「あゝ、このようなオペラを楽しむのもいいなぁ」という思いを抱かせてくれた今回のオペラ公演だった。日本の代表的音楽家・中山晋平の創り出した曲を織り込み、彼の生涯をオペラ風に創り上げた一作は、構成の巧みさや出演者たちの好演もあって心から楽しめた午後のひと時だった…。
昨日午後、札幌市教育文化会館大ホールにおいて、NPO法人「札幌室内歌劇場」が主催する編作オペラ「中山晋平物語 ~カチューシャの唄~」が公演され、観劇した。私は本公演について大して予備知識もなく観劇を決めたのだが、それは中山晋平が作曲した数々の親しみやすい曲が披露されるのだろうという思いと、「いったい日本のオペラってどのようなものだろう?」という好奇心、加えて観劇料がリーズナブル(1,800円)なこともあり観劇を決めたのだった。
中山晋平というと明治から昭和にかけて、童謡、歌謡曲、新民謡、芸術歌曲など親しみやすい楽曲を少なくとも2,000曲を下らない曲を作曲した作曲家として知られている。
物語は新劇作家である島村抱月の援助を受けて音楽学校を卒業した中山晋平に、抱月が自身の創った新劇「復活」の劇中歌として「カチューシャの唄」の作曲を依頼する。しかし、晋平は恩人である抱月からの依頼に呻吟する。そこに助けの手を差し伸べたのが交友のあった詩人・野口雨情だった。彼のアドバイスを受け、ようやく曲は完成し大きな評価を得、中山晋平にとっては音楽家としてスタートするにあたっての記念碑的一曲となった。
※ 舞台のワンシーンです。写真はウェブ上から拝借しました。
オペラはその経緯を中山晋平が創り出した曲を随所に織り込みながら進行するのだが、 ここで “編作” という言葉が気になった。調べてみたがよくは分からなかった。ところが配布されたリーフレットの中に「中山晋平の作曲した旋律、和声を変化させ、全く違う音など大胆なアレンジ(=編作)」とあった。つまり全体の構成などを考えたうえで構成・台本を担当した岩河智子氏が中山晋平の曲に新たな魅力を加えたオペラと解釈するのが適切かな?と私は考えた。
今回の公演では劇中に実に26曲の中山晋平作曲の楽曲が織り込まれていた。その曲全てをここに羅列してみたい。
〈1〉 カチューシャの唄/さすらいの唄
〈2〉 中野小唄(1)
〈3〉 背くらべ
〈4〉 肩たたき
〈5〉 あの町この町
〈6〉 雨フリ
〈7〉 まりと殿様
〈8〉 砂山
〈9〉 野口雨情メドレー ・シャボン玉(1) ・蛙の夜回り ・兎のダンス ・黄金虫 ・証城寺の狸囃子 ・シャボン玉(2)
〈10〉木の葉のお舟
〈11〉シャボン玉(3)
〈12〉てるてる坊主
〈13〉波浮の港
〈14〉上州小唄
〈15〉越後十日町小唄
〈16〉龍峡小唄
〈17〉諏訪小唄
〈18〉須坂小唄
〈19〉中野小唄
〈20〉東京音頭
〈21〉船頭小唄
〈22〉雨降りお月~雲のかげ
〈23〉さすらいの唄
〈24〉カチューシャの唄(原曲)
〈25〉ゴンドラの唄
〈26〉カチューシャの唄(フィナーレ)
どうでしょうか?私と同世代の方々は誰もが一度や二度は口ずさんだ曲が数多く含まれているのではないと思われる。
これらの曲を実に巧みに劇中に織り込み、それらの曲を10数人のプロあるいはセミプロと思われる方々が歌い継ぐのだが、それらの人たちだけではなく「札幌室内歌劇場支持会合唱団「コール・ピッコラ」、「児童合唱団」らの40数名の方々がバックコーラスとして支え、大きなスケールでオペラは進行していった。
※ 主な出演者たちです。(プログラムから)但し、下段の左から4人は楽器演奏者、指揮者、音楽監督です。
途中の小休止も含め2時間の編作オペラはまったく緩みをみせることなくフィナーレを迎えた。このオペラは札幌だけではなく、東京や中山晋平の故郷・信州長野においても公演され大好評を博したという。それも納得できる舞台だったと私も思った。
フィナーレを迎え全員が揃った舞台上に心からの拍手を送り続けた私だった。
※ 東京公演のポスターですが、なんと料金が5,000円となっています。