Sightsong

自縄自縛日記

シュリッペンバッハ・トリオの新作、『黄金はあなたが見つけるところだ』

2008-08-03 22:58:34 | アヴァンギャルド・ジャズ

アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ(ピアノ)、エヴァン・パーカー(サックス)、パウル・ローフェンス(ドラムス)によるシュリッペンバッハ・トリオの新作、『黄金はあなたが見つけるところだ(GOLD IS WHERE YOU FIND IT)』(INTAKT、2008年)を聴いた。

このトリオでの来日が予定された97年だか98年だかには、エヴァン・パーカーが妻の手術により急に参加できなくなって、代役がルディ・マハールだった。六本木ロマニシェス・カフェに着いてからはじめてそれを知った。それでも素晴らしかったので、その後、新宿ピットインにも聴きに行った。

エヴァン・パーカーは、そのアレックスが率いるベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ、ソロ演奏、エレクトロアコースティック・アンサンブルなどを目の当りにしている。顔を赤くしての循環呼吸によるサックスは、小鳥のようでもあり、エクトプラズムのようでもあり、そのたびにヒヒヒヒヒと笑ってしまうほど感激した。シュリッペンバッハ・トリオではさらに化学変化のようなものがあるに違いない。

録音されたものとしては、最初に手にいれた『11のバガテル(ELF BAGATELLEN)』(FMP、1991年)『物理学(PHYSICS)』(FMP、1993年)を何度となく聴いている。特に前者の、ピアノソロからはじまり、濃密なインタラクションになだれ込む様子には、緊張感が漲っていて凄絶にさえ感じてしまう。その後、『完全燃焼(COMPLETE COMBUSTION)』(FMP、1999年)は何だか無機的な感じがして、もういいやとおもってしまった。今回の新作まで何作品も出ているのは知っていたが、聴くのは久しぶりだ。

やはりというべきか、円熟なのか落ち着いたのか、逸脱のあやうい魅力はない。もちろん、稀代のインプロヴァイザー3人によるインタラクションはいつ聴いても素晴らしいもので、最後の「三位一体(THREE IN ONE)」、「聖Kの鐘(THE BELLS OF ST. K.)」の盛り上がりにいたり感動を覚える。この名グループが存続しているうちに、実際の演奏を聴いてみたいものだ。


『11のバガテル』(FMP、1991年) アレックスとパウルのサインが重なっている


『物理学』(FMP、1993年) さらにパウルは語尾を裏まで伸ばすというお茶目


『完全燃焼』(FMP、1999年)

●参考 『失望』の新作


『OHの肖像 大伴昌司とその時代』

2008-08-03 00:55:08 | 思想・文学

先日、「中東カフェ」場外乱闘編ということで根津に飲みに行った際、早く着いてしまったのでぶらぶらしていて、「オヨヨ書林」という古本屋を見つけた。近所に住んでいた90年代前半にはなかった。

ちょっと高めだったが入手してしまったのが、『OHの肖像 大伴昌司とその時代』(竹内博編、飛鳥新社、1988年)だ。これが出版されたとき、田舎の高校三年生だった。新聞の下に広告を見つけ、実はいまに至るまで読みたいとおもっていた。ささやかな念願が叶ったわけだ。

大伴昌司といえば、まっさきに出てくるのが『少年マガジン』のグラビアページのようだが、それは私が生まれる前後のことで読んでいない。それよりも、小さい頃家にあった『怪獣図鑑』の、怪獣の内部図解が、強烈な記憶として残っている。正確には覚えていないが、バルタン星人であれば、「バルタン胃」とか「バルタンはさみ」などといちいち解説してあり、バルタン星人が歩いたところは腐ってその後は草木が生えない・・・といったようなものだったとおもう。

本書を読んで、非常に多くのひとの証言から見えてくることは、有象無象の情報の洪水を収集し、編集し、グラフィカルな形にしていく方法のまぎれもない先駆者であったという点だ。70年代のヴィジュアル雑誌の構想は大伴昌司の流れを受け継いでいるし、『DAYS JAPAN』創刊時には、何と編集部員やデザイナーが図書館で『少年マガジン』を首っ引きで学んだという。そういえば、『東京新聞』日曜版の特集もきっとOHの影響の下にあるに違いない。

大伴昌司が亡くなったのは1973年。私が『怪獣図鑑』を興奮して読んでいたのはそのあとだ。円谷英二は1970年、円谷一は1973年(大伴昌司死去のすぐ後)、金城哲夫は1969年に沖縄に帰郷し1976年、に、それぞれ亡くなっている。だからどうだということははっきりとは言えないが、少なくとも、この頃に巨星があいついで鬼籍に入ったことは、ウルトラの歴史、特撮映画の歴史、それから子どもの記憶の歴史に確実に影響を及ぼしているに違いないことは確実だ。

その後の評価も含めて、新たに出版してほしい評伝である。

●参考
怪獣は反体制のシンボルだった
『怪獣と美術』 貴重な成田亨の作品