北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新年防衛論集二〇二二,財政再建と防衛安全保障の両立-日本を崩壊からまもるもう一つの視点

2022-01-08 20:22:47 | 北大路機関特別企画
■財政再建と防衛安全保障
 日本は緊縮財政のやりすぎで景気後退から立ち直れないという論調を聞いたあとで、実際の財政支出を内閣府HPなどで調べますと驚かされます。

 財政再建。実のところ日本では緊縮財政を行った分だけ特別会計の大盤振る舞いをおこなっていますので、財政破綻を回避し防衛力整備を行うという視点ももちろん忘れては成りません。防衛省が外敵から国家を守るように財務省も財政破綻から国家を守る、どちらが崩れても日本という国家を存続することに危機が及ぶ点はかわりなく、両立は必須です。

 財政破綻は現実的な脅威として考えなければ、1990年代から続く低成長時代、2020年代まで継続しており、しかも東日本大震災後の電力不足と短期間とはいえ過去の急激な円高放置政治による製造業の空洞化、打つ手無い少子高齢化に国内の需要不足、この状況では財政破綻という懸念は、日本程の経済大国ならば起きないだろう、とは平和ボケそのもの。

 赤字国債の無際限な発行により戦車でも戦闘機でも、という理念には厳しい現実をみる必要はあるでしょう。こう考えるのは赤字国債を発行しても経済破綻しないという一部識者や評論家の意見が、それならば何故世界には債券発行により経済破綻する諸国が大半なのか、という現実の命題に確たる答えがないためです、日本は何故に特殊なのでしょうか。

 財政無制限論、という無茶苦茶な論理がありまして、これは要するに、通貨を発行する主体である国家は通貨発行権を例えば欧州中央銀行のような主体に預けない限り破綻はない、という理論です。ただこれは無茶を通り過ぎていまして、ジンバブエやベネズエラが財政破綻した事実を無視し論点のすり替えを行っています。財政を無限とするには税収が要る。

 日本の国債は外債ではないとしていますが、それならば何故日本国際は外債ではなく金融機関が引き受けられるのか、その担保を辿りますと、それは日本の将来性でも若者の活力でもなく、単に対外資産、1991年から2021年まで連綿と続く世界第一位の対外資産が一つの担保になっているとしか考えられません、これを切り崩さねば国債は無限だ。しかし。

 対外資産。しかし、これも高度経済成長時代から安定成長時代まで連綿と蓄え続けた国民の資産ではあるものの、これ以上積み重ねる余地がなくなれば目減りに転じます。サウジアラビア並の安価に掘れる油田やオーストラリアのようなレアメタル鉱山でも日本国内に発見されない限り、稼いで税収を伸ばす方向に転じない限り、国債は実のところ有限です。

 日本政府は緊縮財政であるために経済が回らないとの指摘もありますが、実はかなり政府は予算を投じています。2001年の小泉政権の改革先行プログラムと緊急対応プログラム、2002年改革加速プログラム、2008年の福田内閣の安心実現緊急総合政策、同年麻生政権生活対策、生活防衛緊急対策、2009年経済危機対策、とこう立て続けに行っているのですね。

 自民党から民主党へ2009年には政権交代があり、鳩山政権明日の安心緊急経済対策、2010年菅内閣デフレ緊急対策、同年デフレ緊急対応、2011年に円高総合対応策、2012年野田内閣日本再生加速、自民党へ政権が戻り2013年阿部政権での日本経済再生緊急経済対策、好循環実現経済対策、2014年緊急経済対策、2016年未来経済投資、そしてコロナ対策予算へ。

 618兆円、総額にして618兆円規模となっていまして、これを年度予算とは別に特別会計により実施し、母屋で粥を啜りつつ離れですき焼きを毎日やっていると批判される所以です。こうしたGDP比率では5%規模、経済対策を今世紀に入り僅か20年間で年間GDPに匹敵する規模のものを実施しているのですね、これでは緊縮とは流石にいえないでしょう。

 経済対策の方向性が間違っていないのか、こう問われる事があるでしょうが、この点については否定しません。そもそも財政再建と経済刺激という矛盾する政策が進むあたりに政治の問題がある様なのですよね、目的があって手段が示されても、手段と目的は計画の進展と共に次第に前者が目的化し本来目的が空文化している事が少なくない政策が実に多い。

 歳出過剰の状態にあることは否めず、もっとも防衛費はそれほど伸びていませんので緊縮という印象をあたえるのかもしれませんが、これは政治の選択と支持した国民の選択ですので、歳出規模に対して 防衛費の比率が低い点はまた別の問題というべきです。その上で必要な防衛政策と費用というものを、増税か憲法改正かで論点とすべき次元の問題です。

 財政再建が重要です。そして、目的と手段の視点から考えますと、財政再建と防衛の問題、両立するには例えば同盟国との関係強化や包括連携協定締結国との防衛協力、防衛装備品移転に関する政治的制約の撤廃など、財政再建を阻むのは憲法を含む制度も一端にあるとの認識も必要なのかもしれません。この視点を考えることも、重要なのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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新年防衛論集二〇二二,榛名防備録:世界は複雑である-だからこそ複雑な問題を解決するには

2022-01-08 14:41:41 | 北大路機関特別企画
■世界はそこまで単純なものか
 新年防衛論集二〇二二も一週間といういよいよ終盤となってきましたが。

 榛名防備録。2022年も継続して掲載してゆきますが、2021年は第二次大戦中の視点だけを紹介して参りましたが、2022年は適宜もう少し新しい視点も加えたいと考えています。BS歴史番組などでは定番となりつつある視点、いままで一般論とされていた歴史の理解は果たして細部を検証した場合にはそこまで単純なものなのか、これがこの防備録の視点です。

 日本は第二次大戦中に戦艦重視であり空母を軽視していた為に敗北した、こうした視点はワシントン海軍軍縮条約明けの新戦艦を僅か2隻しか建造せず、逆に100年前には世界に先駆けて航空母艦を建造したという事実を無視していますし、空母優位といいますが、地中海や大西洋では艦隊空母が高速戦艦などに追いつかれて撃沈された事実を無視している。

 戦艦大和は航空攻撃で簡単に撃沈され役立たず的な論調がありますが、大和が撃沈された天一号作戦の坊ノ岬沖海戦は参加したアメリカ海軍の空母だけで12隻が相手であり、その搭載する艦載機は900機近く、戦艦一隻を撃沈するのと戦艦に随伴する軽巡洋艦と駆逐艦数隻を阻止するにはこれだけの兵力を集中する必要があったという事実を無視しています。

 特攻隊は無駄であったという視点もありますが、特攻が九州から組織的且つ大規模に展開されたのは1945年の沖縄戦激化の頃、東京大空襲と大阪大空襲の合間でして、何故二つの大空襲に間が空いたかを調べれば、戦略爆撃機は都市爆撃を中断し九州山間部の飛行場爆撃機に転用された為で、終戦までわずかな期間ですが都市空襲を中断させる機会を造った。

 旧軍凄いという視点が目的ではありません、一つの視点を考える事無く受け入れるという物事の単純化が大衆迎合主義やポピュリズム政治の温床となる為で、一つの出来事を多角的に評価しなければ単純な命題の単純な解決が別の問題を生じさせる、この日常で当たり前のように日々経験している事柄をマクロな視点で省く事の危険性を感じる為なのですね。

 世界は複雑である、だからこそ複雑な問題を解決するには考える習慣が必要である、これはCOVID-19対策にも当てはまる事ですしフェイクニュースに直面した際にも、環境問題の気候変動問題にも、また平和主義や日米同盟を含んだ安全保障問題にも当てはまる問題です。榛名防備録、2022年も土曜日の第二記事として定着させてゆきたいとおもうのです。

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