京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

人の人生をいただく

2023年06月22日 | こんな本も読んでみた
「公は民を守るどころか、民をおびやかす存在になっている」
永代のうるおいになるようなことをして、仙台藩の黒川郡にある吉岡宿に暮らす人たちの地獄のような困窮を何とかしたい。
穀田屋十三郎は、茶師の菅原屋篤平治が同じ様なことを考えていたことを知り、互いに心を堅めた。


お上は、お手元、不如意。つまりは金がない。そこで「吉岡の民が殿様相手に金貸しをやって、殿さまから金をむしりとる」。利子は村民に配分して吉岡町内の民を救済する。そんな奇策を菅原屋は考えていた。
三人以上がひそかに寄ってご政道について語れば徒党、謀反同然の行為とみなされた江戸時代。
9人の同志は口も堅め、慎重に策を練りつつ、お上が金に窮してにっちもさっちもいかなくなる時を待った。(「穀田屋十三郎」『無私の日本人』収)

この9人の篤志家たちについて、個人で調べて『国恩記覚』としてまとめた人がいた。
そうしたことを磯田氏に知らせ、本に書いて後世に伝えてと手紙を書いた吉岡に住む人がいた。
調べてみると、一人の僧侶が詳細にこつこつと書きためた記録もあった。


濁ったものを清らかなほうにかえる力を宿らせた大きな人間たちがいた。
「変化というのはまず誰かの頭の中にほんの小さくあらわれる。そして時折それが驚くほど大きく育ち、全体を変えるまでに育つ。」
無名の普通の江戸人に宿る哲学。史伝を書いて、子供に彼らの生涯を見せたいと磯田氏は記していた。

歴史は無名を生きた多くの先人、先達の物語によって継がれているともいえる。
思い出すことがあった。
「相続とは死んだ人の人生をいただくのです。亡くなった人の物語、いのち、魂を受けて渡していくのです」
夏目漱石の『こころ』もそうした相続の物語だと、2014年度だったかの高野山夏季大学で姜尚中氏がお話になったこと。

無名の先人の物語の相続。
孫たちにも、たくさんの物語を読んで他人の人生から学んでほしいといつも思っている。


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