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自縄自縛日記

尾崎秀樹『上海1930年』

2012-10-20 00:42:23 | 中国・台湾

尾崎秀樹『上海1930年』(岩波新書、1989年)を読む。

著者の尾崎秀樹(ほつき)は、ゾルゲ事件において逮捕され死刑に処された尾崎秀実(ほつみ)の異母弟である。本書は、その兄が朝日新聞記者として上海に赴任していた1930年前後の様子を描いた、スナップショット的なものである、

この時期の上海には、既に内山書店があった。魯迅が、教え子の許広平とともに上海に辿りついており、内山書店に出入りするようになっていた。米国人ジャーナリストのアグネス・スメドレーも、ドイツを経て、アジアに惹き付けられた結果、中国に来ていた。

まさに、尾崎はそのような時代のスパーク地点に居合わせ、自らも発火役となる。日本や中国の左翼作家とともに動き、共産主義の胎動に関わっていった。そして、ドイツ系ロシア人のリヒャルト・ゾルゲも、上海に到着する。

本書は、こういった歴史の断面とそのベクトルを、まるで群像劇のように生々しく描いており、とても興味深い。こうして見ていくと、歴史には必然があるように思えてくるというものだ。

尾崎の活動は、単純に事実を言うなら、ソ連のためのスパイであった。本書は、そのことを、上海時代から、帰国して太平洋戦争勃発の直前に検挙されるまで、内部からの反戦行動であったのだとしている。確かに共産主義の理想に駆られての行動であったのだろう。しかし、蒋介石の国民政府打倒のため、日中戦争の拡大を支持し押し進めたことには、まったく触れられていない。

●参照
尾崎秀樹『評伝 山中峯太郎 夢いまだ成らず』
ジョセフ・フォン・スタンバーグ『上海特急』(同時代の上海を描く)
J・G・バラード自伝『人生の奇跡』(バラードは30年に生まれ上海で育った)
満州の妖怪どもが悪夢のあと 島田俊彦『関東軍』、小林英夫『満鉄調査部』
尾崎は満鉄調査部にも所属した)
海野弘『千のチャイナタウン』
『チャイナ・ガールの1世紀』 流行と社会とのシンクロ(魔都上海とファッション)
ミカエル・ハフストローム『諜海風雲 Shanghai』(40年代の上海)
伴野朗『上海伝説』、『中国歴史散歩』
海原修平写真展『遠い記憶 上海』
海原修平『消逝的老街』 パノラマの眼、90年代後半の上海
陸元敏『上海人』
2010年5月、上海の社交ダンス
上海の夜と朝
上海、77mm
上海の麺と小籠包(とリニア)
『上海の雲の上へ』(上海環球金融中心のエレベーター)
藤井省三『魯迅』
魯迅の家(1) 北京魯迅博物館
魯迅の家(2) 虎の尾
魯迅の家(3) 上海の晩年の家、魯迅紀念館、内山書店跡
魯迅グッズ
丸山昇『魯迅』
魯迅『朝花夕拾』
井上ひさし『シャンハイムーン』 魯迅と内山書店
太田尚樹『伝説の日中文化サロン 上海・内山書店』