黒ひょう『バッドデイ』(沖縄タイムス社、2016年)を読む。
表題作は、主人公の前に図々しく現れた、しかし憎めない老人との珍道中。老人は、沖縄戦ではなればなれになった初恋の女性と逢うために、彼女が入っている老人ホームに足を運ぶ。そこで、突然、沖縄戦の時代が介入してくる。もはや戦争を実感できない世代がせざるを得なくなる「体験」、それは情のつながりに触れることと同じなのだった。
本書にはもうひとつの短編「魂り場」が収録されていて、わたしにはこちらがより面白かった。魂(マブイ)を落とす話は、又吉栄喜『豚の報い』をはじめとしてこれまで小説のモチーフにされてきたのだが、本作は、落とされたマブイたちが登場人物である。その寄る辺ないかれらが、突然生々しく生命力を持ちはじめるなんてビックリだ。「語られること」への拒否ととらえるべきか。
ところで、この「タイムス文芸叢書」のシリーズは、新沖縄文学賞の受賞作を順次出してくれている。いまのところ5冊。なかなか新鮮であり、ぜひ刊行を続けてほしい。
●新沖縄文学賞
竹本真雄『熾火/鱗啾』(1999年受賞作)
赤星十四三『アイスバー・ガール』(2004年受賞作)
松田良孝『インターフォン』(2014年受賞作)
長嶺幸子『父の手作りの小箱』(2015年受賞作)※本作と同時受賞