ケイの読書日記

個人が書く書評

「黙って行かせて」 ヘルガ・シュナイダー著 高島市子・足立ラーベ加代訳 新潮社

2018-02-04 15:20:38 | 翻訳もの
 ラブロマンスのタイトルみたいだが、悲惨な実話。
 筆者のヘルガさんの母親は、ヒトラーに心酔しナチス親衛隊に入隊。1941年に、4歳のヘルガさんと1歳の弟さんを置いて家を出て、アウシュヴィッツ強制収容所の看守になる。次にヘルガさんがお母さんと再会したのは、なんと30年後。その時、母親が自分の過去を自慢げに話すのに衝撃をうけたヘルガさんは、その後27年間、母親と会わなかった。
 しかし「お母さんはもう長くないから、最後にあった方が良い」と周囲に説得され、27年ぶりに対面する。もちろん、作家としての職業的好奇心はあったのだろう。アウシュヴィッツで何をやっていたのか、当事者の言葉で聴きたかったと思う。

 アウシュヴィッツで母親はユダヤ人を殺しまくっていたが、ドイツは敗れソ連兵がやってきて、母親はソ連の強制収容所に連れていかれる。下っ端看守という事で、死刑にはならなかった。


 私がこの本を読んで、一番衝撃を受けたのは、戦争が終わり57年たっても、お母さんが自分のやった事を全く悔いておらず「戦後、あたしは犯罪者みたいに扱われたわ。けれど拘留されていた期間でさえ、偉大な総統のドイツに所属していた事が、あたしの誇りだった」という言葉ではない。そんなこと最初からわかっている。鋼のメンタルを持っていなければ、アウシュヴィッツで何百万人ものユダヤ人をガス室には送れないよ。その中には、彼女の個人的な知り合いもいた。

 そうじゃなくて、この母親が、結構裕福な生活をしている事に驚く。元親衛隊員は、以前自分のやった悪行が周囲にバレるのを怖れ、びくびくしながら暮らしているのかと思ったが、とんでもない。
 ヘルガさんのお母さんは、良いマンションに住み、絵画に投資し、仲の良い友人と楽しく暮らしていた。ボーイフレンドだっている。年を取って一人暮らしが難しくなると、親切な職員がたくさんいるキレイな施設に入所する。

 おい!!! 日本の高齢者より、よっぽど恵まれてるじゃん! もともと金持ちの一族出身だから遺産だろうか? 誰からか、定期的に入金があるみたい。ボーイフレンドは、アウシュヴィッツで同僚だった人。さぞ話が合うだろう。
 近所の友人も、彼女が元親衛隊員という事を知っているが、気にしない。友人は言う「私だって、オーストリア併合に賛成したし、ヒトラーがメルセデスベンツのオープンカーでウィーンを回った時には、小さな花束を投げたりもしたんですよ」

 だから、手のひらを返したように非難できないという事か? でも、いくら反ユダヤ主義が蔓延していたからといっても、一般市民とアウシュヴィッツの看守を同列にはできないよ。

 ところで「ヒトラー ユダヤ人説」って、昔から囁かれているが、私は信憑性は高いと思う。そりゃ、長年混在して住んでるんだもの。混じって当たり前だよね。

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