京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

無縁坂あたりで

2023年11月09日 | 映画・観劇
京都市国際交流会館で英語字幕付き日本映画の上映会(「国際交流基金京都支部日本映画上映会」)があって、「雁」を見てきた。
かれこれひと月ほど前から誘いをいただいていた。

映画製作は1953年というから俳優陣には懐かしい名前が並ぶ。
高峰秀子、田中栄三、東野栄治郎、芥川比呂志、宇野重吉、それに飯田蝶子とか三宅邦子の名もあった。
森鴎外の原作『雁』をもとに、明治13年の東京下町の人情や風俗が描かれている。


下谷練塀町の裏長屋に住む善吉、お玉の親娘は飴細工を売ってわびしく暮らしていた。
以前妻子ある男と知らずに一緒になって失敗しているお玉だったが、今度は呉服商だという末蔵の世話を受けることになった。
けれどそれは嘘(お玉にしつこく話を持ちかけたこの女↑の調子のよいウソだった。この人、飯田蝶子かな)で、妻子持ちの高利貸しだった。
大学裏の無縁坂のあたりの妾宅に囲われたが、やがて末蔵の真の姿を知り始める。

こんな暮らしをしていてよいのかと悩み、去ろうとするも、平穏に暮らし始めた父親はもうかつての貧しい暮らしにはもう戻れないという。父親によってお玉の決心は思いとどまらされていた。
娘の境遇より自分の安穏を求める父親。個人の幸せと親への忠義、孝行のはざまで思いきれないお玉の心情がもどかしく映る。

医学生の岡田は無縁坂を散歩する途中でお玉と知り合う。次第に岡田に魅かれていくお玉だったが、岡田はドイツへ留学することになる。
「あの人にはあの人の世界がある」という岡田。二人を結び合わせることはなかった。
彼の送別会の夜。
夜空に雁の列が遠くかすかになっていく。

「私の母もあんな(お玉の父のよう)だった」と友人は笑って言った。

個人主義と儒教的な親に尽くすという忠義、孝行の間で、どう調和?を図るのか…。
お玉には自分の運命を自らの意思で選びとってほしいと思うが、明治のまだ初期、末蔵のほうに変化があるのだろうか。

古い映画だなあ、と思ったわりには案外退屈することなく見終えた。
よい気分転換になった一日。

コメント (2)
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