Sightsong

自縄自縛日記

コバウおじさん

2012-10-10 23:55:37 | 韓国・朝鮮

『コバウおじさん』は、韓国の新聞(東亜日報、朝鮮日報など)に長年連載されていた4コマ漫画である。作者は金星煥(キム・ソンファン)。

姓はコ(高)、名はバウ(岩の意味)。高潔で頑固という意味も込められているらしい。とは言っても、見るからにプライドが高い男、あるいは頑固オヤジというわけではない。キョトンとしていて、なかなか間抜け。普段はピンと立っている1本の髪の毛は、驚いたり呆れたりするとふにゃふにゃに波打つ。実に愛嬌がある。

民主化前の独裁政権時代の韓国において、コバウおじさんは、権力をからかい、笑い飛ばした。権力者はよほど腹を立てたものらしく、李承晩朴正煕の時代には、KCIAに連行されたり、内容を強制的に変更させられたり、休載させられたりしている。それでも、人気のあるコバウおじさんに手を出すことは逆効果となってきて、最後には手を出せない存在となってきたという。反骨の人なのである。

日本では、風刺漫画は、純粋漫画から一段落ちるものとみなされているように見える。わたしも、筒井康隆がそのように書いていた文章を読んでから、ずっとそう考えてきた(何しろ中学高校時代はツツイストだったのだ)。

しかし、そうではない。飛翔する純粋想像世界であろうが、批評的な言説であろうが、ナイーヴな感情世界であろうが、すべては人間のかかわりである。世界を独立な軸に分けて見つめることは、分析手法のひとつでしかありえない、とも言うことができる。

金星煥・植村隆『マンガ韓国現代史 コバウおじさんの50年』(角川ソフィア文庫、2003年)は、題名の通り、韓国の現代史において重要な事件を解説しながら、そのときのコバウおじさんの言動を紹介する本。鄭仁敬『コバウおじさんを知っていますか 新聞マンガにみる韓国現代史』(草の根出版会、2006年)は、漫画技術の面からコバウおじさんの独自性を示した本。

どちらも、コバウおじさんに惚れこんだ人によって書かれている。面白いし、勉強にもなる。

●参照
金芝河のレコード『詩と唄と言葉』
徐京植『ディアスポラ紀行』
T・K生『韓国からの通信』、川本博康『今こそ自由を!金大中氏らを救おう』
阪本順治『KT』 金大中事件の映画
四方田犬彦『ソウルの風景』
金浩鎮『韓国歴代大統領とリーダーシップ』


ガトー・バルビエリ『In Search of the Mystery』

2012-10-10 00:53:40 | アヴァンギャルド・ジャズ

ガトー・バルビエリの初リーダー作『In Search of the Mystery』(ESP、1967年)を、ようやく、はじめて聴いた。

Gato Barbieri (ts)
Calo Scott (cello)
Norris Jones "Sirone" (b)
Bobby Kapp (ds)

ロングトーン中心に盛り上げる後年のスタイルにまだ辿りついていない。少しイーヴォ・ペレルマンを彷彿とさせるテナーの音でもある。しかし、はじまりにして既にガトーだ。

チェロとベースの弦2本が励起する雲の上で、ガトーは、自分で自分を感動させるように吹き続け、天上から降りてくることを拒絶する。以前も彼の吹く映像を観ながら思った、この人は自分の音に感涙を浮かべてさらに盛り上がっているに違いないと。最初から最後までクライマックスなのである。

一度でいいからこのスターのお姿を拝見してみたいものだ。演奏する者と聴く者とがお互いに涙を流しながらハグしたりして。

ところで、ガトーも参加している『The Jazz Composer's Orchestra』(1968年)と共通するフレーズが聴こえる。同時期の活動である。

●参照(ガトー・バルビエリ)
ガトー・バルビエリの映像『Live from the Latin Quarter』
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ
ドン・チェリーの『Live at the Cafe Monmartre 1966』とESPサンプラー
スペイン市民戦争がいまにつながる