Sightsong

自縄自縛日記

馮小剛『戦場のレクイエム』

2012-10-08 23:55:35 | 中国・台湾

馮小剛(フォン・シャオガン)が、『女帝 [エンペラー]』(2006年)の次に撮った映画、『戦場のレクイエム』(2007年)を観る。しかし、前作でチャン・ツィイーを起用して派手なワイヤーアクションを展開したのとはまったく異なる趣向。

1948年、中国の国共内戦(淮海戦役)。主役のグーは人民解放軍の中隊長で、全滅覚悟の戦いを任される。撤退のラッパが聞こえるまでは、最後のひとりになろうとも国民党軍と戦え、と。部下のひとりがラッパを聞いたと言うが、自分には聞こえず戦闘を続け、部下は全員戦死する。(ところで、国民党軍の兵士のヘルメットや戦車には、青天白日のマークがあったんだな。)

戦いの功績を認められないまま、グーは朝鮮戦争に参加する。ここでは、地雷を踏んでしまった部下に代わり、自分が犠牲となって視力を失う。困っているときに米軍の戦車が通りがかり、「朝鮮語がわからない」が、米国人ならばと騙す場面は興味深い。本当に、当時から、北と南とでそんなに言葉が違ったのか?

淮海戦役で戦死した部下たちには、名誉が与えられていなかった。そして、連隊長が軍の総崩れを防ぐために敢えてラッパを吹かせなかったこと、その連隊長も何も言わずに亡くなり、彼らが戦った手がかりがなくなってしまったことを知り、グーは激怒する。そして奔走努力するグーのもとに、名誉回復の知らせが届く。朝鮮戦争で地雷から命を救ってやった男の計らいだった。

一見ヒューマニスティックな作品のようでありながら、どうにも後味が悪い。降伏した国民党軍の兵士を怒りのあまり射殺したグーに処せられた刑はわずか三日間の監禁であったこと。戦死した部下の妻を、本人の意向も訊かず他の男と結婚させる約束をすること(しかも、善意で、譲ってやると言わんばかりに)。そしてとりわけ、戦死という犠牲を、国家の論理に収束させた「名誉」として扱って疑わないこと。どこかで聞いたような話だ。

●参照
『大決戦 遼瀋戦役』(国共内戦)
『突破烏江』(国共内戦)
『三八線上』(朝鮮戦争への中国出兵)