『コバウおじさん』は、韓国の新聞(東亜日報、朝鮮日報など)に長年連載されていた4コマ漫画である。作者は金星煥(キム・ソンファン)。
姓はコ(高)、名はバウ(岩の意味)。高潔で頑固という意味も込められているらしい。とは言っても、見るからにプライドが高い男、あるいは頑固オヤジというわけではない。キョトンとしていて、なかなか間抜け。普段はピンと立っている1本の髪の毛は、驚いたり呆れたりするとふにゃふにゃに波打つ。実に愛嬌がある。
民主化前の独裁政権時代の韓国において、コバウおじさんは、権力をからかい、笑い飛ばした。権力者はよほど腹を立てたものらしく、李承晩や朴正煕の時代には、KCIAに連行されたり、内容を強制的に変更させられたり、休載させられたりしている。それでも、人気のあるコバウおじさんに手を出すことは逆効果となってきて、最後には手を出せない存在となってきたという。反骨の人なのである。
日本では、風刺漫画は、純粋漫画から一段落ちるものとみなされているように見える。わたしも、筒井康隆がそのように書いていた文章を読んでから、ずっとそう考えてきた(何しろ中学高校時代はツツイストだったのだ)。
しかし、そうではない。飛翔する純粋想像世界であろうが、批評的な言説であろうが、ナイーヴな感情世界であろうが、すべては人間のかかわりである。世界を独立な軸に分けて見つめることは、分析手法のひとつでしかありえない、とも言うことができる。
金星煥・植村隆『マンガ韓国現代史 コバウおじさんの50年』(角川ソフィア文庫、2003年)は、題名の通り、韓国の現代史において重要な事件を解説しながら、そのときのコバウおじさんの言動を紹介する本。鄭仁敬『コバウおじさんを知っていますか 新聞マンガにみる韓国現代史』(草の根出版会、2006年)は、漫画技術の面からコバウおじさんの独自性を示した本。
どちらも、コバウおじさんに惚れこんだ人によって書かれている。面白いし、勉強にもなる。
●参照
○金芝河のレコード『詩と唄と言葉』
○徐京植『ディアスポラ紀行』
○T・K生『韓国からの通信』、川本博康『今こそ自由を!金大中氏らを救おう』
○阪本順治『KT』 金大中事件の映画
○四方田犬彦『ソウルの風景』
○金浩鎮『韓国歴代大統領とリーダーシップ』