出席していて、口出ししていたことになる。しかも加計ありきの立場から。

 後からの述懐なのだろう。

 設置審委員の一人「特区の中では加計学園の獣医学部は4条件を満たしているというが、学園から提出された計画をみる限り、そうは思わなかった」

 今月11月2日、設置審の専門委員会が認可を認める結論を出す。

 結論はすんなりと出たわけではないことが、〈この日の議論では「依然として実習体制が十分でない」などとして、認可に向けた結論を出すことに異論を口にする委員もいました。〉との解説によって窺うことができる。

 取り纏め役委員「設置審としてこれ以上認可を先延ばしにすれば、学園側と訴訟を含めたトラブルになる可能性がある」

 いくら国家戦略特区諮問会議が加計学園の獣医学部を「獣医学部新設の4条件」を満たしていると判断して今治市の戦略特区新設獣医学部の事業主体として認めたとしても、大学設置審議会はその判断をベースとして、学生数に対する教員数の適したバランスや各種カリキュラムの実施体制、実習体制等の適否を規準とした純粋に獣医学的適合性を加えて認可を議論しなければならないのだから、先ずは「獣医学部新設の4条件」を満たしているかどうかを検証する必要があるはずだが、「獣医学部新設の4条件」の判断は諮問会議だけでいい、大学設置審議会は議論の必要はないとするのはあまりにも横暴、これを以って自分たちが決めたことを絶対として他処は口出しするな、ケチをつけるなとする縦割り行政と言うはずだ。

 取り纏め役委員のこの発言が最終的に認可答申に向けてリードしたようだ。

 記事。〈「訴訟という言葉を聞かされ、何も言えなくなった」と話す委員もいました。〉

 後で述懐するのではなく、なぜその場で言わなかったのだろう。大学設置審議会での認可するか否かの議論で不純な要素が介在していたなら、訴訟問題が起こるかもしれないが、純粋に獣医学的適合性に添った議論に終始して結論を導き出していたなら、訴訟を恐れる理由はないし、訴訟を受ける筋合いはない。

 逆に取り纏め役委員の方こそが「訴訟を含めたトラブルになる可能性」を持ち出すことで不純な要素を介在させて、議論をリードした疑いが出てくる。

 かくして認可に向けた答申が文科相の林芳正に為された。

 何よりも問題となるのは文部科学省担当者が「4条件は特区での検討事項であり、この審議会では審査しない」と言って、「獣医学部新設の4条件」と大学設置審議会の議論を分けたことである。

 国家戦略特区諮問会議で新設の加計学園獣医学部が「獣医学部新設の4条件」を満たしていると認めさえすれば、大学設置審議会が満たしているかどうかは審査する必要はないとしたことに果たして正当性があるのだろうか。

 平成29年11月10日の文科相林芳正の記者会見動画から4条件に触れた箇所を見てみる。テキスト版はまだ記載されていない。  

 林芳正「今回の獣医学部新設につきましてはこれまで国家戦略特区を所管する内閣府を中心に段階的にそのプロセスが進められてきたところでありまして、4項目(「獣医学部新設の4条件」)につきましては昨年の11月9日の追加規制改革実行の決定の際にですね、開催省庁に於いて4項目が満たされているという確認を行っております。

 今回の設置認可のプロセスに於いては文科省として申請書の内容が4項目を満たしているか否かを確認したものではなくて、4項目を踏まえて進められた国家戦略特区のプロセスの中で進められた加計学園の構想等が適合しているか否かについて確認を行っておるところでございます。

 従って本年1月までの国家戦略特区に於けるプロセスの判断が覆るものではないということが確認をされたところでございます」

 加計学園が新設を申請している獣医学部が獣医大学として相応しい教育内容と教育体制を整えているかどうかを審議して答申する文科省の大学設置審議会の構成メンバーは獣医学などの専門家である。

 その専門家が加計学園獣医学部が「獣医学部新設の4条件」に適合した教育組織となっているのかどうかを議論し、判断するのではなく、獣医学の専門家が民間有識者のメンバーに一人としてなっていない国家戦略特区諮問会議が判断する。

 このプロセスは逆ではないと如何なる正当性も与えることはできない。

 閣議決定であくまでも既存の獣医学部にはない新構想の獣医学部の新設を謳ったのである。

 獣医学などの専門家をメンバーに含めていない国家戦略特区諮問会議で新設を申請している加計学園獣医学部が「獣医学部新設の4条件」を満たしていると結論づけたとしても、獣医学などの専門家14人で構成する大学設置審議会が満たしているか否かを最終判断して、初めて、そこに正当性が生じるはずである。
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安倍晋三の首脳会談「日米が100%共にあるを確認」は米軍事行動の際は日本追随を意味、説明不足は無責任

2017-11-10 11:05:29 | 政治

 2017年11月6日、安倍晋三とトランプが日米首脳会談を行い、その後共同記者会見に臨んだ。安倍晋三の「冒頭発言」は首相官邸サイトから、トランプの冒頭発言と質疑は「産経ニュース」から。文飾は当方。   

 安倍晋三「この2日間にわたり、ドナルドと国際社会の直面する様々な課題について、非常に深い議論を行うことができました。その中でも圧倒的な重要性を占めたのは北朝鮮の問題です。十分な時間を掛けて北朝鮮の最新の情勢を分析し、今後とるべき方策について、完全に見解の一致を見ました。

 日本は、全ての選択肢がテーブルの上にあるとのトランプ大統領の立場を一貫して支持しています。2日間にわたる話合いを通じ、改めて、日米が100%共にあることを力強く確認しました。

 過去20年以上にわたり、国際社会は北朝鮮との対話を試みてきました。94年の枠組み合意のときも、2005年の六者による合意のときも、北朝鮮は核を放棄することにコミットしました。しかし、その約束はほごにされ、結果的に我々の対話の努力は、北朝鮮に核・ミサイル開発を進めるための時間稼ぎに使われました。

 北朝鮮とは、対話のための対話では全く意味がありません。今は対話のときではなく、対話ではなく北朝鮮に最大限の圧力をかけるときです。北朝鮮の政策を変えさせるため日米が主導し、国際社会と緊密に連携して、あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致しました」

 「日米が主導し、国際社会と緊密に連携して、あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致しました」と言っていることは北朝鮮に対して現在採用している対策であって、この対策がイコール全ての解決策となる保証は現在のところない。

 保証されていたなら、トランプは軍事行動をも含めて「全ての選択肢がテーブルの上にある」などと言う必要はないし、安倍晋三自身、トランプの立場への支持表明を行う必要もない。

 いずれにしても安倍晋三が「日本は、全ての選択肢がテーブルの上にあるとのトランプ大統領の立場を一貫して支持しています」と言い、「日米が100%共にあることを力強く確認しました」と言っていることは、アメリカが北朝鮮に対して軍事行動を取った場合、日本も追随して軍事行動を共にすることの宣言となる。

 そうなることは安倍晋三が100%の対米従属主義者であることからも理解できるはずである。

 記者との質疑で次のような問いかけがあった。

 記者「安倍首相とトランプ大統領は北朝鮮の核開発放棄に向けて最大限まで圧力を高めることで一致したが、今回の首脳会談の意義をどうお考えか。また、北朝鮮との偶発的な軍事衝突を避けるためにどのような対応が必要と考えるか

 安倍晋三「日米同盟は地域の平和と繁栄の礎です。日米が強固に連携してこそ地域の平和は揺るぎないものとなる。その観点から今回、トランプ大統領の訪日を機に日米の強固な絆を確認できたことは地域の平和と繁栄において極めて有意義だったと思います。

 北朝鮮情勢については、トランプ大統領と日米が百パーセント共にあることを確認しました。日米で連携し、中国、ロシアを含む関係国に働きかけて、国際社会全体で北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていかなければならないと考えています。

 誰も紛争などを望んではいない。私もトランプ大統領もそうです。しかし、北朝鮮は国際秩序に挑戦し、挑発を繰り返している。この北朝鮮に対し、国際社会が連携しながら、その政策を変えさせるために圧力をかけていく。北朝鮮側から『政策を変えるから話し合いたい』という状況を作っていくことが極めて重要だと考えています。そうした考え方についてはトランプ大統領と完全に一致をしたところであり、多くの国々とも一致できているのではないかと思っています。

 また、法の支配に基づく自由で開かれた海洋は国際社会の安定と繁栄の礎です。今回、トランプ大統領のアジア歴訪の冒頭、自由で開かれたインド太平洋を目指し、日米が共に努力していくことを確認できたことは地域の平和にとって大きな意義があります。

 APEC首脳会議、そしてEAS(東アジアサミット)においても、日米のこうした考えのもと、議論を主導をしていく考えです。自由で開かれたインド太平洋戦略に賛同してもらえるのいずれの国とも協同していくことができると考えています。引き続き日米で連携して、地域の平和と安定に貢献していきたいと思います」

 安倍晋三はここでも「北朝鮮情勢については、トランプ大統領と日米が百パーセント共にあることを確認しました」と言っている。

 当然、アメリカが軍事攻撃を取った場合は日本も軍事行動を共にする示唆であるから、「北朝鮮との偶発的な軍事衝突を避ける」取り得る方策を国民に説明する責任を有している。

 だが、「日米が強固に連携してこそ地域の平和は揺るぎない」とか、「日米の強固な絆を確認できたことは地域の平和と繁栄において極めて有意義」だとか、「誰も紛争などを望んではいない」、あるいは「政策を変えさせるために圧力をかけていく」と、「偶発的な軍事衝突」回避の何ら保証にもならないことを並べ立てるだけで、満足な説明責任を果たしていないのは無責任極まりない。

 「誰も紛争などを望んではいない」が事実であったとしても、西側の圧力に対しての北朝鮮の暴発、あるいは予期しない「偶発的な軍事衝突」はあり得る危険性として考えに入れない安全保障上の国家危機管理は一国のリーダーとしてこの上ない無責任である。

 ところが、安倍晋三は日本が軍事的行動に出る場合のあることを発言している。

 記者「大統領は日本が北朝鮮のミサイルを撃ち落とさなかったことは残念だと発言したこともある。この問題は話されたのか。日本の防衛のためにどういった役割を果たすべきだと考えるか

 トランプ「首相はさまざまな防衛装備を米国から購入することになるでしょう。そうすれば上空でミサイルを撃ち落とすことができるようになると思います。先日、サウジアラビアでも同じようなことが起こりました。誰にもダメージを与えることなく、迅速にミサイルを撃ち落とすことができます。ですから、日本が大量の防衛装備を買うことが好ましいと思っています。そうすべきです。

 米国は世界最高の軍事装備を持っています。F35戦闘機は世界最高の戦闘機です。完全にステルス機能を持っています。また、さまざまなミサイルを米国は製造しています。多くの雇用が生まれますし、日本がもっと安全になります。他の国も多くの軍事装備を米国から買っています」

 安倍晋三「日本は防衛装備品の多くを米国から購入しています。北朝鮮情勢が厳しくなる中、アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなる中、我々は日本の防衛力を質的に、量的に拡充していかなければならないと考えています。大統領が言及されたように、F35A戦闘機もそうですし、SM3ブロック2A(弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル)も米国からさらに導入することになっています。イージス艦の量、質を拡充していく上で、米国からさらに購入していくことになると思っています。

 我々は北朝鮮がミサイルを発射した直後から完全にその動きを把握をしている。このミサイル防衛システム自体が、日米で協力して対処するシステムと言っても良いのだろうと思う。我々は迎撃の必要があるものについては迎撃していくということです。いずれにせよ、迎撃を行なう際、日米は緊密に連携をしているということです」

 「迎撃」した場合の危険性として考えられる北朝鮮の反応については何も触れていない。それとも、「迎撃」しても、北朝鮮は何も反応しないということを前提とした危機管理で発言してるのだろうか。

 例えどちらであっても、「迎撃」だけを言って、北朝鮮の反応について何も触れないのは説明責任を欠いていることになって、トップリーダーとして無責任の誹りを免れることはできない。

 安倍晋三が2017年9月25日の解散記者会見で北朝鮮に対しては「対話のための対話は意味がない」と言い、「対話の努力は時間稼ぎに利用された」と批判していたが、共同記者会見でも同趣旨のことを発言して対話による解決を一切排除しているのに対してトランプは米韓軍事演習や日本海への空母派遣等で北朝鮮に対して軍事的圧力をかけたり、首脳会談後の共同記者会見で発言しているように北朝鮮に対する「戦略的な忍耐の時代はもう終わった」と強硬姿勢を見せる一方で国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が北朝鮮との対話に向けた外交努力に当たっていることを2017年11月7日付「ロイター」記事が伝えている。   

 その外交努力は非核化協議には一切応じようとしない北朝鮮の姿勢に阻まれて困難を極めているようだが、トランプの「全ての選択肢」の中には外交的解決(=対話による解決)も含めていることになる。

 例え「対話の努力は時間稼ぎに利用された」としても、国民の生命・財産の保全に責任を持つ以上、対話解決の外交努力も対北朝鮮政策の選択肢の一つとして加えておくのが一国の首相としての務めだと思うが、どうも安倍晋三の対北朝鮮圧力一辺倒の政策は想定し得る突発的な危険な事態に対する国民への説明を全く欠いた無責任な危機管理で成り立たせているようだ。

 説明を欠いているということは国民から見た場合、暴発も偶発的な軍事衝突も、突発的な危険な事態を全く想定していないことを意味することになる。
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安倍晋三の幼児教育無償化・高等教育無償化は掲げた条件内の無償化に非ず、選挙の票稼ぎの誇大公約・詐欺

2017-11-09 12:23:14 | 政治

 安倍晋三は2017年9月25日の「解散記者会見」で少子高齢化と北朝鮮の脅威を「国難」と位置づけて、少子高齢化対策として生産性革命、と人づくり革命を掲げた。

 生産性革命で少子高齢化による人手不足を補って生産の維持・向上を目指し、人づくり革命で生産労働に適合し得る能力の開発・育成を教育を通して行い、目指すということなのだろう。

 そして 人づくり革命の柱として教育の無償化を掲げた。

 安倍晋三「もう1つの最大の柱は人づくり革命です。子供たちには無限の可能性が眠っています。どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する決意です。授業料の減免措置の拡充と併せ、必要な生活費を全て賄えるよう、今月から始まった給付型奨学金の支給額を大幅に増やします。

     ・・・・・・・・・・

 幼児教育の無償化も一気に進めます。2020年度までに3~5歳まで、全ての子供たちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0~2歳児も、所得の低い世帯では全面的に無償化します」

 その財源として2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた場合の2%の5兆円強の税収のうち5分の1の1兆円を充てることになっている社会保障の充実にそのまま回して、残り5分の4の約4兆円は国の借金の返済に充当する決まりとなっているが、借金の返済に半分の2兆円、残りの2兆円を充てるとしている。

 安倍晋三「子育て、介護。現役世代が直面するこの2つの大きな不安の解消に大胆に政策資源を投入することで、我が国の社会保障制度を全世代型へと大きく転換します。急速に少子高齢化が進む中、国民の皆様の支持を得て、今、実行しなければならない、そう決意しました。2兆円規模の新たな政策を実施することで、この大改革を成し遂げてまいります

 しかし、そのつけを未来の世代に回すようなことがあってはならない。人づくり革命を力強く進めていくためには、その安定財源として、再来年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。2%の引上げにより5兆円強の税収となります。現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。

 この消費税の使い道を私は思い切って変えたい。子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当し、あわせて財政再建も確実に実現する。そうした道を追求してまいります。増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます」

 要するにそれぞれに条件がつくが、0~2歳児以上の保育費用から高校・大学生とこれに準ずる学校の授業料の無償化、子育て、介護を担う現役世代の負担軽減の新たな政策に2兆円規模の財源を必要とするが、消費税率2%引上げ時の税収約5兆円のうちの5分の4の2兆円を国の借金の返済に回して、残りの約2兆円を上記人づくり革命に回すとした。

 安倍晋三はこのことを主たる公約の一つとして今回の衆議院選挙を戦い、特に教育の無償化が票を惹きつけることになったのだろう、選挙に圧勝することになった。

 改めて2020年度までに実現する無償化の対象を挙げてみる。

 ●所得の低い世帯の0~2歳児は全面的無償化。
 ●3~5歳までの全ての子供たちの幼稚園や保育園の費用を無償化。
 ●所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限った高校、大学、これに準ずる高等教育の無償化。

 安倍晋三の教育費無償化の大盤振舞いに一見見えるが、断っておかなければならない点が二つある。一つはアベノミクスで格差を拡大しておきながら、「所得の低い世帯」を教育費の救済対象とする矛盾である。矛盾でありながら、ここに恩着せがましさがないだろうか。

 もう一つは2017年9月12日付「日経電子版」によると、経済協力開発機構(OECD)調査の2014年加盟各国国内総生産(GDP)に占める小学校から大学までに相当する教育機関への公的支出の割合が日本は3.2%で、比較可能な34カ国中、最低であり、対幼児教育公的支出割合はOECD平均の82%を下回る46%という低い水準にあるという点である。

 日本は1968年に当時の西ドイツを抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出て、中国が2010年に日本に取って代わって世界第2位の経済大国を獲得するまでの42年間経済大国第2位の地位にありながら、そして現在第3位の経済大国に踏みとどまりながら、教育機関への公的支出貧国の地位に甘んじていた。

 そしてこのような貧国状況をつくり出し、放置してきたのは歴代自民党政権であって、2009年に政権を獲得した民主党政権が初めて公立・私立併せた高校授業料の無償化を打ち出し、2010年度に開始した点を考えると、自民党安倍政権の高等教育無償化政策は遅過ぎる感があるし、公的支出上位国のデンマークやノルウェー、アイスランドなどの国から見たら、2周遅れ、3周遅れとなっている。

 公的支出が少ないから、収入格差に連鎖して教育格差が起こる原因ともなっているはずだ。

 ところが、自民党教育再生実行本部が政府に対して全額貸与なのか、大部分貸与なのか分からないが、出世払いの貸与いう形を求めていることを2017年11月7日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。   

 出世払いの貸与となったら、安倍晋三公約高等教育無償化は掲げた条件内の無償化に非ずの性格を取ることになる。

 自民党教育再生実行本部は大学などに在学中は国が授業料を給付するが、卒業後に一定の年収を超えた場合、所得に応じて国に納付する新制度の導入を検討しているという。

 納付年収は「250万円以上」や「300万円以上」など複数の案があるという。

 納付額は正規雇用の標準的な収入で約20年で支払いが完了できる程度。

 要するに「無償」という言葉の「無料」、「タダ」という意味に矛盾する“無償化”という体裁を取ることになって、「所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たち」に対する高等教育の無償化というわけではない。このこと自体が既に詐欺である。

 無償化が無償化に非ずは高等教育の無償化だけではない。所得の低い世帯の0~2歳児の全面的無償化と3~5歳までの全ての子供たちの幼稚園や保育園の無償化から政府が認可外保育施設の一部は対象外とする制度設計を検討していると、2017年11月7日付の「時事ドットコム」記事が伝えている。      

 理由は財源確保の困難、保育士の配置基準などが緩い認可外施設を国が推奨しているとみられかねないとの懸念としている。

 しかし保育士の配置基準を緩めた認可外保育園を保育園に準じる施設として政府が認めているのは政府の保育の受け皿整備が追いつかないからだろう。

 安倍晋三は2015年12月14日、「内外情勢調査会全国懇談会」首相官邸)で次のようにスピーチしている。  

 安倍晋三「「『希望出生率1.8』の実現を目指し、待機児童ゼロを確実に実施する。そのために、2017年度末までに50万人分の保育の受け皿を用意します。さらに、『介護離職ゼロ』を目指し、2020年代初頭までに50万人分の介護施設を整備していきます」

 だが、2013年度から2015年度までの3年間で約31.4万人分の保育の受け皿を確保し、2017年度末までに2013年度からの5年間で約48.3万人分とする予定を立てていたの対して安倍晋三は「2017年度末までに50万人分の保育の受け皿」としていて、1.7万人分の余裕が出る計算になるが、「待機児童の解消」内閣府)によると、2016(平成28)年4月の保育所等の定員が263万4,510人、保育所等待機児童数については、2 万3,553人(対前年比386人増)となっている。   

 但し認可保育所への入所を希望しながら、入所できなかったために自治体が補助する認可外施設に止むを得ず入っものの、厚労省の定義で待機児童の対象外となる、いわゆる認可保育所への入所を希望する隠れ待機児童が厚労省2016年9月2日発表、2016年4月1日時点で6万7000人、合計で9万人超となって、2016年4月1日時点から2017年11月の時点にまで整備が進んでいたとしても、9万人-1.7万人=7.7万人、少なくとも7万人前後は追いつかない計算になる

 しかも待機児童数は年々増えている。当然、隠れ待機児童数もそれ相応に増えるはずだ。

 要するに待機児童に対して保育の受け皿整備が追いつかないイタチごっこの状況にある。だから、「第4次安倍内閣発足記者会見」首相官邸/2017年11月1日)で、「待ったなしの課題である待機児童解消に向け、32万人分の保育の受皿整備を進めていく」と追いつかない数字を追いかけて、改めて整備に必要な数字を挙げることになるのだろう。     
  
 かくかように政府の教育機関への公的支出が不足していることからの教育無償化の各提示であって、しかもしっかりと煮詰めないうちに適用対象条件に応じて全面無償化であるかのように選挙の公約として大々的に掲げて票を大量に稼いだ。

 これは公約詐欺に当たる。詐欺で票を大量に釣った点、誇大公約と言うことにもなる。

 安倍晋三のやりそうなことである。
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文在寅韓国大統領のトランプ歓迎夕食会元慰安婦招待の正当性対安倍晋三の一昨年日韓合意のペテン

2017-11-08 11:48:57 | 政治

 2015年12月28日の従軍慰安婦についての日韓合意については何度かブログに書いてきたから、過去の文章の繰返しとなる箇所が出てくるが、ご勘弁願いたい。

 米大統領トランプが日本訪問後韓国を2017年11月7日に訪問、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領はトランプの歓迎夕食会に元慰安婦の李容洙さんを招待し、両者は握手し、抱擁したと11月7日夕方以降のマスコミネット記事が伝えていた。

 この招待に対する日本の官房長官菅義偉の説明。

 菅義偉「おととしの日韓合意は、慰安婦問題の最終的で不可逆的な解決を確認したものであり、国際社会が高く評価した。韓国側には、粘り強くあらゆる機会を通じて、合意の着実な実施を求めていきたい。

 北朝鮮問題への対応で日米韓の連携強化が求められる中、日米韓の緊密な連携に悪影響を及ぼすような動きは避ける必要がある。韓国側には外交ルートを通じてわが国の立場を申し入れている」(NHK NEWS WEB/2017年11月7日 17時45分)
  
 2015年12月の日韓合意で慰安婦問題は解決済みであって、トランプの歓迎夕食会に招待して慰安婦問題をクローズアップさせる正当な謂れはないと批判している。

 菅義偉は文在寅大統領が2017年6月20日電子版米紙ワシントン・ポストのインタビューで2015年の慰安婦問題を巡る日韓合意に関して「問題解決に日本の法的責任と公式な謝罪」を求めたときも同じ発言をしている。

 文在寅大統領は大統領選で「慰安婦合意破棄」を公約の一つに掲げていた。安倍晋三並みに選挙の勝利=全ての政策に対する国民の信任と解釈するなら、大統領当選は「慰安婦合意破棄」を韓国国民の多くの意思表示と見なければならない。

 だとしても、主権国家同士が締結した日韓合意である。次政権が簡単に破棄したら、主権国家としての正当性が疑われることになる。

 問題は日韓合意自体の正当性である。正当性があるにも関わらず破棄したら、主権国家としての意味を失う。

 日本の外相岸田文雄とユン韓国外相が2015年12月28日、韓国ソウルで両国間に横たわっていた従軍慰安婦問題で会談し、合意に至った。

 2015年12月28日付で外務省サイトが両国外相の「共同記者発表」を記載している。日韓間で対立した問題点の一つとなっていた女性を従軍慰安婦に仕立てていった事例に日本軍の関与があったかどうかについて言及した個所のみを抜粋する。    

 〈1 岸田外務大臣

 (1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。

安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉――

 合意が〈当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題〉としている点、一見すると、慰安婦の強制連行と強制売春に当時の日本軍が関わっていたことを認めた文言に見える。

 だが、岸田文雄が日韓外相会談後に記者団に語った発言では慰安婦の強制連行と強制売春に日本軍が関わっていたことを認める内容とは異なっていた。

 岸田文雄(日本政府の責任を認めたことについて)「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるということは従来から表明してきており、歴代内閣の立場を踏まえたものだ。これまで責任についての立場は日韓で異なってきたが、今回の合意で終止符を打った」(NHK NEWS WEB/2015年12月28日 17時31分)

 韓国側が日本軍による慰安婦の強制連行と強制売春を訴えているのに対して安部政権が従軍慰安婦に関わる「従来から表明」してきた歴史認識は強制連行と強制売春を否定するものであったから、「当時の軍の関与の下に」とした日韓合意は、少なくとも日本側はその中に強制連行と強制売春を含めていない内容ということになって、一見すると、慰安婦の強制連行と強制売春に当時の日本軍が関わっていたことを認めた文言に見えること自体が一種の誤魔化しとなる。

 要するに認めたと見せて、実際は認めていないペテンを働いた疑いが出てくる。

 安倍晋三公式サイトに「慰安婦・歴史認識問題」(最終変更日時2009年06月12日)と題する記事がある。      

 最終変更日時が2009年6月12日だから、それ以前に書かれたのかもしれない。第1次安部政権は2006年9月26日から2007年8月27日、麻生政権が2008年9月24日から2009年9月16日。麻生政権下に最終変更が行われたのだろう。

「狭義の強制性」が「広義の強制性」の議論に変わっていった

(河野官房長官談話は)韓国においていわゆる従軍慰安婦として心に傷を負った方々に対して、政府としての認識を示したものであるわけでありますが、そのときに、この問題に関しましていろいろな議論があったのは事実であります。

いわゆる狭義の上での強制性という問題がありました。それは狭義の強制性ではなくて、広義の意味での強制性について述べているという議論もあったわけでございますが、私が当時述べていたことについては、具体的に狭義の強制性が果たしてあったかどうかという確証については、いろいろな疑問点があるのではないかということを申し上げたわけでございます。

しかし、強制性という中にはいろいろな強制があるのではないか、直接の強制ではなくても、これは広義の意味でそういう状況に実は追い込まれていたのではないかという議論もあったのは確かであります。しかし、最初は狭義の強制性であったわけでありますが、それはその後、いわば広義の強制性ということに議論が変わっていったのも事実ではないかと思います。〉

 「狭義の強制性」とは旧日本軍が直接現地の若い女性を力づくで拉致、連行して、強制売春に従事させたことを言い、「広義の強制性」とは直接的な旧日本軍の関与はなかったが、売春業者が日本軍の依頼を受けて売春婦を募集する過程で正当な手続きではなく力づくで強制的に狩り集めたといった間接的な日本軍の関与を指す。

 安倍晋三は旧日本軍関与に於ける「狭義の強制性」を否定し、「広義の強制性」に関しては認める歴史認識に立っていた。

 この歴史認識は第1次安部政権(2006年9月26日~2007年8月27日)下の2007年3月5日参院予算委員会での答弁に現れている。

 安倍晋三「河野談話は基本的に継承していきます。狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかったということです。

 (中略)

 ご本人がそういう道に進もうと思った方は恐らくおられなかったんだろうと、このように思います。また間に入って業者がですね、事実上強制をしていたという、まあ、ケースもあった、ということでございます。そういう意味に於いて、広義の解釈に於いて、ですね、強制性があったという。官憲がですね、家に押し入って、人攫いのごとくに連れていくという、まあ、そういう強制性はなかったということではないかと」

 要するに2015年12月28日の日韓合意は少なくとも日本側は安倍晋三の歴史認識をそのまま反映させて纏めた取り決めということになる。当時の韓国の朴槿恵政権がそのことを承知していて合意を受け入れたのかどうか分からない。2015年は韓国は経済危機に陥り、危機脱出には歴史認識で対立していた日本の力を借りる必要上、一見、日本軍の直接的な関与に見えるということで手を打ったのかもしれない。

 また岸田文雄は日韓外相会談後の対記者団発言で、「当時の軍の関与」を「歴代内閣の立場を踏まえたものだ」と言っているが、このことについて安倍晋三は2015年1月5日の三重県伊勢市の伊勢神宮参拝後に神宮司庁で行った年頭記者会見で次のように発言している。  

 安倍晋三「従来から申し上げておりますように、安倍内閣としては、村山談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいます。そしてまた、引き継いでまいります」

 安倍晋三はここで上に挙げた2007年3月5日参院予算委員会での答弁で安倍内閣として「基本的に継承」するとした「河野談話」は「狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかった」と、日本軍の直接的な強制性は認めていない談話だとする解釈を施している。

 1993年8月4日の「河野談話」外務省)には次のような文言が記されている。     

 〈いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。〉――

 日本国内でも軍人や警官は怖い存在であったが、日本軍が支配した外国では日本人であるというだけでそれ相応の威嚇性を持ち得ただけではなく、日本軍をバックとした日本軍兵士の威嚇性は売春業者が持つ威嚇性と比較して相当なものがあったあったはずで、当然、売春業者単独の慰安婦募集であったとしても、日本軍の名前を使えばそれ相応の効果があり、「官憲等が直接これに加担した」と言うことなら、一般的には加担される側が主役で加担する側が脇役という関係を築くのとは反対に官憲が持つ威嚇性によって官憲そのものが主役に映って、いわば軍の命令で動いている売春業者という一体性をそこに見ることになって、その強制性は計り知れない強力な力を持ち、慰安婦募集は「狭義の強制性」の部類に入ることになる。

 だが、安倍晋三は官憲が売春業者の慰安婦募集に、それが「直接」であったとしても、単に「加担」しただけの脇役の関係と解釈、「広義の強制性」の部類に入れて、日本軍の直接的な関与を否定する歴史認識を引きずっている。

 かなり前にネットで探し出したのだが、日本軍の現地人に対する威嚇性を証明する文章がある。どんな人物が知らないが、元軍人なのだろう、松浦敬紀著による「終りなき海軍―若い世代へ伝えたい残したい (1978年) -」(1978年6月刊行) なる書物に当時インドネシアの設営部隊の海軍主計長だった中曽根康弘の寄稿文が載せられているという。

 タイトルは「二十三歳で三千人の総指揮官」

 「三千人からの大部隊だ。やがて、原住民の女を襲うものやバクチにふけるものも出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある。かれらは、ちょうど、たらいのなかにひしめくイモであった。卑屈なところもあるし、ずるい面もあった。そして、私自身、そのイモの一つとして、ゴシゴシともまれてきたのである」――

 「原住民の女」はその女だけで存在していたのでなく、それが小さなものであったとしても、その地域に築かれた一つの社会に親や兄弟(姉妹)、あるいは子どもと共に生き、生活していた。当然、兵士に襲われた場合、直ちにか、あるいはいつかは他の住民に知られることになる。

 知った場合、兵士に襲われた「原住民の女」の親や兄弟(姉妹)、その他の近親者や住民は日本軍兵士に怒り、憎しみ、二度と襲わせないために仕返しに襲うことがあるだろうか。泣き寝入りするだけだったろうか。

 権利意識の発達していない時代であり、現地であることを考慮すると、歴然とした力の差はを弁えて、後者の選択しかなかったはずだ。

 ここに現地の住民を心理的に支配していた日本軍が持つ威嚇性を明確に窺うことができる。

 その威嚇性によって中曽根主計官は簡単に現地の女たちを有無を言わせずに慰安婦として狩り集めることができたはずだ

 日本軍が纏っていた威嚇性、その威を借りた日本軍兵士の威嚇性を抹消・無視した安倍晋三の慰安婦の強制性否定の歴史認識が反映されたペテンでしかない日韓合意であって、朴槿恵政権がどのような事情で受け入れたとしても、文在寅韓国大統領ならずとも、韓国内で合意破棄の世論が起こるのは無理はない。
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安倍北朝鮮・トランプ貿易:首脳会談冒頭発言から見る両者の同床異夢の国益

2017-11-07 10:41:52 | 政治

 安倍晋三はミサイル開発・核開発を続ける北朝鮮の脅威を日本の国家安全保障上の「国難」と位置づけ、日米同盟の緊密化をバックに対北朝鮮圧力を方策としたミサイル開発・核開発阻止を主要な外交政策に掲げていて、その正当性を10月22日投開票の2017年総選挙の主たる争点に据えて選挙戦で盛んに訴え、選挙圧勝によって「国難」とする認識を多くの国民と共有することができた。

 トランプにとっても北朝鮮の動向はアメリカの国家安全保障上の脅威となっていることから、今回の日米首脳会談では安倍晋三もトランプも議論の主たる対象としていた。

 当然、11月6日首脳会談後の共同記者会見で安倍晋三がトランプと「あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致した」と発言したことは十二分に頷くことはできるし、トランプにしてもそのことに異論は全然ないだろうが、日米首脳会談の冒頭のみ、プレスを入れて行うそれぞれの発言を見ると、安倍晋三は北朝鮮問題に重点を置いているのに対してトランプは対日貿易に重点を置いていることを窺うことができる。

 いわば安倍晋三とトランプの政策に関する興味の優先度に違いがあって、同床異夢のそれぞれに異なる国益となっている。

 先ず「朝日デジタル」記事から、10月6日の駐日米国大使公邸で日米の企業経営者らを前に行ったスピーチ発言の主なところを拾って纏めてみる。   

 「日本との貿易は公平でなく、開かれていない。(赤字改善のために)我々は交渉する必要がある。

 両国に公平な貿易協定、貿易コンセプトを考えることができるだろう。迅速で友好的にできる。

 米国は日本との貿易赤字に何年も苦しんできた。年700億ドル(約8兆円)近い巨額の貿易赤字がある。日本から米国に多くの自動車は輸出されているが、米国から日本へは事実上輸出されていない。

 我々には世界で最高の軍需品がある。日本周辺で起きていることを考えると、(米国からのミサイルシステムや兵器等の防衛装備品の購入は)正しい

 米国の株価は過去最高水準だ。幸せな人はいる。(さらなる米国への投資を促して、米国投資の)トヨタ(自動車)やマツダはいるか?ありがとうと言いたい」

 そして記事は10月5日の安倍晋三との夕食前のトランプの発言を紹介している。

 「みんなが嫌がるほど貿易の話をし続ける」
 
 記事は、〈通商問題を重視する姿勢を示した。〉と解説しているが、この重視姿勢は先に触れたようにプレスを入れた日米首脳会談冒頭の発言にそのまま維持されている。尤もハンパでなく重視しているからこそ、重視する発言が度々口を突いて出ることになる。

 では、首脳会談冒頭発言を最初に11月6日付「ロイター」記事から見てみる。     

 トランプ「貿易不均衡の状態を是正するなど、そういったことについて実現できると確信している。

 (会談前のワーキングランチでは)殆ど貿易や北朝鮮問題について話をした。私たちは大いなる前進を遂げている」

 安倍晋三「国際情勢、経済問題、2国間関係について議論したい」

 安倍晋三が首脳会談では「国際情勢、経済問題、2国間関係」を議論の対象にしたいと張り切っているのに対してトランプはワーキングランチでは貿易問題と並べて北朝鮮問題を取り上げたことに触れているが、首脳会談で欲している議論の対象は貿易問題を取り上げたのみである。

 他のマスコミ記事が紹介している冒頭発言もほぼ同じとなっている。試しに同日付「中日新聞」を取り上げてみる。

 安倍晋三「北朝鮮を含む国際情勢、経済関係、二国間関係を議論したい」

 トランプ「貿易不均衡の是正を実現できると確信している」

 中日記事は両者の発言を紹介した後、駐日米国大使公邸で日米の企業経営者らを前に行ったトランプの発言を続いて紹介する記事内容となっている。

 上記「ロイター」記事はトランプ自身が紹介したワーキングランチーでの話題についての発言を記載していたが、次の11月6日付「朝日デジタル」記事が首脳会談冒頭、安倍晋三とトランプ両者がワーキングランチで何を話し合ったのかの発言を載せている。   

 安倍晋三「ワーキングランチでは北朝鮮問題、国際的な課題について深い議論ができた。首脳会談では引き続き、国際情勢、経済問題、二国間関係について議論したい」

 トランプ「(ワーキングランチでは)殆ど貿易や北朝鮮問題について話をした。私は特に貿易について強い信念を持っている。貿易赤字を減らし、公平な貿易を行いたいと思っている」

 安倍晋三はワーキングランチで議論した話題について北朝鮮問題を最初に紹介しているが、トランプは貿易問題を最初に挙げて、北朝鮮問題を二番目とし、そのあと、「特に」という強調語を使って、日米間の「貿易赤字を減らし、公平な貿易」関係への構築に向けた「強い信念」を露わにしている。

 誰がどう見ても、トランプの最大関心事は日米間の貿易問題であって、北朝鮮問題は二の次、貿易問題をトランプ自身の国益としていることが分かる。

 このことはある意味、当然なことと見なければならない。理由は北朝鮮問題を外交的に解決するか、軍事的に解決するか、アメリカが最終的な主導権を握っているのであって、安倍晋三が首脳会談でトランプと「あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致」しようとしまいと、日本はアメリカの解決方法に追随するだけの立場に立たされているに過ぎないからである。 

 安倍晋三が北朝鮮の脅威を「国難」とした以上、当たり前のことだが、北朝鮮の脅威の払拭、「国難」回避を日本の国家安全保障上の最大の国益としているのに対して共同歩調を取っていると安倍晋三が見ている米トランプは自国第1主義の思惑に外れることなく日米貿易不均衡是正を最大関心事、最大の国益としている。

 安倍晋三はゴルフや会食、首脳会談を通してトランプと信頼関係を深め、日米関係のより一層の緊密化に成功して、対北朝鮮では完全に足並みが揃っていると見ているようだが、トランプ自身の北朝鮮問題に向ける熱意は首脳会談冒頭の両者の発言を見る限り、安倍晋三のそれと差があり(北朝鮮問題は、多分、ロバート・ゲーツ米国防長官やティラーソン国務長官に丸投げしているに違いない)、両者にとっては同床異夢の国益となっているようだ。

 となると、拉致被害者家族とトランプとの面会も安倍晋三の顔を立てただけといったことで終わる可能性がある。
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