「島へ免許を取りに行く」星野博美
星野博美さんは1966年(丙午)生まれ。
人間関係が破綻し、友達を失い、愛猫にも死なれ、閉塞状態となる。
それを打開するために、40台半ばにして思い立つ。
「免許を取ろう」と。
ネットで検索したら、長崎の五島列島に希望に添った自動車教習所が見つかる。
(無料で馬にも乗れて、目の前が海というロケーションのよさ)
この作品は、そこでの寮生活、日々の奮闘を描いている。
P18
合宿免許・・・・・・。二十年前ならともかく、もう四〇も半ばだよ。高校卒業したての子たちと一緒に合宿するなんて、悪い冗談にしか聞こえなかった。
私はもともと協調性に著しく欠け、クラブ活動やサークル活動もろくにしたことがない。当然、合宿経験は一切なし。通学する時も、同級生がいない遠くの車両にわざわざ乗るくらい人間関係が煩わしく、会社勤めだって、ロッカールームや女子トイレでたむろする女性たちの井戸端会議がいやで挫折したほどだ。旅行にしても一人旅が鉄則。団体行動がとにかく苦手なのだ。
P61
人間、何かができれば嬉しいし、できなければ悲しい。できないことばかりを考えていたら前には進めない。だからできないことは、「自分には向かない」と言い訳して存在を無視する。そうやってこれまで生きてきた。
いつまで経っても上達せず。先生から2点アドバイスを受ける。
運転にメリハリがない点と視点が近すぎる点、である。
・・・そして天使が舞い降りる。
P155-156
「近くを見るから怖いんだ。遠くを見ろ!そうしたら怖くなくなるぞ」
言われた通りにすると、すーっと恐怖が消えて無くなった。
(中略)
「メリハリというのはつまり、大胆と慎重、勇気と臆病、自信と謙虚といった、二つの正反対の価値観を使い分ける、ってことですか?」
「すごく難しく言えば、そういうことです」
(中略)
勇気ある前進と、細心の安全確認。大胆な走りと、慎重な危険予測。自分は大丈夫という楽観主義と、どんな悪いことも起こりうるという悲観主義。その際限ない繰り返しが、車を運転するということか。
(中略)
脳の中で「カチッ」という音が聞こえたような気がした。その瞬間、脳内画面を埋め尽くしていた意味不明な文字列が、すーっと意味のある文字列に変わっていった。
(中略)
「先生、いま、何かを理解したような気がします」
「そうですか?それならよかった」
「先生が天使に見えてきました」
「天使?僕はただの指導員ですよ」
「いや、いま確かに天使が舞い降りました」
免許を2週間で取得する予定が1ヶ月過ぎようとしていた。
いつしか『寮長』とあだ名されるようになり、若い子たちの面倒もみて、人生相談にものるほどになる。
23歳でバツイチ3歳の子持ち、母を亡くし、生活のために免許を取りにきたガラパちゃん。
P205
「自分、普通の人が一生かけて経験することを、この歳で全部やっちゃったって感じです。この先、いいことなんてあるんですかね?」
自分に発言する資格などないように思えたが、あえて言った。いいことだらけの人生はないし、悪いことだらけの人生もない。いろんなことをゆっくり経験する人もいれば、一気に経験する人もいる。いまは嵐のように思えるかもしれないが、嵐のあとには必ずナギが来る。これからいいことはいくらでもやって来る。それをしっかり掴めばいい。
なんとか運転も出来るようになり、卒業検定も合格、落ちこんでいた精神状態も回復。
平成22年5月25日、東京の鮫洲運転免許試験場で筆記試験を受け、合格する。
P233
誰もが無理だと思っていた車の免許を、本当に取ったぜ!誰かに見せびらかせたい。「どう?」と愛猫、のりに見せてみる。「うるさいなあ、まだ眠いんだよ」という顔で見事に無視される。
あとは実践を積んでさらに上達するだけ。
でも、なかなか上手くならない。
教習所の校長先生に電話をかける。
P248-249
質問 いつまでも運転がうまくならず、「下手くそ」と言われ続けています。
回答 運転を形容する言葉は二種類しかありません。それは「安全」と「危険」であって、「上手」「下手」ではない。目指すべきは「安全な運転」であてって、「上手な運転」ではない。運転技術の向上などまったく目指さなくてよか。「上手だけど危険」、これが一番いかん。「下手でも安全」、それでよかとです。
(この作品の舞台となった自動車学校を、次にリンクしておく。(ホントに、目の前が海だ。私も行ってみたい気分)
・・・五島自動車学校
〒853-0026
長崎県五島市浜町424番3
「メリハリというのはつまり、大胆と慎重、勇気と臆病、自信と謙虚といった、二つの正反対の価値観を使い分ける、ってことですか?」
「すごく難しく言えば、そういうことです」
(中略)
勇気ある前進と、細心の安全確認。大胆な走りと、慎重な危険予測。自分は大丈夫という楽観主義と、どんな悪いことも起こりうるという悲観主義。その際限ない繰り返しが、車を運転するということか。
(中略)
脳の中で「カチッ」という音が聞こえたような気がした。その瞬間、脳内画面を埋め尽くしていた意味不明な文字列が、すーっと意味のある文字列に変わっていった。
(中略)
「先生、いま、何かを理解したような気がします」
「そうですか?それならよかった」
「先生が天使に見えてきました」
「天使?僕はただの指導員ですよ」
「いや、いま確かに天使が舞い降りました」
免許を2週間で取得する予定が1ヶ月過ぎようとしていた。
いつしか『寮長』とあだ名されるようになり、若い子たちの面倒もみて、人生相談にものるほどになる。
23歳でバツイチ3歳の子持ち、母を亡くし、生活のために免許を取りにきたガラパちゃん。
P205
「自分、普通の人が一生かけて経験することを、この歳で全部やっちゃったって感じです。この先、いいことなんてあるんですかね?」
自分に発言する資格などないように思えたが、あえて言った。いいことだらけの人生はないし、悪いことだらけの人生もない。いろんなことをゆっくり経験する人もいれば、一気に経験する人もいる。いまは嵐のように思えるかもしれないが、嵐のあとには必ずナギが来る。これからいいことはいくらでもやって来る。それをしっかり掴めばいい。
なんとか運転も出来るようになり、卒業検定も合格、落ちこんでいた精神状態も回復。
平成22年5月25日、東京の鮫洲運転免許試験場で筆記試験を受け、合格する。
P233
誰もが無理だと思っていた車の免許を、本当に取ったぜ!誰かに見せびらかせたい。「どう?」と愛猫、のりに見せてみる。「うるさいなあ、まだ眠いんだよ」という顔で見事に無視される。
あとは実践を積んでさらに上達するだけ。
でも、なかなか上手くならない。
教習所の校長先生に電話をかける。
P248-249
質問 いつまでも運転がうまくならず、「下手くそ」と言われ続けています。
回答 運転を形容する言葉は二種類しかありません。それは「安全」と「危険」であって、「上手」「下手」ではない。目指すべきは「安全な運転」であてって、「上手な運転」ではない。運転技術の向上などまったく目指さなくてよか。「上手だけど危険」、これが一番いかん。「下手でも安全」、それでよかとです。
(この作品の舞台となった自動車学校を、次にリンクしておく。(ホントに、目の前が海だ。私も行ってみたい気分)
・・・五島自動車学校
〒853-0026
長崎県五島市浜町424番3
【ネット上の紹介】
人間関係の悩み、愛猫の死、人生に行き詰まったアラフォーの著者が決意したのは、「合宿免許を取りに行く」こと。長崎県・五島の小さな自動車学校に待っていたのは、意外な出会いや発見だった。