森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

「ブルータスの心臓」

2011-06-18 09:51:37 | テレビ・ラジオ

ネタバレ全開で書いていますので、後で録画を見ようと思っている方はお気をつけください。

 

この作品、サスペンスとしても良く出来ていると思いました。予想外の展開で物語りは進むし、怪しい人多数だし。ただね、なんたって「相棒」で鍛え上げられちゃっているから、二年前の事件が伏線になるのなら、犯人はあいつだなって、予想がついちゃったのですよね。それに最初の恐ろしいロボットによる殺人のシーンで、ラストシーンも予想はついてしまう・・・。

だけど・・・

だけどなんですよ。竜也君演じる拓也の死に顔が凄く綺麗で安らかなんですね。

なんだか見た事のある顔だなと思ったら、聖母に抱かれる人のようなんです。

あの時、拓也は酒井が操作しているなんて思いもよらないで
「なんで、ブルータス・・」と、唯一信じていたものに裏切られたような思いをしたと思います。でもその死に顔には、罪を許された、または地上で空しく戦い続ける事から解放された安らぎの顔をしていたのでした。

 

最初の方にお話を戻すと、室長が差し出した袋にジョーカーを入れて欲しくなかったです。でも、そこで違うカードを入れてしまっては、物語は「はい、終了」となってしまうわけなんですね。それに殺人の計画を立てたという秘密を知ってしまった事により、室長はどういう行動に出るのかと言う、別の物語になってしまったかもしれません。

ジョーカーを袋に入れて、妊娠した愛人を殺す事に賛成してしまった・・・・・・・・・

ラストの拓也の悔いと嘆きのシーンは、まさに竜也節で見応えがあり絶望の気持ちが伝わってきました。でもその嘆きも、殺人を犯した事への後悔の気持ちは皆無で、上手く思ったようにいかなかった事の悔しさの嘆き。

「なぜ」「なぜ」と彼はのた打ち回ります。

それは何度もあった選択のシーンで、常に愛と常識のないダークな選択をしてしまったからだなんて、きっとこの青年には分からない事なんだと思います。愛と常識のないダークな選択、つまりそれはカードのジョーカーと同じ。

室長が殺されてしまった後、同僚で共犯者の橋本に「殺すという以外の選択を選べないだろうか。」と問われた時も、康子に自分たちは似た者通しといわれた時も、何故立ち止まって、その言葉の意味を考えたり深く思い悩まなかったのだろうかと思うのです。常に安易に邪魔な者を排除するという思考ゆえに、そんな結果になってしまったのだとは、この先彼に時間があったとしても、たどり着けない結論だったかもしれません。

母を幼き日になくし、ろくでなしの父に育てられた彼には、何か欠落感のようなものを感じます。ところがこの物語は、そんな登場人物の集まりです。つまり、故にサスペンスとしては撹拌され面白みは増したわけなんですね。私としては一番酷いやつは社長じゃないかと思うわけですが・・・。

 

人には原点のような「時間」があって、それが拓也にとって母の優しい手に迎えられたあの瞬間だったのですね。
無機質のブルータスの向こうに、最後に拓也は、その母の姿を見る事が出来たのかもしれません。だからその最後は聖母に抱かれたような美しい顔だったのだと思います。 (と、思わなければ救われません。)

 

と、ここで感想を終えても良いのですが、どうしても書いておきたいのは、加藤あい演じる中森と言う女性。
最後のこの人の行動には納得がいきませんよ。
だって恋人だった酒井は、自分が本当に愛していた婚約者を殺した男なんですよ。嫉妬とエゴで、その婚約者を殺されたというのに、そしてまた保身の為に、連続で殺人を犯し続けていたのですよ。もちろん彼女はそこまでは知らなかったわけですが、そんな殺人者ならどこかで何かが滲み出るはず。愚鈍すぎる。今流行の鈍感力マックスの人ですね。だからこの先、酒井の思惑の方が上手くいっていたら、一番幸せに暮らしていけたのは彼女だったと思います。

おいおい、ドラマだよ、ただの、って言われそう。

 

そうなんですね、ただのドラマ。でもこういう人が、リアルに好きじゃないのかも。この女性の部分、かなり大事な部分だったと思いました。だって、連続殺人の犯人だったことは知らなくても、恋人を殺した殺人者であるのに、そしてその男が最後の力を振り絞って、又殺人を犯そうとしているのに、ぜんぜん周りを見ようとしないんですよ。この女性は無意識の殺人者なのよねと、私は思ってしまいました。

「君たちはお似合いだ。」と言った拓也の言葉は、いつだって祝福の言葉ではなく嫌味っぽい意味合いみたいなものを感じていました。でも、実はこんな所にも繋がっていたように感じてしまったのは、考えすぎだとは分かっていますが、そう思えてならないのです。

拓也がジェイソンみたいに追ってきていたのなら分かりますよ。殺しかけていたのを手を離し、彼女を解放したのですよ。

あれは守ると言う行為ではなく、酒井の最後の殺人だったと思います。

しかも残ったのが中森じゃ、警察は真実にはたどり着けず、拓也に不名誉なおまけが付いてしまうのじゃないかと思えてなりませんよ。

 

拓也には愛人の康子も殺して欲しくなく、社長の秘書の宗方あたりが犯人だったら良かったなと思うのですが(ファン心理)、もしそうなら、このラストは滂沱の涙になってしまったと思います。彼もまた殺人者と思うと、彼も又裁かれたのだと思われて逆に救いです(これもファン心理)

 

でも私が一番悲しく感じたのは、砕かれた機械の破片と言うかチップなんかが映し出されたところ。あれはブルータスの残骸なのでしょうか。作った者が殺人者でそのロボットも殺人を犯したのなら、想像できる末路ですが、ブルータスは何も悪くなかったのにと思いました。人はいつか必ず死ぬのですよ。でもその時に、自分の業績や作品などがこの世に残っている人は幸いな人だと思います。それさえもなかったことになってしまうなんて、本当の悲劇は、そこにあったように思えてなりません。

と、言うわけで感想は終わりです。

 

オマケ
監督の入江悠さんのブログはこちらです→「映画監督入江悠日記ードラマ『ブルータスの心臓』」

 

 


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