「危険な世界史 運命の女篇」中野京子
「危険な世界史」第二弾にして、中野京子さん最新刊。
説明不要、読んで楽しい歴史コラム。(第二章は映画の紹介を兼ねている)
いくつか文章を紹介。
P60
(『ランジェ公爵夫人』について)
恋というのは、望みが叶わなくても不幸、望みが叶っても不幸なのかもしれない。叶いそうで叶わないというぎりぎりのところが、もしかして一番甘い蜜の味かも・・・・・・。
P105
(プレイボーイのタイプについて)
プレイボーイのタイプは、ドン・ファン型とカサノヴァ型の二つに分けられるそうだ。前者は狩人と同じで、相手を追いつめ捕まえるまでが花で、ベッドへもぐり込むという目的を達したら急速に醒め、あとは手の平を返すタイプ。後者は、相手の年齢性別美醜を問わず、誘惑するのもされるのも好きで、誠心誠意尽くし、自分も相手も共に楽しむため情事後も怨まれない、全方位もてタイプ。
P111
(ジェイン・オースティンについて)
疲れた顔をしていても、きっとそれは、彼女の命を奪うことになる病気のせいだったと思いたい。なぜならたとえ結婚しなくとも、また平凡な女性の幸せは得られなかったにせよ、オースティンにはそれに優る「創作の歓び」というものが、必ずあったはずなのだから。
P143
(1692年、アメリカにおける最後で最悪の魔女裁判を描いた「クルーシブル」について)
つくづく嫌になるのは、権力を笠にきてこの裁判全体を取り仕切ったメーザー自身には、何のお咎めもなかったこと。彼は裁判が無効になった後でも、『目に見えぬ世界の驚異』を発表し、魔女狩りの正当性を説き続けた。
自分が正しいと信念を持つのはけっこうだが、こういう輩が権力を持つとろくなことにならないのは、歴史が延々と証明していよう。
P145
(「ドラマール事件」について)
フランスの作家フローベールによって、写実主義文学の傑作『ボヴァリー夫人』が生まれたのは1856年。これにはモデルがいて、フローベールの父の教え子だった開業医ドラマールの妻が、不倫の果てに借金を重ね、ついに服毒自殺をした、いわゆる「ドラマール事件」である。
P161
(『奇跡の人』について)
サリヴァンとヘレンの出会いは、まさに奇跡としか言いようがない。この出会いがなければ、おそらくふたりとも人生を取りこぼしていたに違いない。
甘やかされ、動物のようにただ食べて眠るだけだったヘレンを、サリヴァンは「人間」として鍛えなおす。その課程のなかで、サリヴァン自身もまた愛を知り、人生の醍醐味を知るのだ。
P166
(『バベットの晩餐会』について)
食後、村人は新たな生きるエネルギーをもらって家路についた。「せっかくの賞金を使い果たし、貧しくなるのでは」という姉妹の心配に、バベットは答える、「貧しい芸術家というものはいません」。
この心意気!
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【ネット上の紹介】
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[目次]
第1章 騒がしい時代(宮廷に蠢くひとびと;有名であろうが、なかろうが);
第2章 映画が語る世界史(絢爛ならざる宮廷絵巻;芸術家たちの光と影;運命の女たち;民衆の底力)