映画は今や名匠の域にある山田洋二監督が、名作「東京物語」を制作した故小津安二郎監督へのオマージュとして制作した作品である。随所に山田監督らしさが見え隠れし、歳甲斐もなく(いや、歳だから)何度もティッシュを手にした私だった。
この映画はBSプレミアムで3月26日に放送されたものを先日夜に観賞したものである。私は迂闊にも「東京~」という題名を見て、すっかり小津安二郎監督の「東京物語」だと思って録画を見始めたのだが、案に相違していたという話なのである。
案に相違はしていたが「東京家族」も十分に見応えのある映画だった。「おかしくて、かなしい。これは、あなたの物語です。」というキャッチコピーにあるように、よくある家族の物語が山田監督の脚本と、実力あるキャスト達の好演によって可笑しくも、哀しい作品に仕上がったといって良い映画だった。
特に私が感じ入ったのは、老夫婦(橋爪功、吉行和子)の子どもである末っ子(3人兄妹)役の妻夫木聡の存在だった。父親からは最も出来の悪い子どもとして疎まれていたが、妻を先に失い悄然としている父親を最も親身になって心配する息子の姿を好演していた。妻夫木の婚約者を演じた蒼井優は存在そのものが好い人役を演ずる素晴らしい俳優であるが、この二人の婚約者同士が「東京家族」という映画を際立たせていたといっても過言ではないように思われる。
妻夫木聡については映画「悪人」での好演が記憶に残るが、けっしてオーバーな演技ではなく、役柄を深く理解したうえでの自然体の演技が素晴らしい俳優だと私は思っている。彼の大成を期待したい。
リード文で私は何度もティッシュを手にしたと書いた。それは映画が田舎(瀬戸内海の離れ小島)から、子どもたちが生活している東京の様子を伺いに上京してきた様子が描かれている。子どもたちは両親を歓迎しつつも、東京での忙しい生活の中で次第に両親の世話が重荷となっていく過程が描かれている。それを観ながら「う~ん。あり得るよな」、「でも、それは少し身勝手ではないか」と思いながら両親の立場になって考えると…。さらに、上の二人の兄妹が両親の応対に苦慮している時、父親から最も出来が悪いと思われていた息子(妻夫木聡)が最も親身になってお世話する姿に涙せずには観てはいられなかった。
どこにでもある家族の姿、そこにあるおかしさやかなしみ、それを掬い取り画面に反映していく山田洋二監督の手腕がいかんなく発揮された映画だと思いながら、私はこの映画を観た。