リアルにその時代を生きていなくても、力道山を知っている人間は多い。だが一方で木村政彦についてはどうだろう。少なくとも自分は知らなかった。
本書は、おそらく力道山より遥かに(柔道でなく)格闘技の実力はありながら、僅か1回のハプニングに近い敗戦から遡り、講道館の牛耳る日本柔道史からほとんど抹殺されている木村政彦という柔術家の生涯を描いている。
周到な資料精査と関係者へのインタビューによって分厚い文庫本2冊にぎっしり書かれた木村の練習量も、その実力も、凄まじいものであったことが理解できる。が、全編を通じそれ以上に伝わってくるのは、著者の偏愛とも言うべき木村への入れ込みようである。何がそこまで著者を駆り立てたのか。恩人でも縁者でもない人間が、いち柔術家の名誉回復のため全身全霊を捧げたと言えそうな「執念の書」は、内容よりむしろその著述姿勢が鬼気迫るものに感じられた。
本書によれば力道山は、どうやら出自や無名時代の不遇の反動で、著名になってからも品性卑しく嫌われ者(ただし取り入った年配者には可愛がられた)であったように書かれている。そういう下衆にしてやられたからこそ、木村は哀しかった。ちょっと父親に、木村のことを知っているか尋ねてみようと思う。
2020年7月8日 自宅にて読了
本書は、おそらく力道山より遥かに(柔道でなく)格闘技の実力はありながら、僅か1回のハプニングに近い敗戦から遡り、講道館の牛耳る日本柔道史からほとんど抹殺されている木村政彦という柔術家の生涯を描いている。
周到な資料精査と関係者へのインタビューによって分厚い文庫本2冊にぎっしり書かれた木村の練習量も、その実力も、凄まじいものであったことが理解できる。が、全編を通じそれ以上に伝わってくるのは、著者の偏愛とも言うべき木村への入れ込みようである。何がそこまで著者を駆り立てたのか。恩人でも縁者でもない人間が、いち柔術家の名誉回復のため全身全霊を捧げたと言えそうな「執念の書」は、内容よりむしろその著述姿勢が鬼気迫るものに感じられた。
本書によれば力道山は、どうやら出自や無名時代の不遇の反動で、著名になってからも品性卑しく嫌われ者(ただし取り入った年配者には可愛がられた)であったように書かれている。そういう下衆にしてやられたからこそ、木村は哀しかった。ちょっと父親に、木村のことを知っているか尋ねてみようと思う。
2020年7月8日 自宅にて読了