佐藤洋二郎氏による書評をきっかけに『あの春がゆき この夏が来て』を読んだのが、昨年の2月だった。乙川優三郎作品との出会いが始まり、現代小説ばかり7冊を読み継いできた。
乙川氏は1996年に時代小説でデビューされている。数々の賞を受賞されているが、2002年の直木賞受賞作品『生きる』だけでもと読むことにした。
表題作の「生きる」と「安穏河原」「早梅記」を収めた中編集となっている。
「人が生きてゆく限り、不運や障害は生まれ続けて絶えることはない」
「重荷を背負っても下ろしても、人は迎えた一日を生きなければならない」
生きるってことはホント、実にしんどいことだと思う。
「たった一つの思い出を支えに人間は生きてゆけるものだろうか」
「たった一つの思い出を抱いて人間は死ねるものだろうか」。
諦めもしない、拒絶もしない、人生なりゆきでも、その生きる姿は端正な文章で描かれて、
心情は心に触れる。人は何かを起点とし、再生の機をつかみもするが、弱い人間の強さを思い重ねた。
「言いたいことをすべてを書く必要はありません。短い文章で言い尽くせばよいのです」
以前に読んだ2作品にあった言葉で、記憶しておきたいことだった。
「人との小さなつながりを頼りに暮らしておりますが、貧しいつながりはたやすく切れることはありません」
短い言葉で、行方がつかめなかった女・しょうぶの数十年の人生をそこに描きだしてしまう。
だからこその余情も生まれる。描かれないことのもたらす効果の絶大さ、ということだ。
そんなこと思いながら3作目「早梅記」も読み終えた。
どの作品も哀感漂い、長い余韻にひきとめられた。好きな作品集でした。
素敵な本の紹介、ありがとうございます✨
とても興味深く読ませていただきました。
時間見つけて読んでみたいなと思いました
(*´-`)
『生きる』については乙川作品を読み始めてから知ったわけですが、
直木賞受賞ということで読んでみることにしました。
実は先日湖東三山を訪れたとき、お多賀さんにチラッと思いがいきました。
さほど離れてもいないですが、知人とでしたし時間もありませんでした。
両親と弟が一緒だった思い出です。
さて、大津はどちらへ…。
歳を重ねても若くても、そのときどきに悩みはありますよね。
生きていくってほんまに大変です。
表題作「生きる」を読み終えた頃、Eテレで「最後の授業」を見ました。
宮本亜門さんがお話でした。
モヤモヤが晴れると次に進める。勝たへんでも負けへんで!
負けへんって気持ちを持っていた方が明日につながる。
一番好きな自分を生きよう、きらきらしたら楽しいよ。
などとお話だったのが印象深く残りました。
どれもこれも力を出せば克服できたはず…。壁は自分が作っていたことに気づく場面があって、
亜門さんのお話と重なったものですから聞き入りました。