当直の先生が「こんな軽症は送ってよこさずに自分で診たらいいだろう」という気持ちになるのは分からないでもない。昔、救命センター勤務時代の話である。土曜の午後になると決まって自分の病院の入院患者を救命センターに転送してくる病院院長がいた。いざ転送を受けてみると決して救命治療が必要ではなく、まあしいて言えば十分綿密な経過観察が必要であるような患者さんであったのである。みんなで「なんでこの程度の患者さん送ってくるんだろう?」という話になった。たいてい土曜の午後なのである。結論は「院長先生は毎週日曜日にゴルフで遠出するため、状態の落ち着かない患者さんを日曜に診れないためであろう」ということになった。万が一日曜日に自分の患者が急変しても、とりあえず救命センターに「預けておけば」安心して日曜に遠出ができるというわけである。とんだ安全弁である。この病院から土曜日に患者さんの転送依頼があると、「ああ、院長先生はまた明日ゴルフのようですね」と皆が皮肉をこめていうのである。そして救命センターのスタッフは「ああ、これで自分の明日のゴルフはキャンセルしなくてはならなくなりました」と不満げに言うのである。そりゃ確かに不満だろう。