
「残月 みをつくし料理帖」高田郁
シリーズ第8弾、1年3か月ぶり最新刊。
待たせただけあって、満足のいくできばえ。楽しめた。
・・・前回のおさらい。
吉原で火事が起こり、又次が火の海に飛び込む。
あさひ太夫(野江)は助かるが、又次は亡くなる。
野江の焦げた髪の臭い、又次の血の臭い。
澪はショックを受け、失われていた嗅覚が戻る。
さて、この物語の主な縦線・横線は次の4つ。
①天満一兆庵を再建して繁盛させる
②四千両を用意して、あさひ太夫を身請けする
③行方不明の芳の息子・佐兵衛を探し出す
④澪が心を寄せる小松原(小野寺数馬)と添い遂げる
(もちろん、一番のテーマは、澪の成長・・・料理人として、女として、人として、である。そして、二つ目のテーマは野江との友情)
今回の特徴は、贅肉がそぎ落とされシンプルになったこと。(以下、ネタバレあり、ご注意)
つまり、伏線が、かなり整理された。
④は既に結果が出ている。恋は終わってしまった。今回、小野寺数馬の実妹・早帆が再度登場し、だめ押しをした。澪はキャリアに生きる決心を新たにする。(まさか、焼け棒杭に火が付かない、と思うけど。それだと、異なるジャンルの小説になってしまう。また、ハーレクインなら、①と④が両立してしまう)(教訓:『自分の培ったキャリアを捨てて、男の愛情に頼るのは、ギャンブルに等しい』by和久井香奈子)
P54
「兄嫁は齢十七ながら、これまで生家の手持ちの駒として、おんなの幸せとは遠いところで生きてきたのです。我が母もそれを理解し、慈しんでおりました。兄もまた、澪さんに抱いたような思慕ではないにせよ、夫婦として幸せになる道を模索しているように思います。
③と①について・・・行方不明の佐兵衛が見つかる。二度と料理に関わるつもりはない、と。芳も再婚に向け動き出す。これによって『天満一兆庵』の再建は無くなる。
P151
「跡取りの佐兵衛が断念した江戸店の再建を、お前はんに託すことは出来ん」
思いがけない芳の言葉に、澪は声を失う。
芳は俎橋に目を向けたまま、低い声で続ける。
「もう天満一兆庵のことでお前はんを縛りとうはないんだす。嘉兵衛の今わの際の言葉は、忘れておくれやす」
ご寮さん、そんな、と取り縋る娘の手を、芳は優しく握った。
「ひとの気持ちも物事も、全てのことは移ろうていく。仕方のないことだす」
結果、残ったのは②のみ・・・『四千両を用意して、あさひ太夫を身請けする』。
P30
「今わの際に、又次はこう言った」
地の底から、摂津屋の声が響く。
「頼む、太夫をあんたの手で・・・・・・。確かにそう言っていた」
P213
「今は廓の籠の鳥。けれど、何時か、遊女の衣を脱ぎ捨てて、その幼馴染みだけが知る、高麗橋淡路屋の末娘、野江の姿で逢うことを、生きる縁としています」
これらのセリフにより、澪のモチベーションは、より高まったはず。
P222
どうあっても、と澪は自身の掌を開き、それをぐっと拳に握った。
どうあっても、この手で野江を取り戻す。途方もないこと、と怖じ気づくのはもう止めだ。ただ厚い雲の下に居て、切れ間を待つのではない。自ら飛翔し、雲を切り開いて行くのだ。
P213
「今は廓の籠の鳥。けれど、何時か、遊女の衣を脱ぎ捨てて、その幼馴染みだけが知る、高麗橋淡路屋の末娘、野江の姿で逢うことを、生きる縁としています」
これらのセリフにより、澪のモチベーションは、より高まったはず。
P222
どうあっても、と澪は自身の掌を開き、それをぐっと拳に握った。
どうあっても、この手で野江を取り戻す。途方もないこと、と怖じ気づくのはもう止めだ。ただ厚い雲の下に居て、切れ間を待つのではない。自ら飛翔し、雲を切り開いて行くのだ。
予想・・・今後のストーリー展開について。
摂津屋が絡んで、澪を援助するはず。
ただし、摂津屋も商人である。
出資するに値するかどうか、裏を取るであろう。
澪の人脈・・・小野寺数馬、一柳の主・柳吾。
(彼らは絶対、澪をプッシュするはず)
澪はより大きな店を持ち、料理は評判を呼び繁盛・・・。
推測を裏付けるのが次の文章。
P36
「虎は死して皮を留む、と言うが、翁屋の料理番も大した皮をこの世に留めたものだ」
ああ愉快、愉快、と笑いながら清右衛門は九段坂を戻り始める。
また、P213の野江のセリフを紹介したが、この時、隣の部屋で「かたん」と音がする。これが伏線。摂津屋がこのやりとりを聞いていた・・・はず。
様々なしがらみは無くなり、かなり身軽になった澪。
ストーリーはシンプルになり、最終章に向け、ベクトルは強くなった。
いよいよ物語は佳境に入っていく、と思う。
P268
「良いか、ひとに与えられた刻はそう長くないぞ。さっさとあさひ太夫を身請けして、わしを愉しませることだ」
【ネット上の紹介】
吉原の大火、つる家の助っ人料理人、又次の死。辛く悲しかった時は過ぎ、澪とつる家の面々は新たな日々を迎えていた。そんなある日、吉原の大火の折り、又次に命を助けられた摂津屋がつる屋を訪れた。あさひ太夫と澪の関係、そして又次が今際の際に残した言葉の真意を知りたいという。あさひ太夫こと澪の幼なじみ、野江のその後とは―。