
「名画と読むイエス・キリストの物語」中野京子
表紙はベラスケスの『キリストの磔刑』。
磔刑図は数多いが、このベラスケス作品が最も美しい、と言われる。
ちなみに、磔刑は、(たっけい、たくけい)と読む。
いくつか文章を紹介する。
P16
預言者とは、「予」言(未来を見通す)ではなく、神の言葉を「預」かって伝えるとの意である。
P20
古代ユダヤでは、男子は13歳、女子は12歳になると、一人前の成人とみなされた。したがって多くは十代半ばまでに結婚した。大工のヨセフと婚約者のマリアも、おそらく13歳から15歳の間だったと思われる。

『受胎告知』フラ・アンジェリコ
P58
イエスは洞窟の中で、40日間、断食と祈りを続けた。
40は聖なる数であり、何かを為すための準備期間として必要な数とされていた。モーセもエリヤも40日間荒野にこもったし、ノアの洪水も40日続き、人が母の胎内にいるのは40週と考えられた。イエスで言えば、復活後40日間この世にとどまっていた。エルサレムの滅亡は、イエスの死の40日後である。
P59
悪魔の誘惑は狡猾だった。人の弱みを突く誘いをたたみかけ、誘惑される側にとってはまさに試練そのものとなる。
空腹に苦しむイエスに悪魔は、「汝もし神の子ならば、命じて此等の石をパンと為らしめよ」。そこにたくさんころがっている石をパンに変えればいいではないか、と。もしイエスがわずかでもその気になれば、悪魔自らが石をパンに変えるつもりだった。
これに対するイエスの答えが、有名な「人の生くるはパンのみに由るにあらず」だ。この言葉は、そのあとに「神の口より出づる凡ての言(ことば)に由る」と続く。
P103~106、マグダラのマリアについて書かれている。
ユダヤ教では一度でも罪を犯した者は決して許されず、地獄行きとされていたからだ。イエスはこの女が罪人であることにすら気づかないのだろうか、と。
それを見抜いたイエスは、皆にこう言う、「この女の多くの罪は赦されたり。この愛すること大(おおい)なればなり。赦さるる事の少なき者は、その愛する事もまた少なし」。回心すれば罪は消えると宣言したのだ。

『懺悔するマグダラのマリア』ティツィアーノ
P220
福音書
イエスの言葉と生涯を伝記物語風に綴った、四つの文書。「福音」の語源は、ギリシャ語の「エヴァンゲリオン」で、「良き知らせ」を意味する。「新約聖書」はこの福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる四書)と、他に弟子等の伝道記録、パウロの手紙、黙示録など二十七の書から成り立つ。

【ネット上の紹介】
ドラマティックなイエス・キリストの物語画は、独創的な表現に満ちた傑作・名作のオンパレード。イエスのおおまかな生涯を知った上で西洋名画を楽しみたい―そう願う人のための、これは手引書である。
[目次]
幼子イエス;洗礼;荒野の修行;伝道;奇蹟;女たち;使徒たち;エルサレム;最後の晩餐;ゲッセマネ;裁判;磔刑;復活