森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

「フジコ・ヘミング14歳の夏休み絵日記」

2021-08-17 08:40:48 | ユーモレスクを聴きながら(book)

上の画像は、人の手から離れて放置され荒れ果ててしまった空き地に咲く一輪のコスモスです。

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8月15日に読み終わりました。

ピアニスト、フジコ・ヘミングの14歳の時の絵日記で、手作りのその絵日記には、表紙に「TAGES BUCH」ターゲス ブーツと書かれているそうです。それはドイツ語で「日記帳」と言う意味。

「はじめに」のページに

『この日記をめくると、蘇ります。

幸せが何かも知らずに、憧れ、ときめき、夢見た、14歳のあの夏が』とありました。

なんだか、その言葉に胸がきゅんとしました。

時代は違くても、誰にでもあった、そんな時代を、私も思い出したからかも知れません。

 

父親の画家の才能も引き継いでいたのでしょうか。14歳の少女の描いた、その絵日記の絵は、色も鮮やかで心を惹きつけるものがありました。その絵や上品な文章から、豊かな生活を感じながら読みました。

しかしながら、本当の彼女の生活はと言うとー。

父親が国に帰されてしまったがゆえに、母の生活は、朝から晩まで働きづくめでした。終戦後、疎開から戻ってくると、家は燃えてしまい、親戚の家に居候生活で半日かけて配給を取りに行く生活をしていました。

はっきり言って、貧しいのです。

ところがこの絵日記からは、お洒落で豊かな暮らししか感じないのです。

そこには美しい色彩の絵があり、その中に時折描かれている工夫された食べ物の記録があり、そして音楽があったからかも知れません。

父が帰国してしまった事を、気の毒に思い、両親の知人であり世界的に有名な(と、言っても私は知らない事ですが)ピアニストのクロイツァーが、無料でレッスンしてくれたことも、凄い事だなと思いました。

そして彼の家が、「いつ見ても美しい家だった。」とあるように、そのような美しいものに触れて育つという事も、とっても大事な事だと思いました。

 

また「掃除をしていた。」と言う文が、たくさんでてきます。

母がピアノを教えに言っている間、掃除は子供たちの仕事だったのでしょう。

綺麗に部屋を整えて、丁寧に人形を作ったり、服を縫っている生活も素敵に感じました。

 

人にとっての豊かさとは何かを、また丁寧に生きるとは何かとかを思わず考えさせられる、14歳の少女の日記だと思いました。

そしてやはり心に残るのは、フジコさんのインタビュー記事でした。

「残念に思う事は、今の姿を母に見せてあげる事が出来なかった事。」と彼女は語ります。

フジコは世界的なピアニストに成れるねと、他の人に褒められても、母は良い顔をしなかったのでした。そうなるにはお金がかかるし、ピアノを武器にして、生活の糧になればいいと思っていたのですよね。

フジコ・ヘミングは決して恵まれた生活を送り続けてきた人でない事は、興味のある方には知られていることだと思います。

私はだいぶ前ですが、菅野美穂主演のドラマで彼女の事を知り、「こんな人が居たんだ。」と驚きました。60歳過ぎてからのメジャーデビューで、そしてブレイクしました。

たぶん彼女は、私の母と近い年齢です。

いろいろ思う事がありました。

ツイッターでフォローしましたが、コンサートの事しか呟いていませんでした。だけど、今年も精力的に活動していて、凄いなと思いました。

あとがきにカール・ブッセの詩が出てきます。

 

山のあなた<カール・ブッセ(上田敏訳)>

山のあなたの 空遠く

「幸」住むと 人のいふ

噫われひとと 尋めゆきて

涙さしぐみ かへりきぬ

山のあなたに なほ遠く

「幸」住むと 人のいふ」

昔落語の人が茶化していたので、あまり好きな詩ではなかったのでしたが、こうして読むとしみじみとしたものがありますね。

 

 

 

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