アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ(ピアノ)、エヴァン・パーカー(サックス)、パウル・ローフェンス(ドラムス)によるシュリッペンバッハ・トリオの新作、『黄金はあなたが見つけるところだ(GOLD IS WHERE YOU FIND IT)』(INTAKT、2008年)を聴いた。
このトリオでの来日が予定された97年だか98年だかには、エヴァン・パーカーが妻の手術により急に参加できなくなって、代役がルディ・マハールだった。六本木ロマニシェス・カフェに着いてからはじめてそれを知った。それでも素晴らしかったので、その後、新宿ピットインにも聴きに行った。
エヴァン・パーカーは、そのアレックスが率いるベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ、ソロ演奏、エレクトロアコースティック・アンサンブルなどを目の当りにしている。顔を赤くしての循環呼吸によるサックスは、小鳥のようでもあり、エクトプラズムのようでもあり、そのたびにヒヒヒヒヒと笑ってしまうほど感激した。シュリッペンバッハ・トリオではさらに化学変化のようなものがあるに違いない。
録音されたものとしては、最初に手にいれた『11のバガテル(ELF BAGATELLEN)』(FMP、1991年)と『物理学(PHYSICS)』(FMP、1993年)を何度となく聴いている。特に前者の、ピアノソロからはじまり、濃密なインタラクションになだれ込む様子には、緊張感が漲っていて凄絶にさえ感じてしまう。その後、『完全燃焼(COMPLETE COMBUSTION)』(FMP、1999年)は何だか無機的な感じがして、もういいやとおもってしまった。今回の新作まで何作品も出ているのは知っていたが、聴くのは久しぶりだ。
やはりというべきか、円熟なのか落ち着いたのか、逸脱のあやうい魅力はない。もちろん、稀代のインプロヴァイザー3人によるインタラクションはいつ聴いても素晴らしいもので、最後の「三位一体(THREE IN ONE)」、「聖Kの鐘(THE BELLS OF ST. K.)」の盛り上がりにいたり感動を覚える。この名グループが存続しているうちに、実際の演奏を聴いてみたいものだ。
『11のバガテル』(FMP、1991年) アレックスとパウルのサインが重なっている
『物理学』(FMP、1993年) さらにパウルは語尾を裏まで伸ばすというお茶目
『完全燃焼』(FMP、1999年)
●参考 『失望』の新作